スクエニ安藤ブログ“スマゲ★革命 シーズン2”第十五回「大切なのは「今」なんかじゃない。」
2013-11-08 13:00 投稿
第十五回「大切なのは「今」なんかじゃない。」
今回は私の職業である「ゲームプロデューサー」に関するお話。言い変えると「ゲームを売ることに関する最高責任者」向けのお話しになります。いや、今回は「おもしろいスマゲ」を作るために、自分に対して当たり前の事を「あらためて」言い聞かせる回になります。
私が駆け出しの頃、誰もが知っているメガヒットゲームをプロデュースされた方(いまもってこの方が私の目標にして師匠)に「プロデュースとはいったい何なのか?」という質問をさせていただいた時の事。答えは明快。プロデュースとは「時代を切り取る事」。これが私にとって、いまでも、そしてこれからも不変のプロデュース哲学になっています。
時代を切り取るというのは、ゲームが発売されたときの「時代の気分」を誰よりも「先取り」して制作をはじめる事。そして、発売時点にちょうど良い状態で世に送り出すという事です。言ってみれば、プロデューサーは、これから何が流行るかという事に関する「未来予知」をしなければいけない。
そう、プロデューサーにとって大事なのは「過去」でも「今」でもなく「未来」の事なのです。
「今、何が売れているのか」ではなくて「次、何が来るのか」を考えて実行するのがプロデューサーなのです。
日々の運営に追われる事が多いスマゲ制作の現場。未来と言っても明日や来月といった近い未来・・・というより、それはもはや「現在」のことを考えるのに精一杯となり、(もちろん運営者にとって「現在」はなによりも重要です。)この至極当たり前の事を忘れがちになっています。また、スマゲ市場のトレンドなど環境の変化が、専用ゲーム機のそれとは比べ物にならないスピードで変化している。つい最近まで「未来」だった事があっという間に「今」になり、おそろしい速さで「過去」になってしまう。未来を忘れがちというよりは、未来予知をして新しいことを思いついたはずが、いつの間にか当たり前の事になり、気がつけば陳腐化しているという感じです。
特モバイル二部にフォーカスして、リアルな現場の状況(というか恥)を書くと、かなり先取りしてつくり始めたはずのものが、つくっている間に予想を上回るスピードでどんどん陳腐化していく→目新しくないので、それほどワクワクしないものになる→再度、新しいワクワクを出すために追加の調整期間を設ける→結果、なかなか完成に漕ぎ着かない。という問題が起こっています。
チャレンジの結果ではあるのですが、この市場変化のスピードに適応するためには、もっともっと先取りをしないといけなかった。先取りとは「時代の気分の”ちょっとだけ先を”行く事」です。あんまり先を行き過ぎるとお客様を置いてきぼりにしてしまいますし、「10年早いは10年遅いと一緒」という言葉もあります。そのちょっとだけ先取りをするために、もっともっとスピードを読み切る必要がありました。2013年10月末にサービス開始予定だった『オカルトメイデン』はまさにこの時間をいただいて配信が延びております。申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちください。
では今後「時代を切り取る」ためにどうしたらよいのでしょうか? いろいろチャレンジした結果、現在は下記の二つのポイントが重要だと考えています。
まず一つ目は「早く作って、とっとと出す」。
追加調整をする期間にもトレンドが変わっていく可能性は非常に大きい。いや絶対変わる。晴れて「次、何が来るのか」を思いついてもゲームはすぐには完成しないので、制作期間がかかります。つまり「次、」までに物理的に結構な時間を必要とするわけですね。ちょっと難しい言い回しになりますが、
「次、何が来るのか」の
「次」≒(ニアリーイコール)制作期間とすると
「次」と「制作期間」が限りなく=(イコール)に近づくほど、「時代を切り取る」可能性が高まると考えています。なので最初に企画立案した制作期間からずらさずに出す。さらなる面白さや、わかりやすさを創出するために追加調整が必要だとしても、≒(ニアリーイコール)の範囲に収まるチャレンジにとどめる。スマゲの場合、この範囲に制作規模を制限する事が重要になってくると思います。近い将来、スマホの性能が次世代ゲーム機を超え「なんでもできる」ハードになったとしても「五・七・五」を自ら設けて、制限の中で「これしかやらない」という選択と集中を行うべきです。
また二つ目は「ライバル不在のものを作る」。
「次、何が来るか?」、「これからどうしたらよいのか?」といったときに過去現在のデータを読み解いて考える事も、プロセスとしては大事かもしれません。ですが、それだけだと「時代を切り取る」事はできません。
相変わらず「ポスト『パズドラ』は何?」いまならば「『チェインクロニクル』や『ブレイブフロンティア』に勝つには?」「『黒猫のウィズ』の次は?」などなど・・・「なぜこのタイトルは売れた?」と具体的なタイトルを取り上げて考える人も多いかもしれません。一方でお客様は「今、世の中にまったくない」ないしは「ありそうでない」ものを遊びたいわけなので、「すでにある」ものから考え過ぎて作品をつくると、全然目立たなくなるか、あっという間に陳腐化する可能性が高い。マルっと真似ちゃうなんかは言わずもがなですよね。
ライバルはこれだ。と考えてつくるよりも、ライバルなんかいないぜ。というものをつくれれば、それは唯一無二なので、そもそもトレンドや変化のスピードに影響されない。スマゲ市場で独特の存在感を放つ『ドラゴンリーグX』や『ドラゴンポーカー』をつくられた森山尋さん(アソビズム)は、これを実践するために、「流行っているスマゲのプレイなどは一切せず、むしろ、ゲームに関するあらゆる情報をシャットアウトして制作に打ち込む方が良いとすら思う。」と話してくれたことがあります。マーケティングデータからゲームをデザインするWEBサービス屋的なアプローチだと構造的に難しいかもしれませんが、新しい面白さを創出できる蓄積のあるゲーム屋はすすんでチャレンジすべきでしょう。言うのは簡単ですが、このくらいの志(こころざし)と意識は必要です。
さらに言うならばこれら二つはどちらもやるべきです。「ライバル不在のものを、早く作ってとっとと出す。」ライバル不在だからといって時間をかけていると、この商売、あっという間にトレンドが変化してしまう。
いやしかし、「言うは易く、行いは難し。」上記はまさに「お前が言うな」という話で、私の課題です。冒頭の通り、自分にあらためて言い聞かせています。
最後にもうひとつ。「未来」に関してプロデューサーが知っておくべき当たり前の事を書きますね。
「時代を切り取る」これからのヒット作に関する事はメディアや評論、分析には「一切」載りません。
このファミ通Appも含めて、巷間メディアで目にするゲーム関連の記事のほとんどすべてが、「まもなく発売されるゲームの記事」「発売された後のゲームの記事」「売れているゲームの記事」「ここ最近のトレンドの分析」「決算報告書の読み解き」など、「過去」と「今」に関する事ばかりです。これは当たり前の話で、メディアがまだ誰もつくっていない「未来」の作品の話を勝手に書いたら、なんの証拠も事実もないので、アホだと思われますもんね。
また、よくできた分析サイトもいくつかありますが、分析した人間が「未来」のヒットの事を書くはずがありません。なぜならば分析した上で見えてきた「未来」の事こそ、その人にとって今後ヒットを出すための必殺技であり、秘伝のスープのレシピだからです。そんな決定打を自分が実行する前に人に言うはずがありませんよね。ヒット作品を出す可能性のある人はその事をわかっていてあえて「過去」と「現在」のことしか書かないのです。もしくは本当に分析だけで止まってしまっている事も多いと思います。そんなに簡単に思いつけるような事でもないですしね。やはり、「未来」のことばかりは当事者だけで楽しく(これ大事)戦っていくしかないです。
プロデューサーは今「現在」、周りから見たらアホだ、荒唐無稽だと思われるような「未来」を先取りし、それが世に出て評価されるまで、ときには孤独に熱狂しなければなりません。それは並大抵の事ではありませんが人生を賭してやる価値のある事です。来年、再来年のワクワクのために、あらためて「未来」の事を真剣に考えています。みんなでお客様をワクワクさせるゲームをプロデュースしましょうね!それではまた!
次回につづく
■著者紹介
安藤武博(あんどう たけひろ) | |||||
ス クウェア・エニックス 特モバイル二部 ジェネラル・マネージャー兼プロデューサー。ゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核 を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージ へのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。 |
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