元『みんGOL』P池尻氏と『torne(トルネ)』西沢氏が贈る新作『口先番長』はいかにして完成したか

2014-03-24 20:15 投稿

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どうしてゴルフ⇒番長なの!?

ソニー・ミュージックエンタテインメントのソーシャルアプリプロジェクト“hubbub party(ハバブパーティ)”から配信予定のスマートフォン向けアプリ『口先番長』。本作は、昨年7月に設立された開発会社フィラメントとの共同開発タイトルだ。

元SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)で『みんなのGOLF』シリーズなどのプロデューサーを務めていた池尻大作氏を筆頭に、コンシューマーゲーム業界出身スタッフで固められた気鋭の開発会社フィラメントと、配信を間近に控えた『口先番長』について、池尻氏とディレクターを務めた西沢氏のふたりに、話を聞いてきた。コンシューマーひと筋でやってきたクリエーターから見たスマゲ業界の魅力とは何なのか、また異なる点はどこなのかなど注目のインタビューとなっている。

▲フィラメントプロデューサー池尻大作氏
▲フィラメントディレクター西沢学氏

トルネが売れる前から声をかけていました(笑)

――おふたりともSCE出身ですが、フィラメント設立までの経緯を教えていただけますか?

池尻 私が西沢を誘った形ですね。トルネが発売される直前です。社内でのプレゼンを見てすごくいいなと思いまして、売れ出したら(西沢の)評判が高くなってしまうので、トルネの発売まえにツバをつけておきました。売れてから声かけたんじゃないぞと(笑)。そのときはお互い案件を抱えていたので具体的に“いつ”というのは決めていなかったんですが、折り合いがついたのでさきに辞めて、彼が区切りがつくのが去年の夏くらいということになったので、ほかのメンバーも足並みを揃えてもらいました。私はさきに辞めてから休憩がてらひとりで活動していたんですが、西沢をディレクターに、プランナー、プログラマー、デザイナーにも集まってもらって会社として事務所を構えたのは去年の7月になります。現在はトルネのアップデートの仕事を継続的に担当させて頂きつつ、スマートフォンでゲームを作ってみたいなということで企画コンペをやって出てきたのが『口先番長』だったんです。僕の目的は西沢が作るゲームをプロデュースすることで、西沢は据え置き機のどっしりっていうものよりも、携帯機やスマートフォンみたいな幅広い端末のほうが向いていると思ったんです

――では最初からスマートフォン向けにやりたいという思いがあったんですね。

西沢 それはありましたね。そんなにコンシューマーにこだわっていたわけでもなく、ゲーム専用機にこだわっていたわけでもないんですよ。こういう企画をやりたいといったときに、常時接続、GPS、アプリ連携、フレンド要素……といったものがあって適していたのがスマートフォンだったということです。つぎの企画はコンシューマーになるかもしれませんし、それはわかりません。

――今回は自分の企画を表現するのにスマホが合っていたということですね。

西沢 はい。でもフィラメント立ち上げ当初はまだ何をするか決まっていなかったんですよ。ゲームなのか、サービスなのか、ツールなのか、まったく無いなかで、おもしろそうだからという理由だけでメンバーが集ってくれて。そんな状態でスタートして、企画が決まったのが8月くらいですね。

池尻 今回SME(ソニー・ミュージックエンタテインメント)さんも関わってくれることになっているんですが、僕が独立しますと伝えたときに「企画持ってきてくださいね」と言ってくれていた会社さんの一つなんです。ようやく我々が会社となっていくつかの案を持っていけたうちのひとつが『口先番長』なんですよ。

――ではSCE時代と同じく池尻さんはプロデューサーで、西沢さんはディレクターを続けられるわけですね。

西沢 そうですね。

池尻 僕は「こういうのを作りたい」とは言わないです。彼が作りたいものと合う会社を探すというのが僕の仕事です。

――今後こういう会社にしたいとか、会社のテーマみたいなものってありますか?

池尻 生活に根ざしたゲームやアプリを作ってみたいですね。トルネを見たときもすごいなと思いましたけど、ゲームのノウハウを使ってゲームに限らないものを作るということをやりたいと思っています。それだけではなくて、ゲームを作れる会社がそれをやることに意義があると思うんです。だから1本目はゲームとして高い評価をもらえるものを作って、両方やれる会社というのが目指すところですね。ゲームだけじゃない、というのはフィラメントのスタッフにも最初に言っています。

ゲーム作りのベテランも課金システムに苦しんだ


――『口先番長』はTHE・ゲームですよね。ただおふたりの経歴も性格も存じ上げているので、イメージと全然違うなと笑っちゃいました(笑)。これは意識的にやられたことなのでしょうか?

西沢 これはですね、ずっとトルネを作っていたので、“ゲーム”を作りたかったんですよ(笑)。だから「ゲームが作りたいなあ……」と思ってやっていて、王道ではなく少しズレたところというのは意識していました。

――イラストもかなり攻めてますよね。

西沢 絵の部分に関しては、アートディレクターの星(『みんGOL』シリーズキャラクターデザイン、『torne(トルネ)』のアートディレクターの星 昌和氏)にほぼ一任していました。唯一出したオーダーは、アプリは山ほど数が出ているので、とにかくカブらないようにしてくれというものです。だから彼のもともとのテイストとはちょっと違うんですよ。あえて濃ゆい昭和の匂いのあるベタだけどベタすぎないところでうまく調整してもらいました。

――濃いですよねー。

池尻 記憶に残る、埋もれないものというのは狙いのひとつでしたね。

西沢 題材的にはしりとりという間口の広いものなので、スタンダードに考えると“動物”とかキュートなキャラクターとかがフィットしそうなんですけど、そこだともしかしたら色がなくなる(印象が薄くなる)かなということは感じました。

――ならではというところを重視したと。

西沢 バカバカしい感じの中で真剣勝負をするというおもしろさを出すために適した絵柄だったかなと思います。

――実際スマートフォンのゲームを作ってみてどうですか? どういうところにコンシューマーゲームとの違いを感じましたか?

西沢 …………、課金です。

――(笑)。

西沢 もう悩みの種は本当にそこですね。課金のサイクルでゲームシステムを考えなきゃいけないということをやったことがないので。「いやおもしろいんだけど、これいつ課金するの?」という指摘は企画当初から受けていて、それをずっと悩み続けていました。

池尻 いまでもそうだよね。蓋を開けてみないとわからないところもあるし。いままでやってきたパッケージに対してお金を払うという仕組みが染み付いていますので、正直(『口先番長』が)おもしろかったら1000円売り切りで、みたいな気持ちはありますよ。

――アプリ業界はガチャなどで課金していくのが当たり前になりすぎていて。海外は売り切りタイプであとからアドオンといったものも増えてきていますね。課金の部分はすごく難しいですよね。

西沢 とくにコンシューマーのときはそこを意識したことがなかったですから。販売価格のレンジは決まってるじゃないですか。考えるのは、それを最終的にどこに落ち着けるかくらいのものでしたから。かなりとまどいはありましたね。

――そういうところに長けた会社さんと手を組むといった考えはなかったんですか?

池尻 それはなかったですね。たぶん、やってやれないことはないと思うんですけど、そうするとどうしても折り合いをつけながらやらざるを得ないと思うんですね。いくつかソーシャルゲームの会社さんに見てもらったり相談に乗ってもらったりもしたんですが、やはり既存の課金スキームを踏襲した企画のほうが良いのでは?という話になって、仮にいっしょにやるとしたらそっちにいくよなあと感じまして。せっかく独立したので数年はオリジナルでいきたいと思っています。とくに1本目なので、DL数や話題の高さをいちばんの価値基準にしてやりたいというところでSMEさんとご一緒させて頂きました。

西沢 課金要素もまったくないわけではないですけど、ほかと比べてもかなり緩いと思います。まあ、現状で苦手とする部分を無理やりやるよりも、ゲームとしてのおもしろさを追求するというところをプライオリティ高くやっていっています。

池尻 ガンホーの森下社長が常々おっしゃっている「おもしろいものがまずありき」という言葉は心の支えにしていますし、そうあってほしいなと思っています。課金まわりはやってみないとわからない部分はありますが、子供にも遊んでもらいたいので、あまりきつくなり過ぎないようにはしたいですね。どうしてもさきに進みたい時にコンティニューとかそのくらいにしておきたいですね。まあ何より“ひとりしりとり”というものがどれくらいウケるのかというところもありますけど(笑)。

――僕らもおもしろさは重視したいですよ。いまは配信されるゲームは多いですからおもしろくないとしんどいんですよ。ただそこのバランスはどのメーカーさんも苦労されていますね。失敗を繰り返して何らかの答えにたどり着いているという印象です。あとはもう奇跡的ないくつかのタイトルに限られますよね。

池尻 事前登録なんてシステムは昔はなかったですよねえ。

――ですね。ただ、事前登録でいくらお客さんを集めても、そのあと継続した人気を得るにはやっぱり“おもしろさ”が大切なんですよね。

池尻氏といえばやっぱり……

――ちょっと話は変わりますけど、というかやっぱりどうしても聞きたいんですけど、ゴルフゲームはやらないんですか?

池尻 ゴルフ! やるならクラップハンズさんとやりたいですよね。

西沢 ゴルフ格闘でいいじゃないですか(笑)。

――(笑)

池尻 「みんなの」じゃなくなっちゃうじゃん(笑)。やりたくないというわけでは全然ないんですけど、ほかの会社とやるというのはまったく考えていないですね。いちばんいいゴルフゲームを作れる会社だと思うので。

――スマホでゴルフゲームはたくさん出ていますけど、そういうものと比べてそう感じますか?

池尻 思いますね。作られている会社さんも『みんGOL』を研究して作られていると思いますよ。ただ、いまでも手触りや完成度でいうと『みんGOL』がナンバーワンだと思います。それはでも当然だと思います。『みんGOL』は作るのに手間も時間もかけていましたから。たぶんどこも、あそこまではやれていないんじゃないですかね。

――なるほど。おふたりともスマホのゲームもいろいろ触っているとは思いますが、いま注目しているタイトルは何でしょうか。

西沢 最近めっちゃやってたのは『ディグディグ』ですね。『口先番長』の爽快感とは違う、ダイレクトな爽快感がいいですね。これをやってこういう爽快感のゲームもいいなと思いました。いまちょっと『番長』で抑圧されているというのも影響しているかもしれません(笑)。僕の性格がそうなんだと思います。ずっとゲームを作っていて、何かツールみたいなものを作りたくなってトルネを作って、そしたらまたゲームが作りたくなって『番長』を作って……。『番長』は少し考えるタイプだから、今度は『ディグディグ』みたいなのもいいなあと。

池尻 もっと短いスパンで気楽に作ることも必要かもしれませんね。今回はコンシューマーの手法でかなり丁寧に作っていますから。うちのスタッフもそれぞれ自分のゲームを作りたいという思いはありますので、早く実現していきたいですね。そこに惹かれて集まったメンバーでもありますので。

――やっぱり皆さんクリエイターですからね。

池尻 いまのコンシューマーの現場だとなかなか自分のアイデアを形にして売るところまでいくというのは難しいんですよ。開発チームに入ってゲームが出来るまで数年、そうなると自分のタイトルをやるチャンスは減りますよね。良く言われる話ですが、「打率を上げるためには、打席に立つ回数を増やす」と。もちろん独立したって制約はありますけど、“オレのゲーム”、“オレの企画”がやれるチャンスは確実に増えると思います。先日京都で行われたBitSummitでもいろんなプラットフォームのゲームがあったそうですし、そっちの方向にみんなの目が向いているというのは間違いないでしょうね。

西沢 今回は作るのに時間がかかりましたけど、つぎは早いと思いますよ。

――それはどうしてですか?

西沢 今回Unityで作ったんですけど、独特のクセがありましたね。だいぶいじってその辺を習得できたと思いますので、つぎは早いです(笑)。

――結構皆さんそうおっしゃってますよね。

西沢 ある程度のところまでは早いんですよ。そこから詰めていくときのチューニングにノウハウみたいなものが必要になってきたんですよね。今回は半年かかったんですけど3ヶ月くらいで回せるようにしたいですね。

――コロプラさんはそれに近いことしていますよね。新人にUnityでライトゲームを作らせて筋トレをさせるんだそうですよ。それでそのなかから優秀なスタッフをピックアップしていくということです。

池尻 そういう意味だと昔もそうでしたね。僕は最初セガだったんですけど、新人はまずゲームギアやセガ・マークIIIで6ヶ月とかでタイトルを作りなさいと言われるんですよね。そこで慣れるとメガドライブやセガ・サターンへとステップアップしていった。それが入ってすぐに2~3年の巨大なプロジェクトに配属されるとなると、“1本出す”という経験に時間がかかりますよね。企画書を書いてゲームを出すという経験をするとしないでは大きく違います。

――同じようにおっしゃるクリエイターのかたは多いですよ。ゲーム作りのハードルは低くなったけど、じつはすごく高くなってきてると。

西沢 簡単に作って出せる環境になってしまったからこそ、プロとそうでないところの境目を作っていかないといけません。ヘタしたら負けちゃいますからね。丁寧にクオリティーを高くというのはもちろんですが、おもしろさの核となる部分はしっかりやっていかないといけませんね。プロらしいものを。そういう点ではハードルは高いですよね。

――スマホの場合、出してから直せばいいという風潮もありますけど、

池尻 そういう意味では『番長』は年末くらいにはいったん完成していたんですけど、意見を聞いて修正、遊んでみてチューニングということを繰り返しています。だけど初めて遊ぶ人がいかに気持ちよくできるかということを考えると、もっと時間をかけたかったんですよね。プログラマーにもデザイナーにも負担はかけてますけど、やっていきたいですね。

西沢 このあたりの作りこみ方はコンシューマーのときと変わらないですよ。ただ端末が変わっただけで、チューニングであったり、クオリティーの維持であったりといったところはかなり丁寧に進めています。

池尻 配信のタイミングがズレてしまっているのは大変申し訳無いですけどね……(笑)。

――いや、やっぱり最初からいいもので遊びたいですよ。大変でしょうけど、作りこんだ完成版を楽しみにしています。

※『みんなのGOLF』『torne(トルネ)』は株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントの商標です。

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口先番長

ジャンル
しりとり格闘
メーカー
ソニー・ミュージックエンターテインメント
配信日
iPhone:2014年4月上旬予定、Android:今春予定
価格
無料(アプリ内課金あり)
対応機種
iPhone、Android

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