【注目アプリレビュー】アプリで再誕した傑作ゲームブック『展覧会の絵』

2014-02-01 10:00 投稿

アプリでよみがえるゲームブックの魅力

スマホ用ゲームアプリは、システムやグラフィックに趣向を凝らしたド派手な新作が、日々配信されています。その一方で、かつて人気を博した名作ゲームが、アプリという形をとることにより生まれ変わってもいます。今回はそんな懐かしくも、アプリ化によってパワーアップを果たした作品、ゲームブックアプリ『展覧会の絵』をご紹介します。

ご存知ない方のため説明しますが、ゲームブックとは文字通り“ゲームが遊べる本”のこと。周囲の状況を示す文章に続いて、アドベンチャーゲームでいうところの選択肢や、RPGの戦闘結果に対応した“パラグラフ”が示され、その順番に従いつぎつぎと文章を読み進めていくことによって、物語を楽しむことができる本なのです。

日本では1980年代に一大ブームを巻き起こしたゲームブックですが、家庭用ゲーム機の隆盛にともない、少しずつその勢いを失っていきました。しかし“文庫本まるごと一冊で壮大な冒険を物語る”ゲームブックの姿は、どこかスマホのアプリに通じるものがあります。そのせいもあってか、最近はゲームブックアプリも少しずつ数を増やしており、かつて大人気だった作品がアプリ化されるケースも多くなってきました。

今回紹介する『展覧会の絵』も、原作は1987年に出版された国産のゲームブックです。それが時を経て、2012年にiOS対応アプリとしてリリース、今年になり待望のAndroid対応版が配信開始されました。原作からのファンである私にとって、多くの人たちがこの名作に触れる機会が増えることは、とても喜ばしいもの。ぜひこの機会に、本作を試していただける方が増えることを願っています。

▲温かみのある水彩画を思わせる挿絵がふんだんに使われ、物語の情景を映し出す。こうした挿絵は、一度見ておけば“画廊”メニューでいつでも閲覧可能。

楽曲とともに楽しむ壮大な物語

この『展覧会の絵』には、テーマとなった作品が存在します。それはクラシックの名曲『展覧会の絵』。クラシックファンでなければ、題名を挙げただけではピンとこないかもしれませんが、あまりに有名なその前奏曲は、誰もが一度は聴いた覚えがあるでしょう。楽曲『展覧会の絵』は、1874年にロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキーが、ピアノ組曲として世に送り出した作品です。

▲アプリの起動時に、作曲者ムソルグスキーと友人への謝辞が表示。テーマに用いた原曲に対する、作者の真摯な姿勢がうかがえる。

楽曲版『展覧会の絵』は、ムソルグスキーが若くして亡くなった友人の画家、ヴィクトル・ハルトマンの遺作展で目にした、10枚の絵画をモチーフとして作曲した、と言われています。それぞれの絵画に対応した10の曲を、“プロムナード”と呼ばれる前・間奏曲でつなぎ、ひとつの組曲に仕立てたもので、ムソルグスキーの代表作とも呼ばれる楽曲です。

ゲームブック版『展覧会の絵』の主人公は、過去の記憶を失っている楽師。あてどもなく放浪していた彼は、ふと立ち寄った市場でひとりの商人と出会い、“キエフの門”の印がついた絵の中を旅するように告げられます。絵は全部で10枚あり、絵から絵へと移動する際は不思議な空間に立ち寄りますが、そこは“プロムナード”と呼ばれています。

つまりゲームブック『展覧会の絵』は、原曲『展覧会の絵』と同じ構造をした作品、といえます。さらにアプリ版では、それぞれの絵の世界やプロムナードを訪れると、原曲に準じたBGMが流れます。これはゲームブック版の原作には当然ながらなかった、アプリ版独自の機能。物語だけでなく耳からも、どっぷりと作品世界にひたらせてくれるので、ぜひとも音量をオンにするか、ヘッドホンを使用して読み進めてみてください。

▲開始直後に読み進めるプロムナードから、原曲の“プロムナード”に対応するBGMが流れ、一気に作品世界へと引き込まれる。

真実への道を切り開く琴の旋律

本作の目的は、主人公が10枚の絵の世界を訪れ、待ち受ける数々の苦難を乗り越えて、魔女バーバ・ヤーガの12の宝石を手に入れること、そして失った自分の記憶を取り戻すことです。ただし主人公の職業はあくまでも楽師。屈強な戦士のようになにごとも剣と腕っぷしでなんとかする、というわけにはいきません。

そんな主人公が操れる唯一の武器が“真の楽士の琴”です。この琴には“戦いの旋律”、“魔除けの旋律”、“和解の旋律”という3種類の旋律を奏でられる弦を張ることができ、それぞれの弦を弾くことで対応する旋律が流れます。旋律には魔法のような効果があるので、うまく使えば主人公の行く手を阻む、苦難を排除する助けになるでしょう。

▲真の楽士の琴に、魔法の弦を張ってくれる侏儒。最初の絵の中の世界で出会う彼は、不思議な縁があるようだが……?

ただし旋律を奏でるたび、その弦の使用回数を消費してしまいます。さらにこの真の楽士の琴には“弦の色の歌”があり、それに対応した旋律を使い切ると琴そのものが壊れてしまいます。こうなるとどんな状況であってもゲームオーバーになるため、奏でる旋律を選ぶ際は細心の注意が必要です。また弦の色の歌が残っていたとしても、残りの旋律で目の前の事態を打開できなければ、やはりゲームオーバーになります。

このため冒険を長く続けるためには、旋律がもたらすさまざまな効果を想像して、適切に効果を発揮するものを選ぶ必要があります。たとえばモンスターが目の前に現れるたびに“戦いの旋律”ばかり奏でていると、あっという間に弦の力を使い切ってしまうのがオチ。そのモンスターが、じつは人間が姿を変えられていたとすれば“魔除けの旋律”で元に戻せるかもしれません。知性があるならば“和解の旋律”で穏便に交渉することも可能でしょう。

▲どの旋律を奏でるかで、現在のみならず将来の冒険の行方も変わってくる。置かれている状況をよく考えて、最適だと思う旋律を選ぼう。

現在の状況や弦の残り回数、手持ちのアイテムなどを考慮して、その都度最適な行動を選び取っていくのが本作の醍醐味です。原作が出版された当時、ゲームブックにおける戦闘といえば体力や魔力、攻撃力などを高めてモンスターを倒す、というパターンが一般的だっただけに、この真の楽士の琴のシステムには感服したものでした。万事が力任せではない、頭をひねるおもしろさは、出版から20年以上経った現在でも十分楽しめるものになっています。

なお、弦の残り回数や所持アイテムなど、主人公の状態は“アドベンチャーシート”にまとめられます。アプリ版ではこのアドベンチャーシートは自動的に記入され、成否判定に用いるサイコロもスマホで簡単に操作できます。本とは別にシートと筆記用具、サイコロを用意する必要があった原作とは違い、どこでも遊べるようになったのはありがたいものですね。

▲アドベンチャーシートはいつでも確認することができる。行動や選択肢で迷ったら、これを見て判断の材料にしよう。

便利機能を利用し真実へたどり着け

本作は幻想的な世界と妙なる音楽に満ちた、記憶と絆を巡る旅の物語です。読み進めるうちに、やがてこの世界の存在理由、謎めいた“侏儒”の正体、バーバ・ヤーガの宝石の役割、何よりも主人公の失われた記憶、それらすべてが明らかになるでしょう。最後の絵にたどり着いた主人公を待っている、大いなる喜びと耐え難い悲しみを味わっていただくためにも、物語に関する詳細はこれ以上記しません。ぜひともご自分の目と耳で、その結末を味わってみてください。

▲商人からもらった宝石と、旅することになった絵。そのどちらにも“キエフの門”の印が刻まれている。そこに秘められた謎とは?

ちなみに本作には謎解きや戦闘といった、ゲーム的な要素もふんだんに盛り込まれています。その楽しさは前述したとおりですが、ともすれば物語を読み進める障害になる場合もあり、なかなか難しいところ。そんなときは“読み戻し”と“しおり”を利用することをオススメします。“読み戻し”は直前のパラグラフに戻る機能。“しおり”は訪れたパラグラフを記録し、いつでもその時点に戻れる機能で、最大10ヵ所まで記録することができます。

▲読み戻しは、画面右下に“前へ”と表示されている状態ならばいつでも実行できる。使うかどうかは、もちろんプレイヤーの自由。

こうした機能は、アドベンチャーゲームのBACK機能やセーブ&ロードに該当しますが、原作のゲームブックのときもけっこうやっていた人、多いんじゃないでしょうか? かくいう私も愛好家でしたが、ときには仲間うちで“ズルなしクリア”などと称して、読み直しを封じたプレイを誇ったりしたものです。

それがいまではもう、開始直後から使いまくっている始末です。一度ラクなことを覚えてしまうと、人間ダメになるものですね(苦笑)。

(ライター・ぽんせ松本)

iGameBook 「展覧会の絵」

メーカー
Faith Wonderworks, Inc.
配信日
配信中
価格
無料(アプリ内課金あり)
対応機種
iOS 5.0 以降。iPhone、iPad および iPod touch 対応。 iPhone 5 用に最適化済み。Android 2.3 以上。

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