PSVR『シン・ゴジラ』の制作例などから学ぶVRコンテンツを制作するうえで注意すべきこと
2016-07-01 18:12 投稿
VRコンテンツを制作するうえで知っておきたいこと
2016年6月29日~7月1日に、東京ビッグサイトで開催されている“コンテンツ 東京”。ここでは、6月29日に行われた専門セミナー、“既存の制作方程式は当てはまらない!VRコンテンツで考えるべきポイント”の講演内容をリポートする。
講演ではソニー・インタラクティブエンタテインメントにてゲーム・コンテンツ制作コンサルティングおよび技術サポートに携わる秋山賢成氏が登壇した。
2016年10月13日に発売が決定したプレイステーション VR(以下、PSVR)の勢いは止まらない。すでに2016年3月時点で国内35社をはじめ、全世界で230社以上のディベロッパーがVR用のコンテンツを開発をしており、その数はどんどん増え続けている。
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中にはゲームではないVRコンテンツも増えてきているとのことで、秋山氏は今回、それらを制作するうえで大事なこと、というテーマで講演を行った。
“実在感”と“ユーザーにとっての魅力”
まず、どのようなVRコンテンツでも、制作で大事なことは、“実在感”と“ユーザーにとっての魅力”をつねに意識し追及することだ、と秋山氏は言う。その実現ためにもっとも注意すべきことのひとつが、VRコンテンツにつきまとう“酔い”の問題。
“酔い”は本当に気を付けたいポイントだと秋山氏は強調した。制作者の中には、「これくらいの演出なら酔わないだろう」などといって、攻めてしまう人が多くいるのだが、そういった考えは捨てたほうがいい、と述べた。
たとえば、絵を綺麗に見せたいあまりデータが重くなって処理が追いつかなくなると、“実在感”が損なわれるだけでなく、スムーズに再生できない動画が脳を混乱させ、“酔い”を引き起こす原因になる可能性もあるのだ。動画の美麗さよりも、処理落ちを起こさないことを、何よりも優先させなくてはいけない。
また、“恐怖”や“驚き”の体験を作るために、急にものすごいスピードで遠くに飛ばされる、などといった演出を行う場合があるが(たとえばジェットコースターに乗っているときなど)それはあくまでテレビ向けの演出であって、高速でカメラを移動したり、地平線がぐるぐる回るような、急激に映像が変化する演出は、VR上では避けるべきだという。これらも、“酔い”を引き起こす原因になりうるという。
3つの制作事例
続いて、PSVR向けに作られたコンテンツの中から、3つの制作事例が紹介された。“実在感”と“ユーザーにとっての魅力”を追求するために、それぞれVRコンテンツを作る際に工夫した点、気を付けた点などを挙げている。
JOYSOUNDVR
『JOYSOUNDVR』では、VR空間の中でカラオケを歌う体験ができる。その中でもっとも特徴的なのが、アイドルのライブを再現した“アイドルとオンステージ”。
プロトタイプ版では、ライブステージからではなく、舞台裏でいっしょにいるところから始まる。そのままアイドルが歌っている際もいっしょに舞台に立つことができて、ライブ終了後も、楽屋にいっしょにいるシーンを体験できる。このように、ひとつのコンテンツで一連の流れを体験できることで、“ストーリー性”と“実在感”を持たせているという。
“実在感”を持たせるために、ほかにも工夫している点がある。それはカメラでの撮りかた。出演者にカメラを見ながら演技してもらうことで、体験者からすると、まるで目の前にアイドルがいて、自分に話しかけてくれているような“実在感”が生まれるという。またシーンによってはカメラにぐっと近づいてもらうことで、体験者は、アイドルと接近する感覚を得ることができる。これが、より“実在感”を出すための工夫になっていると説明した。
好きな人がいること
続いて、紹介されたのは、月9ドラマ『好きな人がいること』のVR用に作られたミニドラマだ。こちらのVRは、体験者の反応で、ストーリーが分岐する仕組みとなっている。
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放送前のドラマなので、写真やストーリーは公開されなかったが、こちらの制作にも、さまざまな工夫がなされていた。
そのひとつはカメラの画角設定。動画として目の前に現れるにあたって、“見た大きさ”と“感じかた”のバランスがとても大事になってくる。人物と密接な距離を感じさせるために、人物を大きく見せるという演出もあるが、大きく見せるために画角を狭くすると解像度が失われてしまう。画角はバランスを見て撮影することが重要なのだという。
また、音の配置も実在感を表現する上では欠かせない。PSVRでは、3Dサウンドを利用して、空間に“音のする方向”を設定することができる。たとえば演者の声をBGMとはべつに撮っておき、演者の口元のあたりからその声が出るよう設定しておくだけで、人の声が際立ってリアルに聞こえてくるのだという。
『好きな人がいること』のVR用ミニドラマの撮影現場では、仮撮影したものをその場ですぐに確認しながら進めていったため、スムーズに進行できたという。「撮影現場ですぐにチェックできる環境を用意することも大切」と秋山氏は述べた。
眠れぬ魂
3つめに紹介する事例は、ゲーム開発会社である、wiseの制作したコンテンツの例だ。wiseは映像とリアルタイム技術の開発環境を持つ会社であり、PSVRタイトル『眠れぬ魂』をリリース予定である。
この『眠れるぬ魂』では、“主人公=自分”として感情移入させやすいように、さまざまなテクニックが使われている。
たとえば冒頭。まず、暗い部屋の中にいる主人公の目線(主観)からはじまり、“これが自分なんだ”と印象付けるために、つぎに客観から主人公の目のあたりのカットを入れる。これらのカットは2Dで表現されているのだが、そこからVRシーンに移っていくことで、まるで、ゲームの世界に自分が入っていく感覚になるという。
次にカメラの選定について。本作は主人公の視点だったり、主人公のすぐそばであったりと、対象物と視点の距離が非常に近いため、なるべくレンズの枚数の少ないカメラリグを使用しているという。
レンズの枚数が少ない方がいい理由としては、パララックス(視差)が起こる可能性を低く抑えることができ、さらに、処理のコストやデータの管理も楽になるという利点もある。
本作では、暗いシーンを撮影することが多かったため、撮影をするとカメラのライトが写りこんでしまうことがあったという。編集の際、単純にライトだけを消してしまうと、照り返しで明るくなっている周囲のものだけ残り、そこだけ不自然に浮かびあがって見えてしまうが、これを解消するために、CGを合成することで、違和感をなくしたという。
VR映像の考察
3つのVRコンテンツ制作例をみたところで、ここでいったん、VR映像の考察を行うことに。
1.VR映像の“実在感”をあげるためには
・“自分”が何物なのかを定義する
・“何か”がいる場合、“何か”をリアルなものに近づける
2.VR映像の“コンテンツ”クオリティを良質なものにする
まず冒頭から説明があったように、VRで大事になるのは“実在感”だ。実在感をあげていくためには、まず、VRの世界の中におかれた体験者にとって、“自分”という人間は何になるのか、ということを考えていく必要がある。自分自身なのか、そのゲームの主人公なのか、それとも“人間ではない何か”なのか……。そこを経験者に、しっかりと認識させることが大事になってくるという。
もうひとつ大事なことは、VRの世界にいる“対象”の行動を、よりリアルにするということ。VR世界の中におかれた経験者に対し、アクションを起こす存在がいることで、彼にとって“自分はいまここにいる”という認識を起こさせるになるからだ。そのため、VRの登場人物が、目線を送ってくる、話しかけてくる、などといった演出を行うことはとても大事なのだと説明した。
つぎに、VR映像の“コンテンツ”のクオリティをあげるための考察をおこなっていく。まずはそのためには、何を活かしたいコンテンツなのかを定義する必要がある。「なぜこのコンテンツはVRなのか」、「どうしてVRにしなければならないのか」といったことを考え、人なのかシナリオなのか、そのコンテンツの中で活かすべきものを定義していかなくてはならない。
キャラクターを活かしたい場合、そのキャラクターのもっとも特徴的な魅力を、徹底的に掘り下げる必要がある。
たとえば鳥がいた場合、鳥を地上で見ていても、“鳥”としての魅力は掘り下げられてはいない。やはり鳥は空を飛ぶことに魅力がある、と定義し、空を飛んでいる鳥になった目線や、その近くから鳥を見ている演出を行うことで、コンテンツが魅力的になるという。
シナリオや場所を活かす場合は、360度で方向を感じる音や、360度見回す体験や、CGとの合成など、VRだからこそ可能な体験や演出を、徹底的に掘り下げることだ。
たとえばVRの中でサッカー観戦を行う場合、そのままスタジアムのグラウンドを撮影してVRに落としこむだけでは、現実の観戦とそこまで相違はないだろう。そこで、その場で見逃したゴールシーンをリプレイできる機能を足すことで、VRだからできる体験になる。
「VRは、現実と同じものであるということに、こだわる必要はない。むしろVRだからこそできる拡張体験を積極的に入れ込んでいくべきだ」と秋山氏は語った。
やりたいことと、“気持ちのいい体験”のバランス
ここまで、実在感をあげたり、コンテンツを良質なものにするポイントを紹介し、VRでしかできない演出を紹介してきたが、とはいえやはり、VRにギミックを凝らしすぎると、酔ってしまうこともある。もし、やりたい演出を施した際に、酔ってしまうようなことがあった場合は、「やりたいことを捨てても、酔わないため、気持ちいい体験を与える演出に変える勇気を持たなければならない」と秋山氏。
「コンテンツとしてすばらしいものができた」「作り直すのはもったいない」などと感じるかもしれないが、ときには捨てる勇気を持つこともVRコンテンツを制作するうえでは必要なことなのだという。
『シン・ゴジラ』のどの魅力を最大限に引き出すか
つぎに、PSVR向けの『シン・ゴジラ』制作時のエピソードが語られた。これは、映画『シン・ゴジラ』が今夏公開されることを記念して行われるコラボで、開発陣営は、『シン・ゴジラ』をVRとして展開することが決まったときに、まず、「コンテンツの魅力はどこにあるのか」、「プレイヤーが期待していることは何か」などということを、徹底的に議論したのだという。
とはいえ、魅力を感じるポイントは人それぞれ違うので、議論はなかなか難航。しかし、その中で注目されたのは、今回の『シン・ゴジラ』が、ゴジラ史上最大の大きさだというところだ。その最大の特徴を魅力とし、VRでその魅力を引き上げることを目指し、コンテンツを作り始めることになったという。現在も鋭意制作中とのことなので、完成した際はぜひ一度体験してみたい。
映像用CGを使用する際の注意点
この『シン・ゴジラ』に関連して、つぎに、映像用CG素材を利用してPSVRに対応するための方法が紹介された。必要なことはエンジンを探し、出力する。そしてうまく出力できなかった場合は、原因を探し、さらにVRとしてのクオリティをあげていくという作業をくり返していくことだという。
映像用CG素材を使用するにあたって、「映像業界とゲーム業界のコンテンツの作りかたは、まったく違うということを前提に考えなければならない」と秋山氏は語る。
映像業界で作っている素材は、非常にリッチなものが多く、そのぶんプリレンダをしないと動かないくらい重くなりがちである。すぐにリアルタイム、ランタイムで確認できないものが多いが、そのアセットがPS4上で動くか確認をしなくてはならない。その上で、負荷が高いと感じたところは、リダクションする必要が出てくるだろう。
負荷計測→リダクションの作業をくりかえすためにも、なるべく早くPS4で動くかどうか確かめる必要があるため、リッチな素材には要注意だ。
映像業界とゲーム業界のコンテンツの作りかたが違うといえど、では映像業界の制作者ではいままでの素材や演出方法といった資産が使えなくなるかというと、そうではないということも主張された。ただし使いまわすことを目的にすると、だいたい失敗するという。
大事なのはあくまで、作りたいVRコンテンツを作ること。その中で、いままでの資産で使えるものがあったら使っていこう、という程度に留めておくのがよさそうだ。
もっとも注意すべきは“酔い”への配慮
そして最後に、本日のまとめとなった。
やはりいちばん気を付けたいのは、“酔い”への配慮である。とくに映像の場合は、撮り直しをすることが物理的に難しくなる場面があるので、撮影には、事前によく注意して取り組むよう注意が促された。また、“このコンテンツのどこの部分を最大化するためのVRなのか”ということを定義し、そこを掘り下げることへの妥協はしない、という点も重要だ。後から「なぜこれをVRにしたんだっけ?」という疑問が出てきたら、それは危険信号である。
以上のことに気を付けながら、VR制作に臨めば、きっとよりいいコンテンツが生まれるであろう。
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