「作りたいから作った」が集まったインディーゲームコンテスト“Google Play Indie Games Festival”授賞式をリポート
2018-04-28 21:55 投稿
インディーゲームトップ3を決める一大イベント!
2018年4月28日、東京都内でGoogle主催のインディーゲームアプリのイベント“Googleインディーゲームフェス”が開催された。
こちらのイベントは、Google Playに登録されているインディーゲームのトップ3を決めるコンテストイベント。会場には、事前にインターネット上で行われたユーザー投票によって選出されたトップ20のアプリが揃い、開発者たちのプレゼンやゲームの展示などで、会場は大いに盛り上がっていた。
そんなイベントでまず行われたのは、来場者投票と審査員の審査によるトップ10選出。展示されているアプリは、そのどれもが最初の激戦をくぐり抜けてトップ20にまで残ったものたちであるため、当然どれもがおもしろく、甲乙を付けるのは難かしかったことだろう。
そうして、来場者たちが粒ぞろいのインディーゲームを真剣に楽しみながら、そして真剣に悩んで選んだトップ10タイトルは以下の通りとなった。
【Google Play Indie Games Festival トップ10】(※ブース番号順)
1.『Million Onion Hotel』(Onion Games)
2.『クリスタル・クラッシュ』(Cold Fusion)
3.『Craft Warriors』(トランスリミット)
4.『Ninja Flicker』(東京工業大学 デジタル創作同好会traP)
5.『ねぇAI、本当の事が知りたい』(コトリヤマ)
6.『怪異掲示板と7つのウワサ』(エンタブリッジ)
7.『BQM ブロッククエストメーカー』(Wonderland Kazakiri)
8.『ねこかわいいぼくゆうれい』(ハラペコーポレーション)
9.『PARADE!』(内田達也)
10.『ネコの絵描きさん』(Nukenin)
この残った10タイトルの開発者たちは、つぎのプログラムであるゲームのプレゼンステージへと駒を進めた。では、これら作品の生みの親たちは、審査員たちにどのようなプレゼンを行ったのだろう?
その内容をそれぞれ簡単にまとめていこう。
ちなみに、今回のイベントで審査員として出席したのは以下のリストの方々。なお、キズナアイは審査をするに当たって「みなさんご存知いただいているかはわかりませんが、私はゲームがヘタなので、ヘタなゲームプレイヤーとしての視点で審査させていただきます」とコメントし、会場から笑いを集めていた。
審査員一覧(所属は割愛)
安藤武博氏、川島優志氏、中畑虎也氏、カイロくん、キズナアイ、林克彦
Chongsa Kim、Sarah Thomson、Hyunse Chang、松田白朗
『Million Onion Hotel』(Onion Games)
「僕が愛するものをすべて詰め込もうと思って開発しました」
そう語る開発代表者。玉ねぎを引っこ抜く時の音を、BGMのコード進行に合わせて調整したり、あえて不親切な設計にすることで、ユーザーが自身でコツを見つけたときに得られる快感を演出したりといった、本作に詰め込まれた工夫の裏話を披露してくれた。
『クリスタル・クラッシュ』(Cold Fusion)
北海道、東京、ドイツと、別々のところにいる3人がリモートワークで開発した本作の驚くべき点は、なんと既存のゲームエンジンを利用するのではなく、自分たちでこのゲーム開発のためにゲームエンジンを制作してしまったこと。
そこから作られたゲームは、パズルゲーム好きな人なら手放しで楽しめ、そうでない人でも気軽にバトルを楽しめるよう、さまざまな工夫が込められたタイトルとなっている。
『Craft Warriors』(トランスリミット)
リリースしてまだ1カ月も経っていないにも関わらず、すでに200万ダウンロードが見えてきているという、恐るべきポテンシャルを秘めたインディーゲーム。
ユーザーがその手でキャラクターをクラフト(デザイン)する要素が本作最大の売りであること、クラフトは汎用性が高くいろいろなものが作り出せること、そうしてクラフトされ、シェアされたキャラクターはすでに20万モデル以上にもなることが明かされた。
プレゼンの中では、審査員として出席していたキズナアイをイメージしてクラフトされたキャラクターも登場し、会場を沸かせた。
『Ninja Flicker』(東京工業大学 デジタル創作同好会traP)
今大会唯一の学生チーム。安藤氏から「卒業後の道を決めかねているなら、ぜひこのままインディーとしてゲームを作り続けてほしい」とまで言わしめるほどの実力を持ったこのチームが作ったタイトルは、忍者を題材としたアクションゲーム。
しかしただのアクションゲームではない。キャラクターではなく、背景を動かしてプレイするアクションゲームである。そのため、通常のゲーム操作とは真逆のアクション入力が求められる。
プレゼンでは、しっかりとステップを踏みながら、この特殊な操作方法にプレイヤーが少しずつ慣れていけるようなギミック演出や工夫が凝らされていることが語られた。
『ねぇAI、本当の事が知りたい』(コトリヤマ)
夫婦でゲーム開発をしているというコトリヤマ。こちらのタイトルは、ある日挫折を味わって意気消沈してしまった夫を慰めるため、妻がジョークで書いたダジャレイラストが原点になっていることが語られた。
夫を元気付けるために描かれたたくさんのジョークイラストはかなりの数になり、それを見て元気をもらっていた夫は、ある日「これをゲームにしたい。このイラストで僕は元気をもらった。この体験をみんなにしてもらいたい」という熱意のもと開発されたというのだ。
そうした背景があるからか、本作はおもしろいだけではなく、非常にたくさんの優しさが感じられる作品となっている。
『怪異掲示板と7つのウワサ』(エンタブリッジ)
「もっと気軽にノベルゲームを」
この言葉をコンセプトにプレゼンされた本作は、現代のスマートフォンユーザーに最適化されたゲームデザイン、そしてスマートフォンというハードウェアに最適化された演出、UIが搭載されたノベルゲーム。
その最たる特徴となるポイントは、チャットアプリのようなスタイルで物語が進行し、地の文を徹底的に排除したことで生まれた“スマホだからこそ得られる臨場感”だという。
『BQM ブロッククエストメーカー』(Wonderland Kazakiri)
開発者が、小さいころから作りたいと思っていたゲームを形にしたタイトル。「開発の知識も技術もなかったので、作るのは大変だった:と製作工程を振り返る氏は、プレゼンで制作秘話だけでなく、本作に秘められた可能性を語ってくれた。
本作にはユーザーが作ったダンジョンをみんなに公開して遊んでもらえるという機能があるのだが、この機能はプログラミングを視覚化したような作りとなっている。
そのため手軽にフラグ管理などが出来るようになっているのだが、ユーザーの中には、これを使ってシンプルなRPGを作ったり、インベーダーを再現したりと、ダンジョンならざる思い思いの作品を制作して投稿している人もいるらしく、現在はコミュニティが賑わっていることを明かしてくれた。
『ねこかわいいぼくゆうれい』(ハラペコーポレーション)
「もともとゲームは苦手でした。運動神経がよくないから、アクションゲームはヘタだし、脱出ゲームも脱出できないし……」
そんな人が作ったのがこちらのタイトル。この“ゲームが苦手だった人が作ったゲーム”というキャッチは、審査員席に座るゲームクリエイターたちには、凄まじいインパクトがあったようだ。
事実、ゲームをほとんど遊んでこなかった人が、自分のようなタイプの人に向けて作ったゲームというのは、これまでにないユーザー層をキャッチ出来ているようで、本作のユーザーレビュー欄には凄まじい数のレビューと高評価が並んでいる。
『PARADE!』(内田達也)
本作は、目でノーツを追いかけてプレイするリズムゲームではなく、耳と体でリズムを感じてプレイできるゲームを目指して開発されたという。プレゼンではそういった点を掘り下げるような形で進められた。
しかし、これについてはプレゼンをまとめるよりも、実際にプレイをしてもらったほうが理解が早いと思うので、気になる人はダウンロードしてみるといいだろう。
なお『PARADE!』の主軸を成しているこの考え、着眼点には川島氏も驚きと共感を示しており、イベント後に行われた囲み取材では「声だけで遊べる、耳だけで遊べるというゲームが主流となる時代が来る可能性は十分にあるんです」と、このゲームが持つ将来性に期待を寄せている旨を語ってくれた。
『ネコの絵描きさん』(Nukenin)
任天堂に勤めていた人たちが、なぜかふらりと集まって出来上がり、その経緯そのものがチーム名の由来ともなったNukenin。
彼らが作ったのは、絵がヘタな人でも絵を描くことが楽しめ、人の絵を見ることも楽しめ、また人の絵から想像することも楽しめるという、およそ絵から得られるであろう体験のすべてをゲームという枠にまとめたようなタイトル。
「自分が描いた絵を投稿し、それを誰かが評価するというシステムは、昨今流行のFacebookやInstagramと似た社会性を持っており、非常に時代にあっているものだと考えています」
このコメントには審査員やユーザーたちも同意を示しており、「インディーゲームは触ってみて始めてわかるおもしろさがあり、これはそれを体現している」と語る人も。
栄えあるトップ3に輝いたのは
かくしてプレゼンを経て、見事トップ3に選ばれたタイトルは、『Craft Warriors』、『PARADE!』、『ネコの絵描きさん』の3タイトル。
審査員は、総評で「非常に僅差で、どのタイトルがトップ3になってもおかしくない状況でした」と今回の審査内容を振り返り、トップ10に残っているタイトルたちには、やはりここまで残るだけの理由があることが示唆された。
なお『ネコの絵描きさん』は、アプリ『少年ジャンプ+』編集部が独断で選ぶ“少年ジャンプ+賞”も受賞しており、同アプリ内で連載されている作品のゲーム化ライセンスと、それにともなう費用などが同編集部から提供される権利が授与された。
この2冠達成を果たしたタイトル『ネコの絵描きさん』を開発したNukeninは、その展開をまったく予想していなかったのか、受賞タイトルが発表された際にはポカンとしていたが、最後の挨拶では感極まって声をつまらせる場面も。
また『Craft Warriors』の開発チーム代表者は受賞について「栄えある賞を受賞出来て、本当にうれしいです! 開発メンバーからは“絶対に取ってこいよ!”とプレッシャーをかけられていたので、ほっとしました」とよろこびと安堵の様子で、柔らかい笑顔を見せていた。
また受賞コメントでは、質疑応答で場を盛り上げてくれたキズナアイさんへの感謝も述べられている。
『PARADE!』で受賞を果たした個人クリエイター内田氏は、受賞について「本当にありがとうございます! ただ、ちょっとこのゲームは賞を取りやすい題材だったのではないかと思うところもあって」と謙遜の様子。
これについては前述もしている通り、後に行われた囲み取材で審査員・川島氏が着眼点と発想力に驚きを見せており、「彼は謙遜をしていたけれど、あれは本当にすごくいいゲームですよ」とコメントを寄せている。
なお、今回トップ3を受賞した3タイトルには、賞品として、ストアトップページでのバナー掲載、YouTuber審査員キズナアイさんによるプレイ動画制作と配信、Google I/Oへの展示および出席のためのチケット代/旅費など、多くの権利と品が贈呈される。
ここからは記者の所見。今回のこのイベントの様子を見て、ひとつ確信したことがある。それは、インディーゲーム業界が、いまとにかく熱く、おもしろいことになっているということ。そこには、マネタイズが確立されたメジャータイトルにはないおもしろさがあり、その尖ったおもしろさは人を引きずり込むほどのパワーを持っている。
今回トップ3を受賞したタイトルたちはもちろん、残念ながら受賞を逃してしまったタイトルたちも、みんなそうだ。ぜひ、インディーゲームの今後の盛り上がりも応援していきたい。
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