スクエニ安藤ブログ“スマゲ★革命 シーズン2”第十四回「スマゲに潜む、おそるべき欠陥。」

2013-11-01 13:00 投稿

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第十四回「スマゲに潜む、おそるべき欠陥。」

この前、元同僚である渡部辰城さん(DeNA)や、『チェインクロニクル』の統括ディレクターの松永純さん(セガ)といった、専用ゲーム機やアーケードゲーム畑の出身で、現在スマゲを作っているクリエイターとお話をしていたときの事です。それぞれの履歴は割愛しますが、面白いゲームをつくってきた人の話は毎回示唆に富んでいて本当に刺激的です。

このメンバーとの話題の中で、スマゲ(厳密には運営を前提としたスマートフォンのゲーム)が専用ゲーム機と決定的に違う、おそるべき構造的欠陥が明るみにでたのです。今日はその事を書きます。

下記は、それぞれのプラットフォームで「プレイヤーがやめたとき」の状況の比較です。

・スマゲのプレイヤーは「飽きてやめている」
・コンシューマーのプレイヤーはエンディングまで遊び「満足して終わっている」

至極当たり前の事ですが、改めて書くとおそろしい。両方のプラットフォームでゲームを作り続けてきたメンバーで話をつきあわすと、このシンプルながらも重篤な問題に突き当たってしまった。

飽きてやめてしまったお客様が今後そのブランドやタイトルに興味を持つでしょうか? 「ほとんどすべて」のお客様に飽きられてしまうというのは我々ゲームクリエイターにとって本当におそろしいことです。

一方で満足して終わり、その作品にいい印象を持った専用ゲーム機のファンは次を期待し、続編を楽しみに待ちます。スマゲにおいて続編が成功しにくい状況にあるのは、現在のスマゲが構造的に「飽きてやめていく」ように作られているからなのです。

ではなぜそのような構造になっているのでしょうか? 一概には言い切れませんが、大きな理由のひとつとしてほとんどのスマゲに「エンディングが存在しない」事があげられると思います。考えてみれば当然かもしれません。エンディングが存在すれば、それは運営が終わる事を意味するかも知れず、そうでなくても、これまでの運営の鉄則として、終わりを設ける事はお客様の離脱を招く、いわば禁じ手として避けられてきたからです。

でも果たして本当にそれでいいんでしょうか? 離脱を恐れて終わりの無い物語を続けるよりも、いったん満足して離れてもらったほうが実は良い場合もあるのではないか。まさに今、特モバイル二部のスマゲ制作・運営の現場ではこのような課題に直面しています。ビジネスとして短期回収して、次から次に新しいものを出していけば良いと言う考え方もありますが、我々スクウェア・エニックスは専用ゲーム機の時代から10年20年とお客様に愛していただける物語をつくるための挑戦をしています。2、3年で飽きられて終わりでは、実現したい事がまったく達成できていない。

では、どうしたら良いのか? 目下、私の中でイメージに近いのは『ドラゴンクエストX』です。この作品はいわゆるMMORPGで当然、運営を前提としていますが、エンディング(と、ここではあえて断定します)がありますね。キーエンブレムを集め、冥王ネルゲルを倒すまでの物語は歴代シリーズの中でも個人的にかなり好きです。物語は以降も続くわけですが、スタッフロールを見終わったときの満足感は専用ゲーム機のそれに近い感覚でした。

当然ここでゲームをやめるきっかけにもなるわけですが、現在もアストルティアに集う冒険者の賑わいを考えると、多くのプレイヤーが続けて遊んでいる事がわかります。いわゆるMMORPGと前述しましたが、この作品は上記の内容も含めて、そういった形にはめることができない革命的なゲームです。あえて形容するならば「まったく新しいRPG」といえますね。これがひとつの理想。

昔からMMOやMOのRPGといったオンラインゲームは運営が続いていくものの、満足してやめているケースが多かった。それはおそらく、プレイヤー間のやりとりが密接であり、コミュニケーションのコストが非常に高い事が理由にあげられると思います。つまり、運営は続いているが俺たちのギルドはここで解散。といったように、個々のコミュニティの終了があったゲームは満足度が高い。ギルドごとにホームページを作り、メンバーたちとの冒険が物語としてアップロードされていくという事がよくありました。死闘の末、ついにボスやレアアイテムを手に入れた時点で、このメンバーとは終わり。と、なるところがとても良かった。

一方スマゲは、非同期を基本としたいわば、「ゆるいつながり」でコミュニケーションのコストは低い。またこうすることで、少しだけ空いている時間でも遊べることが受け入れられてきたため、そもそもプレイヤー同士のコミュニケーションの終わりに感慨を覚えるような「しがらみ」が無い。この問題に関しては、スマゲでもあえてコミュニケーションのコストを高める方向でデザインされた『ドラゴンリーグX』がひとつの答えを出していますよね。現在『ドラリーX』で見られるベテランプレイヤーと初心者プレイヤーのやりとりは、オンラインRPGのそれと、とてもよく似ています。きっと『ドラリーX』は多くのプレイヤー間に、さまざまなコミュニケーションによる物語が生まれ、完結し、終わるとしても満足して終わっていくことになると思います。

また、『パズドラZ』のようなやり方もアリだと思います。エンディングのない作品を、エンディングがあって当たり前のゲーム専用ハードで、違う作品としてリリースする。3DS版を遊んだお客様は満足して終わりますし、終わった後でも常にスマホの『パズドラ』があるので寂しい思いをする事はない。ガンホーの山本さんは、あくまで“子供にも愛される『パズドラ』”を目指しただけかもしれませんが、『パズドラZ』はスマゲのこれからに一石を投じる存在になるはずです。

実はこの関係性は、専用ゲーム機の『ファイナルファンタジー』シリーズと『ファイナルファンタジーブリゲイド』、『ファイナルファンタジーアートニクス』等でもすでに出来上がっている当たり前の構造なんですよね。今回の場合、スマホ発のブランドも専用ゲーム機でエンディングのある売り切りの作品を出したほうがよいのでは? という事です。PS VitaやPS4、3DSで『拡散性ミリオンアーサーRPG』があったら、遊んでみたい。(まずは今の『拡散性』の運営がんばります。)

終わりの有る無しは漫画にたとえるとわかりやすいですね。漫画も最終巻での終わり方で作品の評価が決まります。連載が長期にわたって継続中の場合、「ここまでは読んでいた」、「最近読まなくなった」ということもままあります。逆に作家が連載を終わりたいのに、無理をして続けなくてはいけない場合、作家の先生が燃え尽きることだってあります。スマゲに話を戻すと、終わりがないということは運営するスタッフの疲弊を招くという問題も含んでいます。

こんな感じで、改めて終わる事の大事さを考え直しています。250ページの小説が200ページ目くらいからどんどん面白くなっていくのは、250ページで終わる事が掌の中でわかるからですよね。とはいえ、運営も望まれる限りは終わりなく続けていかないといけない。難しい課題です。そういえば『ブレイブフロンティア』をつくられた高橋英士さん(エイリム)と上記の漫画のお話をさせていただいたときに、こんな事を言われていました。

「こち亀は、神運営。」

確かに37年間休まずに、時に笑いあり、時に涙あり、形を変えたり、変えなかったり、と変幻自在で終わりなく続いている『こち亀』もひとつの理想ですね。それではまた!

次回につづく

■著者紹介

安藤武博(あんどう たけひろ)
ス クウェア・エニックス 特モバイル二部 ジェネラル・マネージャー兼プロデューサー。ゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核 を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージ へのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。

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