『アーサー王物語』初期の英傑!2本の剣を帯びた騎士・ベイリン(前編)【しゃれこうべが語る元ネタの世界 第33回】

2020-06-03 12:00 投稿

あの名作が、再び!!

2020年6月4日と言えば~?

そう、PS2で発売されていた名作がニンテンドースイッチで『九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE』として再誕する日ですね! いやァー楽しみ!!

ってのはさておき、今週も始まりますよ、“元ネタの世界”!

今回はイギリスに伝わる英雄譚『アーサー王物語』に登場する、円卓の騎士・ベイリンのエピソードをご紹介します。

このエピソードはまあまあ長い&個人的にお気に入りなので……、前後編の2本立てでお届け!

そもそも『アーサー王物語』ってなんぞ、という方は本コラムの初回をご確認あれ~。

【目次】
・騎士兄弟・ベイリン&ベイラン
・剣の乙女
・湖の貴婦人
・名誉挽回の大活躍
・次回、ベイリンの身に降りかかる悲劇!

騎士兄弟・ベイリン&ベイラン

今回紹介するベイリンは、弟のベイランと並び、アーサー王に仕える円卓の騎士です。

彼らが登場するのは、『アーサー王物語』でも序盤、アーサーが王となってまだ日が浅いころのこと。

20200602_ベイリンとベイラン (1)

※元ネタはふたりとも男です。

ランスロットやガウェインといった超有名どころの騎士に比べると、登場期間が短く出番も少ないのですが、これがなかなか印象深いエピソードを持つ騎士(たち)なのです!

それでは前置きはささっと終わらせて、ベイリン&ベイラン物語の幕開けです!

剣の乙女

それは、若き少年・アーサーが選定の剣を引き抜き、王となった後のこと。

アーサー王を統治者として認めようとしない王たちとの戦いも落ち着いてきたころ、アーサー王のもとに、リエンス王の襲撃から救ってほしい、と助けを求める騎士がやってきました。

このリエンス王は、『アーサー王物語』に登場するキャラクターであり、それまでに倒した敵からむしったヒゲで自分のマントを作るという変わり種!

まだ若くヒゲが生えそろっていなかったアーサー王は、彼と対峙する際、馬鹿にされないように黒イチゴだかを潰して口のまわりに塗り、ヒゲっぽく見せかけたこともあるとか何とか!

20200602_ベイリンとベイラン (2)

騎士の願いを聞いたアーサー王は、さっそく王城・キャメロットに騎士たちを集め、挙兵の準備を進めました。

すると、宮廷にひとりの乙女が現れ、アーサー王に謁見を申し出ます。王の前に通された乙女がマントを脱ぐと、彼女は1本の立派な剣を持っていました。

なぜ剣を持っているのか、と問われると、乙女は答えます。

「これは、この世でもっともすぐれたお方、悪事や逆心に縁のないお方にしか抜けない剣でございます。

私にとっては厄災のもととなるこの剣を抜ける方が、この宮廷にならいらっしゃると思ったのです」

これを聞いて、まずはアーサー王がその剣を手に取って見せます。

20200602_ベイリンとベイラン (3)

が、アーサー王がどんなに力を入れても剣は抜けず、「抜ける人であればそんなに力を入れなくても抜けます」と乙女に言われる始末。

ほかの騎士たちも挑戦してみますが、やはり誰にも引き抜くことはできません。

さて、ここでベイリンが乙女のもとへとやってきます。

彼はアーサー王の従弟である騎士を殺した罪により、1年半以上ものあいだ投獄されており、その身なりはあまりにみすぼらしいものでした。

20200602_ベイリンとベイラン (4)

乙女はベイリンを見て「ほかの騎士様が抜けなかったのに、どうしてあなたにできましょうか」と挑戦を拒否しようとしますが、ベイリンは言います。

「美しいお方よ、人の値打ち、そのよい資質やよき行いとは、ただ立派な装いにのみあるのではないのです」

確かに、と納得した乙女が剣を渡すと、それまで誰も抜けなかったのが嘘のように、剣はするりと鞘から抜かれたのです。

まわりの騎士たちが驚きに目を丸くするなか、乙女はベイリンを称えました。その後、乙女は剣の返却を求めましたが……。

20200602_ベイリンとベイラン (5)

ベイリンが剣を返さずにいると、乙女は「あなたはその剣で、自分がこの世でもっとも愛する男を殺し、その剣ゆえに身を滅ぼすことになりましょう」と不穏な言葉を残し、去っていきました。

湖の貴婦人

さてその後、今度は別の貴婦人が宮廷を訪れます。彼女はほかならぬ、アーサー王に聖剣・エクスカリバーを授けた湖の貴婦人でした。

ちなみにこの湖の貴婦人(あるいは湖の乙女)、人間というよりは妖精とかに近い異界の存在とされており、ひとりなのか複数人なのかも謎な存在です!

『乖離性MA』ではニムエの名で登場していますが、ほかにもヴィヴィアン、エレインといった名前が当てられることもあります。

20200602_ベイリンとベイラン (6)

湖の貴婦人は、エクスカリバーを授けた際に約束した返礼の贈り物を受け取りに来た、と言いました。

王が何を望むかと聞けば、湖の貴婦人は答えます。

「先ほど剣を抜かれた騎士の首か、剣を持ってきた乙女の首をいただきたくございます。ふたりの首をいただくのでもかまいません。

というのも、かの騎士は私の兄を殺した男であり、かの乙女は私の父を死なせる原因となった女なのです」

王が返答に困っている様子を、陰から見ていたベイリン。彼もまた、湖の貴婦人の首を欲していました。

というのも、湖の貴婦人は過去に人を使ってベイリンの母を殺しており、ベイリンは3年ものあいだ、仇である彼女を探してきていたのです。

20200602_ベイリンとベイラン (7)

ベイリンはすぐさま湖の貴婦人とアーサー王の前に進み出て、その場で湖の貴婦人の首を切り落としてしまいました

アーサー王はこれに憤慨し、ベイリンを宮廷から追放します。

名誉挽回の大活躍

アーサー王の宮廷を去ったベイリンでしたが、しばらくして彼を倒すべく宮廷から追ってきた騎士・ランサーに戦いを挑まれます。

ふたりは槍を手に取り、馬を全力で走らせ、激突しました。ランサーの槍はベイリンの盾を強く打ちましたが、槍はバラバラに砕けてしまいます。

しかしベイリンの槍はランサーの盾を貫き、その身体も、乗っていた馬すらも貫き、一撃のもとに葬ってしまったのです。

20200602_ベイリンとベイラン (8)

ほどなくして、美しい馬に乗った乙女が、大急ぎでその場にやってきました。

乙女は恋人であるランサーが死んでしまったのを見て、悲しみのあまりその剣でみずから命を絶ってしまいます。

突然のことに動揺し、その死を悲しんだベイリンは、ランサーとその恋人に目を向けていることができず、馬を返して森へと進みました。

すると、そこには弟のベイランがいたのです。ふたりは涙を流し、再会を喜びました。

20200602_ベイリンとベイラン (9)

ベイリンは、宮廷で剣を抜いたこと、湖の貴婦人を手にかけたこと、そしていまランサーと戦い、その恋人までが命を落としたことを話しました。

これを聞いて兄とともに悲しんだベイランでしたが、兄を励まし、神の与えた難題に挑むべきであると答えます。

そしてベイリンはアーサー王の敵であるリエンス王と戦うことを決意し、弟のベイランもまた、兄を助けること誓うのでした。

20200602_ベイリンとベイラン (10)

さて、ベイリンとベイランがリエンス王のもとに向かっていると、彼らはひとりの老人と出会います。

ベイリンはこの老人を怪しみましたが、言葉を交わすなかでそれがマーリン、アーサー王を助ける稀代の魔術師であることに気づきます。

20200602_ベイリンとベイラン (11)

ふたりはマーリンの助言を得て、街道の木陰でリエンス王と護衛の騎士60人との戦いに挑みました。

ベイリン、ベイランの猛攻はすさまじく、リエンス王を馬上から打ち落として地面に叩きつけると、右に左にと剣を振るい、護衛の騎士を40人以上殺してしまいます

あまりのことに残りの護衛は逃げ出し、ベイリンとベイランはリエンス王を捕らえます。

そしてふたりはアーサー王の宮廷に向かうと、番兵にリエンス王を引き渡し、アーサー王に面会することなく去っていきました。

20200602_ベイリンとベイラン (12)

アーサー王は、引き渡されたリエンス王に、いったい誰の手によって捕らえられたのか、と尋ねます。

“2本の剣を帯びた騎士”とその弟です。ふたりとも勇敢な、驚くべき騎士です」

「なるほど。誰かは知らぬが、これは大きな恩義を受けたものだ」

ふたりのやり取りを聞いたマーリンが、その騎士の正体はベイリンとベイランである、と明かすと、アーサー王はベイリンを追放してしまったことを深く後悔します。

後日、リエンス王の弟であるネロロット王との連合軍を率いてアーサー王に戦いを挑みましたが、この戦いでも2本の剣を帯びた騎士、つまりベイリンと、弟のベイランはさっそうと現れ、すさまじい活躍をします。

ふたりの戦いを見た騎士たちが「あれは天より降りてきた天使か、あるいは地獄から来た悪魔か」と震え、アーサー王も「このふたりはこれまでに見たかなで、最高の騎士だ」とつぶやくほどでした。

こうしてアーサー王を大いに助け、その信頼を取り戻したベイリンでしたが、彼がアーサー王と一度だけ再会を果たしたのち、ベイリンとベイランのふたりが宮廷を訪れることは、二度となかったのです。

~ to be continued ~

次回、ベイリンの身に降りかかる悲劇!

アーサー王と再会したのち、とある騎士を護衛することになったベイリン。

しかしそのとき、目に見えぬ敵の持つ槍が出会ったばかりの騎士を貫いた。

姿を消すことができる騎士との戦い、ロンギヌスの槍がもたらす災い、そして冒険の結末は。

次回、2本の剣を帯びた騎士・ベイリン(後編)! 君は、騎士の涙を見る……。

ってことで、謎に次回予告まで入ったところで、今回はお終い!

いやぁ、『アーサー王物語』のなかでもベイリンのお話はけっこう好きなんですよね~。

ちなみに、尺の都合でカットしていますが、最後のネロ&ロット王連合軍との戦いでは、アーサー王も20人を殺し、40人に重傷を負わせるという活躍をしています! ちゃんと強いぞ王様!

そいでは、続きが語れる来週まで、おさらば! 『九龍妖魔學園紀』やろう!!!

文/しゃれこうべ村田(@SRSWiterM

参考文献

マロリー,トマス(2004)『アーサー王物語』(井村君江訳)(第1巻) 筑摩書房

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