『アーサー王物語』初期の英傑!2本の剣を帯びた騎士・ベイリン(後編)【しゃれこうべが語る元ネタの世界 第34回】

2020-06-10 12:00 投稿

さぁ後編!

はァーい今週も始まりますよ“元ネタの世界”!

前回から引き続き騎士・ベイリンのお話! ってことでちゃっちゃか本編!!

▼前編はこちら

【目次】
・前回のあらすじ
・姿の見えない騎士
・宴会への潜入
・ロンギヌスと災いの一撃
・最期の冒険
・次回はアーサー王の戦い!

前回のあらすじ

ある日、アーサー王のもとに“この世でもっともすぐれた騎士だけが抜ける剣”を持った乙女が現れました。

王も騎士たちも剣を抜くことができませんでしたが、王の従弟である騎士を殺し、その罪で1年半以上投獄されていた騎士・ベイリンはこの剣をいとも簡単に抜いてみせます。

20200609_ベイリン (1)

※元ネタは男です。

しかしその後、アーサー王にエクスカリバーを授けた湖の貴婦人が現れ、ベイリン、あるいは剣を持ってきた乙女の首を求めます。

が、母の仇である湖の貴婦人を3年間探していたベイリンは、アーサー王の目の前で貴婦人の首をはねてしまいました。

20200609_ベイリン (2)

怒ったアーサー王に追放されたベイリンは、放浪するなかで弟のベイランと再会し、ふたりでアーサー王の敵であるリエンス王を捕らえるなどの活躍をし、再びアーサー王の信頼を獲得したのです。

20200609_ベイリン (3)

※元ネタは男です。

と、いうのが前回のお話!

さてこの後、ベイリンがどうなったかと言うと……?

姿の見えない騎士

弟のベイランと活躍してアーサー王と和解したベイリンは、その後再び弟とは別行動を取り、単身宮廷に戻りました。

アーサー王は再会したベイリンをねぎらった後、とある騎士と乙女を助けてやってくれないかと頼みます。

これを承諾したベイリンがその騎士のもとに行って話を聞くと、騎士は怯えた様子で「私の身を守ってくれますか」と尋ねました。

「もちろん。私の誇りにかけて」

そう答えたベイリンでしたが、その直後、守ると約束した騎士の身体は、姿の見えない何者かの持つ槍によって貫かれていたのです。

ここで登場した姿の見えぬ敵の名は、ガーロン!

ステルス能力持ちとかいうチート騎士ですが、どうやって姿を消しているかの説明は一切ありません。不っ思議ィ~!

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※元ネタは男です。

身体を貫かれた騎士は、姿の見えぬ騎士がガーロンという名であることをベイリンに告げ、自分が連れていた乙女とともに、自分の冒険を引き継いでくれるように頼みました。

彼の死に復讐することを誓ったベイリンは、乙女のもとへと向かいます。乙女は騎士を貫いた槍を拾い上げ、ベイリンとともに再び冒険へと旅立ちました。

道中、ベイリンと乙女はもうひとりの騎士と出会うのですが、この騎士もまた、ベイリンの目の前で姿の見えない騎士の槍を受け、命を落としてしまいます。

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旅を続けていたある日、ベイリンと乙女はとある郷士(土着の騎士)の家に泊めてもらうことになったのですが、家のなかでは椅子に座った若者が苦しそうなうめき声をあげていました。

事情を聞くと、家の主人がペラム王という王のと槍試合を行い、2度勝利したところ、その弟は仕返しに郷士の弟に傷を負わせたというのです。

ちなみに、このペラム王はのちに漁夫王(いさなとりのおう)と呼ばれる存在であり、『乖離性MA』にも登場しております!

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郷士の弟が負わされた傷は、傷を負わせた騎士の血を手に入れるまでは癒えることがないということでした。

郷士の話では、その傷を負わせた騎士、ペラム王の弟は、姿を見せずに馬を駆る騎士だというのです。

「その騎士の名ならば知っています。その名はガーロン。ご子息のために、私がかの者の血を持って参りましょう」

ベイリンの言葉を聞いた郷士は、ペラム王が近くに宴会を開くことを教え、そこならばガーロンも文字通り姿を現すだろうと言います。

こうして、ベイリンは乙女とともに15日かけてペラム王の城へと出向いたのです。

宴会への潜入

城へとたどり着いたベイリンと乙女を、城の人たちは客として迎え入れ、宴会のための服を用意してくれました。

着替えの際、城の人が武器を預かろうとしましたが、ベイリンは「我が国では、騎士がつねに武器を携えるのがしきたりなのです」と話し、剣を帯びる許可を得ます。

まんまと潜入に成功したベイリンと乙女。ほかの騎士たちから話を聞き、ついにガーロンを発見します。

「ここで奴を殺せば、私はまず逃げられないだろう。しかし、これを逃せばもう機会はないかもしれない」

ベイリンが悩んでいると、その視線に気づいたガーロンが近づいてきました。

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ガーロンは手の甲でベイリンの頬を叩き、吐き捨てるように言います。

「おいお前、なんだってそんなにじろじろとこっちを見るんだ。黙って肉でも食っているんだな、それが目的でここに来たんだろう」

これに、ベイリンは答えました。

「お前が私に侮辱を与えるのは、これが初めてではない。よろしい、では私がここに来た目的を果たそう」

言い終わるや否や、ベイリンは腰の剣を抜き、そのままガーロンを肩口から一気に切りつけました。

周囲が騒然とするなか、乙女が槍を持ちより、ベイリンに手渡します。彼女といっしょにいた騎士を貫いた、ガーロンの持っていた槍です。

「善き騎士を殺したお前のこの槍が、いまお前の身体を貫くのだ」

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そう言ってベイリンは槍をガーロンの身体に突き刺し、城の外で待っていた郷士に、必要なだけ血を持っていくように伝えます。

こうしてガーロンを討ち果たしたベイリン!

しかし、まわりの騎士たち、そして弟を殺されたペラム王は殺気立っています! さぁここからどうなるか!

ロンギヌスと災いの一撃

「私の弟の命を奪ったからには、お前の命はもらうぞ」

怒りに震えるペラム王はベイリンに迫ります。

「よかろう。命を取るのなら、自分の手でするがいい」

そう言って構えたベイリンでしたが、ペラム王の一撃を剣で受けると、剣は粉々に砕け散ってしまいました。

代わりとなる武器を求めて別の部屋に逃げ込んだベイリンは、ひと際豪華に飾り付けられた部屋に、4本の銀の脚で飾られた黄金のテーブル、その上にある不思議な細工の施された見事な槍を見つけます。

さて、ここでベイリンが見つけた槍ですが、なんとこれがかの有名なロンギヌス!

磔にされたキリストの身体を貫いた槍だったのです!(何気に『乖離性MA』でも擬人化されて登場)

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ベイリンはロンギヌスを手に取り、少し遅れて部屋に入ってきたペラム王に向け、振り向きざまに一撃を加えました。

ロンギヌスから放たれた力は災いの一撃となり、ペラム王に重傷を負わせるだけではなく、ペラム王の城をも崩壊させ、さらには近隣の3カ国をも壊滅させてしまったのです。

ペラム王は気を失い、ベイリンもまた、崩れ落ちた城の屋根や壁に埋もれ、魔術師・マーリンによって救出されるまで、3日間ものあいだガレキの下敷きになっていました。

冒険をともにした乙女もガレキのなかで息絶え、ペラム王は癒えることのない傷を負ったこの戦いの後、ベイリンはこの地を離れ、再びあてのない冒険の旅へと出ます。

ちなみにですが、ロンギヌスの一撃で傷を負ったペラム王は、絶えず訪れる激痛のために遠出することができなくなり、城の近くで魚を釣って生計を立てることとなりました。

これがのちの漁夫王(いさなとりのおう)という名の由来になったのだとか!

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漁夫王としての彼は、『アーサー王物語』終盤、聖杯探求の冒険にも登場するのですが、それはまた別のお話。

さて、再び旅に出たベイリンはと言いますと……。

最期の冒険

その後、ベイリンはとある城を訪れ、美しい婦人や騎士たちによって歓迎を受けます。

しかし、ベイリンが城から先に進もうとすると、城の主である奥方は言いました。

「2本の剣を帯びた騎士様、あなたにはある島を守る騎士と戦ってもらわねばなりません。

ここをお通りの方は、みな先に進むまえに必ず試合をすることになっているのです」

冒険とあらばその挑戦は受けよう、と承諾したベイリンに、城の騎士は盾が痛んでいることを指摘し、代わりに城の盾を使うように手渡しました。

ベイリンは、それが悲劇を招くことになるとは知らず、助言通りに盾を取り換えるのでした。

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やがて、赤い飾りを付けた馬に乗った、赤い装いの騎士が現れました。

ベイリンと騎士は激しくぶつかると、お互いの槍が盾を撃つ激しさに互いの馬は倒れ、両者とも地面に身体を打ち付けます。

立ち上がったふたりは剣を抜いて再び激突し、あたり一面が血に染まるほどに過酷な戦いをくり広げます。

互いに巨人を倒すのにも十分なほどの痛手を負わせ、鎖かたびらはほつれ、鎧も意味をなさなくなったころ、ついに赤い騎士が倒れました。

倒れた騎士に、ベイリンが息を切らしながら声をかけます。

「私はこれまで、お前ほどの騎士に出会ったことがない。せめて名を教えてほしい」

これに、赤い騎士は答えます。

私の名はベイラン。この世でもっともすぐれた騎士・ベイリンの弟だ」

そう、鎧が違ったためにベイリンは気づきませんでしたが、彼が命をかけて戦っていたのは、愛する弟だったのです。

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「生きてこの日に会おうとは」

そうつぶやき、ベイリンもまた力尽きて地に倒れます。

「おおベイラン、弟よ。私がお前を殺し、お前が私を殺したのだ。世界中の人々が私たちのことを語り継ぐだろう」

身体を引きずり、倒れた兄に近寄りながら、ベイランも嘆きの声をあげます。

「ああ、生きてこの目に遭おうとは」

ふたりが最初に対峙したとき、ベイランはベイリンの持つ2本の剣でもしやと考えていましたが、盾が違うために別の騎士だと思っていたのです。

やがて、自分たちのもとに駆け寄ってきた奥方たちに、ベイリンは最期の願いを託しました。

「私たちをふたりとも、ひとつの墓に埋めてください。私たちはひとりの母の胎内から出てきました。だからどうか、ふたりとも同じ穴に埋めてください」

こうして、兄と弟、ふたりの騎士は同じ墓に眠ることとなったのでした。

墓には、ふたりの兄弟が互いの正体を知らずに殺し合った悲劇の物語が刻み込まれたと言います。

その後、マーリンによってふたりの死はアーサー王に伝えられ、その顛末を知った王は深く悲しんだのでした。

~ 完 ~

と、前編でアーサー王の宮廷に剣を持ってきた乙女の残した予言通り、愛する男を自分の手で殺すことになったベイリン!

魔剣とも言えるこの剣は、マーリンの手によって大理石に封印され、やがてランスロットの息子・ガラハッドの手に渡ることとなります。が、これはまた別のお話!

次回はアーサー王の戦い!

ってことで、2回に渡ってお届けしたベイリン物語!

いやぁ、この最期が何とも……。鎧とか盾が違うせいで本人だと気づかない、っていうパターンはちょいちょいあるんですよね~。すれ違いの悲劇……!

さて次回! おつぎも『アーサー王物語』のお話をご紹介しますよ!

持ち主に一滴の血も流させないという聖剣・エクスカリバー、アーサー王の大事なこの剣が奪われちゃったりで王様大ピンチ……ってなお話、ご期待あれ~!

文/しゃれこうべ村田(@SRSWiterM

参考文献

マロリー,トマス(2004)『アーサー王物語』(井村君江訳)(第1巻) 筑摩書房

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