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『シノアリス』『アナザーエデン』の世界観はどのようにして作られたのか ”ヨコオタロウ×加藤正人”トークイベントリポート

2017-11-22 15:00 投稿

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会場が満席になるほど注目されたヨコオタロウ×加藤正人対談

グリーに所属する開発スタジオ“Wright Flyer Studios”主催のトークイベント“Flyers’ Lab”の第2回となる会が開催された。

▼第1回の記事はコチラ!

1iスマホゲームにおけるシナリオとは?『マギレコ』、『アナデン』、『タガタメ』などのシナリオを手掛けた面々によるトークイベントリポート

今回のトークテーマは“世界観”

『SINoALICE(シノアリス)』(以下、『シノアリス』)、『ニーア』シリーズなどを手掛けるヨコオタロウ氏と、“Wright Flyer Studios”(以下、WFS)のヒット作『アナザーエデン 時空を超える猫』(以下。『アナザーエデン』)のシナリオ制作を行うクリエイター加藤正人氏をゲストに交えての座談会“ゲームの世界観を語る! ヨコオタロウ×加藤正人が行われた。

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座談会では、ヨコオタロウ氏、加藤正人氏両名が考えるゲームの世界観についてや、それを『シノアリス』プロデューサー前田翔悟氏、『アナザーエデン』プロデューサー古屋海斗氏がどのようにゲームに反映させたのかが語られた。

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▲写真左より、モデレーターを務めたWFS下田翔大氏、『シノアリス』プロデューサーの前田翔悟氏、原作・クリエイティブディレクターのヨコオタロウ氏、『アナザーエデン』のシナリオ担当 加藤正人氏、ディレクター古屋海斗氏。

ふたりの巨人のアイデアの源泉はどこに?

まずヨコオ氏と加藤氏が登壇して行われた第1部では、両名が考える“ゲームの世界観”についてが語られた。

そこでまず議題として挙げられたのは、“これまで両名が創り上げてきた世界観は、どのようなところから着想を得てきたのか”というもの。両名のアイデアの源泉に迫る興味深い話題だ。

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これに関してまず口を開いたのは加藤氏。

加藤氏ものを作るというのは、その人のすべてが表に出るということ。これまでの人生で何を見て、何を考えて、何を経験してきたのか。そういったインプットが自分の中でスープのように煮込まれてアイデアの源泉になるのだと、私は思います」

アウトプットをするには、それ以上のインプットが必要。ものづくりの現場ではもちろんのこと、我々言葉を使う業界でもよく言われることだ。

また加藤氏は加えて『アナザーエデン』を作ったときのことも振り返る。

加藤氏「僕は、ただそのとき作りたいと思ったものを作っているだけです。なので、よく人から“このストーリーで人に何を伝えたいのか”と聞かれることもありますが、とくにそういったものもありません。ストーリーを受けて何を考えるのかは受け手次第だと思います」

小さいころから絵を描いたりと、当たり前のようにものづくりに触れてきた加藤氏にとって、ものづくりをするというのは特別な行為ではないのだそうだ。そのためか、『アナザーエデン』も自分が作りたいものを作っただけだという。

一方ヨコオ氏は、アイデアの源泉について加藤氏とは大きく異なる答えを返してくれた。

ヨコオ氏「僕は、“物語の着想は?”と聞かれたとき、必ず“お金”だと答えています。なぜなら、予算や座組によって創れるものが変わってくるからです」

ヨコオ氏曰く、小規模チームで壮大な物語を描こうとしても、それをすべて表現することはできない。アイデアを実現するにはそのアイデアの規模によって相応のコストが求められるということのようだ。

確かに言われてみればその通り。ただオーダーを受けるだけでなく、かけられるコストに応じたものづくりを行う。それもまたプロとしての仕事と言えるだろう。

世界観の作りかたと、そこにかける想い

ここまでの話でもわかる通り、ヨコオ氏と加藤氏は、真逆とも言える考えかた、作りかたをそれぞれ取っているようだ。では、ふたりは具体的にどのようにしてゲームの世界観を作り出しているのだろうか。

トークテーマは“世界観の作りかた”へと移る。

加藤氏「僕はまず落書きから入ります。世界観もキャラクターも、風景も落書きからです」

ヨコオ氏は先ほども語られたインプットとアウトプットの話に絡めて、そのように語る。落書きからイメージを固めていき、そこから締切と戦いながら世界観を構築していくのだそうだ。

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▲『アナザーエデン』の世界観のベースとなったもの。落書きとは思えないほど緻密なイラストに驚かされる。

ヨコオ氏の意見は、またも加藤氏とは真逆のものに。

ヨコオ氏「僕はシナリオには感情のゴールが大事だと思っているので、そのゴールに向かうためには何が必要なのかというところから考えていきます」

世界観を掘り下げていくと、そこには多様な情報が付加されていく。その世界の文化背景、通貨、宗教観など。しかし、それらはシナリオを語るにおいて余計な情報となってしまう場合がある。

そしてユーザーにはユーザーのコスト。つまりは脳の記憶領域というコストが存在しており、余計な情報はコストの消費に繋がってしまうため、感情のゴールを濁してしまう原因にもなりうるという考えのようだ。

事実、ヨコオ氏が過去に担当した『ドラッグ オン ドラグーン3』では、地形や国名を深く掘り下げることをやめ、地図はヨーロッパの地図を上下反転させたものを用い、国名も“海の国”、“山の国”などとして、ユーザーの脳にかかるコストを可能な限り抑えるよう作られているという。

ただ、ヨコオ氏は必ずしもそれが正解ではあるとは語っておらず、あくまでも「僕の描くシナリオは世界観を楽しむものではなく、人間同士の群像劇なので、こういった作りかたをしています」とコメントをしている。

ゲームの中には、世界観をさまようこと自体に喜びを見出せるように作られているものもあり、それはこの限りではないということのようだ。

クリエイターにとって重要なこととは?

ここでは書けないような話がいくつも飛び出して盛り上がった第1部だが、“クリエイターにとって大事なものはなにか?”というトークテーマで、会は一段落を迎える。

ヨコオ氏はこれについて「人はよく“やりたいことをやるのがいい”と言うが、私は“やりたくないことはやらない”ということが大事だと思う」と持論を展開。

チームで動いている限り考えかたのすれ違いというのは必ず生まれる。そしてそのすれ違いの中には、“自分では必要と思っていないもの”でも、それが求められるというケースが発生することがある。

しかし、求められてそれを作ったところで、そこにかけたコストが結果に繋がる場合と繋がらない場合がある。そのため、ただ言われたらやるのではなく、そのコストをかけた分だけしっかりと結果が出るのかどうかを考え、それが必要のないものだと思えるのなら、ちゃんと「イヤだ」と伝えることが大事なのだそうだ。

ヨコオ氏「“イヤだ”と思ったことを“イヤだ”と言い続けるのはたいへんなことだが、それを言い続けることが大事なこともある」

自分の作り出すものに強いこだわりを持つヨコオ氏らしい一言でとして、ヨコオ氏は話を締めくくった。

一方の加藤氏は、クリエイターにとって大事なことはオリジナリティであると語る。

加藤氏「ひと昔前までは、多くの人が持っていないであろう知識を有した専門家が、それを武器に戦っていたが、いまはインターネット上で誰もがそうした情報に容易にアクセスできるため、それはもはや武器として機能しなくなってしまった」

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昔は、ギリシャ神話や北欧神話など、一般にはその詳細が知られていない知識で作られたものにもオリジナリティを感じたが、情報があふれている現在においては、それら専門知識だけで作られたものにはオリジナリティが感じられなくなってしまったということだろう。ユビキタス社会の弊害ともいえる現象だ。

それを前提とした上で、加藤氏は「自分で得た知識を自分なりに咀嚼して、自分のものとしてアウトプットできるかどうかが重要」とし、その咀嚼の仕方がオリジナリティに繋がるのだと示してくれた。

巨匠が描く世界観をゲームに落とし込むには多大なエネルギーが必要?

ここからは、『シノアリス』でプロデューサーを務める前田氏と『アナザーエデン』でプロデューサーを務める古屋氏も登壇し、第2部がスタート。トークテーマは“世界観がゲームに宿るまで”と改められた。

このトークテーマでまず語られたのが、各作品の世界観はどのようにして作られたのかという点。それをヨコオ氏、加藤氏といっしょに仕事をした人の目線から追っていくこととなった。

前田氏「ヨコオさんはコンシューマーゲーム作りをしていた人なので、我々が取り扱うソーシャルゲームとはゲームの作りかたが違い、そのギャップを埋める作業に苦労しました」

ヨコオ氏は、世界観とUIデザインに強いこだわりがあるらしく、ソーシャルゲームのそれとして作られたものにも修正要望を出してくれたという。

デザインはもちろん、UIひとつをとってもそれは世界観を構築するもの。その配色のひとつでも違和感あるものにしてしまうと、世界観を大きく損ねてしまうとのこと。

前田氏を始めとするチームメンバーは、そんなヨコオ氏の感性を学ぶため、ヨコオ氏が「このゲームいいね」とツイッターなどで発信した際は、その作品を実際にプレイし、ヨコオ氏の感性を研究したそう。

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これに対してヨコオ氏は「そんなの直接聞きにきてよ」と答え、会場から笑いを誘っていた。

このように、ヨコオ氏がチームをけん引していた『シノアリス』に対し、『アナザーエデン』側はと言うと。

古屋氏「私たちは、加藤さんが固めてきてくれたイメージを超え、加藤さんを驚かせるようなものを作ろうと意識して動いていました」

“企画者を驚かせるようなものを出していかないと、お客様を驚かせることはできない”という考えのもと、クリエイティブな場面においては加藤氏に勝負を挑むようなスタイルでガチンコでやりあって世界観をゲームとして形にしていったという。

これについて加藤氏は「僕が想像していたもの以上のものを出してくれたので、僕も嫉妬というか負けん気を刺激され、非常に盛り上がりました」と振り返っている。

加藤氏「いいチームがいい感じで回っている状態というのは、チームの中の誰かが全力疾走をして、メンバーもそれに合わせて全力で走っている状態です。なので、誰かが全力疾走をしたときに、それについていけるかどうかというのは、チームにおいては重要なポイントなのです」

同じレベルの人が負けん気を発揮して全力で動ける状態というのは、非常に重要だ。それがお互いを高め合うこともある。しかしスタッフの誰もが、同じ方向性で、それぞれ全力を出しきるというのはたいへんなことなのだろう。

こういった若手への育成、若手との付き合いかたについてはヨコオ氏も思うところがあるようで、つぎのようなコメントを残している。

ヨコオ氏「僕は、クリエイティブな世界はマウンティングの世界だと思っています。俺の作ったもののほうがいいと、お互いの作ったものを戦わせ続ける。そうして、生き残りをかけて戦い続けているわけです」

そう前置きをした上で、ヨコオ氏は「加藤さんや坂口博信さんなどのレジェンド世代は、それを笑顔でやってくる」、「楽しく作ると言っているが、それは楽しく相手を殺している状態に等しい」とコメント。

力がありすぎる人は、それを楽しんでいるつもりでも、知らず知らずのうちに相手を圧倒している。そういうケースは、業界を問わず発生していることだろう。

古屋氏もその意見には同意を示しており「加藤さんは、クリエイティブな場面において誰しもが平等という考えをお持ちです。なので、おもしろいものを作ろうと意見を出し合うと、チームのみんなが盛り上がり過ぎてしまうので、まとめるのがたいへんです」とそのときを振り返って苦笑をしていた。

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レジェンドクリエイターと、全力で意見を戦わせるほどの力を持った人たちとの真剣なぶつかり合い。それをまとめるのは相当な精神力と体力が求められそうだ。

加藤氏は、自分と同じ土俵で笑顔で殴り合える人を求めているのだろう。しかし、ウ◯トラマン同士の喧嘩に、ただの人は参加できない。そして、ただの人ではそれを制することも敵わない。きびしい現実かもしれないが、そういうことなのだろう。

そして、そうした超人的な人たちが意見をぶつけ合った結果、名作というものが生まれるのだと、深く実感させられた。

今回の製作を通して、ふたりはチームをどう評価したか

そうして、話は“今回このチームでゲームを作ってみて、どうだったか?”という最後の話題に。

ヨコオ氏は、これまでの制作過程を振り返り「ポケラボのメンバーには、若い人が多く、彼らの吸収力はすごかった。すごいスピードで動きつつも、その中でしっかり進化もしていた。きっと彼らは将来すごい人たちになると思います」

そう評価し、チームメンバーの今後の成長に期待を寄せていることを述べている。

それを受けた前田氏は「ヨコオ氏はそう仰ってくれますが、それはヨコオ氏が“コンシューマーのゲーム作りはこうなんだよ”としっかり教えてくれたことに起因していると思います」とヨコオ氏への感謝を示していた。

同じ話題について加藤氏はつぎのようにコメント。

加藤氏「昨今のコンシューマーゲームは、すごい人数ですごい時間をかけてすごいCGを作って、すごいボリュームのものを作っています。それはゲームの進化ということで、ひとつの方向性で、すごいことだと思います。でも、今回僕はそれとはまた別の方向性と新しさで、ゲームの面白さを追求してみました。」
加藤氏は現在のゲーム開発に抱いているひとつの疑問を呈したうえで、今回開発を行ったチームは、みんなが何をしているのかを把握できるくらいの小規模で、みんながいいゲームを作ろうとひとつの方向に向かって、手作り感を持ったまま動けたのは懐かしさも覚え、非常に楽しかったとコメントしている。

また古屋氏も「僕たちは、加藤さんしか出せない味を守るために、加藤さんが仕事に専念できる時間を確保していきますので、これからのイベントやシナリオも頑張ってほしいですね」と笑顔でコメントをし、いい雰囲気でチームが回っていることを表してくれた。

「もう老骨に鞭を打つような真似はやめてくれ」と加藤氏は苦笑していたが、実際のところ作業自体は楽しく行っているような様子を見せてくれた。

白熱したトークがくり広げられたため、そのすべてを書き起こすことはできないが、今回の“Flyers’ Lab”もまた、それだけ盛況だったのだ。

一流クリエイターが世界観を作るのに掲げているもの、そしてそこに秘められた思いや苦労の片鱗だけでも伝われば幸いだ。

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