スクウェア・エニックスの名作RPGシリーズ『FINAL FANTASY』(以下、『FF』)をプレイしたことのある人ならば、公式攻略本『アルティマニア』シリーズとともに攻略を進めた方も多いだろう。
そんな『アルティマニア』シリーズが、2019年7月17日に同社がサービス中のスマホ向けRPG『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』(以下、『FFBE』)のためのコンパニオンアプリ『FFBE デジタル アルティマニア』としてリリースされたことはご存知だろうか。
『FFBE デジタル アルティマニア』は、『FFBE』プレイデータと連携してクエストや宝箱の見逃しを確認できる“やり残しチェック”や、時間内に何度も引き直しができる“カード召喚”、そしてカードで手に入れたユニットを『FFBE』本編に毎月1体送れる“ユニット化”といった攻略支援機能を搭載。
本稿では、『FFBE デジタル アルティマニア』開発陣のキーマンであるスクウェア・エニックスのプロデューサー永野翔大氏と、過去のすべての『アルティマニア』制作に携わってきたスタジオベントスタッフの山下章氏にインタビューを実施。
▲スクウェア・エニックスの永野翔大氏(写真右)と株式会社スタジオベントスタッフの山下章氏(写真左)。
“究極(ULTIMATE)のマニア(MANIA)”向け書籍として累計60冊以上が刊行されている同シリーズが、スマホ向けアプリとしてどう生まれ変わったのか。注目の12月中のアップデート情報や、今後の展開などとあわせて語ってもらった。
アプリ化にあたり重視した“3つの究極”とは
――どういった経緯で『FFBE』の『アルティマニア』をアプリとして作ることになったのですか?
山下章氏(以下、山下氏) じつは過去にいちど『FFIX』の『オンラインアルティマニア』というものを作ったことがあったのですが、当時はインターネット環境がいまほど整備されておらず、レスポンスが悪かったり動画を扱うのが困難だったりといろいろな制約がありました。そうした事情で思うようなものが作れなかったので、いつかはまたデジタルで作りたいと考えていたんです。
そんな中、プロデューサーの広野さんが「『FFBE』でも『アルティマニア』を作りたいんですよね。できればアプリで」とおっしゃっていたのを聞き、自分の中でのアプリ版『アルティマニア』の構想をお伝えしたのが始まりです。
――最初期にはどういった構想があったのでしょうか?
山下 重視したかったのは、やはり紙媒体ではできない本体との連動機能です。紙の場合は、未クリアのクエストはこれで、依頼人はどこにいる、マップはここ……というのを、読者の方が照らし合わせてページをめくって探さなければならない。しかしアプリなら、自分の進行状況をダイレクトに確認できて、タップで手軽にすべての情報を見られるのではといったようなお話しをしたら、広野さんも気に入ってくださったんです。
――構想段階から本アプリを立ち上げるまでに、苦労した部分などはありますか?
山下 『アルティマニア』をアプリとして作るにあたり、3つの“究極”を盛り込まなければならないと思っていました。ひとつ目は、“究極のファンアイテム”であること。攻略だけでなく設定資料集的な側面も持たせるというのは、書籍版のころから自分たちがこだわってきた部分です。
ふたつ目は、“究極の便利さ”。本体のストーリーやクエストなどの進行状況と同期させることで、これまで以上の快適さを用意できるのではという考えがありました。3つ目は“究極のお得感”ですが、これは自分の中でいちばん難しかったところです。
たとえば、書籍ならばその時点での最終形を世に送り出すので、お値段ぶん以上のものを詰め込めれば読者に納得感を得ていただけると思いますが、アプリを作る場合は更新型であることが望ましい。すると定額課金制にしないと運営していくのが難しくなる。けれども、情報メディアを定額制で運営することは一般的に非常に難しいんですね。
――そこをどのように解決していったのでしょうか?
山下 自分の中で明確な回答が出せずにいたときに、広野さんをはじめ『FFBE』の開発チームが“カード召喚”というアイデアをくださったんです。『FFBE』本編のメンテナンス中は引き放題、引き当てたユニットを月に1体本編に連れて行ける、などの大枠を最初に伺った際は「えっ? そんなことしていいんですか!?」と聞き返したくらいでした(笑)。
――スクエニとスタジオベントスタッフの両社のアイデアが融合しているのですね。
永野翔大氏(以下、永野) “カード召喚”については初期から大枠こそ決まっていたのですが、それは構想だったので、そこに『アルティマニア』を手掛けてきた山下さんのご意見を聞きながら実装していきました。逆に言えば、僕らスクウェア・エニックス側だけで考えていても、絶対この形にはならなかっただろうなと思っています。
――とくにこだわった部分を教えてください。
山下 スマホの画面は狭いので、情報の見せかたには書籍と違った難しさがあったのですが、“キャラクターファイル”の相関図はデジタルの利点を活かせた部分です。各キャラクターの相関図どうしを数珠つなぎのようにタップでリンクさせていくなど、書籍では実現できない仕様を盛り込みました。
▲“キャラクターファイル”の相関図では、関わりのあるキャラクターのアイコンをタップすると、シームレスにそのキャラクターを中心にした相関図へと遷移する。
永野 これまでゲームを作ってきた経験はあれど、コンパニオンアプリという位置付けで、しかも定額課金モデルのアプリという分野は初挑戦で、手探りでやってきた部分もあります。さらに『アルティマニア』という名を冠するにあたっての緊張感もありましたが、山下さんにかなり助けていただきました。本当に、いろいろな方に協力をいただいて生み出せたアプリだと思っています。
――リリース当初から12月現在までに、新たに追加された機能はありますか?
永野 “キャラクターファイル”や“やり残しチェック”、“ストーリープレイバック”などの部分は、配信開始当初はメインストーリー1stシーズンの情報だけだったのですが、8月~9月にかけての更新で2ndシーズンの部分をドサッと盛り込んでいます。
山下 “強敵詳細データ”は作るのに時間を要したぶん、『アルティマニア』らしいマニアックなページに仕上がっていると思います。『FFBE』は更新型のゲームなので、単なる“攻略法”を載せる形だと、強力な味方ユニットが実装されたあとは古い情報になってしまう可能性がある。もちろん、そのたびに記事を書きかえていく手もありますが、せっかく新しいチャレンジをするのだからということで、これまで非公開だった敵のアルゴリズムなどを網羅的に掲載する形をとり、研究や考察に役立ててもらえるようなページを目指しました。
――“強敵詳細データ”ではボスの行動パターンが詳細に明かされており、かなり思い切った内容になっている印象です。
永野 やはり運営側から出せるものはどんどん出していくことが、公式攻略本である『アルティマニア』としての価値につながると思いますので。開発チームと直接交渉して、「ここまでなら出していいけど、ここはきびしい」と言われたところを、「いや、なんとか載せさせて」などとやり取りした結果が“強敵詳細データ”になっています(笑)。
山下 記事化にあたっては、提供いただいた内部データを我々が噛み砕いて、整えて、実際に検証して……と大変な作業量になりました。ユーザーの皆さんにとっても、「モンスターはこんな細かい行動までしていたんだな」という新たな発見をしてもらえるページになったのではないかと思います。
▲『FFBE』本編とデータ連動する“やり残しチェック”(画像左)や、ボスの行動パターンが丸わかりの“強敵詳細データ”(画像右)など、攻略支援機能も充実。
――また、今後実装を検討している新機能などはありますか?
山下 じつは、書籍版の人気コーナーである開発者インタビューページを本アプリにも入れようと動いていて、すでに複数名ぶんを編集中です。書籍版よりも遥かに大ボリュームになるものも出てきそうですが、幸いアプリには文字数制限がありません(笑)。『FF』シリーズのファンの方々にはたまらない内容になっていると思いますので、実装を楽しみにお待ちください。
永野 『WAR OF THE VISIONS FFBE 幻影戦争』もリリースされましたし、今後は『デジタル アルティマニア』の水平展開の可能性もあるかと思います。これに関しては、まだ僕と広野の頭の中にボンヤリとある程度の話なのですが。
ユーザー垂涎の“★5確定召喚パス”が12月に実装
――12月のアップデート内容について詳しく教えていただけますか?
永野 現状の“カード召喚”機能では、ユニット総数の多さからどうしても好みのユニットをピンポイントで狙いづらいというユーザーさんからの声がありました。そこで12月には、人気の召喚フェス特別★5ユニットなどを手に入れやすくなるように、“カード交換所”という新機能を実装します。
――“カード交換所”では何が交換できるのでしょうか?
永野 “カード交換所”には、目玉の交換アイテムとして“★5確定召喚パス”を用意しています。“★5確定召喚パス”は効果時間が10分間だけですが、そのあいだは召喚されるカードがすべて★5ユニットだけになります。
山下 10分間ずっと★5ユニットが出続けるというのは、ものすごく快感ですよ(笑)。
▲12月のアップデートにて、新たに“★5確定召喚パス”、“★4以上確定召喚パス”、気軽に使いやすい“召喚パス(15分)”が追加に。
永野 “★5確定召喚パス”の交換条件は比較的高めに設定していますが、アップデートの際にお試しとして“★5確定召喚パス”を1枚プレゼントいたします。そして今後は“アチーブメント”の報酬でも手に入るようになります。また、将来的には“カード交換所”にパス以外の交換アイテムも追加できればと思っているので、どうぞご期待ください。
▲新機能の“カード交換所”では、カードアルバム内のカードをMPや各種召喚パスに変換可能。
山下 本アプリは『FFBE』本編の進行に合わせて定期的に更新する要素のほかに、こまめにコンテンツや機能をアップデートしていくことが計画されています。2020年1月には“やり残しチェック”に“次元の狭間”パートを追加予定ですし、今後も検討中のものが多数ありますので、ご期待ください。
▲11月に公開された、本アプリのアップデート予定を詳細に記したロードマップ。
――アップデートやロードマップ公開などをかなり頻繁に実施されている印象ですが、本アプリはどういった運営スタイルになっているのでしょうか?
永野 基本的には、一旦やってみないとわからないということが多いのですが、調整や改善はつねに続けていくつもりです。本アプリはコンパニオンアプリという位置付けなこともあり、あえて『FFBE』の運営チームとは切り離した形で、ベントスタッフさんや開発チームと都度話し合いながら運営しています。
山下 書籍の場合は読者の意見をフィードバックするのに時間がかかってしまうのですが、書籍版と違って今回はアプリなので、一般的なアプリゲームと同様にユーザーさんの反響を見て内容を考えていくという試みは随時行っていますね。
――最後に今後の開発、運営への意気込みや、ユーザーに向けてのメッセージなどをお願いします。
山下 個人的に、注目していただきたいのが“まいにちシークレット”です。“シークレット”のページは、お役立ち情報やマル秘テクニック、開発秘話などのコラムを集めた書籍版でも人気のコーナーですが、従来は多くても1冊あたりの記事数は100個程度。しかし本アプリではログインボーナスとして開放されていくので、日を追うごとに閲覧できる記事も増えていきます。
――毎日アプリを起動するのが楽しみになりそうですね。
山下 200番台以降で始まる“秘蔵資料編”では、テキスト、グラフィック、開発画面といった未公開の設定資料を紹介していく内容になっています。すでに300番台途中まで書き進めていますので、ぜひ毎日チェックしてみてください!
▲“まいにちシークレット”では、歴代シリーズのパロディネタ解説なども掲載。画像のページは最初から開放されているものなので、続きはぜひユーザー自身の目でチェックしてみてほしい。
永野 本来、開発途中のグラフィックなどは手の内を明かすような行為なので秘密にしておきたいものです。しかし、たとえば炎獄レインのLBムービーなどは、ヴィジュアルワークスががんばってくれまして、プロトタイプ版時点では実装版と比べて倍以上の長さがある力作でした。実装時には泣く泣くカットとなってしまいましたが、ここでユーザーの皆様に見られるようにできたので、ぜひご覧いただきたいです。
――倍以上とは驚きです! お蔵入りにするのはもったいないですね。
永野 僕自身が『FFBE』ユーザーなので、ユーザーの方々が見たら喜んでくれそうなものは積極的に載せていきたいです。開発チームがどんなことを考えて、どんなものが生まれて、その結果どんな『FF』になっていくのかを少しでもお見せできたらと。『FF』シリーズには欠かせない『アルティマニア』によって、今後『FFBE』が10年以上楽しんでもらえるタイトルになるよう、ゲームの魅力を引き出していきたいと思います。