スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第二回 「突撃隊長」
2011-09-30 11:51 投稿
●第二回 「突撃隊長」
2011年の東京ゲームショウが終りました。
やっぱり新しいゲーム機が出てくる時期は、わくわくしますね!
新型のハードを手にとって触ってみると、僕の主戦場であるスマホだけでなく、これも「また」、面白い作品を提供する新しいプラットフォームなのだと実感します。
これまでの携帯電話のゲームは、まずゲーム機で作品がリリースされた後に、携帯の性能に合わせて移植、もしくはスピンオフするという流れが主流でした。
これからはスマホで作品が立ち上がり、その後アップグレードしてゲーム機に展開するという、新しい流れが、生まれていくと思います。
例えば、iPhone向けに製作されたケイオスリングスが、今後3DSやVitaで展開されても何の不思議もありません。もちろんやるとしても、そのままの内容では持って行かないつもりです。(この話は長くなりそうなので、またの機会に。)
とにかく、もはや「スマホは、ゲーム機」になりました。
結局お客様にとっては、どちらでも面白いゲームが遊べればOKなだけで、こういった流れを意識すること自体がナンセンスなのかもしれませんね。
ゲームショーの期間中に、僕のチームは「拡散性ミリオンアーサー」というタイトルを発表しました。
iOSおよびアンドロイド向けに、リリース予定の完全新作です。
発表したムービーがファミ通Appさんでも見られますので、ここからどうぞ。
『ケイオスリングス』の安藤武博氏が手がけるスクウェア・エニックス完全新作タイトル! TGS限定ムービーを独占公開!【TGS2011】
■拡散性ミリオンアーサー
シナリオ:鎌池和馬
アニメ制作:J.C STAFF
音楽:前山田健一(ヒャダイン)
主題歌:ちょうちょ
そして人気イラストレーターが多数参戦した本作。
これまで携帯電話のゲームは
「何を(何のタイトルを移植・スピンオフ)するか?」といった事がほとんどでした。
これからはコンシューマー機と同じように
「誰とするか?」の時代に突入です。
今、ゲーム業界の内外を問わず、才能あふれる方々に
お声がけをさせていただいて、どんどん集結してもらっています。
携帯電話だからといってスタッフ、ゲーム内容に一切手抜き無し。
スマゲの面白さを追求して現在製作中ですのでご期待ください。
また、ゲームショーでは、新聞やTVなどのメディアにより、「SNS・ソーシャルゲーム」もひとつのキーワードになり、これまでのゲームとは違う、新しい波として大きく取り上げられていました。
僕は、「スマホをひとつのゲームプラットフォームとして」捉え、面白い作品を創ること。
そして、お客様に「スマホのゲームって面白いね」と感じていただくこと。
を、主なねらいとしてこの連載をはじめました。
スマホという新しいプラットフォームで、とにかく「面白い」ゲームを創りだす事が目的ですから、その作品にはソーシャル要素がない場合もあると思いますし、オンラインでない場合もあると思います。無料である場合もあれば、今後も定価が設定される場合もあるかもしれません。
SNSが時代を変えていくという雰囲気が先行してしまうと、ちょっと極端なので、ソーシャルゲーム「だけ」で新しい波を括らずに、
携帯電話で動くゲーム全般=「スマゲ」が新しい波なのだと定義して、
今回もスマゲ☆革命を始めたいと思います!
★☆ここから前回の続きとなります☆★
2009年初頭から、プロジェクトが開始された
iOS向けの完全新作RPG「ケイオスリングス」。
当時の企画書の最初のページには、こう書かれています。
iPhone初の本格オリジナルRPGを作成します。
低価格化の進むiPhone市場に3000円でも売れる
ゲームコンテンツを投下します。
当時のAppストアで主流だったのは、230円以下のボリューム的にライトなゲームでした。企業ではない個人の製作者が制作した素晴らしいアイデアのものが、ものすごいスピードで出現し、インディーズと企業の垣根が無いこのマーケットはなんて「ワイルドかつエキサイティング!」と思っていた頃です。
一方で企業サイドは、特にゲームロフト社とEA社が気を吐き、ライトゲームではない内容の商品でリリースを始めていた印象があります。彼らの商品を遊ぶと、「スマホでも結構すごいゲームが動くな」「インターフェイスのアイデアも新しくて面白いな」と素直に思えるものが多く、とても刺激になりました。
国内のパブリッシャーからバイオハザードやメタルギアソリッドのiPhone版が発表されたのも、ちょうどこの頃だったように記憶しています。僕もすでに08年末に「クリスタル・ディフェンダーズ」をリリースしたばかりでした。
とはいえ、それらのゲームは、一部の例外を除き、これまでの携帯電話からの移植など、制限や選択集中がされた内容のものがほとんど。販売価格も最も高いもので1200円。だいたいが450円から900円の価格帯に集中していました。
そのような状況下で「完全新作」の「3000円」で販売できる「本格RPG」を創る。
果たして、こんな事が可能だと思っていたのでしょうか?
正直に言うと、随分ドキドキしながらのチャレンジでした。
それでもチャレンジに踏み込めたのは、いくつかの「確信」と大きな「幸運」があったからです。
まず、色々なノウハウを得ることになった「突撃隊長」の存在。
これが大きかった。
それは、「ソングサマナー」というゲームでした。
「クリスタル・ディフェンダーズ」より更に前。更にさかのぼって2008年の7月にクリックホイール付きのiPod向けにリリースした、これも完全新作のRPGです。
「ソングサマナー」は2006年辺りからアップルとの開発交渉をスタートしたプロジェクトです。09年の時点ですでに2年強、ダウンロード販売や、アップルのマーケットや技術仕様と向き合いながらゲーム開発をしており、その期間に色々な事がわかりました。
僕の記憶が正しければ、この作品がスクウェア・エニックス初の全世界同時ダウンロード配信タイトルだったと思います。とにかく、やったことのない、わからないことだらけ。お初づくしのプロジェクトでした。
ダウンロード販売ってアリなのか?世界同時配信ってどんな感じになるんだろうか?当時のiPodは音楽プレイヤーでしたから、そういった機械で新作のRPGが受け入れられるのか?遊んでもらえるのか?
そもそもiPodでRPGが動かせるんかいな?などなど・・・???だらけでしたが、開発会社の努力、アップル社や、スクウェア・エニックス社内に在籍するテクニカルディレクター青柳秀俊の、技術サポートもあり無事に完成させることができました。
「セーブデータの領域が100KBしかないから、どこ削ろうか?」みたいな感じで、制限だらけのクリックホイール付きiPodでのゲーム開発は、大変でしたが非常に面白かったです。
僕は処女作が初代プレイステーションの「鈴木爆発」というタイトルですから、すでに大容量化の時代を迎えており、きっとファミコンやスーパーファミコン時代のゲームづくりってこんな感じだったのだろうなと思いながら開発をしていました。
結果、ソングサマナーはクリックホイール付きiPodの性能限界ギリギリいっぱいまで引き出したRPGになりました。
また、キャラクターデザインを担当した直良有祐とフェラーリ・ロベルトという、才能溢れる社内デザイナーとの大きな出逢いがありました。
直良は後に「ケイオスリングス」のキャラクターデザイン。フェラーリ・ロベルトは「ムーンダイバー」(XBLA PSN)のメインキャラクターデザインを担当してもらう関係へと発展していく事になります。
おかげさまで「ソングサマナー」は、多くのお客様からダウンロードをしていただく事になりました。
ソングサマナーを通じてノウハウとなったのは
「ダウンロード」「全世界配信」という新しい販売方法には可能性があるということ。
ハードの性能限界まで引き出す気概で、高品質のものを製作すれば、完全新作でも多くのお客様が世界的に受け入れてくださるということ。
・・・これは至極当たり前のことですが、僕が未熟故にわかっていなかった事をようやく少し理解。
また、お客様が遊びたいと思うものに対して、素直に商品を提供する。ということの大切さ。
ソングサマナーは40案以上あったクリックホイール付きiPod向けゲーム企画の中から、アップル社のリクエストを受けて制作が決定しました。
アップル社がスクウェア・エニックスに求めるものは、やはりRPGと言うことでした。その要望が=(イコール)お客様が求めるものへと自然につながっていく事になったと思います。
・・・と、20代に自分が創りたいものばかり創っていた、ただの独りよがりが、
こんな至極当たり前のこともまた、少しだけ理解。
これらはビジネスのノウハウというよりは、僕の個人的なスキルが足りていなかった、「お前の能力の問題やろ」という、知らんがな!系の情けないお話です。
それでもこれ以降、僕のプロデュース方法に大きな影響を及ぼしたので、やはり大事だったと思います。
その他、新しいハードを技術解決していきながら性能を引き出すやり方。
素晴らしいクリエイターや、技術者との出逢いという「幸運」。
加えて、ソングサマナーは、なんとTVCMまで放映されました。クリックホイール付きiPod向けゲームとしては空前絶後の試みだったと思います。これもプロモーション部隊みなさんの大きな協力があっての事です。
などなど、突撃隊長というには贅沢すぎるほどの周りのサポートに支えられ、得られたノウハウが確信になり後の「ケイオスリングス」へとつながっていくことになります。
実に優秀な突撃隊長だった、「ソングサマナー」。
ところが、ここには「ひとつだけ」
大きな誤算があったのです。
つづく
安藤武博 スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。 |
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