スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第十七回 「パズドラ VS ミリオンアーサー」
2012-04-17 14:12 投稿
●第十七回 「パズドラ VS ミリオンアーサー」
『拡散性ミリオンアーサー』のサービスが始まって1週間。おかげさまでトップセールスランキングの1位を獲得することができました。これは2010年に『ケイオスリングス』で獲得して以来のことですが、当時僕のアシスタントをしてくれていた岩野が、2年後に売り方も内容も大きく構造を変えたオリジナル作品(ここ重要! リメイクじゃなくて新作)で再びトップを奪取したことに、大変な感慨を覚えます。ジーン……なんて、思ったのはほんの“一瞬”。今回は、僕と岩野が『拡散性ミリオンアーサー』をリリースして感じた“本当のこと”や、今後の展開について書きたいと思います。その間には、2012年のスターアプリにして、絶対王者『パズル&ドラゴンズ』を創ったガンホー山本さんとのやりとりもあったりしました。実際、感慨にふけっている場合じゃなかったというのが、本音なんです。
まず、リアルに考えていたこと。「『パズドラ』を抜いて、1位が獲れるなんて思っていなかった」 1位獲得の記事がファミ通Appに掲載された先週木曜日(2012年4月12日)。『パズル&ドラゴンズ』はサービス開始以来、最長の緊急メンテナンスに突入していました。『パズドラ』を愛する1プレイヤーとしても、何よりネットワークゲームを運営するサービス提供者としても、これは人ごとでは無い。「明日は我が身か」、「がんばれ『パズドラ』」、という感情の方が大きかったです。リリース直後に山本さんからは、「『パズドラ』も抜かれると思うけど、『ミリオンアーサー』のクオリティーだったら全然いいです」、というありがたい言葉をいただきました。「仮にそうなっても今の『ミリオンアーサー』であれば、本当の意味で『パズドラ』を抜いたことには、ならないですよ」、というやりとりをしました。先週の1位は『パズドラ』のメンテがあってのことですし、『パズドラ』が無事復活した今日(2012年4月17日)現在の1位も、まだまだ。だと思っています。それはなぜなのか? それはゲームとしての“圧倒的おもしろさ”の問題にほかなりません。
そう、僕と岩野は『ミリオンアーサー』をもっとおもしろくできるだろうと思っているのです。1ゲーム屋としては、ゲームとしての“やり応え”とソーシャルゲームの“テンポ感”が、二律背反するという問題に立ち向かっています。『ミリオンアーサー』も当初、じっくりと本拠地を育て、城をカードとそれに紐付いたスキルで防衛する仕様や本格的なデッキ構築など、ゲームとしての“やりこみ”を追求すべく開発をスタートしました。その試行錯誤の結果、現状では“テンポ感”を優先するよう、それらの要素をオミットしてリリースをしています。この“ゲーム性&テンポ”のバランスが絶妙なのが『パズドラ』で、これを遊ぶとイイ感じに二律背反せず着地できるのではないかという希望が持てます。無論、この着地には相当なゲームデザインのスキルと丁寧な調整が必要で、ゲーム開発経験豊富な山本さんの本領発揮。”簡単に真似できる”と思ったら大ヤケドするので止めた方がいいですよ。もしくは果敢にチャレンジして、新しい“おもしろさ”が出てくるのを待っています。
その他、根本的なUI設計。特に“デッキ構築”、“通信”の部分に関しては改善の余地が大きくあると考えており、これは既に改良に入っています。レビューサイトには、このあたりをズバッと指摘しているものがあり、すごく的確だね。がんばって応えていかないとね。と岩野とは言っていました。ゲーム屋としては、現状の“テンポ感”を崩すことなくゲーム的な“おもしろさ”を入れたい。むしろテンポはさらに良くして、さらにおもしろくもしたい。演出面やキャスティングやプロデュースに関しては、プロのエンターテインメントとして展開できた自負がありますが、遊びに関しては巷間流行している既存の“カードバトル”の域を抜けきれていないところが一番の課題だと思っています。これは絶対になんらかの形で乗り越えてみせます。
その施策のひとつとして、早ければ5月末に“騎士団”システムの実装を予定しています。これはいわゆるGvG(ギルド攻防戦)で、要するにグループ同士の遊びです。これは昨今のカードバトルゲームでは、当たり前になってきている要素のひとつですが、ひとつやろうと思っていることがあります。それは“チャット”の実装。『ファイナルファンタジーブリゲイド』の飛空艇団も、友達と『LINE』などを使ってチャットしながら戦略を練るのがとても楽しかったりします。だったらその『LINE』やiPhoneのSMS(ショートメッセージ)的機能をゲーム内に持たせてしまってもいいんじゃないか? ということで制作検討に入っています。リアルのカードゲームやボードゲーム等もプレイヤー同士で“話をする”こと自体が、おもしろさを構成する大きな要素のひとつになっていますからね。技術面も含めてチャレンジャブルですがやってみます。“テンポ感”とのせめぎあい同様、チャットによる拘束力(しがらみ)が、なくても楽しめるように設計したいですね。経過報告は、このブログないしは、もうすぐ再開予定のインターネットテレビ『シシララ!』でやっていきたいと考えています。
このように、まさに安穏としていられない現場なわけですが、お互いのゲームのリリースを経て『パズル&ドラゴンズ』の山本さんとはすっかり意気投合をしてしまいました。タイトルに“VS”とつけるとドラマチックになる(詳細は第十一回)ので今回はこのような題名にしてみましたが、実際は“共闘関係”なのではないかと思っています。それは、携帯電話のゲームで“圧倒的なおもしろさ”を実現していく闘いです。“お金を取る”ことがありき、なのではなく“おもしろさ”がまずありきな闘い方です。おもしろくなきゃゲームじゃないという、あたりまえの創り方。これが『ミリオンアーサー』岩野&僕たち“特モバイル二部”と『パズドラ』山本さんに共通する一番大きなポイントかもしれません。基本無料になり、“タダより怖いものはない”マーケットになったからこそ、それをより強くイメージしています。無料になったからこそ、より楽しくお金を払わなくても遊べなくてはならない。そう思ってゲームを創っている人間が今のAppStoreで、しのぎを削る状況はとてもエキサイティングです。まずは『ミリオンアーサー』出だしの応援、本当にありがとうございます。これからもどんどん感想を寄せてくださいね。ますます、おもしろくしていきます。それではまた来週。
つづく
安藤武博 スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。 |
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