専門家が注目する、2016年上半期に発表された最新VRデバイスまとめ
2016-04-25 19:15 投稿
海外カンファレンスはどこもVR一色!
2016年4月20日、渋谷ヒカリエにて、2016年上半期に開催された、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)、MWC(モバイルワールドコングレス)、GDC(ゲームデベロッパーズ カンファレンス)/VRDC(バーチャルリアリティデベロッパーズ カンファレンス)、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)といった4つの海外カンファレンスのトピックをもとに、昨今のVR事情を解き明かすセミナー”最新VR事情が一気にわかる?? 2016年1~3月海外イベントまとめ”が開催された。
セミナーではそれぞれ、CESは”家電”、MWCは”モバイル”、GDC/VRDCは”ゲーム”、SXSWは”コンテンツ”にフォーカス。4ジャンルにおけるVRの最新情報が、登壇者の解説とともに紹介された。
ここでは本セミナーの模様をリポートする。
家電のデモでVRが大活躍
登壇者:福岡俊弘氏(デジタルハリウッド大学教授)
まずはじめに登壇したのは、デジタルハリウッド大学教授の福岡俊弘氏。
同氏はもともと「CESにはドローン目当てで行った」ようだが、会場全域に渡って展開されるVRコンテンツの量に舌を巻いたのだという。
また多くのブースで、VRが家電製品などのデモンストレーションに活用されていたとのことで、「VRガジェットがないと、人が集まらないような空気も感じた」のだとか。
セッションの最後では、福岡氏に対して”家電業界におけるVRはどういう位置付けで普及していくか?”といった質問も投げかけられた。
福岡氏はこの質問に対して、エジソンが開発した世界初の映写機”キネトスコープ”と、キネトスコープが誕生した4年後に、リュミエール兄弟によって開発されて爆発的な普及を見せたスクリーン投影型の映写機”シネマトグラフ”の関係を例に挙げて持論を展開。
「当時画期的だと言われたキネトスコープが誕生したわずか4年後に、シネマトグラフが誕生しました。そして、たちまちキネトスコープがすたれてしまった。わずか4年で、です。VRも4年後にはどうなっているか分かりません」と、いまでこそもてはやされるVRも、技術の進歩ですぐにすたれてしまうのではないか、という懸念を見せた。
だが一方で、「当時は導入コストの問題で、シネマトグラフが普及したのではないか」とも分析。「コストの問題がクリアになるのであれば、個人で楽しめるVRがさらなる発展を見せる未来もあるかもしれない」と述べた。
そうしたVR技術の未来予想を前提に置いた上で、福岡氏は「4年後にVRを圧倒するテクノロジーが誕生するかもしれない。家電がVRへ本格的に参入するのはそれからですね」と、質問に対する答を示した。
MWCは、もはやVRコングレスに!?
登壇者:矢崎飛鳥氏(週刊アスキー)
MWCのコーナーでは、週刊アスキー編集部の矢崎氏が登壇。モバイルメディアの観点から、MWCにおけるVRの最新情報についてトークが展開された。
矢崎氏は、「今回のMWCは”VRコングレス”と言っても過言でないくらい、ほとんどがVRだった」と語る。なかでもとくに印象的だったのが、サムスンによるGalaxyシリーズの最新機種”Galaxy S7″の発表会だという。
■Galaxy S7
サムスンの発表会では、2000人に及ぶ来場者全員にGear VRが配布され、発表会の冒頭はヘッドセットを被った状態で行われていた。
そこで本セミナー用に矢崎氏が用意したのは、Gear VRを被っている来場者の横を悠々と歩くFacebook CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が写っている写真。(注:OculusはFacebookが買収している)
「冒頭のイントロダクションが終わってGear VRをはずすと、舞台にマーク・ザッカーバーグが立っているんです。全員がヘッドセットを付けている姿も不思議な光景ですが、著名な彼が横を歩いているのに気づかないというのも印象的ですよね」とのこと。
さらに発表会が終わると、来場者全員にGear VRが配布されたというから驚きだ。
またヘッドセットと併せて、今回のMWCにおける“もうひとつの目玉”として矢崎氏が紹介したのが、360度撮影が可能な“360度全天周カメラ”(全天球とも言う)。
この360度全天周カメラとは、読んで字のごとく360度のパノラマ撮影が可能なカメラデバイス。
写真はもちろん、デバイスによっては動画も撮影できるため、HMDと組み合わせて自作のVR体験を楽しめるのだ。
■サムスンが発表した360度全天周カメラ”Gear 360″
▼Gear 360デモ映像
サムスンが球体状の全天周カメラ“Gear 360”を発表した一方で、LGエレクトロニクスも”LG 360 CAM”と呼ばれる360度全天周カメラを発表。
LG 360 CAMに関しては、同社から発売予定のディスプレイ内臓型HMD“LG 360 VR”との併用を考えられた製品となっている。
■LG 360 CAM(写真右)
■LG 360 VR
LG 360 VR最大の特徴は、スマートフォンを介す必要こそあれど、Gear VRやグーグルカードボードのようにスマートフォンをセットする必要がない点。
シンプルなデザインも印象的な本機だが、スマホの装着と余計なアクセサリーが削ぎ落とされたことで、「非常に軽量」とは矢崎氏の言。
さらにLG 360 CAMで撮影したものを、LG 360 VRで手軽に楽しめる点から、「VRの敷居をグッと下げる要因になるのではないか」と、矢崎氏はコメントを残している。
また別途紹介されたIDOL 4、IDOL4Sは、ALCATEから発表されたスマートフォンとHMDがセットになった商品。別途HMDを購入することなくVRを楽しめるため、本機もVRの敷居を下げるひとつの要因になりそうだ。
■IDOL4
こうした数多くのHMDが登場するなかで、矢崎氏は「VRはモバイルのものなのか?」という疑問を提示。
現状では、モバイルだと解像度が足りなかったり、スマートフォンと連携する必要があったりと、敷居が高い印象を受ける人も多い。
だが、矢崎氏の知人のジャーナリストのなかには「すべてのものはモバイルに来るのではないか」という意見を出す人もいるそうだ。
“プレイステーションVRこそがVRの本命”とささやかれるなか、そのジャーナリストの方の意見としては、「すべてのものはモバイルに落ち着いている。PCでできるものがノートPCでできるようになり、いまではスマートフォンでもできる。その流れを汲んで、VRもスマートフォンに帰結するのではないか」というのものだ。
矢崎氏もモバイルメディアの人間として、「自分もモバイルで完結すると思う」と本音を明かした。
そのほかにも、MWCではWindows搭載スマートフォンが話題となっており、VRに着手し始めるマイクロソフトがどのような展開を見せるのか、矢崎氏も大きな期待を寄せているのだとか。
矢崎氏は最後に、週刊アスキーで連載中の遠藤 諭氏のエッセイから「すべての職業の人がVRを体験すべきだ」という言葉を引用して紹介。
Gear VR用チャットアプリケーション『vTime』を実際に体験したときのことを例に挙げ、「アバターどうしでマイクを使ってチャットをするだけのアプリなんですが、いまはPC黎明期と同じで海外にしかユーザーがいないので、英語で話さざるを得ない。目の前にアバターがいて逃げ場もないので、ホームステイをしているような感覚に近いんです。その結果、自然と語学力の技術向上につながるんです」とコメント。
それに関連して「もはや英会話の学校をはじめ、VRと関係ないものがないんです。だからこそ、すべての人がVRの可能性を考えるべきじゃないか」といった言葉で、自身のセッションを締めた。
▼『vTime』公式動画
GDCでは最新HMD&360度全天周カメラが!
登壇者:西川善司氏(テクニカルジャーナリスト)
西川氏がGDCのトピックとして最初に紹介したのが、AMD社のカンファレンスで発表された、Sulon社が開発する最新HMD“Sulon Q”だ。
■Sulon Q
▼Sulon Q紹介映像
▼Sulon Qデモ映像
Sulon Qは、前方側方にカメラを備えたワイヤレスのHMD。カメラで撮影した映像に3Dグラフィックが合成され、MRのような体験をできるのだという。
さらにSulon QにはWindows 10ベースのPCが搭載されており、HMD単体で稼動するのだとか。
Sulon Qを発表したAMDの戦略について、西川氏は「ハイエンドというよりは、被れるPCのようなものを作ろうとしているのだと思います。言いかたを変えるなら”モバイルVR”とでも言いますか。被っただけでMR、ARを楽しめるものですね」と予想した。
西川氏は続いて、VRにおいてまだあまり深く言及されていないオーディオについても着目。
Waves Audio社が取り組んでいる、“NX”と呼ばれるオーディオプロセッシング技術を紹介した。
■NX専用の機器”Nx Head Tracker”
■Nx Head Trackerをヘッドフォンに装着したイメージ。
西川氏によると、NXを用いると、音像だけを3D空間で固定できるのだという。
たとえば、NXのシステム上で実在する部屋の各所に、ドラム、ギター、ベースといった音像を設置。そしてNx Head Trackerを取り付けたヘッドフォンを装着した状態で部屋のなかを歩くと、右側に行くとギターの音が大きくなったり、左に行くとベースの音が大きくなったり、といった遊びが可能になる。
また西川氏は、ジャイロセンサーがデフォルトで入っているスマートフォンにも着目し、「スマートフォンをセットするHMDなら、NXに近しい遊びができるのではないか?」という新たな可能性も示した。
続いて西川氏は、矢崎氏同様360度全天全周カメラをピックアップ。ライブストリーミング配信が可能な360度全天周カメラ“Orah 4i”を紹介した。
■Orah 4i
▼Orah 4iデモ映像
Orah 4iとHMDを用いれば、同機で撮影した映像をライブストリーミングすることで、遠方にいる人でも撮影をしているその場にいるような感覚を体感できる。
またOrah 4iが配信を前提としたデバイスであることから、「野球の試合で使用するとした場合、ベンチ席に置けば、まるで隣で選手がやっている。ライブ会場に設置すれば、アーティストが自分に語りかけるように歌ってくれる」といった将来的な活用イメージも語ってくれた。
そのほかにも西川氏は、大手メーカーのVR本格参入についても言及。NVIDIAがプロ用のVRヘッドセットに力を入れていることを紹介した。プロ用とはつまり、建築であったり、デザインのジャンルだったりである。
たとえば、ニューヨークのデザイン事務所と東京のデザイン事務所がともにヘッドセットをかぶり、お互いに実寸の車を見た状態で、デザインプレビューができるというのだ。
KDDIはVRにおけるコミュニケーションに挑む
登壇者:上月勝博氏(KDDI)
最後の登壇者は、実際にSXSW 2016にVRサービスの出展を行った上月勝博氏。
上月氏は、自身がSXSWに出展したときの出来事を振り返りながら、KDDIとして取り組んでいるVRサービスについて紹介した。
上月氏がもっとも印象的だったと語るのが、マクドナルドのブースで出展された『V-ARTIST』。
ここではHTC Viveを着用して、専用コントローラーでバーチャル空間に絵を描く遊びができるのだという。
『V-ARTIST』では、左手のコントローラーがパレット、右手のコントローラが筆になり、思い通りのペインティングが可能になっている。右手のコントローラーを回転させてブラシを変更できるなど、「HTC Viveらしい使いかたがされていた」と、上月氏。
さらに自分が描いた絵を撮影して、メールで送ったり、その場でプリントして持ち帰ったりもできるようだ。
また、VRの技術はドキュメンタリー映画にも活用されている例もあるのだという。
そこで上月氏は、国連で映像を手掛けるガボ・アローラと、U2などのミュージックビデオを手掛けるクリス・ミルクの共同作『WAVES OF GRACE』を紹介した。
本作は、西アフリカでエボラ出血熱が蔓延したときの様子を、現地の人間の目線で体感するドキュメンタリー作品。
土葬の瞬間なども描かれているため、より凄惨な現場をHMDを被って見ることによって、世界で起きている出来事を知ることができるのだという。
そしてここからは、SXSWでKDDIが出展したサービスの紹介へ。同社はコミュニケーションに重きを置いたVRデモを、SXSWで出展した。
そこで示されたのは、“遠く離れた友人とアバターで対話を楽しみ、さまざまな空間で時間をともにできる”ということ。
デモのなかではさまざまな空間を渡り歩くのだが、サイバー空間にいる体験者に対して、突如友人から電話がかかってくる。それを取ると、友人がアバターに変身して登場する。
友人のアバターに誘われて扉を開くと、友人が開催するパーティー会場に移行。あたかも本当のパーティーに参加しているような気分を味わえるようだ。
上月氏は最後に、WIREDの総編集長も務めたケビン・ケリー氏のセッションで披露された、VRにおける重要なキーワードを紹介。
上月氏によると、「VRが急成長すれば、今後スマートフォンのように、新世代のデバイス、新世代のプラットフォームになる可能性がある」と、ケビン氏は語ったのだという。
またVRの特性からケビン氏は、「これまでの”情報のインターネット”から、”体験のインターネット”へ進化していく」とコメント。上月氏のなかでとても印象深い言葉だったらしい。
さらに会場を見ていく中で、「HMD戦争が早くも二極化を見せている」と、上月氏。
カジュアルなHMDはGear VR、ハイエンドなものだとHTC Viveの二極化を見せており、カードボードを除くローエンドのヘッドセットや、Riftなどはあまり見られなかったというから驚きだ。
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