スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第四回 「価格にまつわるエトセトラ」
2011-12-01 12:24 投稿
●第四回 「価格にまつわるエトセトラ」
まず、スマゲ的にはレボリューションなお知らせがあります。
当社のマンガ誌“ヤングガンガン”で『ケイオスリングス』が連載漫画化されました!
原作はゲーム版『ケイオスリングス』でもシナリオを担当した、いわばケイオスの生みの親のひとりでもある北島行徳氏が直々に執筆。
作画は新進気鋭の韓国人作家パク・ジンジュン氏が担当。世界的にご好評いただいたケイオスリングスにふさわしいインターナショナルな布陣です。
ゲームと世界観を共有しながらも漫画オリジナルのストーリになっています。プロデューサーの私ですら先がわからない展開に毎回ドキドキさせられています。
スマートフォンのアプリケーションが原作の漫画連載はおそらく世界初。
スマゲの世界観がしっかりとマルチメディア展開できるという証左になればと思いますしリリースのスピード感が早いスマゲは、紙媒体と相性が実はすごく良いと考えています。
特に、これから我々が多数仕掛けていこうと思っている運営系のSNSゲームやネットワークゲームはまさに“ゲームの連載”ですからなおさらです。
その嚆矢として色々な事を学ぶためにも、スマゲ原作の漫画連載は是非とも実現させたかったので個人的には、スマゲ革命に向けて、また一つ前進。
ともあれ、漫画版スタッフの方々には「漫画として面白い作品を思い切り創ってください!」というオーダーしか出していません。僕もいちファンとして毎号楽しみです。
スマゲ☆革命は皆さんの協力の下、こんなところからもドンドン仕掛けていきます。漫画版の『ケイオスリングス』を、是非ご期待ください。
さて。
今回は、第二回で書いたプロジェクト『ソングサマナー』の話の続きになります。
こんにちのスマゲ創りに対し、沢山のノウハウを獲得してくれた優秀な突撃隊長。それが、クリックホイール付きiPod用向けに開発されたRPG『ソングサマナー』。
このプロジェクトに唯一最大の“誤算”があった・・・。
という話が第二回の結びでした。
結論から言うと、それは“価格設定”にほかなりませんでした。
クリックホイール付きiPodのマーケットでは、すべてのアプリケーションの価格が“600円に統一かつ固定”というルールが最後までテコでも動かなかったのです。
結果的にアップル社製のアプリのみ安価で提供されましたが、我々のようなサードパーティが価格を自由に設定できる事には、最後までなりませんでした。
というよりはじめに契約でそう決まりました。
おっと!
これからちょっとだけ生々しい話をあえて書きますが……。
まず始めにきちんと書いておきたいのはビジネスにおいて「契約は絶対である」という当たり前のお話。
ですから、アップル社と我々の合意のもと、契約を締結し、展開した『ソングサマナー』にビジネス的な文句は一切ありませんよ。
閑話休題。
彼らとは販売価格について、リリースの直前までかなりタフなやりとりをしましたが、販売価格の統一は「我々の“Philosophy”(哲学)であるから、変更不可能。」というアップル側の一言を最終的には飲んだ形になりました。
僕が企業との条件交渉で“哲学”という言葉を聞いたのは、これが最初で最後です。その言い草が実に、僕が思っていたアップルらしくて……ロックかつパンク感を醸しだしていたなー。
最終的にはそこまで言うのであれば「コレで気持ち良く行ったるわ!」ってな感じで無理やりまとめたように記憶しています。
ロックやパンクやヘビーメタルにはめっぽう甘い僕ですが、もちろん単純に“ノリ”で折れたわけではありません。
クリックホイール付きiPodでゲームを販売するというチャレンジをする際に、商品の価格構成がシンプルでわかりやすいほうが良いという配慮。すごくよく分かります。
結果的にクリックホイール付きiPodのマーケットはタイトル数が絞られていたことと、価格が一律だった為に見え方が非常にわかりやすい=安心して買える市場になっていたと思います。
ですが実際問題、これには結構困りました。
いや……凄く困ったよ!
カジュアルゲームなどの比較的、制作に人数がかからないゲームに比べて『ソングサマナー』のようなRPGは単純にランニングコスト(創る人の数、創る期間、その人達に支払うお金)が多く掛かります。
僕の中では「カジュアルゲームがCDシングル。RPGのような大作はCDアルバム」のように価格を設定できるようになるだろう。音楽もそのように売られているし、まーそうなるだろうな。という読みでした。
そう。『ソングサマナー』は音楽アルバムと同じく、1200円~1500円の販売価格想定で制作予算を組んだプロジェクトだったのです。
そこへ来て「売価は600円固定、哲学だから。」事件が勃発しその瞬間、2008年の読み違えオブザイヤーが見事に確定したのでした。
どうしよう。単純計算で利益がでるポイントが二倍遠くなる。マラソンでゴールしたと思っていたら、「まだ半分あるよ。」と言われたかのようなショック。
前述のとおり、リリース時には先方のロックな感じにほだされて表向き明るくスマイルしておりましたが・・・。
実際はBOOWY先輩が、かの名曲“わがままジュリエット”で歌われていた、“泣き顔でスマイル”にほかならなかったように思われます。
実は、最悪こういった予測はしながら制作費のコントロールをしましたが、それでもRPGは制作費がかかる。
結果、僕が取った選択はプレイ時間30時間の『ソングサマナー』を1と2の二作品に分割して配信するという作戦でした。
「30時間一本の作品を、15時間ずつの二作品に再構築しなおす。」
土壇場に来て、かなりのカロリーが要求される作業でしたが、みんなで頑張ってきちんと作品にまとめました。
ただ、結論から言えば「一本の作品にまとめたまま、600円で販売」すべきだったかもしれません。
2008年7月に『ソングサマナー』をリリースした後アメリカに渡り、分割再構築した後編の「ソングサマナー2」を企画提案しましたが、時すでに遅し。
アップルはクリックホイール向けiPodゲームのプロジェクトを既に終了していたのです。
この間、こちらの想定を上回るスピードでApp Storeの構想が本格化しており時代はiPod touchとiPhoneアプリへと一気に傾いていました。
結果的にクリックホイール向けiPodにおけるソングサマナーは、『2』がリリース出来なかった為に「張った伏線が回収されないまま」ストアでの販売が終了。実に“尻切れトンボ”な作品になってしまいました。
ストア上でのレビューではiPodで遊べる空前絶後のRPGであったこともあり、
大変ご好評をいただきました。
ですが、常に「続編はいつでるのか?」「主人公たちのその後は一体どうなったのか?」というご意見が多数書きこまれており、それに対して作品でお応えする事ができず、今でも申し訳ない事をしたと思います。
その後どうしたかと言いますと翌年末に、その伏線を回収した『ソングサマナー完全版』をiPod touchとiPhone向けのアプリとしてリリースしました。これは現在も遊ぶことができます。
パスワードで前作とささやかながらも連動する仕様なども盛り込みましたが、クリックホイール向けiPod向けのお客様が続編を遊べないことには代わりなく、本当にまとめておけばよかったと思っています。
といいながらも……その2年後。
不肖、安藤武博。
なんと、全く同じ事件に遭遇してしまうのです。
つづく
安藤武博 スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。 |
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