【CEDEC 2015】スクエニのスマホゲー開発における海外スタジオとの協業に必要スキルとは?
2015-08-28 18:45 投稿
『ヘブン ストライク ライバルズ』の実例を元に語る
2015年8月26日から8月28日までの3日間、パシフィコ横浜で開催されるコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。ファミ通Appではスマホ関連のセッションを中心にリポート!
この記事では、スクウェア・エニックスのディレクター清水佑輔氏、プロデューサー大槻一彦氏による、ビジネス&プロデューススキルのセッション“『ヘブン ストライク ライバルズ』英国スタジオとのスマホゲーム共同開発”の模様をお届けする。
最初に、このセッションのポイントから。
①海外の開発会社との仕事の進めかた
②ゲームデザインと運営の方向性、コンセンサスの取りかた
③離れた場所との進捗、アセットのスケジュール管理
つまるところ、“海外の開発会社と密に連携してゲームを開発したり、運営していくにはどうすればいいのか?”ということである。
このセッションではそれを、世界同時展開で(現在進行形で)成功している『ヘブン ストライク ライバルズ』の実例とともに紹介していく。
プロジェクトの始動
まずは、実例として取り上げる『ヘブン ストライク ライバルズ』について、簡単な紹介が行われた。
ここで登場したのが、本セッションのために編集してきたという説明用の動画。宣伝用のプロモーションビデオとは異なり、目を引くような派手さはないが、じつにわかりやすい内容だった。
早くも、海外の開発会社との共同作業で培ったのであろう、“説明力”の片鱗が見られた。
『ヘブン ストライク ライバルズ』の企画が始まったのは、いまからさかのぼること3年前の2012年。
当時は国内では携帯ブラウザゲームが、海外では売り切りタイプのアプリが主流で、現在のメインであるFree To Play(基本無料・追加課金)方式のゲームはほとんどなかった。
そんな中、“世界の誰もが楽しめるゲームを作る”というコンセプトで、『エンペラーズ サガ』のプロデューサー、市川雅統氏らが中心となってプロジェクトが動き出す。
そして、“最小の運営コスト”で世界中という“最大のマーケット”に挑むという目標を立て、そのパートナーとなる開発会社を探したところ、イギリスのメディアトニック社が浮上してきたのだという。
同社は、2012年当時ですでにネイティブアプリ開発の実績を多数残しており、さらに11ヵ国での運営経験を持ち、そして何よりも日本へのリスペクトや熱意を持っていた。ほどなくして共同プロジェクトが発足し、企画がまとめられていく。
続いて、リリースに向けて“プリプロダクション(準備)”が行われた。ここでは、ゲームをひと通り味わうことができる“Vertical Slice(全機能実装)”でゲームを作成してもらうことに。初めての協業を行う海外の会社との開発なので、念には念を入れた恰好だ。
乗り越えるべき壁の存在
しかし、ここで大きな問題が発生する。それはキャラクターや世界観の部分で、両社の合意が得られなかったというものだ。
プレイしてみて、日本側は“スクエニっぽくない、すごく洋ゲーっぽい”という印象を受ける。この部分については、「非常に感覚に頼るところが大きくて、事前にうまく伝えきれなかった」(大槻氏)と反省していた。
とは言え、ここで折れるわけにはいかないので、プリプロダクションを延長し、この問題を解決すべくふたりの追加メンバーを起用した。それが、キャラクターデザイン担当の伊藤龍馬氏と、世界観監修のベニー松山氏である。
伊藤氏は、『ファイナルファンタジー タクティクス アドバンス』や『ファイナルファンタジーXII』など、多数の作品を手掛けており、“スクエニっぽいキャラクター”についてはエキスパートとも呼べる存在。
そして、ゲーム攻略本『アルティマニア』シリーズで知られるスタジオベントスタッフ所属の松山氏も、スクウェア・エニックスタイトルの小説化を多く手掛けている。
このふたりが、直接ロンドンに行ってアドバイスをしたり、制作に必要な基準となるものを作り、伝えるなどして、メディアトニック社が“スクエニっぽさ”を出せるようにするための土台を積み重ねていった。
一方で、メディアトニック社のほうにも日本人の通訳兼プロデューサーを参加させるなど、よりスムーズに意思疎通が取れるような体制を着々と作り上げていく。
とはいえ、意思疎通が図れるようになったからと言って、すべてがスムーズに進行するわけではない。日本には日本の、イギリスにはイギリスのゲーム文化があり、それらを主張すれば議論は平行線をたどることになるからだ。
しかし、ゲームのコンセプトとして“世界の誰もが楽しめるゲーム”と掲げている以上、どちらがいい悪いではなく、誰もが納得できるような落としどころを見つけなければならない。
そこで、アイデアを整理するための手段として、全世界共通となる“モノサシ”を作ることにしたとのこと。そのひとつが下のテンション図である。
これは、ユーザーがどのようにテンションを上げていくのかを想定し、可視化したもの。序盤、中盤、終盤、決着と、局面ごとに必要な要素を整理して、それをもとにシステムを組み立てていったという。
日本の開発会社なら、フェイス・トゥ・フェイスで細かいニュアンスも伝わるが、海外のスタジオ相手では、文面だけだとそれらが伝わらずに批判にしかならなくなるケースも出てくるので、こういった共通認識をたくさん作ることが欠かせないと感じたそうだ。
また、日本では当たり前のことでも、海外ではなじみのないものがたくさんある。運用ツールだったり、“フレンド”などのSNS機能、さらに“日替わりクエスト”や“ログインボーナス”なども、日本独自の要素である。
そういったものを実装しようとすると、ノウハウがないので余計にコストがかかったり、知らないからできない……という事態も起きかねないとのこと。
そのため、初期段階でひとつひとつ確認しておいたり、ノウハウがなければそこだけ日本の開発会社に依頼する……という選択肢も考えておく必要がある。
一方、英語を含めたコミュニケーションの円滑化や、時差に長期休暇の存在といった労働事情の違いなども考えて開発体制を作っておく必要があるし、さらに開発ツールなどでも、海外では国外へ貸し出し禁止のものがライセンスで決められていることがあるなど、トラブルの種はあちこちに転がっている。
プリプロダクションは、できるだけ長めにとって、それらの対策を万全にしておくことが肝要なのだ。
運営における調整の大切さ
そして、いよいよテスト配信の開始である。
『ヘブン ストライク ライバルズ』は、スタッフの習熟も兼ねて数ヵ国で約2ヵ月間テスト配信を行った。テストでは不具合が多発し、ゲーム自体は好評だったものの、不具合修正に追われて開発も滞ってしまった。
そこで、テスト配信後に一旦ゲームをクローズし、バグ修正と調整の期間を設けて正式サービスに備えることに。
βテストから、そのまま正式サービスを始めてしまう作品もあるようだが、その間運営と開発が同時進行となってしまい、両方の対応に追われてしまうためにスタッフへの負担も大きい。そのことを考えて、調整期間には余裕を持たせたという。
また、日本とメディアトニック社のあるイギリスでの考えかたの違いが出るとして、“難易度”が挙げられる。
たとえば、日本では難度を下げてチュートリアルや継続率を上げることが多いのだが、イギリスでは簡単すぎると手応えがなくてやめるというデータがあり、運営側の意見も真っ向から対立してしまった。
そこで、最終的なゴールを設定して、双方の主張をできるだけ論理的に分析して統合することで調整。
結果として難度は高いものとなり、日本のユーザーからは手きびしい意見をもらうことになったが、世界的に見てその対応には高い評価を受けているようだ。
また、海外では課金によるキャラ強化などへの抵抗が強い。そのため、前述したように『ヘブン ストライク ライバルズ』ではキャラクターの能力のインフレを抑えつつ、全体的に少し緩めの設定に。
日本ではあまり見ないやりかただが、長期的に見ると新規ユーザーに対する敷居が低くなるため、利益もちゃんと上がっている。
運営のスピード感の違いも、日本と海外では顕著だ。大槻氏によると、「体感で2倍~3倍くらいある」のだそう。
そのため、イギリスのスタッフを日本的な運営に慣れさせるため、トレーニング期間を設けている。
そのほか、残業に対する考えかたや長期休暇など、労働の仕組みも日本とそれ以外でずいぶん違う。それらを乗り越えるためには、作業工程のモジュール(標準)化を行うことが重要なのだという。
テンプレートを作って、いつでもどこでも誰でも代わりに作業を行えるようにしておけば、トラブルにも対応しやすいし、効率よく作業できるようになる、ということだ。もちろん、密なコミュニケーションも大切である。
ここまで、さまざまな苦労話が展開されてきたが、当然、世界展開をすることによる見返りはそれ以上にある。
たとえば、コストである。英語版を用意しておけば、欧米のほとんどの国で各言語へのローカライズをせずにリリースすることができる。
また、広告費の上がっている国を避け、より安い費用で集客できる国に予算を注入すれば、それだけ効率よくユーザーを増やすことができる。
それだけではない。
各国の市場でさまざまなノウハウを吸収することで、後の戦略に役立てることもできるし、現地の代理店とのつながりも生まれる。
“解決すべき問題は多いが、その見返りも非常に魅力的であり、未来を考えるとチャレンジすべきものだと考えられる”、という結論で講義は締めくくられた。
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