東京工芸大の講演で見えた『パズドラ』山本Pの作り手としての姿
2015-11-14 04:33 投稿
めったにない貴重な講演!
2015年11月13日、『パズドラ』の山本大介プロデューサーが東京工芸大学で講演会を実施した。
ガンホー・オンライン・エンターテイメントの山本大介氏といえば、もはや説明不要の大作『パズル&ドラゴンズ』のプロデューサーとして、ゲーム業界で知らぬ者はない人物。ゲームユーザーからも“山本P”の愛称で親しまれている。
しかし、ニコ生番組やTwitterでのやりとりなどを通じて山本Pを見かけるユーザーが多い中で、ゲーム開発者としての山本Pを知る人はなかなかいないのではないだろうか? 今回の講演では、将来ゲーム開発者を目指す学生たちの前で、山本“プロデューサー”の考え方や経歴が、大塚角満との対談形式で語られていった。
1:プロデューサーにとって大事なこと
2:卒業してすぐプロデューサーになるには?
3:プロデューサーってどんな仕事?
4:山本Pのゲーム業界の経歴は?
5:山本さん天才ですよね?
6:犬派?猫派?
7:山本Pの夢は?
8:引退するとしたらどんなとき?
プロデューサーの仕事と資質
前半のテーマは、山本Pの考えるプロデューサー像について。プロデューサーという職業に求められる資質や、実際の仕事はどんなものなのか?
まず山本Pが学生たちに求めたのは、プロデューサーではないポジションのスペシャリストになること。ゲーム開発の現場はプログラマー、デザイナー、プランナー、サウンドなどに分かれるが、いずれかの道を極めることで、現場での信頼関係を築くことができ、ディレクターやプロデューサーの立場になったときに開発が円滑に進められやすくなるという。
山本P自身もプランナーとしてゲーム開発の道を歩み始め、スタッフとコミュニケーションを重ねることで経験を積んできた。その中で培われたコミュニケーション力が、『パズドラ』で実施してきた他作品とのコラボを始め、数々の企画の実現にも役立ったそうだ。
プロデューサーに求められる資質としては、そういったコミュニケーションの原動力となる“行動力”のほか、ビジネスへの興味、流行への興味や嗅ぎ取る嗅覚、優秀なスタッフを見分ける目利き、さらに“ほどよく思いつめない人間性”なども条件のひとつとして考えられるとのこと。
また、責任を持つと言う意味で、リクープ(費用回収)を意識することも場合によっては必要だという。
波乱万丈の下積み時代を経て
講演の中でもとくに学生たちが聞き入っていたのが、“山本Pのゲーム業界の経歴”というテーマ。浪人生活を経て、小さなゲーム制作事務所で時給850円で企画を担当したが、ほどなくして事務所が解散。23歳のときに初めての就職活動でハドソンに入社し、在籍した9年間で大小さまざまなタイトルの開発に携わったという。
中でも、当時ハドソンが開発していたハードのチップを使ったプレゼン用のゲームを制作するために、1ヵ月間北海道の山奥(にある開発局)に篭ったり、docomoの携帯電話503シリーズで20キロバイトのゲームを何十本も作ったりしたという話は、当時の現場の過酷さを物語っており、学生たちからも感嘆の声が上がっていた。
とはいえ、山本P自身はそれらが「貴重な経験で、まったく苦じゃなかった」と振り返る。いろいろなゲームを作っていく中で、自分が得意なジャンルを見つけることができ、それが『パズドラ』の誕生にもつながっていると考えているのだ。
その後、ハドソンからKONAMIへと籍を移し、のちにガンホーへ転職。数人で『パズドラ』の開発をスタートさせ、現在に至る。
『パズドラ』を企画した当時を振り返ると、それまでなるべく多くのゲーム開発に関わっていたが、ガンホーに転職後は背水の陣で1本にすべてを注ぎ込んだのがポイントだったとし、「本当の勝負をかけるときは1本のゲームに全力で打ち込むことが大事」とアドバイスを送った。
山本Pが考える“引き際”とは?
「これだけヒットしたゲームを作った山本Pは天才ですよね?」という質問には、「すごい人たちと仕事で出会っているので、自分を天才だとは思ったことはない」との答え。「むしろそういう人たちと仲良くなれたのが自分の才能かもしれない」と謙虚な山本P。
また、もともとは犬派だったが、猫派の大塚角満の影響で「いまは同じくらい好き」になったという。大塚角満は「この柔軟性も山本さんのすごいところ」と感心しきり。
『パズドラ』の大ヒットにより、ゲーム開発者として最高峰に登り詰めたように見える山本P。現在の夢は「自分の作ったゲームをハリウッド映画化して、最終的にはディズニーランドのようなテーマパークを作ること」。40代で映画化したいという具体的な希望もある様子。一方、小さな夢は“『パズドラ』以外の新作を作ること”で、その希望は毎週のように社長に話しているそうだ。
最後に「山本Pが引退するときは?」と聞かれると、「自分の感覚と世間のトレンドが大きくずれてしまったとき」と回答。そうならないよう、流行には日々敏感でいるよう情報収集を心がけているという。「もし引退したとしても、自費制作で好きな仲間と好きなゲームを作りたい」という言葉から、衰えることのないゲーム作りへの情熱が感じられた。
締めくくりに、大塚角満とともに「ぼちぼち我々もいい歳ですからね……」と話していると、「その歳でその言葉は早い!(笑)」とすかさず突っ込んだ人物がいた。
声の主は東京工芸大学教授の岩谷徹氏。じつは岩谷氏は、不朽の名作『パックマン』の生みの親。今回の山本Pの講演は、岩谷氏と、同じく同大学教授で『ゼビウス』などを手がけた遠藤雅伸氏の働きかけによるものなのだ。
レジェンドたちの計らいのおかげで、ふだんめったに講演をしないという山本Pの話を聞くことができた学生たちは非常に幸運。しかも、知られざるゲーム開発者としての山本Pを垣間見ることができたのだから、こんなに貴重な経験はないのではないだろうか。
山本Pの話に真剣な表情で聞き入っていたゲームクリエイターの卵たち。数年後、彼らのうちの誰かが山本Pとともに仕事をする日が訪れることを期待したい。
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