モバイルゲーム業界のパイオニア、KLab次期社長“森田 英克氏”が語る10年の歩みと今後の展望

2019-02-21 12:00 投稿

KLabGames10周年、節目での新体制

KLab専務取締役であった森田英克氏が、代表取締役社長へと就任することが明らかになったのは昨年、2018年12月26日の話だ。

森田氏はモバイルゲーム黎明期から最前線で戦い続けてきた、言わば“モバイルゲーム業界のパイオニア”とも呼べる人物。

そんな森田氏に、2018年に成長が横ばいとなったスマホアプリ市場での今後の戦いかたや、新体制となる同社の展望、リリースが待たれる新作についてインタビューを行った。本記事ではその模様をお届けする。

 
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▲KLab専務取締役(CCO)の森田 英克氏

【略歴】
法政大学社会学部を卒業後、WEBプランナー、モバイルコンテンツプロデューサーを経て2002年にKLab(ケイ・ラボラトリー、当時)に入社。モバイルコンテンツの立ち上げ・運営を手がけ数々のヒットを生み出す。2009年12月、モバイルオンラインゲームアプリ専門子会社設立に際し、KLabGames取締役に就任。2010年のKLabGamesとKLabの合併後、KLab執行役員KLabGames部長に就任。2010年11月、取締役に就任。

きびしい市場から見出す光明

――まずは社長ご就任(予定)おめでとうございます。率直ないまの心境をお伺いできますか?

森田 英克氏(以下、森田) ありがとうございます! 市場環境としてきびしい中で社長となるので、非常に緊張感がある状態ですね。といっても、強い意志を持って会社を成長させていこうと思っていますので、緊張感を持ちながらやる気が満ち溢れているという感じですね。やれることは多いと思っておりますので、本当にワクワクしています。

――市場がきびしいというのは2018年のスマホ市場状況を見てということでしょうか?

森田 もちろん、それもそうですね。また、どの会社も同じようなことが言えると思うのですが、1プロジェクトあたりの規模がどんどんと大きくなってきていて、打席に立てる回数が減ってきているということ。お客様から求められる品質レベルというのが、以前に比べるとかなり上がってきているという状況があります。なかなか失敗できない環境ではあるのですが、その中で成功し続けなければならないということが難しいところかなと思います。
――そのきびしい市場に対して、森田社長はどうアプローチすべきだと考えていらっしゃいますか?

森田 KLabの場合は日本だけではなくグローバル規模でマーケットを捉えているので、世界中のさまざまな国からしっかりと売上が上がる状態に持っていくというのが、戦いかたのひとつかなと思います。もうひとつは品質ですね。“本当におもしろい”と思えるものをお客様へ提供するということを大切にやっていきたいと考えています。

――新体制となるにあたり、新生KLabとしてのビジョンもお伺いできますか?

森田 2012年に専務取締役として経営に参画して以来、現社長の真田、現副社長の五十嵐とは密にコミュニケーションを取ってゲーム事業の舵取りをしてきました。自分が新社長になったからといって、ガラっと大きく何かが変わるというよりは、元々進めてきた方針や戦略を磨きつつ、これまで温めてきた“KLabらしさ”をより活かすようにしていきたいと考えています。

ビジョンとしては、“世界と自分をワクワクさせろ!”というものを掲げて何年もやっているのですが、この点を忠実にやっていきたいと思っています。世界というのは文字通りグローバルという意味もあるのですが、それだけではなく、お客様であったり、消費者の皆さますべてを指している言葉でもありまして、世界中のお客様にワクワクしてもらえるようなゲーム作りやサービスを展開していきたいと思っています。

――また、KLabGames2009年の設立から10周年もおめでとうございます。この10年を振り返っていかがでしたか?

森田 ありがとうございます。ゲーム事業としてはmixiアプリに参入したのが最初で、当時は少人数で始めた事業でしたが、いまでは500人以上のスタッフに働いてもらっています。ほぼゼロからスタートだったので、ここまでこれたということに対しては感慨深いものがありますね。

――KLabGamesはいち早くモバイルゲーム市場に参入し、頭角を現した印象がありますが、モバイルゲーム黎明期の思い出はございますか?

森田 最初に作った『トイボット・ファイターズ』、さまざまなお客様に遊んでいただいたものとしては『恋してキャバ嬢』ですね。

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▲『恋してキャバ嬢』は、キャバ嬢となりお店に訪れるお客への接客ミニゲームや恋愛体験を通してナンバー1を目指していくソーシャルゲーム。ソシャゲ黎明期の3大プラットフォーム(mixiアプリ、GREE、モバゲータウン)でサービス提供が行われ、500万人以上の利用者を誇るヒット作となった。

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▲『トイボット・ファイターズ』は、“トイボット”と呼ばれる近未来ロボットをさまざまなパーツやAI、必殺技などを組み替えてバトルしていくシミュレーションゲームだ。基本プレイ無料のアイテム課金制をいち早く取り入れた作品。

この2作品は続編を作ったりですとか、その後も名前が残った作品なのですが、最初2~3人のスタッフで始めて、1プロジェクトにプロデューサーひとりだけみたいな状況もあったりして……。あとは外部のパートナー企業様と協力して進行していたんですよ。よくあるベンチャー、スタートアップ企業のようなもので、みんな家に帰らず泊まり込みで品質を上げるために頑張り続けるとか、最初はそういう感じでしたね(笑)。

――泊まり込みとは……!! 中々ハードな毎日を過ごされていたんですね?

森田 そうですね…! もともとKLabという会社は、企画も開発もクリエイティブも揃っている会社だったのですが、ゲーム事業に関しては新規立ち上げだったので、新規チームという形で私を含めて5人くらいでやっていました。なので、最初は会社の本流のチームとは切り離されたところで立ち上げをやっていたんですよ。

ヒット作が出てサービス規模が大きくなるのに従って、会社のリソースがどんどんとゲーム事業の方にも割かれるようになっていきました。さながら、RPGのような形でひとり、またひとりと仲間が増えていったイメージです(笑)。

好調な勢いを見せるグローバル施策

――2017年の3月“KLabGames NEXT VISION”で発表されたKLabGamesの3つの柱“3 PILLARS”に沿ってのことかと思いますが、海外展開が好調だと伺いました。いちばん盛り上がっているタイトルと地域はどういったところになるのでしょうか?

森田 海外展開でうまくいっているタイトルは『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』(以下、『キャプテン翼』)と、『BLEACH Brave Souls』の2タイトルですね。

『キャプテン翼』でいうと成績がいい地域は、香港とアラブ沿岸諸国、欧州です。うまくいっている要因としては、『キャプテン翼』自体がグローバルでたくさんのファンを抱えるIPだったという点と、IPのよさを最大限表現できるようなゲーム作りを心掛けたという点。加えて2017年、2018年のトレンドでリアルタイムユーザー間対戦(PvP)が世界的に盛り上がった流れにうまく乗れたのかなと思います。

『キャプテン翼』はリアルタイムPvPに重点を置いたゲームなので、そこが国や文化を超えて楽しんでいただけていると思っています。
『BLEACH Brave Souls』は欧米でおもにご好評をいただいておりまして、その要因としては協力プレイが盛り上がっているんですよね。そこがエンドコンテンツになっていて、ちょっと『ハクスラ』っぽいノリだと思うのですが、それで長く遊んでいただいているのだと思います。

――世界各国、さまざまなマーケット傾向があると思うのですが、お客様の課金単価としてはどの地域が高くなってくるのでしょうか?

森田 顧客単価でいうと意外なことに、いわゆる先進国というカテゴリーに属さない国が高くなってくるケースも多いです。

――その要因は森田社長から見て、どう分析されていますか?

森田 具体例を挙げると、『キャプテン翼』だとアラブが高くなっています。ゲームをやる層の平均所得水準が恐らく高いのかなと。すごくシンプルな回答になってしまうんですけど(笑)。

――石油王……ですかね?

森田 (笑)。石油産業などで富んでいる地域なので、日本の富裕層より平均すると高いのかもしれないですね。詳しく調べてはいないのですが、データから見るとそういう推測ができるのかなと。

――私はてっきり日本が高いものだと思っていましたが、予想外でした。

森田 日本も十分高いのですが、アラブがそれに輪をかけて上を行っている感じですね。それから香港も高いですね。イメージとしては日本に非常に近いです。

――ユーザー数でいうと、どの地域が盛り上がっているのでしょうか?

森田 けっこうバラけてはいますね。香港と欧州とアラブで三分割しているイメージですね。『BLEACH Brave Souls』はアメリカがダントツで、そのつぎに欧州といった形です。

――海外展開をするうえでKLabGamesが軸としていることはありますか?

森田 基本的には、すべてのタイトルでグローバル展開をするということを決めてプロジェクトをスタートしています。仕組み的にはいつでもグローバル展開できるように作っているんですよ。まず日本版を作って、それが当たったら海外版を作ろうというやり方をしてしまうと、チームがふたつになってしまうんですよね。日本語チームと外国語チームといった風に分けて別の開発をしなければいけなくなってしまうので、それを避けるために初めからひとつのシステムで多言語対応ができるように作っておいて、調子のよい地域の言語を追加していく……という感じですね。

後は、日本らしいオリジナルIPを作ろうといま進めておりまして、海外でウケるためのものを作るという考えではなく、日本らしさをどう表現していくか、という点を重視しています。

 
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――世界各国でのアプリ展開を行うKLabGamesですが、マーケティングの拠点は? 差支えなければ方法もお伺いさせてください。

森田 すべて日本(六本木)で展開しています。

――六本木からこれらの国すべてにアプローチしているんですか!? よく海外支社を置かれる会社もあると思うのですが、六本木に集約している意図はなんでしょうか。

森田 単純に我々がやっているマーケティングは、大方オンラインマーケティングになってきたので、物理的に現地に居なければできないことが少ないというのが大きいですね。

ひとつ下地としてやっていることが、ユーザー獲得の広告出稿なんですけれども、これはいまアドツールがかなり進化しているので、世界中どこにいてもオペレーションできます。

つぎに重要となってくるのがコミュニティマネージメントです。これはFacebookやTwitterを活用したコミュニティ、YouTube等を使った動画配信などを通して、ダイレクトにユーザーと関わっていくという手法ですね。これも特段現地に居る必要性はないので、時間帯を現地に合わせさえすれば、日本から配信先の国のネイティブスタッフが対応できます。

このふたつのマーケティング方法で弊社のタイトルに関しては、ある程度のユーザーにリーチできているのかなと思います。
これ以上大規模なマス系の広告などが必要になるようなタイトルであれば、現地マーケティングが重要になってくるとは思うのですが、それについては今後になりますね。

――今後更なるグローバル展開を予定しているとのことですが、具体的にどういった展開を行っていくのでしょうか。

森田 新作タイトルは、基本的にすべてグローバルで展開する予定です。先行リリース国でのKPIが著しく悪いといった状況にならない限りは、という条件付きですが。

後は中国のパートナー企業と『BLEACH』の新作タイトルを作って、それを中国と繁体字エリアの4つの国と地域でリリースしました。こちらは非常にリアクションがよく、こういった弊社とは違う強みを持った企業と組んでゲームリリースをしていくということは継続的にやっていきたいと思っています。

リリースが待たれる『禍つヴァールハイト』のいま

――オリジナルIPですと、『禍つヴァールハイト』のリリースがいちばん近くなるのでしょうか? 時期が非常に気になります。

森田 状況をご説明すると、一般のお客様から募集はしていないのですがクローズドβテストをやっていて、これも何回もくり返していて、徐々に完成度をあげている段階です。ひと通り遊べる段階にはなっているのですが、細かいブラッシュアップを進めているという形です。

――リリースが待ち遠しいですね。明言は難しいと思うのですが時期的な目標はありますか? 桜の散るころには……のような(笑)。

森田 弊社の方針として「これで絶対に大丈夫」と確信が持てる品質になるまで出せないんですよね。社長になる私が「早く出せ!」と言ってもGOは出ない、そういう仕組みなんです(笑)。

中途半端なクオリティや品質で妥協してリリースしてしまってユーザーの支持が十分に得られなかった場合、それを後からリカバリーするのは非常に困難であると考えていますので、経営サイドの都合で現場に無理やりリリースを迫っても、いいことはないと考えています。

――現場を尊重されているんですね。

森田 現場の開発チームもリリース権限はじつはないんですよ。品質管理を担う専門のチームが、「このクオリティであれば問題ない」と判断して、初めてGOが出るという形です。

――森田社長ご自身もテストプレイに参加されているんですね。

森田 もちろんしています!

――森田社長がプレイして感じた、『禍つヴァールハイト』がほかRPG作品に負けないというポイントをお伺いできますか?

森田 ストーリーをまず推したいですね。家庭用の人気RPGタイトルをプレイしているような感覚で遊べると思います。弊社内のストーリーにうるさいスタッフも、「これ惹きこまれて最後までプレイしちゃったよ!」という声もあるくらいです。最後というのは初期配信分ですね。

なので、ストーリーに関しては自信を持っています!

 
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――ソシャゲのRPGは往々にしてエンディングを見据えていないものもあるかと思いますが、本作に関してはいかがでしょうか?

森田 そのあたりはゲームプロデューサーに一任しているので見えていない部分が大きいのですが、いろいろなプランを考えているようですね。でも、ぜんぜん中身を教えてくれないんですよ(笑)。

本当にテスト版で渡されて初めて知る、みたいな……(笑)。大枠やコンセプトは会議で事前に承認しているのですが、物語として読むのは初めてだったので「こういう話だったの!? おもしろいな!」みたいな。

もともとのコンセプトとして、本作独自のカラー・世界観を出していこうというので プロジェクトが始まっておりまして、実際あがってきたものを見てもしっかりオリジナリティがあり、ユーザーの方々から見ても魅力的に感じていただけるような要素が詰まっている作品だと思います。

――ストーリー性に関してはかなり期待をしてしまうお話がお伺いできたのですが、RPGのもうひとつの肝とも言えるバトル関連ではどういったポイントをブラッシュアップされたのでしょうか?

森田 マルチプレイまわりはチューニングをかなりやっているようですね。やはり、マルチプレイがほかのプレイヤーと協力して敵を倒すなどおもしろさを感じていただけるポイントだと思うので、そこについては重視しています。後はバトルのバランスですが、こちらに関してはいい感じなのではないかと思います。

――ということは……近そうですね!?

森田 どうですかね(笑)。私も早く皆さんと一緒にプレイしたいな、とは思っているのですが。

――事前登録者数や、事前生放送を見るに『禍つヴァールハイト』はかなりのゲームユーザーから期待されているように思います。楽しみに待っているユーザーの方へコメントをいただけますか?

森田 ストーリーを重視したオンラインRPGになっているので、導入のところは皆さんに楽しんでもらえると思います。ストーリーの初期配信分が終わっても、やることはたくさんあるように作ってあるので、スタートダッシュで一気に強くなって運営が次に何を仕掛けてくるのか、それをぜひ楽しみにプレイしてほしいです。

――やりこみ要素がふんだんに盛り込まれているという様子ですが、そういったやりこみ系ゲームが好きなユーザーは期待していいですかね?

森田 そうですね。育成の深みはかなりあると思っています。後はコンテンツもかなり用意しているので、強くなればなるほど、より楽しめるものになっています。

KLabGamesが求める人物像

――最後に、KLabGamesではエンジニアやクリエイターの採用活動にも注力していくといったお話をお伺いしました。KLabGamesならでは! と言えるストロングポイントや魅力をお伺いできますか?

森田 チャレンジに対してまわりが応援していくという風土がありまして、私自身もそこをどんどんと応援していきたいと思っています。新しいことに挑戦してみたいという方だととても水が合うのじゃないかなと思います。

また、堅苦しいことを言うような社風ではないので、クリエイターの方がこんなことやってみたい!とかこんな機材を使いたい!といった要望はできるだけ叶えるようにしています。機材って重要じゃないですか。後は弊社はゲームを作る会社ではあるのですが、作ったコンテンツがゲーム以外に展開していく可能性があるのと、日本だけではなく世界中に届けられるという点に、“やりがい”を感じられる方だといいと思います。

――森田社長が求める人物像とはどんな方でしょうか。

森田 まずは成長意欲が強い方ですね。いま何ができるかというより、これから何をしたいかといった夢や目標がある人であればどんどん高みに上っていけると思うんですよね。弊社は短期で人を見るような会社ではないので、やる気さえあれば活躍できると思うので、そういう方に来ていただきたいと思います。

――最後に、KLab新社長として意気込みをお願いします。

森田 やることは2017年から定めた“3 PILLARS”を延長戦で展開していくことにはなるのですが、日本の会社でも世界でこれだけやれるんだ、ということを見せられるようなことをやりたいなと思っています。

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