サイバーエージェント”最新アプリ業界の動向”セミナーレポート 成功の鍵は……

2013-11-06 19:40 投稿

マーケティングデータを徹底分析

サイバーエージェントは、2013年11月5日に最新アプリ業界動向に関する無料セミナー、”世界のアプリ市場の動向と、『戦国炎舞 -KIZNA-』のマーケティングが成功したわけ”を開催。同セミナーは2部に分けて行われ、いずれも予定時間をオーバーする熱の籠もったものとなった。ここでは、その模様をお届けする。

第1部 データ分析の重要性と
世界のアプリ市場の動向

第1部は、株式会社インターアローズ取締役の高橋氏を講師に迎え、“DISTIMO AppIQによる、全世界アプリ市場の動向について”というテーマで講義が始まった。

▲第1部の講師を務めた、株式会社インターアローズ取締役、高橋治彦氏。

まずは、“DISTIMO AppIQ”や高橋氏が携わる業務の内容について説明が行われた。“DISTIMO AppIQ”とは、オンライン上でアプリ売上、ダウンロード数の推定値が把握できるDISTIMO(ディスティモ)社のツールのこと。DISTIMO社はアプリケーションストアの調査・分析を行う企業で、この分野におけるパイオニアであり、世界最大の規模を誇っている。

そのデータ調査・分析の対象は世界40ヵ国以上に上り、APP Store、Google Playを含む10の主要アプリケーションストアと提携。高橋氏が取締役を務めるインターアローズでは、2012年6月よりDESTIMOのパートナー企業となり、日本での同社のサービス展開にも携わるようになった。

ツールとしての“DISTIMO AppIQ”は、ランキングなどの“パブリックデータ(一般に公表されている、オープンな内容のデータ)”、提携する全世界のコンテンツプロバイダーからの“トランザクションデータ(ダウンロード数や売上など、日々発生している取引に関するデータ)”の2種類のデータを集計、分析し、わかりやすい図表の形で見ることができるというもの。

講義では、実際に“DISTIMO AppIQ”を使ってどのようにデータがまとめられているのかが紹介された。データは1日ごとにまとめられており、最速で2日ほど(※iOSの場合。Google Playでも4日ほど)で集計され、ツール上で確認できるようになるとのこと。講義で紹介されたデータも、当日の2日前、2013年11月3日に集計されたものだった。

集計内容は非常に多岐にわたっており、ジャンルやメーカー、国ごとなど、さまざまなカテゴリのデータが見られるのはもちろん、ランキングが急上昇しているアプリや、バージョンアップ履歴といった、アプリごとのデータまで調べられるようになっている。

▲講義では、実際に“DISTIMO AppIQ”を使ったさまざまなデータの分析が行われた。

では、そのデータを使ってなにができるのだろうか? たとえば、“どのようなカテゴリ、内容のアプリが上位に来ているのか”、“どのようなアプリが急上昇しているのか”といったデータからは、アプリ開発の指針を導き出すことができ、“上位にランキングされているアプリはどのくらいダウンロード数があるのか”というデータからは、目標値の設定を始めプロモーションプランの立案に役立つ分析を行えるとのこと。「感覚ではなく、数値から分析することで、より現実的なプランの立案が可能になっています」(高橋氏)。

また、インターアローズでは“MoboLens(モビレンズ)”という、携帯利用者の消費動向やサービス利用に関するデータを複数の条件を設定した“クロス集計”で、検索できる独自のサービスを提供していると述べた。

続いて、現在の世界における市場データの紹介に。

まず、スマートフォンのモバイル市場全体における占有率は、欧米のほとんどの国で60、70パーセント以上。それに対して日本は40パーセント弱と、普及率の低さが目立つ。しかし、裏を返せば「欧米との差である20~30パーセント分、1000万人以上の成長の余地があるということです」と高橋氏は語る。

また、OSのシェアは世界的にAndroidが優勢で、iOSはアメリカやカナダ、イギリスを除きそれほど高くないようだが、売上に関してはiOSとAndroidの立場が逆転しており、iOSユーザーの課金率の高さとAndroidユーザーの課金率の低さが浮き彫りとなっていた。ただし、日本と韓国の2ヵ国に関してはAndroidのGoogle Playの売上が非常に大きく、ここからも市場の独自性が見て取れた。

一方、ゲームアプリ市場のトレンドでは、おもしろいデータが見られた。“スマートフォンを持っていて、かつ毎日ゲームをしているユーザー”についての年齢別の調査では、日本もアメリカも女性のほうがわずかに多く、なおかつ25~34歳の層が最も厚い、という結果が出ていたのだ。

高橋氏によると、現在アメリカでトップセールスを記録している『キャンディ クラッシュ サーガ』はこの“25~34歳の女性ユーザー”をターゲットに作られており、講義が行われた2013年11月頭でも、1日あたりのダウンロード数が全世界で75~100万、売上も1~2億円ほどで推移しているという。

続いて、各国の売り上げランキングのTOP10を比較。欧米各国では同じタイトルが肩を並べているのが特徴的だった。欧米市場は画一的であるがゆえに、1本ヒット作を出せば莫大な規模でのヒットが見込めることになると言え、市場としては非常に魅力的という分析が成り立つようだ。

それに対し、日本、韓国、中国、台湾の4ヵ国はローカル色が強く、欧米とはまったく異なるランキングを展開。さらに、欧米では『神撃のバハムート』以来、日本のタイトルはほぼ売れておらず、日本国内メーカーの海外進出の難しさを伺わせる内容となっていた。

▲業界からさまざまな人が集まり、高橋氏の解説に熱心に耳を傾けていた。

最後に、高橋氏はグローバル市場で成功するためのポイントを3つ挙げた。

ひとつ目は“戦略”。これまでは日本で売れたタイトルをそのまま持って行って失敗するパターンが多かったが、“DISTIMO AppIQ”などでデータをしっかりと分析し、試算を行って数字で戦略をしっかり練ることで成功率を上げることができるということだ。

ふたつ目が、“カルチャライゼーション”という考えかた。ライバルとなるアプリで溢れている市場において、翻訳のしかたや操作方法の見直し、通信環境に至るまで、現地の文化をしっかりと考えて作るということ。

最後に“パートナーシップ”。たとえば海外で成功するには、先のカルチャライゼーションを日本企業単独がノウハウを身につけるのに時間がかかりすぎるため、非常に難しいと指摘。中国や韓国など、現地のパートナーと手を組むことで成功したスクウェア・エニックスの『拡散性ミリオンアーサー』のように、リリースする国によって柔軟な施策を打つことが重要なのだと高橋氏は語り、講義を締めくくった。

第2部 『戦国炎舞-KIZNA-』の
ヒットを導いたマーケティング

第2部は、サイバーエージェントグループのサムザップの大森氏と、サイバーエージェントの角本氏が登壇。“『戦国炎舞-KIZNA-』のマーケティングが成功したわけ”というテーマで、実際に行った施策を振り返りつつ講義が行われた。

▲2013年度に大学を卒業した、新卒1年目というサムザップの大森達也氏(左)と、メインで講義を行ったサイバーエージェントの角本拓也氏(右)。

『戦国炎舞-KIZNA-』は、iOSとAndroidで配信中の、戦国リアルタイムバトルゲームアプリ。AppStoreでは、いずれも最高位で無料ランキング1位、TOPセールス3位を記録している。なお、開発期間は約半年で、2013年11月5日現在約90万ダウンロード。ユーザー層の男女比は8:2とのこと。

2013年4月より、iOS版をリリースすることになった同作では、戦国リアルタイムバトルという初めてのジャンルを手掛けるということもあり、4月~6月をマーケティングにおける準備期間に設定。7月以降に予定している本格投資に向けたマーケティングの実験や、ゲーム内のKPI(※1)の改善などを行ったという。

準備期間での具体的な施策としては、まず比較的少額の広告料で済む“アドネットワーク(※2)”での広告展開を実施。その後、ユーザー数を瞬間的に大きく増やす“ブースト(※3)”を行い、そのことによるサーバ負担の増大で発生した問題など、開発チームと連携を取りながらゲーム、マーケティング双方で調整を重ねていった。

▲この講義でも、具体的なデータをもとに施策の効果が示され、参加者たちをうならせていた。

テストマーケティングを通して角本氏らは、アドネットワークは“ユーザー獲得効率はよくないものの、LTV(※4)は高い”、ブーストは“効率はアドネットワークと同じくらいだが、一度に獲得できるボリュームが大きい”という結論に達する。そして、費用対効果を考えると、ブースト(自然流入込み)>アドネットワーク、と位置づけた。ただし、ブースト実施による自然流入の減少も懸念されたため、当面はアドネットワークをメインに投資をしていくことになった。

準備期間後に本格化させた広告の投下は、基本的に7月~8月をメインにすることに。その理由としては、①9月は決算月などの関係から他社も大量に広告を打つため、効率が大幅に悪化する、②アクティブなユーザーが急増する“お盆”の時期までにはユーザーを集めておきたかった、③Android版のリリースを7月に予定していた、という3つがあったと角本氏。

そして、アドネットワークをメインに運用を始めた矢先、マーケット動向をチェックしていた角本氏らは、ランキング10位前後を狙って小規模なブーストを重ねているアプリの存在に気がつく。「果たして、それで投資に見合う獲得効率を得られるのか?」と調査した結果、どうやら1位を狙いに行って大量投資するよりも、10位前後で滞留させる程度の小規模な投資のほうが獲得効率がいいことが判明。角本氏らはこれを“ちょいちょいブースト”と名付け、アドネットワークと併用することに。

▲この“ちょいちょいブースト”の発見が転機となった。

一方で、角本氏らは同時期にAPP Storeのランキングロジックが変更されていたことにもいち早く気付く。その事態にも、ブーストを実施する時間帯を1時間早めることで対応し、ほかのアプリを尻目に同時期に大きくDAU(※5)を伸ばすことに成功する。

 
▲すべてが順風満帆だったわけではなく、2013年7月にリリースを開始したAndroid版では、開始直後から大きなトラブルに見舞われてしまったとのこと。このように、情報をまとめられずに失敗した例も包み隠さず公開されていた。

と、『戦国炎舞-KIZNA-』リリースからのマーケティングの流れを詳細に説明してきた角本氏。最後にまとめとして、大切な3つの要素を挙げた。

①情報のキャッチアップが重要
②現場との連携を徹底すること
③基本的なプランを徹底してやり切ること

①ではiOS版での成功、Android版での失敗と天国と地獄を味わったが、②、③によって全体的にはプロジェクトを大きな成功へと導いた大森氏、角本氏。現在進行形のプロジェクトにも関わらず、ここまで具体的な話を公開した彼らに、揺るぎない自信を感じた。

講義後は、おなじみの質疑応答へ。いくつか熱心な質問が飛び交うなど、最後まで盛り上がりを見せた。頭ではわかっていても、やはり成功にはデータ分析が重要であるということを改めて知らされたセミナーであった。

※1 KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)……最終的な目標に対して、その時点でどれだけ達成できているかを示す中間指標のこと

※2 アドネットワーク……広告媒体のWebサイトを多数集めて“広告配信ネットワーク”を形成し、多数のWebサイト上で広告を配信する広告配信手法。広告主(この場合はサムザップ社)にとっては、たくさんの媒体に依頼せずとも、ひとつのアドネットワークに広告(この場合はバナー広告)を出稿するだけで、ある程度ランダムではあるが多数のWebサイトに広告を出せるというメリットがある

※3 ブースト……“ブースト広告”のこと。ダウンロードしたユーザーにインセンティブ(例:“○円相当の商品券をプレゼント“)をつけることで、一気に新規ユーザーを獲得しようというもの。業界内では、短期間でダウンロードを集中させてランキングを急上昇させるのに使われる。

※4 LTV(Life Time Value)顧客生涯価値……この場合は、ユーザーひとりがアプリに対して使った金額から、そのユーザーを獲得するためにアプリを配信するメーカーが使った費用を差し引いた差額にあたる。

※5 DAU(Daily Active User)……1日にそのアプリを利用したユーザー数を示す。全体のダウンロード数に対してこの数値が高いほど、好ましい利用状況だと言える。

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