5Gがゲームにもたらす恩恵とは?“5Gインパクト~5Gによって“ゲームチェンジ”は起こるか?”リポート【TGS2019】

2019-09-13 18:23 投稿

5Gで新たなゲーム体験が生まれる!?

2019年9月12日より開催中の国内最大級のゲームの祭典“東京ゲームショウ2019”。

そのビジネスデイ初日である12日には“5Gインパクト~5Gによって“ゲームチェンジ”は起こるか?”という基調講演が行われ、ゲーム業界の内外を問わず多くの注目を集めた。ここでは、そんな基調講演の内容をお届けしよう。

【登壇者】
中村武宏氏 NTTドコモ 執行役員 5Gイノベーション推進室長
森下一喜氏 ガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長
小林繁氏 シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部長
佐藤英昭氏 スクウェア・エニックス 執行役員/ジェネラル・マネージャー 情報システム部
Ethan Wang氏 NetEase Vice President

【モデレーター】
山田剛良氏 日経 xTECH副編集長

本講演のテーマは、2020年の日本国内サービスが期待される新たな通信規格“5G”。この新たな通信技術、通信インフラがどういった能力を発揮し、“ゲーム”というサービスでどのような体験を提供できるのか? そしてそこに新たな経済圏が形成されるかが語られた。

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▲左から中村武宏氏、森下一喜氏、小林繁氏、佐藤英昭氏、Ethan Wang氏。

5Gの通信速度は現状の数倍に!

講演はまず、NTTドコモが5Gに関して行ってきた試みから説明された。

現在一般的に携帯通信として使われている第四世代通信規格“4G”が導入されたのは2010年。NTTドコモはそれから10年後となる2020年に第五世代を導入することを目標に、かねてより計画を立てていたという。しかし現在は、世界の動向に合わせる形で、2019年より試験的に導入を始めることにしたとのこと。

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より具体的なNTTドコモの“5G”導入予定日は、2019年9月20日。ラグビーワールドカップ2019の開始を契機に、5Gを活用した各種新サービスを提供していくことになるそうだ。

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5Gが本格的に話題になってきたのは最近のことだが、NTTドコモは以前から実証実験をくり返してきていた。2017年には5Gにおけるパートナー枠を拡大し、2018年6月末には2800社を超える企業がパートナープログラムに加わったそうだ。

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では、こうして5G通信について研究や実験を重ねてきたNTTドコモで5Gイノベーション推進室長を務める中村武宏氏は、これがゲーム業界にどのような影響を与えると考えるのだろうか? 中村氏曰く「5Gの稼働がゲーム業界に与える大きな影響は、低遅延性、通信速度に起因したものが考えられる」とのこと。

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具体的な技術についての話は割愛するが、やはり5G最大の売りは通信速度。NTTドコモは、下り(ダウンリンク)で最高20Gbps、上り(アップリンク)でも最高10Gbpsという驚きの通信速度を記録したという。

通信速度というものは、データ授受における端末の処理能力によっても変化する。現行ハイスペックと呼ばれるスマートフォン端末ですら、データ通信の最高速度がようやく1Gbpsを超えた段階なので、この20Gbpsという数値がいかに大きなものなのか、想像は容易だろう。

もちろんこの速度はあくまでも最高速度の話であり、常時20Gbpsを発揮し続けられるわけではないのだが、しかしそれでも十分に魅力的なスペックと言えるだろう。

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しかし、こうした利点ばかりに注目が集まり5Gへの期待が大きくなりすぎたためか、「5Gは誤解されている面も多い」という。「5Gは導入当初から、いつでもどこでもあらゆるケースに対応した完璧な状態で利用できる」という誤解だ。

4Gのときもそうだったが、新しい規格を導入するには通信基地も改修していったり、新たに基地局を立てていく必要がある。そのため5G通信は、一部エリアから導入を始め、数年間かけてエリア拡大を目指していくそうだ。そのため、5G提供開始からしばらくは、既存のネットワークの高度化させ、4G通信と併用していくことが重要になるという。

また通信速度については、先に軽く触れた通り端末にも依存するものなので、端末自体のスペックが向上しない限り、理論値に近い数値が得られることはなく、おそらく使用できるのは数ギガbpsになると予想されているようだ。

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こうした5Gの現状に対して、パネラーの面々は一様に期待を寄せつつも、新たに生まれるであろう問題についても、すでに考えを巡らせているようだ。とくにシャープの小林氏は、スマートフォン端末を作っている会社として、ほかの業界関係者にはない、大きな壁を感じているという。

その壁とは、先にも軽く触れた“端末スペックによって発生する回線速度の上限”。携帯電話キャリア各社が、どれだけ尽力して基地局を作っていっても、高速通信に対応できるスマートフォンでなければ、理想的な回線速度は実現できない。

しかし、5Gに耐えうる端末を作るには、高い処理能力はもちろん、放熱などの問題もついて回ってくる。こうした背景を把握しつつ、小林氏は5Gが広く展開される将来を見据えて「5Gの仕様に耐えうるスペックのスマートフォンを作っていくことが、端末メーカーとして貢献できる部分だ」と語った。

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5Gの本格稼働までに立ちはだかるであろう問題を確認したところで、続いては山田剛良氏から“5Gが導入されることでどのような恩恵があるのか”という点が語られた。

高速、大容量、低遅延の通信が可能になる5Gから受けられる“わかりやすい恩恵”としてあるのは、やはり動画コンテンツについて。山田氏によれば、5Gが本格稼働すれば、データ容量が大きい超々高解像度動画である4Kや8Kの動画もスムーズに視聴できるようになるという。

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これについては、多くの人が想像できることだろう。しかしゲーマーとして気になるのは動画ではなく、“ゲームでどのような恩恵が受けられるか?”だ。

一瞬の判断が大切になる対戦、アクションゲームでは5Gの低遅延が、ゲームクライアントのダウンロードやesports番組の高画質視聴には大容量高速通信が役立ちそうだが、果たして。

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テーマ1 「10Gbps」はゲームをどう変える?

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基本的な知識の紹介から始まった基調講演のトークセッション。最初のテーマは、“「10Gbps」はゲームをどう変える?”。

ここでまず口を開いたのは、NetEaseのEthang Wang氏。氏は通信環境の変化について、中国のユーザーはどのように受け止めているのかを語ってくれた。

Ethang Wnag氏「中国では4Gの普及が遅れたぶん、導入後はモバイルゲームの方向性が大きく変わりました。これと同じように、4Gでは解消できなかった遅延の問題が5Gで解消すれば、これまで実現できなかったようなシステムも作れるのではないかと考えられています」

なお、ここで挙げられた“これまで実現できなかったようなシステム”とは、コアなゲームファンすらをも満足させられるようなリッチな作品や、低遅延性や大容量を活かした、ARとVRとを組み合わせたようなタイトルの開発が考えられるという。

また同じくゲーム開発者として語ってくれたのは、ガンホーの森下一喜氏。氏は「これまで、多人数が同時接続するようなゲームでは、通信速度・容量の問題から、同期接続を諦めて非同期接続を選択することもあり、そのたびに歯がゆい思いをしてきました。5Gは、そういった歯がゆさからも脱却させてくれる可能性を感じているので、将来性を感じています」とコメント。

しかし当分は4Gと5Gとが混在することになるため、開発者としては5Gを前提としたような開発、設計を進めるのは当分先の未来になるという。

テーマ2:“1ms”はゲームをどう変える?

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続いて、5Gによって遅延がなくなるとどうなるかというテーマでトークが展開された。

これについて森下一喜氏は「本当に遅延を無くせるか疑問は残る」、「遅延がなったからと言ってゲームがおもしろくなるわけではない」としつつも、「本当に実現したら“これまでのゲームのセオリーに沿わないくらい画期的なもの”すら生まれてくるのではないか」と発言。

遅延がなくなることで生まれるメリットに理解は示しつつも、それはゲームの面白さに直接影響するかは疑問といったところだろうか。

この話を受けて出された「実際に遅延がなくなり、レスポンスが早くなったらどのようなゲームを作りたいか」という質問に対しては、NetEaseのEthan Wang氏が回答。「遅延がなくなれば、回線速度によって有利不利が生まれるケースが減るため、とくに回線速度や端末スペックによっても有利不利が生まれがちなesports分野においては、より公平ですばらしい体験ができるようになる」という。

こうした話を受けて、スクウェア・エニックスの佐藤氏は「開発としては、遅延がなくなるのは幸せだが、経営という目線で見ると“5Gに対応したインフラへの投資や維持”にどれくらいの費用がかかるのかも考えていく必要がある」と語った。

たしかに、もうずいぶんと前から「モバイルゲームは開発費が抑えられるし儲かる」といった時代は終わっており、開発費はコンシューマゲームのように年々大きくなっているという。そういった環境下で、インフラコストがどれだけ膨らむのかは、思考からは外せない要素だろう。

ちなみに、シャープの中村氏はこの遅延について「ネットワーク遅延を短くする取り組みを企画しているので、1msとまではいかないものの、遅延を数msに抑えられるようには可能になると考えられています」とコメント。ネットワークの遅延低下は、起こると見て間違いなさそうだ。

しかし、遅延というものはネットワークから生まれるものとはまた別に、映像データをディスプレイに描画する際にも生まれるものであるため、現在はそのボトルネックをどう解決していくかも重要だそうだ。「通信環境の進化を端末側が引っ張ることのないようにしていくことが、メーカーとしての使命である」というのは、中村氏の弁。期待したい。

●テーマ3:“5Gスマホ”はゲームをどう変える?

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続いてのトークテーマでは、5Gに耐えうるスマートフォンの必要性が語られた。これまでも端末の重要性が話題に出ていたが、そこに焦点を当てた内容だ。

ハイエンドスマートフォンの場合、ハイスピードを持続できるかどうかが、まず重要。またそのほかバッテリーも重要だという。それは消費電力の問題でもあるが、発熱も課題だという。難しい話はさておき、バッテリーからの放熱量が上昇し、端末の温度が上がってしまうと、熱暴走と呼ばれる端末が動作不良を起こす可能性が高くなってしまうのだ。

なので、こうしたバッテリー問題も解消されて初めて、「端末が5Gに適応した」と言えるようになり、そこで初めて4K動画などをスムーズに視聴できる時代が訪れると小林氏は語る。

これに対して佐藤氏は「バッテリーの放熱については開発側で上手くやっていける部分もある」と述べており、開発としても消費電力には意識を払っていることが伝えられた。

●テーマ4:“5Gネットワーク”はゲームをどう変える?

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では結局、5Gという新たな通信規格はゲームを変えるのか? 今回の講演でもっとも気になる部分がセッションの最後で語られた。

このトークテーマ内では、ゲームにとどまらず建築業界や医療業界でも、リモート作業での需要があることなどが語られ、その低遅延性が持つ未来がどれほど明るいものなのかが語られたが、これについては割愛。

ゲームについては、同時接続性と通信速度の向上を活かした、“みんなでシンクロすることを楽しむイベント”が佐藤氏から提案された。これまではネットワークを介して全員に指示を出し、そのアクションを完全に同期させることは難しかったが、5Gではそれも可能になり、“大勢でシンクロするという新たなおもしろさ”というものも創出できる可能性があるという。

またこのほかにも、今後5Gという新たな技術を活かした、新たなデバイスやコンテンツが誕生する可能性があり、さらにそれがゲーム業界に影響を与える可能性もある。

5Gの完全な普及にはまだまだ時間を要すると思われるが、5Gの一般化を背景にして、どのようなものが生まれてくるのか? 今後の展開に期待していきたい。

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