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【注目アプリレビュー】ボツネタ世界の崩壊を救えるか!? 『ボツネタ通りのキミとボク』

2013-05-08 14:00 投稿

●気軽に読めるけど奥深いサウンドノベル

「ボ ツ ネ タ」

それはプロであれアマチュアであれ、およそ創作活動に身を置いた経験のある人ならば、一度は必ず作り出してしまう、完成しないまま埋もれてしまったアイデアのこと。

考えに考えたアイデア(ネタ)がボツネタに変わる原因はさまざまです。例を挙げると“発想は素晴らしかったが後が続かない”、“盛り上がりにかける”、“時勢に合っていない”、“ターゲットがあやふや”、“そもそもおもしろくない”……なんだか胸が痛くなってきた気がするので、この辺にしておきます。

いずれにせよひとつの作品が生まれるその裏には、無数のボツネタが眠っています。このボツネタをテーマにしたサウンドノベルが、今回紹介する『ボツネタ通りのキミとボク』です。

制作を手がけたのは、2011年からiPhone専用アプリを作り続けている、大学生による創作サークル“超水道”。彼らが世に送り続けているサウンドノベルは、いわゆる“大作”ではありません。しかしいずれも簡潔で奥深いシナリオ、温かみのあるグラフィック、世界観を巧みに表現するBGMがバランスよく融合しており、根強いファンを育てつつあります。

本作も、最後までじっくり読み進めてもせいぜい2、3時間で終わるという小品ではありますが、その作りはじつに丁寧。操作はすべて片手で実行でき、しおりを挟んだりバックログを確認するのもワンアクションで行えます。また作中で使われているグラフィックやムービー、BGMはタイトル画面から確認できるので、いつでも作品世界に浸れます。

なお本作にはアドベンチャーゲームのようなストーリー分岐はなく、スタートからエンディングまでが一本道で語られるため、文庫本を読み進める感覚で気軽に楽しめます。ただしBGMが非常に作品世界と合っていますので、外で読む際はぜひともヘッドホンを使うことをおすすめします。

 


▲エピソードの扉には美しいイラストが。雰囲気はボツネタ世界のイメージに合わせてさまざまに変化する。

 

●すべての創作者と創作を志す人に送る珠玉のエピソード

作品の性質上、ストーリーについて詳しく紹介してしまうと、ネタバレどころかアプリの存在意義にも影響してしまいます。ここでは主要キャラクターと物語の導入部、その後の展開をダイジェストで紹介しましょう。

高校の文芸部に所属する主人公の“ぼく”は、以前に書き上げた小説がコンテストで賞を取ったことにより、周囲からのプレッシャーに悩まされ続けており、最近は不調気味。

 


▲主人公。文才は確かなものの、ここしばらく新しい作品が書けていない。無口なため何を考えているか、周囲に伝わりにくいが芯は普通の男子高校生。

 

そんな彼はある日、道端に落ちていたボロボロのノートを見つけます。不思議な使命感に囚われた“ぼく”はノートを拾い、中を見るとそれは小説の創作ノート、ボツネタを書き連ねたものでした。同じ物書きとしてそのノートをどうするべきか、持て余している“ぼく”がふと視線を感じると、そちらの方向にはひとりの少女が立っていました。

 


▲主人公をボツネタ通りに招き入れた少女で、見た目は小学校高学年くらい。のちに主人公から“ボツ子”と名づけられる。自称ボツネタ通りの管理者。

 

なぜか“そうしなければいけない”と感じた彼は、走り去る少女を追いかけます。彼女を追ってビルの隙間を抜けた“ぼく”の目の前には、それまで見たことのないレトロな町並みが広がり、古いアーチには“ボツネタ通り”と書いてありました。

 


▲ボツネタ通りに到着した主人公に向かい、少女は祝福の言葉とともに笑いかける。いったい彼女の真意は何なのか?

 

アーチの下にいる少女は“ぼく”に告げます。この世界は“あの子”が捨てた創作の世界、つまり小説のボツネタが集う場所であり、彼が拾ったノートにはそのボツネタが記されていること。しかし“あの子”は小説を書くことをあきらめかけており、完全にあきらめるとこの世界が崩壊してしまう。このボツネタ通りの管理者である少女は、“ぼく”に世界の崩壊を食い止めるための“救世主”になって欲しいことを……。

 


▲世界の救済を簡単には承知しない主人公を見て、ついに少女は泣き出してしまう。この姿を見れば年齢相応なのだが?

 

不思議な使命感と、同じ小説書きとして“あの子”と同じ悩みを抱える“ぼく”は、名も無きその少女に“ボツ子”という名を与え、ともにボツネタ世界を守る決心をします。ふたりの短くて長い旅は、こうして始まるのです。

 


▲けっきょく、ボツネタ世界を救う決心をした主人公。場面によってはコミックのコマ割りのような演出もされる。

 

この後“ぼく”と“ボツ子”は、さまざまなボツネタ世界を巡ります。正体不明の怪物を倒す超能力者親子の戦い、生徒会と学園アイドルの攻防を描くスクールドラマ、かつてのヒーローと悪の組織が絡む恋愛模様などなど……。どれも個性的、だけど作品としては完成していない世界ばかり。

設定はあるがあらすじがない、逆に設定はないがあらすじはある、ほとんど出来上がっているのにエンディングだけがない、などといった状況が生み出す不自由さに悩まされつつも、“ぼく”はそれぞれのボツネタ世界に生きる、個性的なキャラクターたちの思いを汲み取っていきます。

 


▲ボツネタ世界の住人は、みな自分が作られた存在であることを知っており、そのうえで自分と世界がどうあるべきかの考えを持っている。

 

結果的にボツになったとはいえ、一度は自分の世界を作ってくれた“あの子”に対しキャラクターたちが抱く感情の描写は、創作に携わった経験がある人ならば、どこか救われるものを感じるかもしれません。

その一方、ボツにされたことが引き金となり、世界を覆ってしまった悲劇も描かれます。ある意味で死ぬより残酷な結末を知ると、創作した世界をボツにするという行為そのものの罪深さを、思い知らされることになるでしょう。

 


▲キャラクターのなかには、ボツネタ世界の存続を望んでいない言動をする者も。自らの存在が消えてもいい、とまで考える理由とは、果たして?

 

喜びと悲しみが織り成すボツネタ世界を巡る旅の果てで、“ぼく”が知る真実とはいったい何なのか。そしてボツネタ世界と“ボツ子”はどうなってしまうのか。その結末はぜひプレイして確かめていただきたい、と思います。

日々アプリやゲームで遊び、小説やマンガを読み、テレビ番組や映画を見ている私たちの生活は、数え切れないほどのボツネタの上に成り立っています。本作をプレイすれば、そうしたボツネタが秘めている輝きと、それらを土台にして完成した作品が持つ真の価値を、あらためて実感できることでしょう。

そしてやがては“自分も創作の担い手になる”という決意を持った人が現われ、新たな感動を産み出す作品を送り出してくれることを、願ってやみません。

最後にひとこと。
「やっぱり創作は素晴らしい!!」

(ライター・ぽんせ松本)

 

ボツネタ通りのキミとボク

メーカー
超水道
配信日
配信中
価格
無料
対応機種
iPhone、iPod touch および iPad 互換 iOS 4.3 以降が必要 iPhone 5 用に最適化済み

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