【業界セミナー】トップパブリッシャーが語るアジア市場戦略
2015-07-30 17:00 投稿
国内トップパブリッシャーの海外市場戦略とは?
2015年7月28日、世界規模のアプリの市場データやその分析ツールの提供など、アプリ情報サービスを手掛けるApp Annie(アップアニー)によるゲームアプリ事業者向けセミナー“Decode Gaming App”が開催された。
このセミナーでは、“アジア市場の海外戦略”をテーマに、日本国内のトップパブリッシャー(販売会社)であるセガゲームス、グリー、D2Cの担当者が登壇。
それぞれがこれまでに行ってきた海外展開と今後の戦略、ゲーム販売やプロモーション(宣伝)、現地企業とのパートナーシップ(提携)、ローカライズ(現地言語化)、そして自社が進出すべき市場の選定基準などについて、実例を交えながら講演を行った。
中国を始めとしたアジア市場の魅力
セミナーの冒頭では、App Annie Japanの代表である滝澤琢人氏が登壇し、開会の挨拶とともにアジアの最新動向の分析を披露した。
今回のセミナーの目的は、2015年7月30日より開催される中国最大のゲーム展示会“China Joy 2015”に向けての、アジアの最新動向について情報共有を行うことにある。そこで、日本市場と中国市場の現状について説明がなされた。
日本のアプリ市場の収益規模は、この1年で約15%、円安による差益を加味すると約40%も増えているという。一方で、市場内部の競争環境に目を転じると、2014年6月時点のセールスTOP10のアプリが、2015年6月時点のTOP10では5タイトルが止まっている。さらに、分析の対象をTOP100にまで広げると、なんと58ものタイトルが、1年を経てもまだランクインし続けていた。
そして、そのTOP10アプリの平均運営期間は22.2ヵ月。つまり、パブリッシャーが成熟し、すぐれた運営手腕を発揮しているがために、市場の寡占化、タイトル人気の長期化が起こっていると考えられるというわけである。
中国市場は、株式市場の乱高下の影響を受けて数字的には大きな“揺らぎ”が出ている恐れがあるものの、アプリの市場収益規模はこの1年で約2倍になったと見られている。その急成長振りは注目されるところであるが、その内容も刮目すべきものとなっているようだ。
日本同様、この1年でのセールス上位アプリのラインアップを比較してみると、日本と比べて大きく変わっていた。また、それらのジャンルも、MMORPGやFPS(一人称視点シューティング)など、PCのオンラインゲームの手法を持ち込んだものが多く、中国のユーザーがそれらのゲームを好んでいることがハッキリと示された。
日本では58タイトルが1年以上TOP100の座を維持し続けていたが、中国では33タイトルとやや少なめ。さらにTOP10アプリの平均運営期間は13.7ヵ月と、競争の激しさが伺えるのも中国市場の特徴である。
また、2014年時点ではTencent社が突出して高い売り上げを記録していたが、2015年になるとシェアも下がってきて、群雄割拠の様相を呈していると考えていいようだ。
なぜ、いま中国を始めとしたアジア市場が注目されているかについて、わかりやすく説明を受けたところで、いよいよ日本のトップパブリッシャーによる講演が始まる。
“感動体験”を創造、提供し続けるために
トップバッターを務めるのは、セガゲームス セガネットワークスカンパニーCOOの岩城農氏。
まずは、セガネットワークスの戦略方針について説明が行われた。
同社は、国内外で多数のヒット作(アプリ)を抱えているが、日本市場で売れているタイトルと、海外市場のそれはかなり顔ぶれが異なっている。日本で売れていても海外ではサッパリな作品や、その逆のパターンも珍しいものではないようだ。そのため、市場によって戦略を分けているのだという。
とくに、欧米では現地の開発会社によるオリジナルタイトルの開発に注力しており、2015年の下半期以降も新規タイトルを多く投入する予定となっているらしい。
反対に、アジア市場では、日本で人気のタイトルをローカライズして展開することが多いようだ。もちろん、現地向けの完全新作も手掛けているし、繁体字圏(台湾、香港、マカオなど)には積極的に投資を行って現地企業との協業や市場開拓を行っているが、欧米市場と比べるとタイトルのラインアップはより日本に近いものになっている。ユーザーの好みに対応して、投入するタイトルについてはある程度分けて考えているようだ。
一方、各海外市場における展開は、基本的に現地のパブリッシャーに行わせているとのこと。ゲームのローカライズ作業からプロモーションまで、現地に長く住んでその空気を知っているからこそできることは多い。また、開発から販売まで現地で完結させることで、よりスピード感を持った展開が可能になる。
つまり基本的には、現地に“独自経営”をさせる方針を採っている。わがままな経営者を、道を外さないように心掛けながらも、いかにやさしく支えてあげられるか。それが、海外で成功する秘訣なのだ。
セガゲームスという会社そのものの理念として、“感動体験を創造、提供し続ける”というものがある。
ユーザーの感情を動かすことができるゲーム特有の価値を大事にし、またそういった体験を継続的に提供し続けることができる会社で有り続けることを重視しているとのこと。
一発売れればいい、という考えかたは極力排除し、ユーザーとの関係を重視して、セガゲームスという会社を信頼してもらえるような作品作りを目指しているのだそうだ。
そのため、海外での日本作品のローカライズに関しても、かなり精査をしてから行っているようだ。
日本で売れているかどうかよりも、その国では何が期待されているのか? どういった解釈が必要なのか? そういった分析が優先されており、異なる市場については完全に切り離して考えられているということが、この事例からもよくわかった。
信頼できるパートナーの存在
続いては、ミストウォーカーのRPG『テラバトル』のパブリッシングのサポートを行っている、D2C コンシューマ事業部 プロジェクトマネージャーの柳瀬史和氏が登壇した。
『テラバトル』は、現在、日本語、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、繁体字の6言語でリリースされている。「ワールドワイドで展開したい」というプロデューサーの坂口博信氏の強い意向があり、当初から日本語、英語の2ヵ国語で制作されていたのだそうだ。
その後、クローズドベータテストを行う際に、専門学校のHAL東京のゲーム制作学科に産学連携の授業計画を持ち込み、授業の一環としてテストを行ってもらうことに。その実現には、4~5ヵ月ほどかかったものの、1ヵ月ほどかけて毎日継続的に遊んでもらうことでのデータ収集や、専門的な知識を持つ学生からのデバッグなどの報告もあり、実利を含めさまざまな面で有意義なものになったのだという。
さらに、オープンベータテストはカナダで実施された。しかし、人口、広さともにカナダ第2の規模を誇る地域、ケベック州では公用語がフランス語であり、そこでリリースをするには規約などで英語だけでなくフランス語の追記対応が不可欠、という指摘を受けて、その対応を急遽行ったことも明かした。
このテストでは、”多くの人が遊んだときにどんな不具合が起こるのか?”、”カスタマーサポートに必要なワークフローを作る”、”コンテンツの消費速度を調べる”といった目的が設定されており、そのフィードバックを得てサービス前に多くのリスクを排除することが可能となった。
そして問題点が洗い出せたことで、ゲームの正式サービスまでの期間、開発メンバーがゲームをおもしろくすることにより集中することができるようになったのも大きかった、と柳瀬氏は語っていた。
かくして、2015年4月より繁体字版もリリースすることになったのだが、そこで大きな役割を果たしてくれたのが、“現地での信用できるパートナー”の存在だった。表現の問題、文化の問題、法律の問題、さらには現地で普及している端末(スマートデバイス)の問題、さらには模造品の問題など、日本にいてはわからないさまざまなトラブルの種を、さまざまな人に話を聞いて解決していったのだという。
その際、現地に行って調べたり、繁体字を勉強してなるべく現地の言葉でコミュニケーションを取ったことも、彼らからの信頼を得られた理由なのでは、と柳瀬氏は振り返る。とくに模造品の問題については、マネされる前に大きなメディアでリリース日を告知することが効果的だという結論に至り、結果として模造品の登場を防ぐことができた。
結果、規約やカスタマーサポート、ローカライズ、宣伝なども含め、多くの人の協力を得て、約4ヵ月というハイスピードでリリースまでこぎ着けられた。この一連の流れから、柳瀬氏は現地での人脈の大切さを改めて痛感したのだそうだ。
一方、宣伝やマーケティングについては、全世界で同じメッセージを発信する“グローバルキャンペーン”と、各国の担当者が独自に行う“ローカルキャンペーン”に分けて行う体制を作っている。
グローバルキャンペーンでは、ダウンロードスターター(アプリのダウンロード数に応じて、新モード追加やリアルイベントの開催、グッズの制作などが段階的に行われるプロジェクトのこと)を始めとした“ゲームの指針”を示し、ローカルキャンペーンでは、その土地にあった方法でのキャンペーンを行い、より地域ごとの要望に合わせた施策を行うことを可能にした。
また、ローカルキャンペーンはできる限り英語訳されており、各国でその内容を共有することで、ほかの地域でそれを取り入れたイベントを行うなどの相互作用をもたらしている。
セガゲームスと同様、『テラバトル』も海外市場での展開については、信頼できるパートナーを見つけてできる限りそこにおまかせする、という姿勢を取っているようだ。
なお、『テラバトル』の今後については、東南アジアも含め世界中に広げていきたいという意向。当初から世界展開を目指していただけに、戦略については“ブレない”太い芯のようなものが感じられた。
“任せる”ことで生まれた新たな可能性
最後に登壇したのは、グリー株式会社 取締役執行役員の荒木英士氏。創業以来4人目の正社員としてグリーに入社し、2011年からはアメリカでGREE International, Inc.の設立に携わるなど、同社の海外展開に大きく関わってきた人物だ。
しかし、荒木氏の口から最初に出てきたのは「現実はきびしい」というひと言。
2011年の海外進出では、多くの経営資源を投入して9つもの拠点を立ち上げた。欧米においてはヒットタイトルを作り、マーケティングのノウハウも習得するなど多くの学びを得ることができたという。
しかし、日本から海外拠点をコントロールする難しさや、現地でのビジネス慣習や文化の違いなど、多くの困難があったことも事実。結果として米国と韓国のみ自社拠点を残し、中国や欧州は、現地のパートナー企業と協業する方針に切り替えたという。
現在ではマーケットによって、とくにアジア圏では、現地の有力なパブリッシャーと提携するようになっているという。ただし、欧米については現在のところ自社でまかなっているようだ。
経営方針を“新規ヒットタイトルの創出とタイトル売り上げ最大化”に転換したグリーは、スタジオ制を導入。国内では『消滅都市』などで知られるWRIGHT FLYERと、子会社であるポケラボ、海外はGII(GREE International, Inc.)とGKR(GREE Korea, Inc.)だ。
その4つのスタジオで、それぞれの得意なジャンルや言語に注力した開発を行うことにした。「薄く広くやっていると負けてしまうので」(荒木氏)、ひとつ武器を持ってそこで競争力を上げているのだそうだ。
続いて、このセミナーのテーマでもある、中国市場にフォーカスした実例を紹介した。
ひとつ目は『クロスサマナー』。もともと、海外での販売を見据えて、開発と平行して各国のパブリッシャーとの契約を進めていたタイトルだが、中国では『十字召喚師』という名前で2015年7月にリリースしている。
しかしこのタイトルでは、プログラムのソースなども含めてすべてのデータを提携先に渡し、その後の開発やイベントなどは独自でやらせるという方法を採っている。その結果、ユーザー対戦機能が追加されたり、新たなパラメーターやシステムが加えられたりするなど、わずかの期間で日本版とまったく違う内容のゲームに変貌していった。
荒木氏が注目したのは、そこにいたるまでの経緯。MMORPGのように、何回もクローズドベータテストをくり返し、そのたびにユーザーの意見を拾い上げていたのだ。
「そこはやはりMMORPGの国ですね」と荒木氏は語る。そういった工程は日本にはなく、今後の開発の参考にもなるものだった。また、日本版と完全に別物となっているため、逆輸入や別地域への進出も検討されるなど、新たな可能性を生み出している。
実例のふたつ目は『NARUTO』。2014年までGREEで配信されていた『NARUTO-ナルト- 忍マスターズ』を、ネイティブアプリ化したものだが、これも『クロスサマナー』同様大きく作り替えられている。
このタイトルに関しては、高い評価をもらえるプラットフォームを優先的に選び、提供することでヒットを狙っているとのこと。さらに、宣伝面では中国で効果が高いと言われている地下鉄での広告を使って認知度の向上を図っている。
そして最後の例は、直近のヒットも記憶に新しい『消滅都市』。日本国内では1年をかけて育成してきたタイトルで、上海の有力企業OPD2Cと組んでリリースする予定だ。こちらもほかの2タイトル同様、ソースを渡して自由に作ってもらっているとのこと。
中国での展開において心掛けているのは“スピード”。人気ゲームのトレンドや寿命は短く、半年で時代遅れになる可能性がある。そのため、新規タイトルを投入するなら、現在進行形で流行っているものではなく、“流行りかけている”ものに注目すべきだという。
また、その際に日本国内でチェックを入れようとするとさらにスピードが落ちてしまうので、パートナーに任せることも大事のようだ。使っている端末やプロモーションの手法、さらには会社間の信頼関係などもあり、任せられるところは任せる、という考えは、3社共通のものと見受けられた。
ここで3社による講演は終了。図らずも、アプリ市場でトップを走る3社が、細部こそ違えど同じような答えに行き着いていたのが興味深い。このことは、日本におけるアプリ戦略はひとつの道筋を見つけつつあるということを示しているのではないだろうか。
一方、“ガラパゴス化”という言葉で表現されている日本市場に対して、親和性の高いアジア市場からの逆輸入が実現しつつあることにも言及されていたが、それが現状を変える可能性も考えられる。もしかしたら、いま、日本のアプリ市場は転換期を迎えようとしているのかもしれない。
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