ウリがbot化!!『あつ森』カブで毎週数百万ベル儲けるコミュニティとその先の想い

2020-04-21 14:07 投稿

上手なカブ転がしから始まる快適な無人島生活

Nintendo Switch用ソフト史上最多の初週販売本数を記録した『あつまれ どうぶつの森』(以下、『あつ森』)は、発売2周目で累計販売本数が早くも260万本を突破。現在、家庭用ゲームソフトの中でももっとも注目されているタイトルだ。

そんな『あつ森』には毎週日曜日、午前中にカブを売りにウリが訪問。買い付けたカブをその後、1週間のあいだに変動するカブ価を参考に売ってゲーム内通貨“ベル”を儲ける遊びが存在している。

本記事では、チャットツールのひとつ“Discord”とGoogleが提供する“スプレッドシート”を活用して、売値のピークを参加するメンバーデータから予測するコミュニティをフリーライターの深津庵が取材。

なぜ、大人が本気でゲーム内のカブを転がすコミュニティを作るに至ったのか。

制作に関わったふたりのプレイヤーの想いに迫る。

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カブで確実に儲けるための第1歩

今回インタビューに応じてくれたのは、筆者も所属する『あつ森』のカブで儲けるためのコミュニティで、そのツールを構築したプレイヤー、あげなすさんかえるさんのふたり。

偶然だがどちらも映像系の仕事に携わる人物。きっとこのあと始まる対談を読めば、本職は大丈夫かと心配する読者も出てきそうだが、本気で遊んでいる真の理由を理解してもらえるだろう。

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▲筆者の島に急遽、編集部の片隅にありそうな空間を用意。左奥があげなすさん、右奥がかえるさん。手前左は聞き手として参加した某絵描きでその右にいるのが筆者である。

――ふたりの『どうぶつの森』歴は?

あげなす 3DSの『とびだせ どうぶつの森』が最初です。当時、周囲で流行っていてその流れに乗ったというカタチですね。

かえる 私は初代、ニンテンドウ64からはじまって小学生時代にゲームキューブ版がリリース。そこでハマってから1度は離れていたのですが、今作から久しぶりに再開しました。

――現在、我々が利用しているスプレッドシートには長い歴史があるということでしたが、どのくらい前から存在しているのでしょうか?

あげなす もともとは前作『とびだせ どうぶつの森』のときから作成は始まっています。当時はもっとシンプルなもので、そこにGoogle Apps Scriptなどを取り入れることで以前よりも複雑なことが出来るようになったんです。

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▲Google Apps ScriptとはGmailやGoogleカレンダーなど、Googleのツールやサービスを連携して利用するためのプログラミング言語。興味がある人は公式を確認してほしい。

――参加するプレイヤーは毎日2回、午前と午後で変化するカブ価をDiscordに入力。そのデータが自動でスプレッドシートに反映されていく仕組みですが、従来のものと大きく違うポイントは?

あげなす メンバーを元管理できるようになった点ですね。1ヵ所に書き込むだけで用途の違うすべてのシートに自動で反映され、簡易的なカブ価の変動予測や購入と売却の平均値を打ち出す。その細かな数値が従来よりも無機質なものになるよう志しています。

――ここまで来ると仕事ですよね

あげなす そうですね、むしろ仕事らしさが出るよう向き合っています。

――今回のツールを利用して最初に感じたのがウリbotの賢さでした。“@uri 教えて”とDiscordに入力すれば、書き込んだプレイヤーの島を対象にしたピークの曜日と価格の幅。来週の予測と傾向などを教えてくれる。これは、日々メンバーが書き込むカブ価データを参考に、数を蓄積することで正確性が高まっていくわけですよね。

かえる そうですね、もともとこうしたコミュニティは2チャンネル時代にもありました。私はそこに関わっていませんが、当時はもっとフワっとした予測と情報共有だったんです。しかし、現在このコミュニティで使っているものは参加されているプレイヤーたちのデータをスプレッドシートに反映。統計を打ち出すことでいまでは正確な情報をウリボットが発信できるようになってきました。

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▲現在、我々が利用しているDiscordのグループチャット。毎週午前と午後のカブ価を各々が入力すると、その統計からウリbotが傾向を教えてくれる。そのおかげで赤字は絶対なし、毎週数百ベル単位の儲けを安定して得ることができているのだ。

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▲カブ価は上下するが振れ幅が少ない波型、売値が下がっていく傾向にあるジリ貧型。そのジリ貧型から急に値上がる3期型や4期型といったパターンがある。それをDiscordに書き込んだ数値から自動的にスプレッドシートでグラフ化するのだ。

――もう大幅に外すことはない?

かえる 現行のスクリプトはつねに私がプログラムを裏で手直しする“あったかいスクリプト”で、絶対に間違えないところまで来ていますね。

あげなす あったかいスクリプトっていいですねw

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▲ある週のはじめ、ウリbotが今週は全体的に渋いと予想。半信半疑だったのだがその通りの展開になった。こうした正確な情報をウリbotがつぶやけるのもかえるさんのおかげである。

蓄積した数値からその人の生きた証を

――噂では現在アプリ版も開発しているということでしたが、これはどういったものになるのでしょう?

かえる じつはウリbot以前から一応完成はしているんです。いわゆるブラウザから利用できるwebアプリというやつですね。ただ、「それよりもDiscordを使ったほうが楽だよね」っという話からウリbotを作成。いまはそれでいいという考えでいます。

あげなす ボクからみてもこのアプリは完成度がとても高い製品といっていいレベルなんです。ただ、そこに“息吹”みたいなものがないと感じてしまうんですよね。

――息吹?

かえる 私はどちらかというとスプレッドシート上でやり取りすることが好きなんです。それこそ、クローズドでオタクなコミュニティならそれでよかったんですが、全員の目的は1つ“カブで儲けたい”ということですよね。そうであればできるだけライトに、カブ価を書き込むだけでボットが傾向を教えてくれるDiscordを介したものがベストだろうと考えたんです。

――利用する側から見ればシンプルで便利ですが、それだとスプレッドシートに反映されている統計を目にするプレイヤーは少なさそうですよね。

かえる そこなんですよ、webアプリはスプレッドシートの良さが消えてしまっていた。私は表計算って無機質なようでいて人間味があると感じているんですよね。そうした感覚、あげなすさんの言葉で例えるなら“息吹”が消え、小綺麗なものにまとまってしまっていたんです。

あげなす なぜ、スプレッドシートにこだわっているのか。それは、亡くなったお父さんがプレイしていたレースゲームにゴーストデータが残っていたというエピソードが大きく関わってくるんです。

――2014年ごろ話題になった青年のエピソードですね。

あげなす はい。例えば、遺骨は故人そのものなので誰しもが感情を呼び起こすことができる。一方、レースゲームのゴーストデータは記号の羅列、方向キーを入力した譜面でしかないのですが、それも故人がプレイした大切な痕跡なんです。これは見る人によってとても重要なものであり、そのゴーストを上書きしたくないという想いが湧いてきますよね。

■当時話題になった映像

――生っぽいものを排除した結果、ただの記号にすぎないものにも独特な感情や想いが宿ると。

あげなす そういった構造がボクは好きなんです。例えば、数年ぶりにスプレッドシートを見返したとき、みんなが書き込んでくれた数値とその統計から生み出されたグラフなど、ただの数値の羅列に各々の思い出、エモーショナルな気持ちが湧いてくると思いませんか。

――データの先に生身の人間がいるという証ですね。

あげなす そうしていま、新型コロナウイルスをきっかけにみなさん自宅で過ごす時間が増えている。日記を書くことはできなくても、このコミュニティで日々のカブ価を入力していくことで、みんなと外に出て遊んでいるような感覚を味わってほしい。いつの日かスプレッドシートを読み返したとき、いまこの世界情勢の中を生きていたんだと思い出すことができないかと考えているんです。

――たまにカブ価を書き忘れた人のブランクも、「この日、○○さんは寝坊しちゃったのかな」とか想像すると楽しいですね。

あげなす そうそう、その生々しさがこのスプレッドシートにはある。購入したカブの量も記載されているので、そこから「この週はかなり欲張ったんだな」と勝手に想像するのが好きなんですよね。

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▲2014年に81才でこの世を去った現代美術家・河原温氏の代表作となる日付絵画“Today”シリーズが好きだというあげなすさん。河原氏は作品を描いた日付けを単色の背景上に表現。そのとき生きていたという事実だけが残る人の生っぽい部分が究極まで削ぎとされたものであり、今回稼働しているスプレッドシートに通ずるものがあると語る。

――Discordはカブ価を書き込むコストを極限まで削ぎ落とすためのインターフェイス。膨大な情報を端的に伝えてくれるのがウリボットなんですね。

あげなす そうですね。それ以外の面で言えば、メンバーの増加に合わせてサーバー名を英語から日本語に、概要の案内なども“いらすとや”を活用して柔らかく伝わるように改善。少しでも親しみやすいものにしようといろいろ改善したことを覚えています。

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▲スプレッドシートに蓄積されていくのはただの数値ではなく、各々がそのとき気にかけ書き残した確かな生きた証。そう考えれば、もっと積極的にメンバーと交流をしたくなる。

カブ価をデータ化する男たちの願い

――ウリbotを作っているかえるさん、じつはカブで儲けてない説があるんですが?

かえる えぇ、1ベルも儲けていませんw 日中仕事の都合で売りにいくことができないのですが、最大の理由は1台のNintendo Switchを家族で共有して『あつ森』をプレイいること。その1人が遊びに行く相手先の島がタイムトラベラーなんですよ……。

――あぁ、遊びに行った瞬間にカブが腐ってしまうんですね……。

かえる そうなんです、それで買い込んだ約200万ベル分のカブを腐らせて以降は買ってもいないですね。

――いつか旨味を得てほしいですねっ

あげなす きっとかえるさんもそうだと思うのですが、ボクら稼ぐのは二の次でこのシステムを作ることのほうが楽しいんですよ。

かえる それはありますね。

あげなす 例えば、スプレッドシートとウリbotが通信する仕様策定などの打ち合わせは完全に仕事のノリですし仕事っぽさがあればあるほど楽しい

かえる とくにウリボットの仕様を決めるときは2時間くらいじっくりミーティングしましたよね。

あげなす じつは、いまみなさんが利用しているスプレッドシートに当時のメモが残ってるんですよ。

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▲このメモが2時間のミーティング中に上がったウリbotの仕様を書き残したもの。

――メモといえばスプレッドシートのToolをいうタブの中にもありますよね。これは何なんでしょう?

あげなす あ、それは外部から拾ってきたカブ価の変動を示すフローチャートを、ボクと妻で数式化したものなんです。きっと多くの方は拾い元画像のほうが見やすいと思うのですが、ボクやかえるさんのような人間にとっては逆にわかりにくい。それを概念として抽象化したのがそのメモの正体というわけです。

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▲外部から拾ってきたフローチャートは割愛。こちらにあるのがあげなすさんと奥さんがまとめた数式だ。フローチャートに至るまでの材料を一般化できることを示している、らしい。残念ながら筆者にはこれではさっぱり理解できません!w

かえる そうだ、ウリbotのフローチャートもメモもありますよ。ほら、これです。ふだんウリbotが考えていることの裏側ですw

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▲これがウリbotのフローチャート。Discord上ではボットとはいえ、語尾に「だに~」とつぶやくウリに、どこかゲーム内のウリを重ねて愛らしさを感じていたのだが、こうなってしまうと完全なインテリ動物である。

――最期に、このツールは今後も機能を追加していくのでしょうか。

かえる やろうと思えばできるのですが、webアプリを開発したときに本来の目的がそこではなかったと気づいたんです。いまのDiscordボットがありつつ、裏でやばいスプレッドシートがあるという状況を作ることができて良しと感じています。

あげなす 何を持って完成かと考えるならば、それは2、3年後に見返したときだと思います。例えばそれが『あつ森』に飽きたとき、このスプレッドシートを眺めながら当時のことに思いを馳せることができればいいですね。

 

 

今回のインタビューではDiscordとスプレッドシートの連携方法。実際、我々がどういった仕組みの上でカブ価を管理しているのかには言及していない。

ただし、掲載しているスプレッドシートの画像から仕組みは読み解くことはできるので、興味が湧いた人はぜひチャレンジしてみるといいだろう。

いまはTwitter上でもカブの情報を多くのプレイヤーが拡散。高額買取りをしてくれる島主が空港のゲートを開放していることも多い。

筆者も確変がきたときにはTwitterで拡散するので興味がある人はチェックしてもらいたい!!

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P.N.深津庵
※深津庵のTwitterはこちら

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