『栄冠へのキセキ』アプリ化記念! スクエニ安藤氏×DeNA馬場氏スペシャル対談
2014-04-02 15:00 投稿
全国2位になった安藤武博氏と
2014年3月20日、第86回選抜高校野球大会前日に、高校野球を題材にしたディー・エヌ・エーの育成シミュレーションゲーム『栄冠へのキセキ』のiPhone、Android向けアプリが配信された。高校野球の監督となり、選手たちを育成して全国の頂点を目指すという内容で、選手として松井秀喜氏や江川卓氏といったプロ野球のOBが多数登場することでも野球ファンのハートをがっちりつかんでいるタイトルだ。
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今回、ブラウザゲーム版『栄冠へのキセキ』の大ファンで、ファミ通Appでもおなじみのスクウェア・エニックスの安藤武博氏と、同ゲームのシニアプロデューサーでもあり、ゲーム業界いちの野球通としても知られるディー・エヌ・エーの馬場保仁氏のスペシャル対談が実現した。
野球をわかっている人が野球好きの人のために作ったということがにじみ出ているゲーム(安藤)
安藤 3月21日から始まった春の大会(センバツ)にアプリ版が間に合いましたね(笑)。
馬場 また(※)しても謝罪からになりそうな……(笑)。(※関連記事はこちら)
安藤 ブラウザゲーム版『栄冠へのキセキ』は昨年のセンバツ前に配信される予定が延びてしまって、夏大会決勝の翌日にサービスインしたという……。
馬場 ブラウザゲーム版は、ユーザーさんたちに本当にお待たせしてしまいましたが、アプリ版は何とか間に合わせることができました(笑)。
安藤 プロデュースワーク的には、『栄冠へのキセキ』は松井秀喜さんの起用が大きなポイントだと思いますので、去年の五月に国民栄誉賞を受賞したタイミングでのリリースも狙われていたと思うのですが、タイミングが合わず、旬に照準を合わせる意味では苦労されたのかな……と。それでも僕は昨年の夏から秋にかけて激ハマりして、ランキングで全国2位を獲るほど、本当に、ガチで楽しく遊ばさせていただきました。
馬場 ありがたい話ですよね。
安藤 高校野球をテーマにしたモバイルゲームの中では、いまだに唯一無二の立ち位置にある良作ですよね。そもそも高校野球を題材にしたゲームは少ないですが、野球をテーマにしたものは多い。そんな激戦区の中にあって、野球好きであれば他の野球ゲームとは決定的に違う面白さを感じられる要素が詰まった内容になっていますよね。
――そもそもハマるきっかけは何だったんですか?
安藤 最初は馬場さんとDeNAにいる元同僚の渡部辰城さんから勧められたのですが、そのふたりから言わ れたらしっかり感想を返せるくらい遊ばないといけません。モバイルゲームの場合、ちゃんとした感想を返せるまで3日から1週間くらいタイトルを遊びこまないといけないと思っているのですが、3日間遊んだ段階ですっかりハマってしまいまして。あとは底無し(笑)。
――具体的にはどういったところがハマる要因に?
安藤 導入がいいんです。ゲームにおいて理想的な導入は、“導入がないように感じる”ということ。ゲームによっては、ここまでが導入でここからが本編。という形が丸わかりなのですが『栄冠へのキセキ』 にはそれがない。最初からすーっと入ってそのまま続けられちゃうんですよね。専門的に言うと離脱ポイントがないゲームで、よくできたゲームでは当たり前のことなのですが、去年の夏の時点ではそれがまだまだ新鮮でした。その時点でそれが高いレベルで設計できていたのは、僕の遊んだ限りではセガの『チェインクロニクル』と『栄冠へのキセキ』くらいでした。
馬場 さすがセガさん(笑)。安藤さんがおっしゃるとおり、本来チュートリアル然としたものは作りたくないんですよ。話の流れの中にチュートリアル要素が入っていて、「やらされている感」がせずに、自然に遊びかたを覚えてもらうというのが理想なんです。ソーシャルゲームの場合、ファーストプレイで離脱されやすいということを考えると、「ゲーム本編を作ってからチュートリアルを作ればいい」というのはおかしな話であって、「チュートリアルすらゲームである」と。つまり、導入からおもしろくなければならないという想いがあるからなんです。
安藤 いまはそういった導入の滑らかさは当たり前になってきていますよね。もう一つ良いなと思ったのが、これも最近増えてきたマンガ的表現ですよね。『栄冠へのキセキ』はまさにその手法を効果的に使っていて、いわゆる突っ込みどころ満載の演出を交えながら楽しく展開されていく。このゲームは実在する選手も多く登場するので、普通は実在するエピソード、演出を盛り込むのがセオリーと考えがちなところです。それとは逆に突っ込みどころ満載のファンタジー要素で演出することで、より楽しく引き込まれていくんですよね。
馬場 僕らが入れたかったのは、まさにその部分で、いかに「ベタ」な演出を入れられるか、だったんですよ。野球ファンなら知っているマンガ的なエピソードを入れて、この世界に合った形に料理する。「あ、この演出、昔マンガであったよね」って思ってもらえたら勝ちだなと。
安藤 スポーツゲームの、のめり込みのポイントはふたつあると思っていて、現在は多くのゲームが“リアリティ”を追い求めていますよね。実在する監督、選手そのものに近づけていく軸。それとは対象的に、スポーツの持っているドラマや物語性が好きで、そこを追いたいという欲求を満たすゲームの在りかたもある。
馬場 まさに『栄冠へのキセキ』はそういう方向性を目指したゲームですね。
安藤 今回の対談をやるにあたって、高校野球について思い返してみたんですね。そうすると、僕の世代は83年に池田高校が春に優勝して、PL学園が夏に優勝したあたりから記憶があるんです。桑田(真澄)と清原(和 博)のKKコンビが1年生のころ。当時ホームランといってもラッキーゾーンにはいるものばかりだったのが、PL学園の選手だけスタンドに軽々と入れているのが、すごく思い出に残っています。とくに桑田が池田高校の水野(雄仁)から打ったホームランは鮮烈に覚えていますね。
馬場 僕らの世代の高校野球全盛期ですよね、そのころは。
安藤 でも、なんで高校野球を観ていたかというと、「家族が観ていたから」なんですね。決してそのころ高校球児になりたいと思って観ていなかった。年末の紅白歌合戦などといっしょで、いわゆる家族行事だったんですよね。「PL学園すごい」、「池田高校の蔦(文也)監督(当時)のキャラが濃い」といったドラマや物語を追いかけたい、ということで高校野球を楽しんでいた。その流れで話を戻すと、『栄冠へのキセキ』はこれらの原体験を80年代のマンガ的な展開、コミカルでベタに切り取っていて、ここが秀逸だと思ったんです。たぶん同世代の人は、プレイしながら「確かにこんな感じだったよね~」って、当時を思い起こしているうちに導入が終わっちゃっている。高校野球のひとつの側面として、なかなかゲームを作っている人たちは気づかないディテールだと思うんですけど、さすが「もっとも野球に詳しいゲームクリエイター」である馬場さんだなと思いました。
――獲得して育成して勝利を目指し、能力を引き継ぐという流れ自体がそういう高校野球のドラマ性を切り取った作りになっていますよね。
安藤 自分で名前をつけて選手を作るフローもあって、傍観者としてだけではなくて、自分も介入して遊べるところは没入感を生みますよね。あと、高校野球はひとり“怪物”がいたら試合に勝てちゃうというダイナミズムがあるじゃないですか。松井(秀喜)がいてチームをグイグイ引っ張ったり、『栄冠へのキセキ』の最初のころのイベントに槙原(寛己)が登場してひとりでチームをガンガン勝利させたり。のちにプロに入って打者になる選手も高校時代は4番でピッチャーで大活躍して、ということはいくらでもあって、それをゲームでも再現されている。架空の選手たちのまわりに、そういったプロのOBといういわゆる実在する“怪物”たちが介在することで、まとまらない話がまとまるというポイントがパラメータとしてしっかり調整されている。そこもすごく高校野球っぽくていいですよね。
――すでにサービス開始されて約半年が経ち、ブラウザ版を踏まえた改良点はどういったあたりなのでしょう?
馬場 スポーツシミュレーションゲームを昔から作っていて、開発側としてはつねに「試合を観てほしい」と思って作っているんですよね(笑)。ただ、育成シミュレーションゲームの場合、回転が大事なので試合はついついスキップしがち。でも、『栄冠へのキセキ』は3年間というゲーム内のサイクルで選手が卒業するので、本来思い入れが強い選手たちの試合を観たい欲求が高いゲームにしています。ただ、これまではブラウザだったので、試合のたびに読み込みが入って、試合のテンポがあまりよくなかった。それがアプリ版では、テンポよく試合が展開されるようになったという点がいちばんの違いだと思います。加えて、もともとアプリ版を出す予定だったので、高校野球ゲームとして何を入れると「高校野球になるか」を考えていたときに出たのが、“金属バットの音”、“試合開始のサイレンの音”、“ブラスバンドの音”だったんです。これらの音も実際のサイレン、金属バットなどをリアルに収録しているので、より試合の臨場感が増したと思っています。
安藤 リアルな音を収録するというのは家庭用ゲームの世界では当たり前でも、モバイルゲームの世界ではまだまだできていないですよね。
馬場 実際にはリアルな音を入れなくても人工的に作れますからね。
安藤 僕ら家庭用ゲーム出身のクリエイターは、“ディティールにクオリティが宿る”と育てられてきているので、ちょっとした音でもリアルな音を収録してこだわるというのは、KPI的には意味ないけどじつは大きな意味を持つんですよね。
馬場 神は細部に宿る。こういったことって“作り込み感”だったり、最終的な商品のクオリティに出る。それがすごく大事で、ブラウザ、アプリ関係なく、本来はゲーム作りにおいてやらなきゃいけないことなんですよね。ソーシャルゲームであろうと、家庭用ゲーム機であろうと、そこは関係ないポイントだと思っています。
――そういったこだわりが積み重なったおかげで、アプリ版はより臨場感が増した感じがします。自分が思い描く“高校野球”の風景が自然と脳裏に浮かびます。
馬場 そこがプロ野球とは違うところかもしれないですね。プロの場合、自分が好きな選手が活躍したシーンは覚えているんですが、思い出がある意味“選手”で閉じちゃう面があるんです。その点、高校野球は「あの年の大会は、ああだったよね」といった形で、全体の流れの中で、ひとつのシーンだったり、その年あったことだったりを思い出す。時代を切り取る……それこそが高校野球において大事なことなんだなと。
安藤 それで言うと、84年にKKコンビが大活躍していて向かうところ敵なしだったPL学園を、木内(幸男)監督率いる伏兵、取手二高が決勝戦で破って「うおお、マジか~」と盛り上がった。そういう思い出のあり方ですよね。そういうスポーツのリアリティや残酷さからくるエンターテインメント性の原体験は、高校野球なのかもしれません。
――1回負けたら終わりというトーナメントだからこそ、そういったドラマが生まれるのかもしれませんね。『栄冠へのキセキ』でもそういった一発勝負のはかなさ、みたいなものが描かれていますよね。
安藤 『栄冠へのキセキ』はまさにそういう作りになっていますよね。僕がプレイヤーランク全国2位になったときは、夏の大会には優勝したけど、センバツでは優勝できな かったんですよ。最強チームを編成したはずなのに1回戦で負けたりする。これこそが高校野球の醍醐味。実際にも、くじ運やひとりの投手のおかげでノーマークだった高校がスルスルスルとベスト4に入ったり。人生のリアルさやある種の儚さが表現されていて、高校野球って実に日本人的なイベントですよね。テレビや新聞もそういうことは十分わかっていて、報道の仕方も決して勝敗だけでなくて、応援席の様子や、各選手の家族の話などのバックグラウンドを掘り下げていく。
馬場 ゲームにもそういった高校野球を感じられるイベントや風物詩的なものを入れていかないといけないなとは思っています。そこは継続しながら入れていきたいポイントですよね。
――今後入れていこうと思っているイベントなどは具体的に動いているのですか?
馬場 新たなイベントを入れるのも大事だと思っていますし、まだ予定している実在選手も全員入っているわけではないので、そういった実在選手を追加していきながら盛り上げていきたいですね。
安藤 システムはすごろくがベースで、それもいいんですよね。いまでこそスポーツ理論に基づいた指導がされていると思うんですが、僕らの世代の練習のイメージはうさぎ跳びや腕立て、腹筋……反復練習で、その中で身体能力がもともと高い選手が活躍する。そういった反復練習がすごろくの部分に活かされていて、かつ、ゲームとしての戦略性の高さもある。
馬場 仙人みたいな爺さんが出てきたりしますしね(笑)。
安藤 この爺さんに話しかけると、ユーザーの選択肢によってパラメータがものすごく上がるか下がるかのどちらかなんですよね。そこにどうやって育てようかという戦略性が生まれてくる。たとえば、序盤は積極的に話しかけてパラメータ爆発を狙う。だけど育ってきたら爺さんを避けようといった、まさに“ゲームの攻略”が生まれてくる。そういう意味でも単なる“暇つぶし”で遊ぶ形のゲームではなくて、戦略性の高さがあるゲームですよね。
馬場 わかってもらえてうれしいですね~。
安藤 あとは選手を育てられる期間がゲーム内の3年という縛りがあるので、そこにも戦略性が生まれますよね。どの選手をどう、えこ贔屓して育てるのか。そうしているうちに、NPCキャラクターにも愛着がわいてきて、いつの間にか名前を覚えていく。あと、この手のゲームだとふつう自動でオーダーを最適化しますが、『栄冠へのキセキ』では松井秀喜をオートでオーダーに組むと、プロでの実績設定から外野に配置されます。でも松井氏は高校時代内野手だったので内野の適性もきちんと設定されている。自分でわざわざオーダーを組み替えることができるんですが、それがまたいいんですよねー。野球ファンはそういったことにもこだわりたいので、自動で最適化プラス、マニュアル設定にも対応するパラメーターデザインの塩梅が最高なんです。野球のことをわかっている人が野球を好きな人のために作っているというのが、にじみ出ているゲームだなと思います。
馬場 ありがとうございます(笑)。ただ、まだ至らない点も多いとも思っています。個人的には試合終了後のフィードバックをもっと増やしたいなと。試合を経たあとに、とある選手のパラメータがグッと上がるとか。実際に高校野球の選手たちは1試合でものすごく成長することもありますからね。試合終盤に大崩れしてしまう、といったパラメータ的な要素は入れているのですが、試合後の成長にそれがあまり関係しない状態なので、そこはどうにか今後取り入れたい要素ではありますね。
安藤 自分の出身地名も学校の名前に入れられますし、高校野球ならではの “郷土愛”を感じられる作りにはすでになっていますから、そういった要素が入れば、ますます高校野球らしさが出てきそうですね。この作品に関しては仕事を抜きにして、ただの1ファンとして今後の展開を本当に楽しみにしています。本当に面白いので遊ばなきゃ損ですよ!
栄冠へのキセキ
- ジャンル
- 育成シミュレーション
- メーカー
- ディー・エヌ・エー
- 配信日
- 配信中
- 価格
- アイテム課金制
- 対応機種
- iOS 6.0 以上(iPhone4 以降の端末を推奨)、Android OS 2.3 以上
- コピーライト
- (C)DeNA Co., Ltd. All rights reserved.
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