スクエニ安藤ブログ“スマゲ★革命 シーズン2” 第十二回 「白熱ブラウザゲーム対談 最終章 やっぱりゲームはストーリー」
2013-08-14 13:45 投稿
やっぱりゲームはストーリー
このスマゲ★革命 シーズン2では、安藤氏のいつものブログ以外にも、安藤氏が個人的に気になる方との対談企画をお届け。今回の対談相手は、グリーとYahoo! JAPANの共同出資によって設立された新会社”ジクシーズ”の代表取締役社長・井坂友之氏。全3回でお贈りしてきた本対談も今回で最終回! お二人の今後の展開やゲーム作りにおけるちょっとした苦労話を話していただいたぞ!
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▲ジクシーズ代表取締役社長・井坂友之氏(左)とおなじみスクウェア・エニックスの安藤武博氏(右)。特別に入らせていただいたジクシーズの社内でパシャり。
今後の展開は?
安藤 お互いの新作について話しましたので、続いて、これからのお話をしましょう。ジクシーズさんは、今後の方針をどのようにお考えですか? 『探検ドリランド』というIPとの接触時間を増やしていけるようなものを作っていくのか、また別の新しいことに挑戦しようと思っているのか、はたまた完全オリジナルタイトルをリリースしようと考えているのか? いかがでしょう?
井坂 会社の未来というものを長い目で見ると、やはりオリジナルタイトルを作りたいと思っています。今の市場にはたくさんのゲームが溢れ返っているので、徐々に会社の名前でゲームを選ぶような時代になってきているかと思います。僕が「スクエニの新作はとりあえず遊んでおこうかな」と思うのと同じですね(笑)。最近では、それと同じように「アソビズムの新作なら遊ぼうかな」という話を耳にする機会も増えています。では、どうやったら私たちもそこに名前を連ねられるようになるのだろうか? ということを考えてみると、やはり強いオリジナルタイトルが必要だろうと。いまは会社を設立したばかりということもあり、今回は『探検ドリランド』という人気ゲームのIPをお借りして、挑戦をしにいった感じです。今後は、芯となる強いオリジナルIPを作りたいと考えています。
安藤 オリジナルタイトルを作るうえで、こんな世界観のゲームを作りたいといった新作の構想はあるんですか?
井坂 まだ1本目に集中しているので、何も決めていません。ただ、個人的にスクウェア・エニックスさんの『ファイナルファンタジー』、『ドラゴンクエスト』、『タクティクスオウガ』、『半熟英雄(はんじゅくひーろー)』がとくに好きだったので、これらのゲームから影響を受けたゲーム作りになるかもしれません。
安藤 スクウェア・エニックスの人間として嬉しいですね。ちなみに、井坂さんの世代は『ファイナルファンタジー』のナンバリングでいうと、何作目くらいの世代になるのでしょうか?
井坂 思い出深いのは、『ファイナルファンタジーIII』くらいからですね。『ドラゴンクエスト』は2~3作目以降になります。『ドラゴンクエストII』で“ふっかつのじゅもん”を忘れてしまい、「もう二度とやるか!」と心が折れたこともありました(笑)。ちなみに、今回作っているタイトルのガチャの演出は、『半熟英雄』のワンダーエッグをちょっとだけ意識して作っています。
安藤 では、今回作っているスピンオフタイトルにも、昔遊んでいたゲームのタイトルに影響されている部分がちょこちょこ入っているんですね。
井坂 僕はスクエニっ子だったので、あとから見返してみたらスクウェア・エニックスさんのタイトルに影響されている部分がほかにも見つかるかもしれません(笑)。
安藤 ありがたい限りです。SAPさんと話をさせていただくと、ビジネスやものづくりの話が合うかどうかは別として、みなさんスクウェアとエニックスのゲームをスゴイ好きでいてくれます。これは、本当にうれしい。一方で、スクウェア・エニックスの人間として声を大にして言っておきたいこともひとつあります。たとえば“バハムート”ものがソシャゲで流行っていますが、“バハムート”をあのような超かっこいいドラゴンのような形にしたのはスクウェアですからね。
神話の中での“バハムート”は、四足の牛のような姿であったり、巨大な魚の姿です。厳密には『ダンジョンズ&ドラゴンズ』からドラゴンの造形が与えられたのですが、それをSAPが使っている現在の“バハムート”の形にしたのは、スクウェアの発明なわけです。それをみんながサラッとに使っているものだから、スクウェアで“バハムート”を作ったクリエイターは憤然としていると思いますよ(笑)。これは半分冗談ではありますが、作り手と遊び手の世代も若くなってきたので、この機会に覚えていただけると幸いです。とは言え、スクウェアやエニックスで作られたものが、当たり前のようにたくさんのゲームに登場するのは、僕もすごくうれしく感じています。
スクエニコンテンツの影響は大きい
井坂 やはり、子どものころに触れたものはその後に大きな影響を与えますからね。僕自身がスクウェアさん、エニックスさんのゲームに強い影響を受けていると感じています。そう考えると、いまの子どもたちに影響を与え、後世まで語り継がれるゲームというのを作ってみたいですね。
安藤 僕もそう思います。でも、先ほどのお話ではありませんが、影響を受けるという点において、みなさんは軽い感じで竜の姿をした“バハムート”を扱っているかもしれません。しかし、僕たちはあんな明け透けにはいかないんですよ(笑)。コンシューマーでゲームを作っている人たちは、そういうパクリやカブりを嫌う傾向にありますが、新興のSAPの人たちはそれを「影響を受けているだけだから、別にいいじゃん」、「知りませんでした」と開けっぴろげにしているところがありますよね。それはどうなんだという話もありますが、これまでにはない考え方の提示として魅力的な部分でもあります。ここを気にせず堂々と踏み込んでいけるというのは、新興SAPさんのスゴイところだと思います。
井坂 そう言われるまで意識していませんでしたが、やはり昔大好きだったものには影響を受けて、その片鱗が出てしまうことはありますね。
安藤 僕も影響を受けたものが作品に出ることは普通にありますよ。『ケイオスリングス』は、『ファイナルファンタジー』シリーズでアートディレクションをしている直良有祐(注1)にキャラクターデザインを手がけてもらっているのですが、一作品目の打ち出しは「『ケイオス』ってiPhoneで遊べる『ファイナルファンタジー』だね」とイメージして欲しかった。それでキャラデザインを依頼したという部分が多分にあります。彼が描き出すものは、お客様が望むスクエニの色が強く出ますし、その期待を裏切らないクオリティで創出してくれますからね。
僕は『ファイナルファンタジー』を作らないし、そもそも僕ごときが作れるような作品ではないけれど、お客様がスクウェア・エニックスの作品としてイメージしやすい物語や世界観と言えば『ファイナルファンタジー』、『ドラゴンクエスト』ですから。「iPhoneで『ファイナルファンタジー』みたいなものが遊べるようになったよ」という話ができれば、きっとみなさんに喜んでもらえると思ったので、意図的に影響を受けた部分を露出させて作りました。『ファイナルファンタジーVII』で僕が受けたような衝撃を、iPhoneの『ケイオスリングス』で再現したかったんです。VIIが発表されたときのインパクトはいまだにプロデューサーどうしで語られるほどのものですからね。
(注1)直良有祐:スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター。『ファイナルファンタジー』シリーズや『フロントミッション5』など、数々の名作でアートディレクションやキャラクターデザインを担当している。
物語性の重要さ
井坂 安藤さんの話を聞きながら、いろいろな回想をしていたのですが、たしかに『ファイナルファンタジーVII』の冒頭で与えられたインパクトは凄まじいものでしたよね。ストーリーももちろん衝撃的で深く記憶に残っていますし。
安藤 僕はいつも「ゲームには物語性が大事」と口にしているのですが、井坂さんはゲームにとってのストーリーや世界観をどのようにとらえているのでしょうか?
井坂 僕もストーリーや世界観は重要だと思います。今度出すタイトルでは世界観を徐々に広げていき、コンテンツとしてのパワーを増やしていきたいという思いもあります。ただ、コンシューマーゲームとは異なり、ソーシャルゲームはストーリー性が弱い面があるので、今回はしっかりストーリーを作っていきたいと思っています。『探検ドリランド』は、ドリルで穴を掘ってお宝を見つけるゲームでしたが”ハンター”というものが登場して、徐々に世界観が広がっていった作品なので、『ドリランド 魔王軍vs勇者!』は逆に新しい世界観は作りやすいと思っています。大事な部分を残しつつ、さまざまなチャレンジをして本家とは違う楽しみを演出できればと思っています。
安藤 うわっ懐かしい! 僕もめっちゃ穴掘ってましたよ(笑)。『探検ドリランド』のあれは、まさに『聖戦ケルベロス』の本筋と“バトルフィールド”のような関係ですよね。というよりは“バトルフィールド”が本筋を飲み込んでしまったというような構造。『探検ドリランド』は、もともとドリルで宝を掘り当てるゲームだったけれど、“トレジャーハンター”(注2)というイベントが非常に受けて、そこからそれが本筋になってしまい、ついには”ドリルで穴を掘る”という仕様がなくなってしまった。あれは衝撃でした。
グリーの方が「あれはバラエティ番組みたいなものだよね。タイトルは変わらないけれど、中身が変わっていく。『とんねるずのみなさんのおかげでした』(注3)で食わず嫌い王決定戦がうけたら、食わず嫌いの番組になり、別のコーナーが流行ったらそのコーナーを主体とした番組になる。タイトルは器としてあるだけで、中身はその時々で最適なものに変化していってもいいのではないか」ということを仰っていた。この考え方はこれまでの家庭用ゲーム業界になかったもので、新しくて本当におもしろいと思った。ドリルの仕様の件を思い出してみると、たった2年間の出来事なのに忘れていることがたくさんあって驚かされますね。
昔、『探検ドリランド』のプロデューサーの方と対談をしたのですが、そのときに「『探検ドリランド』はテンポをとにかく重要視したものであり、それを成し得るためにキャラクターのカードの造形自体にストーリーや世界観を背負わせてシェイプアップをしている。シナリオも大事だが、なんとなくイメージできるぐらいでよい」という話をされていました。それに対して「僕にとってストーリーは必要だ」と思ったことをいまでも覚えています。『探検ドリランド』も時は流れて、いまはアニメで世界観やストーリーも構築されていますよね。2年という時を経て、徹底してストーリーを排除してきた『探検ドリランド』が、ストーリーを捨てずに物語性を重視した『拡散性ミリオンアーサー』と、図らずも似たアプローチをしていることは印象的です。ですが『探検ドリランド』があそこまで盛り上がったのは、ストーリーを排除して、テンポだけを追求した、あの徹底した選択と集中があっての事だと思います。
(注2)トレジャーハンター:ハンターカードを使い、ダンジョンを探検しながら財宝やカードを発掘するほか、モンスターとの戦闘やボスを倒し、ステージをクリアするなどの、現在の『探検ドリランド』を形づくったイベント。
(注3)とんねるずのみなさんのおかげでした: フジテレビ系列で放送中のバラエティ番組。
タイトル決めは一苦労
安藤 次回作やスピンオフ作品を作るときのタイトル決めって難しいですよね? シリーズ作品だからと、安易に『2』、『3』という数字でナンバリングしてしまうと「1をやっていないから、2と3もやらなくていいかな」という感情が芽生える可能性がある。その点『テイルズ オブ』シリーズのタイトルは毎回違っていて、途中からでも参加しやすくなっている点が素晴らしいなと思います。井坂さんは、今回タイトルを決めるうえで苦労をした点や、意識した点はありますか?
井坂 “ドラゴン”というワードを使うのはやめようと思っていました(笑)。みんながみんな“ドラゴン”を使っているので、僕は“魔王”にしようと思って、このタイトルになりました。それだけですね(笑)。“魔王”だと、自分が悪のサイドにいることが分かりやすいですしね。
安藤 僕も“ドラゴン”と“ファンタジー”という言葉は、気を遣うので使いにくいな。どうしても使うときは“ドラグーン”とか“ドラグニル”と言った、ちょっと形を変えたものになります(笑)。
井坂 “ドラゴン”は、子どもの頃からの憧れがありますし、かっこいいし耳に慣れているから、圧倒的に男のロマンが詰め込まれた言葉なんですよね。字体もいいし。『ドラゴンクエスト』、『ドラゴンボール』のように、今でも語り継がれる名作のドラゴン率は高いので、みんなそれにあやかろうとしているのかもしれませんが。僕も永く語り継がれるいいタイトルのゲームを、スマートフォンというデバイスで作りたいですね。
今作に込められた思い
安藤 最後に、今回の作品について、ユーザーのみなさんにメッセージがありましたら教えてください。
井坂 今回のタイトルは、ゲーム性は難しいのですが、誰でも入りやすいようにわかりやすい設計をしています。なので、まずは触ってみて欲しいですね。さっき少しお話しましたが、ゲーム内のいろいろなところで隠れたアクションが起きるようになっているので、触ってみていただくだけでも楽しんでいただけると思います。それと、現在使えるブラウザの表現を使い切って、なおかつ『探検ドリランド』が築き上げてきたテンポ感や世界観を大切にして作っていますので、ぜひ楽しんでいただきたいですね。
安藤 僕たちが作った『唯一性ミリオンアーサー』も、ブラウザゲームが持つ良さを最大限に引き出していますし、ストーリーも読むほどに世界観が深まるものに作り上げているので、ぜひ『唯一性ミリオンアーサー』もよろしくお願いします。ただ僕は、あまのじゃくな部分があるので、いわゆる皆さんが想像しやすいプラットフォームではなく“dゲーム”という意外性かつ可能性のあるプラットフォームでのリリースです。Vita版もそうなんですが、きちんと理由があっての、あまのじゃくなんですよ。今回もいろいろな話ができておもしろかった! お互いにブラウザゲームの未来を切り開いていきましょう! 本日はどうもありがとうございました。
井坂 こちらこそ、ありがとうございました!
全3回でお贈りしてきた本対談も今回をもって幕を閉じる。昨今はネイティブアプリ全盛の時代ではあるが、ブラウザゲームも着実に、そして確実に進化していることが読者の方々にも伝わったことだろう。安藤氏の『唯一性ミリオンアーサー』、井坂氏の『ドリランド 魔王軍vs勇者!』をプレイすれば、“ブラウザゲームの進化系”をその身で体験できるはずだ。ぜひ一度プレイしてもらいたい!
【唯一性ミリオンアーサー】
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メーカー:スクウェア・エニックス
開発:アプリカ
プラットフォーム:dゲーム
対応機種:スマートフォン、フィーチャーフォン ※dゲーム対応端末
配信日:配信中
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■著者紹介
安藤武博(あんどう たけひろ) スクウェア・エニックス 特モバイル二部 ジェネラル・マネージャー兼プロデューサー。ゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。 |
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