スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第六回 「KPIって何だ」

2012-01-30 11:07 投稿

●第六回 「KPIって何だ」


去年あたりから“KPI”という言葉をよく耳にするようになりました。私も最近よく使いますが、正式にはケイピーアイ(key performance indicator/重要業績評価指標)というビジネス用語で、運営が必要なネットワークゲームやソーシャルゲームを主語にして簡単に説明すると、お客様の動向をデータ化した“数字”と言えるかも知れません。

このKPIと言うやつを徹底的に分析してゲーム運営に活用する事で売上を伸ばしているタイトルが沢山あります。特に近年ヒットしているソーシャルゲームでは、極端に言えばここ2年くらいにゲーム創りを始めた会社が、これを活用して、どんどんゲームを売っています。制作の経験が無くても“数字”ほど明確な判断材料は無いわけですから、数値化できない“面白さ”、“感動”よりもゲームの運営上、対策が打ちやすいのかもしれません。今やKPIを活用していないSNSやネットワークゲームは無いです。

KPIのどこが重要視されるのかは、数字を活用する運営者によって厳密に異なりますが、だいたい以下のポイントになります。

(1)会員登録者数・・・どれだけの人がゲームに登録したか
(2)アクティブユーザー数・・・登録者のうち、実際に遊んでいる人はどれだけいるか
(3)継続率・・・どれだけの人が遊び続けているか
(4)課金者数・・・有料で遊んでいる人はどれだけいるか
(5)課金額・・・有料で遊んでいる人はどれだけお金を使っているか

これを一日ごとや一ヶ月ごと、場合によっては時間ごとに集計されたKPIとにらめっこして運営対策の指標とします。ゲームの売上は(4)課金者数×(5)課金額ということになり、(1)~(3)が増えれば(4)も増えますから、運営者は登録者数、アクティブユーザー数、継続率を上げるよう施策をうちます。

登録者数を上げるために行われる施策としては「ド・ド・ドリランド♪」のようなTVCMやバナーを貼るなどの広告宣伝活動が代表的なものとしてあります。同じ会社で運営されているタイトル同士の連携も非常に効果的と言われています。CMは凄くお金がかかりますし、効果があるかどうかは仕掛け方にも大きく左右されますからプロデューサーやマーケティング部門の腕の見せ所ですね。そもそもみんながよく知っている“テーマ”をゲームにするというやり方もあります。最近、特に“キャラクターもの”のソーシャルゲームが増えているのはそのせいです。

次にアクティブユーザー数と継続率を上げるにはどうしたらいいか?基本無料のタイトルの恐ろしいところは「プレイヤーがいつだって簡単にやめてしまえる」事。当たり前です。やめどきが無くなるように、ゲームを開始してから数日間はすごく良いアイテムが貰えたり、本来有料のサービスが無料になったり、経験値が二倍成長したり(一定レベル成長するとゲームデータに愛着がわくため、続けたくなる)と、ものすごい“おもてなし”が行われるのはこのせいです。この「おもてなし」の事を業界用語で“インセンティブ”と言ったりします。最近は開始一週間でいかに「やめられないか」がすごく大事と言われています。裏をかえせば最初の1週間でそれだけ沢山の人が「やめている」と言う事にもなります。普通はつまらなかったら1日ですぐやめますよね。

その他にも最初のチュートリアルがめんどくさいとか(ゲームはなんでもそうですが、究極、これが無くても理解できるのが良いとされています。)テンポが悪い(エンターキーや5ボタンでどれだけ、サクサク遊べるか)などもアクティブと継続率に凄く関係しますので、KPIから判断できる改善対象の代表格です。

最後、(5)の課金額を上げるというやりかたもあります。まず、これは文字にすると実に生々しい。でも書きます。全9種類のキャラクターを集めると、イベント等で非常に強い力を発揮するキャラクターが手に入る、いわゆる“コンプリートガチャ“などがこの施策の代表例です。あとは単純に強いモンスターが出てきて回復薬をガブ飲みするなどがあります。いちネットゲーマー安藤としては、「ここぞ」のタイミングで回復薬をガブ飲みして遊ぶのは凄く好きです。ざっくり例えるならば、前者はビックリマンチョコでヘッドロココが出るまでチョコ食べまくる(余談ですが良くチョコだけ捨てる事件がありましたね、僕は絶対に食べていました、ビックリマンはお菓子としてめちゃくちゃおいしい。)とか、遊戯王でレアカードが出るまで買うとかの感覚と同じです。後者はアーケードゲームで100円玉積みまくってラスボスに挑むあの感じに似ていると思います。きちんと商品が“面白ければ”決して生々しくもなく、納得ずくでお金を支払っている場合が多いです。

そう、大事なのは“面白ければ”なんです。はっきり言ってKPIなんてあくまで“ただの数字”なんじゃい!

これまで偉そうに書きましたが、ホントは今までKPIの正式名称知りませんでした。ちなみに昨年末appbankさん主催の忘年会で集まったスマホアプリ開発の雄たちもみんな知りませんでした。実際そんなもんです。KPI至上主義に喝。まずKPIがあって、次に面白さがあってみたいな事には絶対してはいけない。売れているタイトルはそうなりがちになっているような気がします。まさに主客転倒。そういったアプリばっかり創っていたら、ソーシャルゲームもスマゲも絶対お客様を裏切ることになるし、いつまでたってもコンシューマーゲームの下に見られます。こんどは“KPIと面白さの関係”について書きますね。それではまた来週。

■追伸
僕と一緒にスマゲでナンバーワンを取りたい人、募集しています。

 

安藤武博
スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。

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