“新生DeNA”クリエイターインタビュー:高木正文氏
2015-01-11 12:00 投稿
作って壊してを繰り返し良い部分を集約する
2014年11月に配信された『ファイナルファンタジー レコードキーパー』(以下、『FFRK』)は、トップセールスランキングで上位をキープしている人気タイトル。同ゲームをスクウェア・エニックスとともに手掛けたのがディー・エヌ・エー(以下、DeNA) だ。同社は、これまでブラウザゲームでの成功は多かったものの、ネイティブアプリいわゆるスマートフォン向けのゲームに関して苦戦していた。そんな状況の なか、『FFRK』がヒット。今後は、ネイティブアプリで攻勢をかけるため、大きな体制変更なども行われているという。そこで今回DeNAのクリエイター 3名にインタビューを実施。この記事では『FFRK』開発に携わってはいないが、DeNAでアートデザインを担当している高木正文氏(以下、高木)へのインタビューの模様をお届けする。
なお、インタビューの中では各クリエイターの取材に同席していた執行役員の渡部辰城氏(以下、渡部)の回答も合わせて掲載。
——まず、高木さんのキャリアを教えてください。
高木 バンタンゲームアカデミーという専門学校を卒業してからスクウェア・エニックスに入社して、『ビフォア クライシス ファイナルファンタジーVII』という携帯電話用アプリゲームの、3Dモーションデザイナーをしていました。その後フリーになり、『デュエル・マスターズ』などのカードゲームイラストを描きつつ、プランナーとして『エルシャダイ』の世界観などを作っていました。そして、やっと絵描きとして本格的にゲームの仕事に携われたのが『ファイナルファンタジー 零式』で、業務委託のデザイナーとして参加しました。
そこで直良有祐さん(※)に出会って、2年近くガッツリやらせていただきました。このプロジェクトが終了し、スクウェア・エニックスとの契約期間が満了となった時に、残念がる僕を直良さんが呑みに連れて行ってくれたんです。その時、たまたま隣で飲んでいた直良さんの知り合いの方が声をかけてくださって。その人が株式会社ILCA社長の岩崎拓矢さんでした。そのご縁でILCAにお世話になることになりました。
※直良有祐氏:株式会社スクウェア・エニックスに在籍するアートディレクター。代表作は『ファイナルファンタジー 零式』、『ベイグラントストーリー』、『ケイオスリングス』シリーズなど。
——ILCAではどんなお仕事をされていたのですか。
高木 僕はILCAの立ち上げ初期から参画していたんですが、遊戯機、ゲーム、アニメなどいろんなプロダクトでアートディレクションやイラストを描かせてもらって、岩崎さんの下でやっと、アートディレクターとしてのキャリアがスタートしました。ゲームなら『ドラッグ オン ドラグーン3』で、ミハイルというドラゴンやボスを描きました。『ロード オブ ヴァーミリオンIII Twin Lance』が『ドラッグ オン ドラグーン3』とコラボしたので、そちらでもカードイラストを描かせて頂きました。最近ですと『ゴジラ-GODZILLA-』のパッケージも描かせていただいたり、他にも名前が出せないものもあったりします(笑)。遊戯機も沢山作ったのですが、遊んでみても絶対当たらないです。ジンクスなんですかね・・・自分で作ったやつは当たらないって(笑)。あとはNHKの教材番組『おはなしのくにクラシック』など、ILCAでは本当に色々とやらせていただいて……非常に感謝しています。そちらで3~4年勤めたのち、DeNAに転職しました。DeNAは入社して半年になったところです。
——現在DeNAでは”デザイン戦略室アートグループ”に所属しているそうですが、そこでは何をされているのでしょうか?
高木 私の所属している”デザイン戦略室アートグループ”は、社内でゲーム開発に関わるアートを制作するチームです。僕自身も絵を描いているんですが、最近はディレクションやチームづくりとか、マネジメントにも力を入れていきたいなと思っています。一応、ひとつのチームをリーダーとして任されてるんですが、まずはメンバー全員で一丸となってやっていこう!という組織づくりをしている最中です。
——DeNAというとプログラマが多いイメージですが、デザイナーは何人くらいいらっしゃるんですか?
高木 ゲーム開発に関わるアートのチームだと、15~20人くらいでしょうか。それ以外の事業もあるので、全社だともっといますけどね。ディレクションだけでなく、みんな絵も描いているチームになっています。
——最近、高木さんが手がけた作品はなんでしょうか。
高木 世に出たものはまだありません。現在は未発表の新規タイトルに関わっています。
——高木さんの経歴をお伺いすると、DeNAでの仕事は、それまでとは方向的に違うような気がしたのですが。
高木 違いますね。まず、プロダクトの作り方が全然違います。今までは仕様を固めてから、制作物を増やしていく方法だったんですが、DeNAのゲーム開発の多くは、とにかく作ってから、それを壊して良いものを取るという“スクラップ&ビルド”を採用しています。ここは自分のやり方を変えていかなきゃいけないので大変ですが、得るものは大きいですね。もうひとつは、職種に応じた「権限の範囲」、「担当領域の広さ」が、自分が過去に経験した環境とは違っていて、アートディレクションひとつとっても、これまでの感覚だと、やってパートナーさんとのやり取りまでだったのに、DeNAでは予算交渉までやれちゃう。そういう意味では、ビジネス的な面もちゃんと理解した上で、アートとして関わるということが求められています。単純に絵だけ描いていればいいっていう感じではないですね。
——ただ絵を描けばいいのではなく、アイデア出しやプランナーの経験もあるということは、ゲームの中身の話にも関わるということでしょうか。
高木 中身もそうなんですが、たとえばよくあるのが世界観の設定や、開発をどこの会社さんにお願いするかの検討や交渉なども携わります。ゲーム開発者とのコネクションをどう広げるかなどの相談を受けたりもしますね。
——高木さんが入社する前までは、あまりそういう感じじゃなかったんですか。
高木 そうですね。僕はもともと予算を気にしないで作るのが嫌だったので、知りたいなあとは思いつつも、「それはプロデューサーの仕事だし」っていう感じもあったりしました。
——現在では、プロジェクトにアサインされているというか、一緒に作っているという感じなんですね。
高木 そうですね。わりといい意味で人それぞれが役割分担されていないというか、重なる部分がそれぞれあって、得意なことをやっていくっていうのが多いイメージです。
渡部 実際、うちの社内では、ディレクターは「これをやる」とか「これを決める」っていう責任は負ってるんですが、「これをやる仕事だ」ということはあまりきちんと決めていないんです。あまり命じてもないですし。正直、ゲームは作れる者が作ればいいという感覚がありますね。だから絵の部分を深く理解している高木から、「このゲームのここはもっとこうしたほうがいい!」とかそういう意見はよかったら採用しています。
——今まで携わってきたゲームでの経験が活かせているんですね。
高木 だと思います。あと、DeNA流のやり方は自分と相性がいいですね。
——アートディレクターというよりは、アートプロデューサーという感じですね。
高木 実はそれを目指しているんです。ADPとか自分で名前を作ろうと思ってるくらいで(笑)。アートディレクタープロデューサーっていう、合わさった名前がないのかって。今はざっくりアーティストと呼んでるんですが、そういうのがあったらいいなと思っています。
——昔のコンシューマー業界もそういう方がいらっしゃいますからね。
渡部 トップクラスの絵描きの方は、ちゃんとゲームの内容も把握して意見を出していますからね。直良さんとかもそうですね。彼らとは私も一緒に仕事をさせていただいていたので、そのイメージがあるので、高木と一緒に仕事をしていても同じ感覚があります。アーティストっていうのはただの絵描きであるべきでないというのがあるので、それをやってくれているのがとてもうれしいです。
——逆に高木さんが入られる前まではそういう方が少なかったんでしょうか。
渡部 そうですね。結局社内外注のような立場で、社内から依頼で絵を描くということもあると思います。しかしそれでは、絵を描いているアーティストもモチベーション下がってしまう。それを変えなければいけないという声が社内で上がり、今はまさに変革期です。ちょうど去年の夏に、自分がゲーム開発に関わるアーティスト、クリエイティブ職の人ほぼ全員と話をして、組織を一旦解体して体制を見直すことにしたんです。そのときに話をしたのは、「あなたはどういうモチベーションで絵を描いているのか」ということでした。その会話を通じて、アーティストのアウトプットに対して、良かった悪かったという評価が見える環境にするべきだと思いました。なかなか数字でも出しづらいものだけれども、例えば、「売上は悪かったけどこの絵はとてもよかった」とちゃんと言える環境にする。あとは単純に、自分たち自身でこの絵が良いか悪いかを判定できる、測定するとか。それをやらないといつまで経ってもやる気なんか出ないよね。この変革期に、高木みたいなクリエイターが参加してくれたので、すごくタイミングがよかったですね。
高木 本当にタイミングがよかった(笑)。
——自分がやりたいことと転職のタイミングが合致するというのは難しいですもんね。
高木 本当にそうなんですよ。僕は実は、前職を去る気は一切なくて。DeNAから最初にお話があった時には「転職はないですよ」と言っていたんです。でも「これからもっともっと、すごく良くしていくよ!」という話を聞いていくうちに、いいなーと。そこに関わって、自分で良くしていきたいなと思いました。それもあって、今すごく面白いですね。
渡部 以前は、クリエイティブという職種はなにをすべきなのか、あやふやだったんです。もちろん、ゲームを作る組織だってことはわかりきっているけどね。そこで、延べ百人以上のクリエイターに一人ずつ、自分たちがすべきこと、目指すことを聞いていきました。当然、いろいろな意見が出たんですが、みんなバラバラだったんです。なかなかまとまらないので、「少なくとも組織として、明確な目的を持ってやろうよ」と提案したんです。人間ならではの、集団ならではの“すごさ”をチームで発揮してやろうと。
——高木さんがILCAに所属したまま、外注という形でも参加できたと思うのですが、転職して自ら会社に飛び込むっていうことは、そこにとても価値を置いていたんでしょうね。
高木 そうかもしれませんね。
——コンシューマーゲームとアプリでは、デザイナーの制作環境にも大きな違いがあると思いますが、どういった点が一番違いますか。
高木 極論は、画面の大きさかと思います。絵描きからするとやはりモバイル端末は小さいですね。視認性がどれだけいいかっていうデザインの仕方に変わってくるので、小さい画面でも良く見えるようにするっていうのは大きな違いですね。
——小さい画面でも綺麗に見えるような色使いや、デザインを意識されてるんですね。
高木 そういうことを心がけたほうがいいと思いつつも、似たようなデザインが多いと飽きてきてしまう。なので、新しいと思えるようなものを何とか生み出せないかと探り探りやっています。
——高木さんが現在取り組んでいる新作は、いつ頃発表されるんでしょうか。
渡部 出来上がり次第ですね(笑)。今の予定だと、2015年の中程あたりでしょうか。
——高木さんは、いろいろとチェックされたりしているんですか。
高木 タイミングをみてやってますね。
——描き直しをしたりすることもあるんですか。
高木 このプロジェクトに参画して半年なので、まだ実際に描き直しは発生していないんですが、正直描き直したいものもあります。最終的に全部並べて見た時に調整したいと思っていますが、今は数を作っている段階なので。
——コンシューマーと同じく、モバイルゲームもデザインの物量が多いですが、描き手としては作法が違ったりするんですか?
高木 違いますね。期間が短い上に量が多いんです。だからある程度、方向性などの主軸となるルールを先に作らないと、途中でブレていたら一生終わらない感じになってしまうので、しっかりルールを作ってから進めるという感じですね。
——なるほど。それはチーム内でもやっていることなんですか。
高木 内部の人間が少ないので、あんまり自分で描く時間が取れない時もあります。それを外部のパートナーさんにお願いするので、パートナーさんが息を合わせてくれるようなルール作りをしっかりやります。まずはレギュレーションを作って、実際にお会いしてお話をするところから始めますね。
——まさにゲームを作られているんですね。仕事に垣根がなく、役職だからこれしかやらないという体質もない。高木さんも、もしかしたらご自身が中心になってゲームを作ることがあるのかもしれないですね。そういった意味で、今後目指していきたいところなどはありますか。
高木 ちょっとざっくりしていますが、DeNAのアートを「世界一」にしたいです。スクウェア・エニックスなどは、社名を聞いたとたん絵が思い浮かぶじゃないですか。DeNAはまだそれがない。特に僕は絵の畑なので、「DeNAといえばあの作品だよね」と世界中のひとが知っているような、DeNAのIPを作りたいです。
——期待しております。本日はありがとうございました。
高木氏以外のほか2名のクリエイターのインタビューは下記関連リンクからチェックできます。
【関連記事】
※”新生DeNA”クリエイターインタビュー:佐々木悠氏
※”新生DeNA”クリエイターインタビュー:池田修氏(2015年1月12日公開)
ファイナルファンタジー レコードキーパー
- ジャンル
- RPG
- メーカー
- スクウェア・エニックス/ディー・エヌ・エー
- 配信日
- 配信中
- 価格
- 無料(アプリ内課金あり)
- 対応機種
- iOS6.0、Android2.3以上
- コピーライト
- (C)SQUARE ENIX CO., LTD. (C)DeNA Co.,Ltd.
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