【新作】わずか5年の短い人生を戦い続けた息子に送られた愛に溢れるアプリ『That Dragon,Cancer』

2016-10-30 13:00 投稿

結末をただ見守るだけの空虚さを突きつけられる作品

精神的に消耗するこのゲームを終え、涙が止まらなくなった。

『That Dragon,Cancer』は、Kickstarterで10万ドル以上集めて制作されたというアドベンチャーゲーム。steamにて配信されていた本作だが、2016年10月、App Storeに登場した。

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クラウドファンディングでなぜそれほどの人々の心を動かしたのか。それはこのゲームを開発したライアン・グリーン氏が本作を作るきっかけにある。

開発者ライアン氏の息子ジョエルくんは1歳で癌と宣告されていた。

その小さな体で奇跡的に命を維持していたが、4歳の時に余命4ヵ月と申告されたのがライアン氏が本作をつくるきっかけとなったのだ。

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ライアン氏、そしてジョエルくんの母であるエイミー・グリーン氏が作り出した『That Dragon,Cancer』は愛息ジョエルくんの5年の生涯を凝縮させた一本。ジョエルくんだけでなく、家族の悲しみ、苦悩、喜びが詰め込まれている。

ライアン氏は、この作品を通して“愛する存在を失う悲しさと絶望、息子が今日を生きていることの喜び、そして巨大なドラゴンの影に覆われる中で、死に対する恐怖を克服し、希望を見出すひとときの情動をわかち合いたい”と願う。

ゲーム作成中は、まだ生きていたジョエルくんだが、2014年3月に帰らぬ人となった。その事実を心に刻みながら本作をプレイしてほしい。

ジョエル君との楽しい思い出、両親の苦難

『That Dragon,Cancer』は、14章に分かれたストーリーを追うアドベンチャーゲーム。ライアン氏が息子との思い出と彼が頭の中で描いていたであろう神秘的な世界をゲームで表現している。

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難解な謎解き要素などは含まれてはおらず、スワイプであたりを見回したり、気になる場所をタッチしたりすると自動でシーンが進んでいく。

また、ちょっとしたおまけ程度のミニゲームもところどころ含まれていて、この部分は賛否両論あるようだが、題材が精神的にツライものなので、このミニゲームが、ジョエルくんと家族が感じた幸せで楽しい時間だったと受け取るとまったく苦ではない。

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▲ミニゲームへの導入がかなり雑だったが、私にとっては心休まるシーンだった。

ゲーム内の視点はコロコロ変わる。ストーリーを傍観する第三者になったり、鳥になったり、それこそ父であるライアンの目線になったりと、この物語を多くの視点から見ることができる。

ゲームは、カモにエサをあげる幼い(といっても最後まで幼いわけだが)ジョエルくんが描写されるところから始まる。最初はパンをちぎって入れていたのに、最後は、パンをそのままドボンと投げ入れてしまう子どもならではの行動がほほえましい。

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公園で楽しくあそぶジョエルくんをよそに、父ライアンは浮かない様子だ。理由は語らずともわかるだろう。

彼の独白は、悲痛な叫びにも聞こえる。

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そんな楽しい場面ばかりではない。ストレッチャーに乗せられるジョエル君の描写など、痛ましいシーンも挟まり、彼らが直面している問題をまざまざとプレイヤーに見せつける。我々にはジョエルくんの気持ちも、家族の気持ちもすべてをわかってあげることができないのがまた辛い。

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でも彼らはわかってほしいと思っているわけはなく、せめて“こんなことがあったと知ってもらいたい”そんな思いがゲームのひとコマひとコマに込められている気がした。

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ゲーム内では、病気との闘い、苦悩などを抽象的で神秘的に描かれることもある。ゲームだからこそ表現できるもの、伝えやすいものがあるのだ。

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▲ジョエル君が病に蝕まれている様子を描いたモノだろうか。ぶつかると風船が割れていく切ない表現がなされる。
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▲タイトル『That Dragon,Cancer』をアクションゲームで表現。ジョエル君は、小さな体でドラゴンと戦っているのだ。

 

結末に向かうにつれ、悲しく、むなしい表現が増えていく。

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▲もう、治す術はあまりないと医者に言われたグリーン夫妻。部屋が悲しみの海に沈んでいく。
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▲ついに運命のときを迎えるジョエルくん。
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▲後ろを振り返ると、彼と家族を苦しめたガンを象徴する物体が。
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▲物語の最後には大好きなパンケーキと、シャボン玉に喜ぶジョエル君の姿が。彼が最後まで大きな愛に包まれていたことは間違いない。

全編英語な上に、字幕もネイティブなボイスに合わせて流れてしまうが、“病と闘う息子、そして家族”この前提さえ頭に入っていれば、ゲームの雰囲気を掴めるだろう。これはぜひ日本版を作って多くの人に広めたい作品だ。

たった5年の短い人生だったジョエル君。グリーン夫妻が抱えていた大きな苦悩にあなたも直面することになるが、ゲームをプレイする上で彼らは悲しいことばかりではなかったということもわかる。

ゲーム中に聞こえてくるジョエル君の笑い声には、たくさんの愛や喜びを感じるだろう。

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グリーン夫妻は、このアプリを「悲しみと戦う手段にしてきた」と、語っている。このゲームを作ることで、病気と向き合い、記憶を少しでも長く留めて置くための手段とした、と。

変えることのできない結末、余命を宣告された子ども、そしてその親、家族のありのままを伝えた本作を終えたとき、何を感じるか。

ぜひ、大切な人といっしょにこの作品についてわかち合っていただきたいと思う。

また、この『That Dragon,Cancer』のドキュメンタリー映画『THANK YOU FOR PLAYING 』も作られている。トレーラーをみるだけでも、ゲーム『That Dragon,Cancer』がグリーン一家にとってどれだけリアルなストーリーだったかがわかるはずだ。ぜひチェックしてほしい。(ちなみに筆者はゲームを終えて号泣し、このトレーラーをみてさらに泣いた。)

That Dragon, Cancer

ジャンル
アドベンチャー
メーカー
Numinous Games
配信日
配信中
価格
iOS版/600円
対応機種
iOS 9.3以降

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