作業効率化はチームの笑顔のために!『FFXII』リマスターチームや『アナデン』の開発者が開発当時を振り返る

2018-06-06 12:15 投稿

効率化の終着点はチーム全体の笑顔!

グリーのアプリ開発スタジオ“Wright Flyer Studios”主催の業界関係者向けトークイベント“Flyers’ Lab”第5回が2018年5月31日に開催された。本記事では、このイベントの模様をリポートしていく。

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今回のトークテーマは“技術”。スクウェア・エニックスの片野尚志氏、CGStyleの高橋亮太郎氏、Wright Flyer Studiosの岩本高志氏と下田翔大氏が登壇し、これまでに各社が実施した自動化・効率化の工夫点についての発表や、それをテーマとした座談会が行われた。

Lab

ゲームプレイをさらに快適に、グラフィックは思い出補正に負けないものを

イベントはスクウェア・エニックスの片野尚志氏とCGStyleの高橋亮太郎氏の登壇からスタート。『ファイナルファンタジーXII』のHDリマスター版となる『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』を作るにあたり、どのような工夫をしたのかが語られた。

この講演は、“『ファイナルファンタジーXII』を現代に甦らせる”というテーマで行われ、ここでは改良するべき箇所をどのように探し、どう効率化・自動化を図りながら改良してきたのかが紹介された。

ただし、効率化、自動化の具体的な仕組みと内容については非常に専門的な話となってしまうため詳細は割愛する。

講演の内容としては大きく3つに分かれており、ひとつ目は開発体制の紹介。ふたつ目はゲームプレイの改善として、HDリマスター版から追加された機能が紹介された。

具体的に紹介された内容は、1キャラクター2ジョブ対応、高速プレイ化の実装、マップ移動に対するロード時間の短縮などであり、これらはゲームプレイの改良の検討をしていく中で出てきた意見をもとに実装されたものだという。

3つ目はグラフィック面。『ファイナルファンタジーXII』は、ユーザーたちの記憶の中で思い出として美化されたものもあると考えたため、グラフィックの改良について両氏が掲げた目標は、10年前の意図を理解し、HDリマスターとして期待されている映像にするというものだったそうだ。

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▲ひとり2ジョブにすることで、当時はできなかった1度のプレイですべてのジョブを楽しめるようにした。
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▲グラフィックのリマスターに対しては、高品質化の対応以外に、いまの技術だからできる表現手法を各種取り入れていた
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▲当時のモデルがシネマティクス(カットシーン)とプレイアブル(フィールド)で違うことも語られ、 これによって発生したボーン数の拡張もシステムで対応したとのこと。

このほかにも、当時主流だったディスプレイの仕様・ブラウン管特有の色味を出すために、肌に関してあえて若干赤みを帯びさせるといった工夫もされているという。

ちなみ に、リマスター化作業における自動化は、テクスチャを自動で高解像度かつ質感の情報を追加したものを生成するシステムを組んで行われたそうだ。これによって開発は効率化され、スピーディーな開発を実現したのだ。

この ような効率化を図った上で必要に応じてハンドペイントによって更なる高品質化を図っていたとのことである。

発明はニーズによって生まれるものである

続いてWright Flyer Studiosの岩本高志氏から『アナザーエデン 時空を超える猫』における開発環境構築の歴史およびエンジン戦略について語られた。(※エンジン戦略:あるタイトルの開発内で得られた知見や技術などを他のタイトルの開発に積極的に流用し、効率化を図る戦略手法。)

氏は、開発に使用されていたPhotoshop、Spineなどといったソフトウェアの機能拡張を行い、作業の効率化を図ったそうだ。

たとえば、三頭身キャラクターの絵から各パーツごとの画像を抜き出す機能や、8頭身画像を各利用用途にあわせた画像サイズに抜き出す機能、背景イラストから各パーツを抜き出す機能、日本語を『アナデン』世界用のオリジナル言語に変換するツールなどを開発していき、開発環境の効率化を進めていったという。

ここで作られた拡張機能は非常に便利なもので、開発現場からは好評。それに起因してか、この拡張機能が実装された開発環境は、派生タイトルでも運用され、開発期間短縮に大いに貢献しているそうだ。

氏はこの結果を踏まえて「ツールの発明はニーズのあるところに生まれます。開発現場のタイムリーなニーズに歩調を合わせて環境構築していくことが大事です」と語り、開発は現場の人のために行うことが重要であると話をまとめた。

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▲三頭身イラストをアップすることで、各部位(顔、手、衣服など)を自動的に分割してくれる。
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▲上の派生機能で、背景に関しても効率化を図れるようになった。
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▲『アナデン』に用いられた効率化の仕組みは、同社が提供する『ダンメモ』の作業効率化にも貢献している。

実際の状況に合わない環境構築はNG

取り組みの紹介・解説に続いて行われたのは、モデレーターに下田氏を迎えての座談会。

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最初のテーマとして挙げられたのは、“ゲーム開発運営の自動化や効率化を行う上で、注力・重視しているポイントは?”というもの。

このテーマを受けて岩本氏は「効率化はチーム全体の現実のパフォーマンスを上げられるかどうかが大事です。チームの現況を無視した安易な最適化はだいたい不幸を伴います」と語る。

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曰く、効率化作業というのは現場の人の笑顔のためにする作業であり、現場を無視して安易に最適化を進めてしまうと、現場に混乱が起き、結果効率が落ち、本末転倒になってしまうということのようだ。

これには片野氏、高橋氏も賛同。局所的な最適化のみを追求するとおおむね悪手で、全体が良い結果を出せるための最適化として何が良いかという検討をしていく必要があるという話がくり広げられた。

自動化・効率化の弊害のもとは人間関係!?

続いてのトークテーマは“自動化・効率化を実現するうえでの弊害は何でしたか?またその乗り越え方は?”。

これに関して片野氏は「弊害があったという話ではないのですが、みんなで求めるゴールを明確化することが重要だと思っています、皆で同じゴールに目を向けることが重要で、誰かがゴールへ目を向けてないと考える方向性がズレてしまい違うゴールを目指すことになり結果として弊害が発生する可能性はある」とコメント。

高橋氏もこれに賛同。加えて「みんなの目線を、同じゴールへと向けるためにも途中でも抽象的な指示は絶対にいけません」と語る。

ゴール が具体的なものとして設定されていないと、みんなの目線が散らかってしまい、手戻りが多く発生し、最終的には多大な時間や作業がかかって効率が悪い状態になってしまうので、そうならないためにも 具体的な誤解が生じないゴール設定と途中の具体的な指示が重要ということのようだ。

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岩本氏も片野氏、高橋氏の考えに共感していたが「クリエイティブな現場で弊害となるのは、大抵人間関係だと思います。どこにでも起こりうる問題ですが、『アナデン』の現場ではそれがなく、気持ち的にも非常に楽でした(笑)」というコメントも。

もはやコンソールとスマートフォンに違いはない

最後のテーマは“コンソールとスマートフォンで自動化・効率化の違いはありますか?”。

これにまず答えたのは岩本氏。「もはや絶対的な違いはないと思います。スマートフォンの高性能化が進んだため、使うツールにも、差はなくなってきています」と解説。そのうえで、コンソールがハイエンドなフル3Dゲームが主流なのに対し、スマホはまだ2Dが多いとし「そのあたりが違いかな」とコメント。

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高橋氏も岩本氏とほぼ同意見で「違いはないですよ。どっちも工夫が必要なのも同じだし、簡単にはいかないという点も同じ。違いといえば、プラットフォームが違うというくらいでしかない」と補足。そして「違いがあると思うことが間違いなのかな」と、感慨深い言葉でコメントを締めくくってくれた。

今回も貴重な話がつぎからつぎへと飛び交った“Flyers’ Lab”。つぎの開催も楽しみだ。

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