【取材記事】セガの開発者が立命館大学生にゲーム開発のイロハを明かす

2012-06-09 00:46 投稿

●セガのお騒がせコンビが立命館大学に登場

2012年6月8日、京都市の立命館大学 衣笠キャンパスにて、立命館大学映像学部とセガが進めてきた“チアフルキャンパスカラオケキャンペーン”プロジェクトの一環とし、特別講演が行われた。この講演で、セガから『源平大戦絵巻』、『百鬼大戦絵巻』の開発者である、平家の末裔の新小田夢童氏(以下:虚無僧)、地獄法師のデュラ★ロッソ氏(以下:ロッソ氏)がゲストで登場し、モバイル系コンテンツの開発秘話が語られた。

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▲壇上に登場したロッソ氏と虚無僧がポーズを取ると、会場は笑い声に包まれた。

【チアフルキャンパスカラオケキャンペーンとは】
立命館大学が、毎年さまざまな試みで実施している企業連携プログラム。本企画は、セガのiPhone用カラオケアプリ『セガカラ』をプロモーションするという立命館大学の正課授業として実施。『セガカラ』で使用されている背景画像を“学生応援画像”にすることで、視覚的に楽しみながら、映し出される被写体の学生自らが口コミによって宣伝していく仕組みをつくり、応援の力を通して『セガカラ』利用者の拡大を目的としたもの。

▲関西圏の大学に所属している学生を対象に撮影。『セガカラ』アプリ内で曲が流れている際の背景画像に、応援メッセージが書かれたボードを持った学生を登場させている。楽曲のイメージにあわせて編集するなどの工夫もされている。

 

●ふたりの登場に「ヤバそうなのが来た(笑)」と学生たちは大ウケ

「さぁ皆さん! みんなのアイドル、デュラ★ロッソが参りましたよ~! デュラとロッソの間に黒い星マークを入れるんですよぉ! Twitterで呟く際には気を付けてくださいね~!」と、いきなり会場を沸かせるロッソ氏。壇上ではロッソ氏がマイクを持ち、虚無僧はいつものように無言のまま、スクリーンに映し出される映像とともにアクションを起こすという形に。まずロッソ氏は『大戦絵巻』シリーズについて紹介、配信されてからのユーザーの反応や、売り上げ実績を解説。アート性に特化したインパクトある絵巻物テイストの音楽や映像に、初見となる学生たちはひと目で興味をそそられていた模様。講演参加者は映像学部生ということもあり 虚無僧が登場するプロモーション動画と楽曲にいたっては、「この楽曲はどこで聴けるのか?」と、後の質疑応答の場面で声があがるほど、強烈な印象を与えていたようだ。

▲『源平大戦絵巻』が受賞した賞を紹介した際、「みなさんファミ通見てますか!? ちゃんと見てくださいよ!」と、我がファミ通Appを猛烈にプッシュしていた。ありがとう!

●クリエイターとしてのデュラ★ロッソ氏が考えるゲーム開発

ロッソ氏のユニークな言動と虚無僧のパフォーマンスにより終始笑い声の絶えない講演となっていたが、本題となる“ロッソ氏の考えるクリエイター論”がはじまると、会場の空気は一変。ロッソ氏の熱いメッセージに、学生たちは真剣に耳を傾けていた。

ゲーム制作とはいったい何なのか? ロッソ氏自身がゲーム制作で経験したことから考えるクリエイター論が語られた。「モノづくりをする際には企画を通さないといけません。企画を通すためには“グラフィックが超美麗!”、“人気アニメをゲーム化します!”、“業界初!○○ギミック!”などといった目立つ言葉を盛るんです。これは、ユーザーの目を注目させるためにも有効な手段です。例えるなら、化粧のうまい女性や、芸達者な女性と言い換えましょう。見た目で魅力を盛って注目されることが第一です」とロッソ氏。ただし、これはあくまで注目されるための手段だけであり、おもしろいゲームといえるものは、見た目ではなく、中身の問題だと続けた。ロッソ氏は「注目され興味が沸いたゲームに触れてもらうことに成功したとして、おもしろいと感じてもらうには、しばらくゲームを遊んでもらう必要があります。私としては女性と付き合うとき、見た目が好みだったとしても“いっしょにいて楽しい”とか、“性格の相性が良い”などを感じないと、飽きてしまうことがあるんですよ。結局はゲームの中身が大事なんです」と述べた。

▲グラフィックでユーザーを魅了する事例は、先に『大戦絵巻』シリーズの紹介で学生を魅了したことにあげられる。学生たちは、ロッソ氏と虚無僧の“注目されるための罠”に、まんまとひっかかってしまったということだ。

では、おもしろいと感じてもらうにはどうするのか。ロッソ氏が考えるおもしろさとは“興奮状態に陥り脳汁が分泌されたとき”だという。具体的には、ギリギリで競り勝ったとき、危機から脱したときや大逆転したとき、高速なタスク処理を要求されたとき、解決策や勝ち筋を脳内で試行錯誤しているとき、といった状態があげられた。これらの要素をゲーム内に仕掛けることが、ゲームのおもしろさに繋がるんだとロッソ氏は言う。

 

▲『百鬼大戦絵巻』を例に説明。ステージでいちどに敵が登場する量を調節し、ユーザーの危機を演出しているとのこと。ステージ後半で行き詰ったユーザーに「惜しかった!」、「あとちょっとでクリアーだ!」と思わせて、再度挑戦させるなどといった中毒性を持たせることに成功しているようだ。

ここで一旦、ゲームデザインについて説明がされる。ロッソ氏曰く、「ビデオゲームというものは“人とコンピュータの対話”を体現したモノ」だという。プレイヤーは画面の映像を見て、考えたり操作(対話)しているが、実際はゲームの中に組み込まれている数字やプログラムと対話していることになる。つまり、ゲーム製作は「ゲームを作る際に、遊び手(プレイヤー)の心をシミュレートし、情感をデザインする」ことであり、ゲームデザインに置いて、その仕組みを設計している瞬間がもっとも楽しいことなんだと学生たちに伝えた。

また、先に語られた“おもしろい”と感じさせる要素のひとつに、“ユーザーが知りえない要素”がゲームに仕込まれていることも説明された。『大戦絵巻』シリーズで言えば、自分の手札をデッキに仕込んで、ゲーム中にデッキからカードを引くという要素がそれにあたるという。「ユーザーが知りえない要素とは、“AIセッティング”や“確率設計”のこと、つまり乱数ですね。この乱数の存在により、ユーザーは「自分の読みが当たってうまくいった!」とか「たまたま運が悪かっただけ、次こそは!」といった錯覚を起こしてしまうんです。すべてが予定どおりにゲームが進行できるのなら、それはもう作業です。見た目も良くて性格のいい女性は魅力的ですが、すべてが自分が思いどおりになる女性は飽きちゃいません? 私だけですか?(笑) なかなか思い通りに自分のことを好きになってもらえないこそ、女性に振り向いてもらおうと試行錯誤するわけですよ。プレイヤーの予測がつかない要素をうまく仕込むことが、ゲームの魅力、つまりはおもしろさに繋がるといえます」と、とても濃厚な内容にも関わらず、ロッソ氏は終始ゲームの魅力を女性の魅力に喩えて説明していた。

 

▲ゲーム制作を中心に説明が続く最中、「これはゲームに限らず、エンタメ全体にいえること。映画などで危機を演出して見ている人にドキドキさせる場面などがそれにあたりますね」というロッソ氏の発言に大きくうなずく学生も。

●「クリエイターは、自分のエゴだけでは成功できない」

続いてロッソ氏は、モノづくりを商品として成立させるために重要な考えを学生たちに伝えた。「自分がおもしろいと思ったことを形にしても、世の中のニーズとシンクロしていなければ注目もされませんし売れません。また、ニーズとシンクロしていると確証したとしても、制作期間を想定して、実際に形ができたときの(時期的な)ニーズを考えなければなりません」とロッソ氏。多くの場合、自分がおもしろいと思うことがモノづくりのモチベーションに繋がるものだと思われる。しかし、成功するためには、それだけではいけないということだ。自分のエゴだけのモノづくりは、しいては、企画に賛同したスタッフ、会社など、多くの人に迷惑をかけてしまうことになるという。

 

●0から1のモノづくりをするコツ

ロッソ氏曰く、「失敗しにくいモノづくりは存在する」とのこと。それは、流行りのものを題材にしたり、転用したモノづくりだという。「たとえばワールドカップの時期に合わせて、リアルの情報とあわせたサッカーゲームとかです。これは賛同者も集まりやすいですし、企画も通りやすいうえ、誰の目から見ても世の中に確実にニーズが存在しているのが分かります」と語り、これはマーケッター的な視点によるモノづくりだとロッソ氏は説明した後、「ただ、この手法で必ずしも面白いものができるとは限らない」と続けた。「1から2にする作業って結構みんなできるものなんです。ということは、類似したものが溢れてしまいますし、模範とすべき現実世界の現象をそのまま再現することに固執してしまい、元々の遊戯が持つ面白さの再現とは離れたモノづくりになってしまう時があります」と述べた。

さらに、0から1のモノづくりという意味で、まったくの新しいアイデアで形を作り出すための訓練方法が紹介された。その訓練方法とは以下の3つ。いずれもロッソ氏の経験から効果が高いと思われる訓練方法だという。

1、身近なもののエンタメ転載を考える:普通の人が見てスルーしてしまいそうなモノに対して価値を見出す力を養う。
2、自分のココロを解析しながら遊び倒す:遊びを行う自分を客観視して「何処でどのように、自分のココロが動いたのか」を観察し、感情デザインのサンプリングデータを収集する。
3、現実にあるもののディフォルメを考える:遊びのキモの部分だけを抽出し、それをシステムの中にコンパクトに盛り込む訓練を行う。

これらの訓練を積み重ねることにより、クリエイターとしてモノづくりを楽しむことができるようになったという。ロッソ氏は、「これらの訓練は、まだ(固定概念や価値感などが)完全に染まるまえの若い学生の皆さんだからこそ、効果のあることだと思います。頑張ってくださいね!」と学生にエールを送りつつ、講演前半を締めくくった。

 

●Twitterを通じて実際にプロモーションを体験

講演後半は、“チアフルキャンパスカラオケキャンペーン”プロジェクトを進めてきた学生と、『セガカラ』開発者であり、本プロジェクトに協力してきたセガの酒井琢也氏が加わり、会場来場者を巻きこんだディスカッションが行われた。進行によって掲げられたテーマを会場にいる学生たちに問いかけ、その答えをTwitter上で呟くことにより、モノづくりの企画からプロモーションに至るまでの過程を体験してもらおうという試みだ。引き続き参加となったロッソ氏と虚無僧だったが、ここでは満を持して虚無僧がマイクを取り、スクリーンに映し出された呟きに頻繁に意見するシーンも。

“今はまっているものはなに?”というテーマでは、“プリキュア”、“オリーブオイル”といったツイートが寄せられるなか、“ソーシャルメディアサービスに依存しない生活”というツイートに対して、「これはいい試みだと思うんですが、さっそくtwitterで呟いちゃってますよ?(笑)」と虚無僧が矛盾を指摘。さらに、“大学生向けのアプリを発売! どんな機能にする?”というテーマでは、“教授の趣味一覧”、“自分の欠席状況を把握するアプリ”、“立命館大学マップアプリ”といった身近な需要から来るツイートが多く、「なんだが教授となかよくなって、楽できるっていう目的のアプリばかりだな(笑)」と虚無僧からツッコミが入り、会場は爆笑に包まれていた。

 

●普段からモノの仕組みを追及するべき

学生からの「アプリを作る側にいるセガの皆さんは、プライベートではどんなアプリを遊んでいるのか?」という質問に対して、「ランキング上位のアプリを中心に、ほぼ全部遊んでいる勢いです。売れているアプリは何かしらヒットの秘訣があるはずなんです。プライベートでも、いろんなアプリを触りながら模索してしまってますね」と酒井氏。この返答に会場の学生からは、「24時間クリエイターなんだなぁ」という声があがっていた。また、先の“大学生向けアプリの機能”についてのツイートで身近な意見が多かったことに対し、「スマートフォンアプリとしては、リアルとの連動というのは今後キーワードになっていくと思っている」と虚無僧。講演終了後、さっそく『大戦絵巻』シリーズのPVやアプリを調べる学生の姿があったこともあり、セガのゲーム開発に向ける魂が学生たちに伝わっていたといえるだろう。

 

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▲会場の学生たちを魅了した『源平大戦絵巻』のプロモーションムービー。作詞、歌、ギター演奏、撮影もゲーム開発者であるロッソ氏と虚無僧がふたりで行っているという事実は、映像制作学生にとっては衝撃だったようだ。

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