火刑台に消えた救国の英雄!ジャンヌダルク【しゃれこうべが語る元ネタの世界 第44回】

2020-08-19 12:00 投稿

『ゴースト・オブ・ツシマ』にィ~……?

協力マルチモードが実装予定ですってよ奥さん!!!

クリアーしてからノータッチでしたが、こいつァ楽しみですね! 鬼が出てくるとかこないとか~?

そんなワクワクはさておき、始まりますよ“元ネタの世界”!

8月は女性英雄のお話をお届け、ということで前回の巴御前に続いてフランスの危機に現れた英雄・ジャンヌダルクについて語っていきましょう!

女性英雄のなかでも恐らくダントツで知名度トップと思われるジャンヌ、その活躍やいかに!

【目次】
・百年戦争に現れた乙女
・ジャンヌの生い立ちと王太子・シャルル
・オルレアンの解放
・捕らわれた乙女
・次回は女海賊!

百年戦争に現れた乙女

歴史の教科書でもその名が語られ、ゲームやマンガなどでも題材になったり登場人物の名に使われたりと超絶有名なジャンヌダルク。

ジャンヌは百年戦争(1337~1453年)と呼ばれるイギリス、フランス間の戦乱のなかに現れ、男装姿で、剣ではなく旗を持って戦場を駆け、味方を導いたとされる女性です。

20200818_ジャンヌダルク (1)

ジャンヌが登場した前後の状況を簡単に紹介しておくと、百年戦争はイギリスの初代王家がフランスの諸侯出身だった、ということに端を発する、フランス王位の継承をかけた戦いでした。

イギリスとフランスの戦いだったのですが、途中でフランス内部に対立が生じ、これに乗じたイギリス側はそのうちの一派であるブルゴーニュ公を味方に引き込んでしまいます。

ジャンヌが登場する1429年ころになると、イギリス&ブルゴーニュ派はフランスの半分近くを支配し、王太子・シャルルを擁するアルマニャック派はかなりの窮地に追い込まれてしまいます。

イギリス&ブルゴーニュ派勢力はさらに兵を進め、戦略上の要となるオルレアンの町を包囲し、この包囲戦の行方がその後に大きく影響するであろう、という局面だったのです!

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そんなときに乙女・ジャンヌが突如登場する訳ですが、ちょいとさかのぼって彼女の生い立ちから見てみましょう!

ジャンヌの生い立ちと王太子・シャルル

ジャンヌはフランス北東部の村・ドンレミに生まれ、家事や畑仕事を進んで手伝い、困っている人がいればみずから手を差し伸べ、教会での告解を欠かさない、そんな敬虔なキリスト教徒として暮らしていました。

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両親や村の人々といっしょにふつうの暮らしをしていたジャンヌでしたが、13歳の夏、畑仕事をしていた彼女は自分に語り掛ける不思議な声を聞きます。

「行いを正すよう、汝を助けよう」

突如聞こえた声に最初は怯えたジャンヌでしたが、その声はやがて聖女・カトリーヌ、聖女・マルグリット、あるいは天使の姿をとり、彼女に使命を与えるようになります。

「王太子のもとに赴き、かの者を国王とし、フランスを救うのだ」

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戦場での馬の乗りかたも戦いかたも知りません、と声の言葉を拒んでいたジャンヌでしたが、声は止むことがなく、17歳になったジャンヌはとうとう声に従うことを決意します。

何とかアルマニャック派の助力を得た彼女は、王太子・シャルルのいるシノンまで、敵勢力が支配する土地を抜けていくのでした。

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神の導きに従ってフランスを救おうとする少女の噂はすぐさま広まり、シャルルの耳にも届きます。

読み書きのできないジャンヌは代筆させた手紙をシャルルに送っており、「声の啓示に従い、あなたが正式なフランス国王となるお手伝いをいたしましょう」といったメッセージを送っていましたが、シャルルとしては当然半信半疑、どころか疑念しかありませんでした。

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やがて無事にシノンの町へと辿り着いたジャンヌはシャルルとの面会を許されますが、シャルルは王座に代わりの兵を座らせ、自分はほかの部下たちに交じって王座の近くに待機し、ジャンヌが真の王を見抜けるか試したのです。

シャルルとは一切の面識がないはずのジャンヌでしたが、彼女はあっさりとこの策を見破り、兵士たちと変わらぬ格好をしたシャルルの前に立ち、「あなたをお助けしに参りました」と告げます。

さらに、興味を持ったシャルルがジャンヌとふたりきりで話をした際に、ジャンヌはシャルルが求めていた、しかし誰も知らないはずの疑問に対する答えをもたらしたのです。

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この答えが何だったのかは明らかになっていませんが、一説では自身が本当に正当な王家の血を引いているか不安だったシャルルに対し、ジャンヌが「あなたは先王の実子である」といった言葉をかけたとか何とか!

シャルルは教会などに声をかけ、ジャンヌが信頼に値する者かどうかの審査を行いましたが、いずれも彼女にとってはよい結果を示しました。

当時は、「フランスはひとりの女によって危機に陥り、しかしひとりの処女によって救われるだろう」という予言がささやかれていたこともあり、シャルルは突如現れたジャンヌという乙女を信じ、軍備などを提供することに決めたのです。

オルレアンの解放

軍隊を得たジャンヌは、引き続き聞こえる声の啓示に従ってオルレアンの町を解放しに向かいます。

オルレアンは南方、西方、北方をイギリス軍が囲み、この包囲網がじつに半年近く続いている状況で、陥落は時間も問題といった状況でした。

しかし、ジャンヌがオルレアンの近くに到着すると、町に資材を運ぶ船団を足止めしていた風は向きを変えて追い風となり、オルレアンの防備の指揮官・デュノワも彼女に希望を見出します。

そして、戦術などの知識がないゆえに生まれる奇抜な戦いかたが相手の意表を突いたのか、乙女の登場によって兵士たちの士気が向上したおかげか、はたまた神の加護か、ジャンヌはオルレアンに入って10日も経たないうちにイギリス軍を撤退させてしまったのです。

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ちなみにですが、オルレアンの町が解放された5月8日は町の記念日となり、現在でもジャンヌダルク祭りと呼ばれる催しが開かれているそうですよ!

さて、この快進撃によりジャンヌの加護を信じた味方の士気は上がっていき、対照的にイギリス軍はジャンヌを恐れたせいか、次第に状況はフランス側へと傾いていきます。

当時の記録によれば、イギリス軍の兵士がジャンヌを恐れ、訓練を抜け出そうとして罰されたことさえあるといいます。

その後、ジャンヌは王太子・シャルルの聖別・戴冠の儀式を行うべく、ランスの地へと向かいました。

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イギリス側が擁する王も済ませていなかった戴冠式を行ったことにより、シャルルの国王としての立場はより強固なものとなったのです。

が、これを機にジャンヌの人生には影が落ち始めます。

百年戦争を戦いではなく交渉による和平で決着させたいと考えたシャルルは、「まだイギリス軍に制圧された町で苦しむ人がいます」というジャンヌの声も聞かず、彼女から戦いを取り上げます。

しかし、シャルルが頼みにしていた和平交渉の裏で軍備を整えていたイギリス、ブルゴーニュ派は、再び攻勢に出ます。

ジャンヌはようやく町々の解放へと向かうことを許可されますが、このとき与えられた部隊は、オルレアンの戦いに比べるとひどく少ないものでした。

捕らわれた乙女

コンピエーニュの町を奪還すべく出撃したジャンヌでしたが、これまでの戦いで功績を上げてきた彼女の型破りな戦いかたがここでは裏目に出てしまいます。

形勢が不利になり、退路を断たれた兵士たちは混乱して逃げ回り、その兵士たちを守るべくジャンヌは矢面に立ちましたが、裏切り者の手によって彼女の背後で城門は閉められ、跳ね橋は上げられてしまったのです。

こうしてブルゴーニュ派の手に落ちたジャンヌは、パリ大学の神学部の博士たちによって裁判にかけられることとなります。

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ただの庶民でありながら直接神の声を聞いたと語り、人々もそれを信じるジャンヌという存在は、教会の威信を揺るがしかねないものとして権威側から敵視されており、パリ大学や教会の人々は、ジャンヌを処刑すべくきびしい追及を続けました。

また、ジャンヌが神に選ばれた存在ではなく異端の者だと証明できれば、彼女の働きによって王となった証明したシャルル王の正統性をも揺るがすことができる。裁判にはそういった政治的な狙いもありました。

4ヵ月にも渡る裁判でもジャンヌの毅然とした態度は揺るがず、矢継ぎ早になされる質問にときには皮肉交じりに返してみせる彼女の姿に、イギリス人のなかには「なぜこの娘がイギリス人ではないのか」と嘆く者もいたそうです。

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しかし、長期間の裁判による疲労や火刑台の前に連れ出された恐怖からか、ある日ジャンヌはとうとう教会の意に従い、男装を止めて改悛することに同意する契約書にサインさせられてしまいます。

その後、彼女は獄中で獄吏によって襲われ、女性の服を奪われてしまったためか、あるいは獄吏から身を守るためか、禁を破って男装をせざるを得なくなり、これによって“異端戻り”の罪を糾弾され、19歳の若さで火刑台に上ることになります。

燃え盛る炎のなか、ジャンヌは最期まで「イエス様!」と祈り、ある者は燃やされる彼女の身体から白いハトがフランスに向かって飛び立ったと言い、ある者は立ち上る煙が“イエス”の字を描いたと話し、火刑のための薪を運んだイギリス兵は「我々は破滅だ」と言って気絶してしまいました。

聖遺物となるものを残さないために、彼女の灰はすべて川に捨てられたとも伝えられていますが、彼女の心臓は血に満ちたまま燃え尽きることなく、いつまでも残っていたと言われています。

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こうして異端として処刑されてしまったジャンヌですが、約25年後、彼女の母親やオルレアン市民の嘆願によって異端の烙印を取り払うための復権裁判が行われ、その汚名は返上されることとなります。

時代が下るなかで、彼女の名は歴史のなかに埋もれ、オルレアンの人々以外にはあまり知られていない存在となっていました。

しかしボナパルト・ナポレオンがジャンヌを救国の英雄として挙げたことから、ジャンヌダルクの名は広く知れ渡ることとなり、再び彼女を高く評価する流れが生まれ、1869年から1920年までという50年近い審理を経て、彼女は聖女に認定されたのでした。

~ 完 ~

次回は女海賊!

ってことで、最後ちょい駆け足になっちゃいましたが、ジャンヌダルクのお話でしたよ!

トンデモ系だとジャンヌは王家の隠し子だったとか、じつは火刑を逃れて生き延びていた、なんて説もいろいろとあるそうで、歴史にはっきりと名を残す人物ながらに伝説的な側面も強いのがおもしろいですね!

現代のゲームなどだけでなく歴史的にも絵画や文学作品に描かれるジャンヌですが、じつはその容姿を正確に記録したもの、いわゆる肖像画的なものが残っておらず、顔の特徴はおろか髪の色さえ定かではないそうな!

さて、次回は女性英雄と言っていいのかだいぶ怪しいところですが、ヨーロッパにその名を轟かせた女海賊たちのお話をしていこうかと!

冷静に考えるとただの犯罪者な気もしますが、海賊って言うとなんとなくロマンがあるような気がして不思議ですね!

したらば、また来週!

【“元ネタの世界”まとめはこちら】

文/しゃれこうべ村田(@SRSWiterM

参考文献

稲葉義明・砂糖俊之・青木行裕(2003)『Truth In Fantasy 59 剣の乙女』新紀元社.
高山一彦(2005)『ジャンヌ・ダルク ―歴史を生き続ける「聖女」―』岩波新書.

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