哀しくも美しき愛の物語!トリストラムとイゾルデ【しゃれこうべが語る元ネタの世界 第50回】

2020-09-30 12:00 投稿

50回目にして最終回でござい!

ってことでね! 唐突に最終回でございます!!

と言ってもコラム自体は方向性を変えてもうちょっとだけ続くんじゃよという感じですが!

ってなわけで、最終回を迎えました“元ネタの世界”!

フィナーレを飾るのはアーサー王物語のなかでも有名な、騎士・トリストラム(トリスタン)と乙女・イゾルデ(イズー)の物語!

こちらは単体で映画化などもされているほど人気のある愛情物語でして、ま~たいいお話なんですわ!

そいでは前置きはこのへんにして、本編へれっつらゴー!

【目次】
・悲しみのトリストラム
・イゾルデとの出会い
・媚薬の悲劇
・トリストラムとイゾルデ
・ご愛読あざまっした!!

悲しみのトリストラム

スコットランドのローランド地方にあるロジアンの国を治めるリヴァン王。その王がコーンウォールを治めるマルク王の妹と結婚し、そのあいだに生まれたのがトリストラムです。

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彼の母親は出産の際に命を落とし、それゆえに彼はトリストラム、“悲しみ”という意味の名を背負うこととなります。

騎士として、また竪琴の奏者として育て上げられたトリストラムは母の祖国・コーンウォールで伯父にあたるマルク王と出会い、2年ほどコーンウォールで暮らしました。

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ある日、アイルランドの英雄・マロースが現れ、過去の戦争の代償として法外な量の貢ぎ物を要求してきました。

戦争になっては勝ち目がないというなか、トリストラムは4人力とも呼ばれた豪傑のマロースとの一騎打ちに挑みます。

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みずからも重傷を負いながら勝利を収めたトリストラム。一方で頭蓋骨が割れるほどの一撃を受けたマロースは母国・アイルランドに運ばれます。

王女でありマロースの姪にあたるイゾルデによる必死の治療も虚しく、マロースは命を落としました。イゾルデは英雄の頭蓋骨に残った剣の破片を手に取り、いつか英雄殺しの正体を突き止めようと誓います。

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英雄が殺されたことで、アイルランドでは領土内のコーンウォール人を全員処刑せよという命が下され、両国の関係は悪化していきます。

マルク王は国を救ったトリストラムを自身の後継者にしようとしますが、元々他国の出身ということもあり、トリストラムはマルク王に妃を迎え、後継ぎを作るよう提案します。

しかし、まわりの反対を押し切ってもトリストラムに後を継がせたいと考えたマルク王は、トリストラムに諦めさせようとこのような言葉を返しました。

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こうすれば妃は見つかるまい、と考えたマルク王でしたが、トリストラムは「ならば私が全力を挙げてその黄金の髪を持つ乙女を探し出しましょう」と旅に出てしまいます。

そして従者たちを連れ海へ出たトリストラムでしたが、船は嵐に巻き込まれ、よりにもよってアイルランドに流れ着いてしまったのです。

と!

ここまでの人間関係をまとめると、以下のような感じです。

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そんでは引き続き、物語をどぞどぞ!

イゾルデとの出会い

アイルランドに漂着したトリストラムたちは、自分たちを旅の商人だと偽って上陸し、ひとまず街で情報収集を始めます。

聞くところによれば、国土を荒らすドラゴンが出現しており、ドラゴンを倒した英雄には王女・イゾルデとの結婚を許可するとのお触れが出ているが、ドラゴンに挑んだ騎士の遺体が増えるばかりだと言います。

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このドラゴンを退治すれば、コーンウォールの人間だとわかっても処刑はされないだろう、と考えたトリストラムは、焼けただれた草原を辿ってドラゴンの住む洞窟を目指します。

毒ガスの立ち込める洞窟でドラゴンと対峙したトリストラム。

馬上で槍を構えて突進し、槍を突き刺してもドラゴンが弱ることはなく、逆に突進した馬がドラゴンの鱗に生えたトゲに突き刺さって命を落としてしまいます。

ドラゴンの吐く炎の盾を焼き尽くされ、その熱で鎧ごと身を焼かれながらも何とか戦い抜き、鱗の隙間から剣で竜の心臓を突き刺したトリストラムは、とうとうドラゴンの息の根を止めました。

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朦朧とする意識のなか、ドラゴンを倒した証として竜の舌を切り落とし、鎧にしまい込んだトリストラム。しかし王城へと向かう途中で彼は力尽き、意識を失って倒れてしまいます。

しばらくすると、どこからか竜の死骸に近づく者がありました。何とかして王女・イゾルデと結婚したいとたくらむ、王の執事です。

執事はドラゴンが死んでいることを確認すると人を呼んでその死体を運び出し、自分こそが竜殺しの英雄だと言ってイゾルデとの結婚を要求します。

しかし、この男を毛嫌いしていたイゾルデは、結婚式の準備に時間がかかると言い訳をし、侍女頭のブランクウェインと協力し、本当の竜殺しを見つけ出そうとします。

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城を抜け出したイゾルデとブランクウェインは、洞窟の近くで倒れていたトリストラムを発見しました。

調べてみると彼の鎧からドラゴンの舌が見つかり、彼こそが本物の竜殺しだと気づいたイゾルデは、彼を城に連れて帰り、国いちばんとうたわれた治療の腕を振るって彼を回復させます。

目を覚ましたトリストラムは、黄金に輝くイゾルデの髪を見、彼女こそがマルク王の言っていた黄金の髪の乙女であると確信したのです。

媚薬の悲劇

意識を回復したトリストラムが再び眠りにつくと、イゾルデは彼の鎧を整備してあげることにしました。

しかし彼の剣を抜いてみると、そこには見覚えのある形の刃こぼれがありました。

まさかと思ったイゾルデがかつて英雄・マロースの頭蓋骨に残っていた破片を取り出してみると、破片はトリストラムの剣にピタリと収まったのです。

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トリストラムが深く眠っているいまならば、生殺与奪の権はイゾルデの手にあります。

しかし執事との結婚を避けるためには、竜殺しであるトリストラムの存在はどうしても必要です。逡巡ののち、イゾルデはトリストラムに危害を加えず、彼を王の前に連れ出しました。

そこでトリストラムはドラゴンを討ち取ったこと、自分がコーンウォールから来たことを告げます。

また、イゾルデこそマルク王が探していた妃となる女性であるとも語り、アイルランドの王から彼女を王妃として連れ帰る許可をもらったのでした。

これにより、アイルランドとコーンウォールの関係は再び回復し、両国に平和が訪れたのです。

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トリストラムやイゾルデは船でコーンウォールへと向かいますが、この船に同乗していたイゾルデの侍女頭・ブランクウェインはイゾルデの母からひとつの使命を託されていました。

「イゾルデはマルク王の妃となるべく海を渡りますが、娘とトリストラムのあいだに特別な感情が芽生えていることは、見ればわかります。

そこでブランクウェイン、この媚薬をコーンウォールへ運び、マルク王とイゾルデに飲ませるのです」

しかし長い船旅のなか、少し船に酔ったブランクウェインは、媚薬の小瓶を人気のない船室の棚に置き、少し外の風に当たろうとその場を離れます。

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すると、彼女と入れ替わりにトリストラムがその部屋にやってきました。

自分の命を救ってくれたイゾルデに心を寄せながらも、愛するマルク王の妃になる女性に近づくのはよくない、と考えた彼は、船でもなるべくイゾルデに会わないようにしていたのです。

しかしそんなトリストラムの想いを知ってか知らずか、イゾルデは彼を探し歩き、やがてその船室で彼を見つけ出します。

しばしの沈黙ののち、イゾルデは小さな包みを差し出します。そこには、マロースの頭蓋骨に残されていた剣の破片が入っていました。

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「あなたは私がマロースを殺した男だと知っていたのですね。その気になれば私の命も奪えたはずだ。なぜ復讐しなかったのです」

「それじゃあ、あなたは私にあの執事と結婚しろとおっしゃるの?」

そんな言葉を交わしたふたりでしたが、それ以上の理由があることはお互いにわかっていました。

緊張からか喉の渇きを覚えたトリストラムは、近くの棚にあった小瓶を取って喉を潤し、イゾルデも同じ小瓶に入っていたものを口にしました。

そう、ふたりは偶然にもブランクウェインの置いた媚薬を飲んでしまったのです。

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媚薬を飲む前から互いに思いを寄せていたふたりは、より一層強く愛し合うようになります。

しかしやがて船はコーンウォールにたどり着き、イゾルデは妃としてマルク王に迎えられたのでした。

トリストラムとイゾルデ

よき夫としてイゾルデを深く愛したマルク王。しかしイゾルデの心はつねにトリストラムへと向いていました。

トリストラムは王を裏切るまいとイゾルデと距離を取っていましたが、ある日庭園でふたりはばったりと出くわしてしまいます。

燃え上がる愛を抑えきれず口づけを交わしたふたり。しかし間の悪いことにそれを目撃した者がおり、密告によりふたりの関係はマルク王に知られてしまうのです。

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トリストラムとイゾルデには極刑が言い渡されましたが、トリストラムは処刑場からイゾルデの手を取って逃げ出し、最終的にトリストラムだけが国外追放の刑を受ける形でことを収めました。

別れの日、イゾルデはトリストラムに黄金の指輪を託します。

「いつか私が必要になったそのときは、この指輪を私のもとに送ってください。

たとえ命を落とすことになろうとも、必ずあなたのもとに駆けつけましょう」

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そしてコーンウォールを離れたトリストラムは、旅を続けるなかでとある王を助け、その娘と結婚することとなります。

皮肉にも、その王の娘の名もまたイゾルデと言いました。美しき手のイゾルデと呼ばれた彼女は夫をよく愛しましたが、トリストラムの心は彼女には向いていなかったのです。

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ある日、戦いのなかで毒を受けたトリストラムは、いつ命を落とすかもわからない重体となります。

薄れゆく意識のなかで、トリストラムは従者に金の指輪を託し、治療の名手でもあった、黄金の髪のイゾルデに助けを求めるよう伝えます。

「彼女とともに帰ることができたなら、帰りの船には白い帆を張ってくれ。

もしそうでなければ、黒い帆を張るのだ。彼女が戻らなければ、私の死も近いだろうからな」

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美しき手のイゾルデは看病を続け、意識を取り戻すたびに船の到着を尋ねられては、窓から海を見ていました。

そしてある日、ついに船はやってきました。それも、治療者である黄金の髪のイゾルデを連れた証である白い帆を張って。

しかし、このとき美しき手のイゾルデの心に暗い影が落ちます。

「もしもそのイゾルデ様が現れれば、きっとトリストラム様の心は永遠に彼女のものになってしまうでしょう」

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「帆は、船の帆は何色なのだ」

そう尋ねられた美しき手のイゾルデは、悩み抜いた果てに口を開きました。

「黒い、帆が張られています」

黄金の髪のイゾルデにもう一度会いたいという一心で耐えていたトリストラムは、その言葉を聞いて気力を失い、そのまま息を引き取ってしまいます。

みずからの言葉で夫が希望を失ってしまったことに気づき、冷たくなったトリストラムに泣きつく美しき手のイゾルデ。そこに、黄金の髪のイゾルデが姿を現します。

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愛するトリストラムの死を知った黄金の髪のイゾルデは、涙交じりに言葉をもらします。

「その方から離れてください。私は、あなたよりも深く、深くその人を愛したのです」

そうしてトリストラムに寄り添った黄金の髪のイゾルデは、彼に口づけると悲しみに胸を裂かれ、そのまま息絶えてしまいました。

やがてふたりの死はマルク王の耳に届き、彼はふたりの亡骸をコーンウォールへと連れ帰ります。

そして、悲しみの言葉も、許しの言葉も口にせず、マルク王はふたりをひとつの墓に埋めてあげました。

のちに墓を見た者の言葉によれば、トリストラムが眠る場所からはハシバミの若木が伸び、黄金の髪のイゾルデが眠る場所からはスイカズラが伸び、その枝は互いの手を握るように絡み合おうとしていたといいます。

~ 完 ~

ご愛読あざまっした!!

と!

いやどうですかこのお話!! そりゃ映画化もされますわな!

ちなみに映画は『トリスタンとイゾルデ』というタイトルで、キャッチコピーは“『ロミオとジュリエット』の悲劇は、ここから生まれた”!

映画の評価もけっこう高いので、興味がある人はDVDレンタルやらアマゾンビデオやらでチェックしてみてはいかがでしょうか!

映像作品だけでなく、もちろん小説としてもいくつか出版されています。詳細も含めてじっくり読みたい人はぜひぜひ!

最後に何も言わずにふたりを弔うマルク王とかがまたいい味出してるんですけどね、これも展開がいくつかあって、マルク王がトリストラムに復讐の炎を燃やすパターンなんかもあったりするので、いろいろ探してみてくださいな!

ってことで、元ネタ紹介は今回がラストとなります!

本コラムで画像を使わせていただいた『乖離性MA』も2020年9月30日をもって8年以上に渡るサービスに幕を閉じるということで、長いあいだお疲れ様でした!!

んでは、今度はまったく違う内容のコラムでまたお会いしましょう! よかったらたまに過去回を見返したり何だったりしてくださいな! おさらば、おさらば!

【“元ネタの世界”まとめはこちら】

文/しゃれこうべ村田(@SRSWiterM

参考文献

ブルフィンチ(1942)『中世騎士物語』(野上弥生子 訳) 岩波書店.
サトクリフ,ローズマリ(2001)『サトクリフ・オリジナル アーサー王と円卓の騎士』(山本史郎訳) 原書房.
ベディエ編(1953)『トリスタン・イズー物語』(佐藤輝夫訳) 岩波書店 .

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