【ゲームメーカー新時代戦略2013】スクウェア・エニックス松田社長に次代への戦略をうかがった

2013-12-18 12:00 投稿

“記憶に残るゲーム”を提供し続けたい

『ドラゴンクエスト』(以下、『DQ』)や『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)といった国民的RPGシリーズを抱え、つねにゲーム業界のトップランナーとして走り続けてきたスクウェア・エニックス。設立から10年目を迎え、家庭用ゲームはもちろん、PCやスマートデバイス向けにもコンテンツを展開。その一方で、独自のゲームエンジンや新たなクラウドゲーム技術を発表するなど、次代へ向けた投資にも積極的だ。そんなスクウェア・エニックスの新社長、松田洋祐氏に次代への戦略をうかがった。(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)

※週刊ファミ通12月26日号【2013年12月12日発売】で掲載した内容と同じものになります。

▲スクウェア・エニックス・ホールディングス スクウェア・エニックス代表取締役社長 松田 洋祐氏

合併から10年目に迎えた激動の時代松田新社長はどんな人?

──松田社長は、今年6月に代表取締役社長に就任され、弊誌週刊ファミ通には初めての登場となります。まずは、簡単に自己紹介をお願いできますか?

松田 私はずっと財務畑を歩んできた人間で、1998年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社する以前も会計士として活動していました。その後、いったん、スクウェアを離れたのですが、もう一度挑戦してみようと、財務担当として再び戻ることになりました。

──財務畑のご出身とのことですが、ゲームはふだんプレイされるのですか?

松田 はい。趣味で遊んでいます(笑)。

──ちなみに、どんなゲームを? 先日の『コール オブ デューティ ゴースト』発売直前イベントでは、ステージ上でマルチプレイのチームの一員としてプレイされていて、FPS(一人称視点シューティング)はお得意という印象を受けたのですが。

松田 FPSはよくプレイしますね。個人的には海外のゲームが好きで、ふだんはオンラインタイトルをよくプレイしています。ただ、マニアックと言われるゲームが多いですね。なぜそういったタイプのゲームが好きなのかと問われると、答えに困るのですが、肌に合っているのだと思います。あとは、RPGやアクションものなど幅広くプレイします。もちろん、自社のタイトルもプレイしていますよ(笑)。いまは『FFXIV:新生エオルゼア』と『ライトニングリターンズ FFXIII』を遊んでいます。

──意外と言っては失礼ですが、ゲームはかなりお好きなのですね。

松田 そうですね。遊ぶときは本気でプレイしています。2〜3年前までは、ひと晩で1本クリアーするくらいやっていました。

──それはすごい(笑)。

松田 さすがにいまは体が持ちませんが(笑)。

──代表取締役社長に就任され、約半年が経ちましたが、改めてこの半年を振り返ってみて、いかがですか?

松田 ここ最近、ゲーム業界を取り巻く環境の変化は激しいのですが、とくにそれを実感した半年でした。スクウェア・エニックスになって10年が経ちますが、その10年の中でももっとも変動が激しい時期だったと思います。

──社長に就任されてから、いろいろと変革を進めていると思いますが、先日の第2四半期決算を見ると、早くも成果が出てきていると感じます。ご自身ではいかがですか?

松田 個々のプロジェクトは好調でしたが、全体で見るとまだまだだと思っています。家庭用ゲームに加え、オンラインプラットフォームも複数に分散してきています。下半期以降も、従来型のビジネスとは違う新しい試みに多数チャレンジしていく予定ですので、私自身も期待しています。

──合併からの10年という言葉がありましたが、スクウェア・エニックスにとってはどんな10年だったとお考えですか?

松田 過去10年は、家庭用ゲームビジネスがもっとも安定していた時代だと思います。ただ、先ほども言いましたが、現在はプラットフォームが多様化し、分散の時代になって、大きく様変わりしてきています。それに合わせて、さまざまなチャレンジがより必要になってきたと感じています。また、スクウェア・エニックス発足後に入社して育ったクリエイターが第一線で活躍し出しているタイミングでもあり、若い彼らがどんなことをやってくれるのか楽しみでもあります。

──以前、家庭用ゲームでも複数のハードが登場し、“戦国時代”と言われたことがありましたが、再びそんな時代が来た、といったイメージでしょうか。

松田 まさにそうですね。ただ、以前は安定したビジネスモデルの中での競争でしたが、いまはゲームメーカーにとっては、パラダイム・チェンジ(根本的転換などの意。大きな枠組みを崩壊させ、変容させること)しなければ生き残れない時代になりました。

冬商戦も好調な滑り出し 『新生FFXIV』は収益の柱のひとつに

──『新生FFXIV』はかなり好調な滑り出しとなりました。本作は、一度サービスが開始された作品を作り直すという、思い切った決断がなされ、それが成功に結びつきましたが、松田社長もホッとされたのでは?

松田 社内的にもたいへんなチャレンジで、吉田(吉田直樹氏。『新生FFXIV』のプロデューサー兼ディレクター)を始め、開発スタッフがよくがんばってくれました。もう、それに尽きます。最初の『FFXIV』はきびしい状況にあり、経営的にもかなり大きなインパクトがありました。当時、財務担当だった私も「これはマズいな」と正直思いましたし、作り直すことへの投資についても、心配がなかったと言えばウソになります。ですが、お客様からの信頼を取り戻さなければいけないという判断で、決断しました。開発チームにも相当なプレッシャーはあったと思いますが、11月現在で、課金者数は『FFⅪ』のピーク時を超える60万人を突破し、見事に立て直してくれました。中国への展開も視野に入れ、今後は投資分を回収し、収益の柱のひとつとして大いに期待しています。

──『ライトニング リターンズ FFXIII』が発売され、12月には『ドラッグ オン ドラグーン3』と『FFⅩ/Ⅹ-2 HD リマスター』、さらには『DQ』シリーズのスマートフォン展開がスタートします。冬商戦への手応えをお聞かせください。

松田 『ライトニング リターンズ FFXIII』は台湾、韓国などアジア地域も含め好調です。『ドラッグ オン ドラグーン3』は、前作の発売から期間はかなり開いていますが、シリーズの熱心なファンの方々からの期待も感じますし、内容もいいものに仕上がっています。そして、発表当初から大きな反響があった『FFⅩ/Ⅹ-2HD リマスター』もようやく発売できます。こうしてラインアップを見ると、この冬は楽しみなタイトルが揃えられたなと感じています。

──『パズドラ』のアーケード版も発表されました。話題に事欠かないですね。

松田 我々はコンテンツの会社ですので、パイプラインの充実はつねに意識していますし、どういったものを仕込んで、どのタイミングでアナウンスするか、というのは開発陣とよく話し合っています。ただ、なかなか計算通りにはいかないことも起こりうるのがこの業界の特徴でもあります(苦笑)。そういう意味では、『新生FFXIV』は立ち上げから2年半でローンチするという偉業を成し遂げてくれましたし、『ライトニング リターンズ FFXIII』は、企画時からこの時期に発売するという計画通りに仕上げてくれたので、優秀なタイトルだったと思います。

スマホでは『DQ』シリーズのほか 他の有力IPの過去作、新作も

──『DQ』シリーズのナンバリングタイトルをスマートフォン向けとして一気に展開をする意図、戦略をお聞かせいただけますか?

松田 スマートフォンはゲーム専用機ではありませんが、スマホでゲームを楽しむという方も多数いらっしゃいます。『DQ』シリーズは、誰にとっても遊びやすいゲームですので、多くの方々に遊んでいただきたい。そう考えると、スマホ展開というのは自然な流れだと思っています。また、スマホの性能も向上し、シリーズ作品を展開するうえでハード上の問題もなくなりましたので、機が熟したこの時期に展開しよう、ということになりました。

──『DQ』以外、たとえば『FF』シリーズは『Ⅴ』までスマホ向けにも移植されていますが、それ以降のシリーズ作品や、さらには御社が抱える豊富なIPを投入するお考えは?

松田 当然、普及が進んだスマホに向けて我々のコンテンツを出すというのは重要なことだと考えています。移植作品だけではなく、たとえば『FF』シリーズでは『FF アギト』をスマホ用に開発中ですが、そのほかのフランチャイズについても、過去作や新作の開発もぜひ実現したいと考えています。もちろん、スマホばかりではなく、そのタイトルのゲーム性やターゲット層も考慮してプラットフォームを決めていきます。また、スマホ向けのオリジナルタイトルの投入もやっていく必要があると感じています。『拡散性ミリオンアーサー』のように、スマホでヒットすれば家庭用ゲーム機向けへ、という可能性もあるかもしれません。

──スマホ市場に向けて、かなり本気で取り組んでいる印象を受けるのですが。

松田 スマホのほかにも、プレイステーション4やXbox Oneといった新世代機で楽しめるHD作品、携帯ゲーム機向け作品、PC向け、さらには今後はクラウド技術を使ったプラットフォームも出てくるでしょうし、全体のゲームのポートフォリオ(構成)は考えたいと思っています。いろいろな選択肢がある中で、サービスもお客様の層も、そしてプレイスタイルも、それぞれ少しずつ異なります。インターフェースを含め、そのプラットフォームに最適化する必要があるので、クリエイター陣にも、手掛けるタイトルをどこにどう当てはめていくかを考えてもらうことが重要になります。ただし、ただ単に移植すればいいというものではありません。プラットフォームに関係なく、いちばん重要なのは、スクウェア・エニックスらしいゲームを出していくということです。

ハイエンド機向けには フラッグシップタイトルを投入

──第2四半期の決算説明会では、国内スタジオについてはスマートデバイス向けのタイトル制作を加速するとの説明がありました。一方で、美麗なグラフィックや物語性の強い内容でファンを魅了してきた御社らしい作品は、今後どうなさるおつもりですか?

松田 国内の開発がスマートデバイス一辺倒になることはありません。プレイステーション4やXbox Oneなどのハイエンド機向けには、フラッグシップタイトルを中心に展開していきます。現在発表しているものでは、国内スタジオでは『FFXV』や『キングダム ハーツⅢ』、海外スタジオでは『TOMB RAIDER(トゥームレイダー)』の続編なども予定しています。こういった、シングルプレイのストーリードリブンなゲームは、スクウェア・エニックスのDNAだと考えています。一方で、たとえばサンドボックス型(広大なフィールドで自由に攻略が楽しめるゲーム)のようなゲームなどは、オンラインをフィーチャーしたスタイルにしていこうと思っています。

──では、ハイエンド機向けの展開も、いままで通り、引き続き力を入れてやっていくと。

松田 もちろんです。ただ、ストーリーテリングな作品であっても、パッケージを売って終わりというのではなく、新しいビジネスモデルに挑戦していきたい。パッケージ単品だけでのビジネスではきびしくなっていますので、そういった工夫やイノベーションも必要になってきていると感じます。

──日本では来年いよいよ登場する新世代機のプレイステーション4とXbox Oneについては、どのような印象をお持ちですか?

松田 両機種ともネットワークに関して工夫がされている点がおもしろいところです。F2P(フリー・トゥ・プレイ)への取り組みにも力を入れられていますし、PC向けにF2Pタイトルで名を馳せたメーカーも参入されるようです。つまり、これまではSteam(※)などでしかプレイできなかったF2Pのタイトルが家庭用ゲーム機でも遊べるようになることで、ユーザーの広がりに期待できますし、我々にとっても、ビジネスチャンスが広がると考えています。

──先日、スクウェア・エニックス独自で開発された新たなクラウドゲーム技術“ProjectFLARE(プロジェクト・フレア)”が発表となりました。このプロジェクトの狙いは?

松田 長い目で見ていくと、クラウドゲーミングという流れは不可避で、それがメインストリームになる可能性もあります。スマホではスマホならではのゲームの楽しみかたがあるように、クラウドゲームにもクラウドゲームならではのゲーム体験があると思っています。また、クラウドゲームはビジネスにも大きな変化をもたらすでしょう。独自で開発した目的は、クラウドゲームの研究という部分もありますし、ビジネス的な部分でもその中核を担えるように準備するため、というところも大きいです。

変わる中で変わらないもの 維持する部分も重要

──2013年の下半期、また、来年以降の戦略については、どのようにお考えですか?

松田 大きな流れとしては、ネットワーク化、オンラインゲーム化というのは、いまよりもっと進んでいくでしょう。そんな中で我々としては、“スクウェア・エニックスらしいゲーム”を出していかなければならない。そこは首尾一貫して、これからもこだわっていく部分です。変わる中で変わらないもの。維持する部分も重要です。我々は、コンテンツ企業ですから、どんなに環境が変わったとしても、そこは最重要視していきます。そこにブレはありません。

──2014年に向けて、仕込んでいるタイトルも多数あると思うのですが、その規模感は?

松田 さほど変わりません。ただ、欧米スタジオからのタイトルは、オンラインタイトルが増えると思います。ちょっと変わったタイトルもありますので、今後の発表を楽しみにしていただければと思います。

──ちなみに、松田社長は、自社の各タイトルをどの段階で見ていらっしゃるのですか?

松田 企画の段階で見て、単に数字のみならず、お客様のニーズや開発チームの意気込みなど、さまざまな観点から投資する価値がある企画かどうか、という視点でジャッジしています。企画段階では、成果が出せそうか出せなさそうかというのがわかりづらいものもあります。ですが、とにかくスタートさせてみる、ということは重要だと思っています。ただ、開発チームには、いかにすばらしい企画であっても、実現可能かどうかということはしっかり判断してもらいたいと考えています。

──新しい企画やユニークな企画などは、たくさん出てきているのですか?

松田 はい。もっともっと出してもらいたい。じつはいま、もっと現場に任せる体制に組織を変えていっているところで、そこから企画をどんどん出してもらいたいと考えています。

──組織の構造改革をされている?

松田 はい。我々コンテンツ会社は、開発ラインの厚みが重要です。そのラインがたくさんあるほうが、ビックリ箱的にとんでもなくいいものが出てくる可能性が高くなります。そういったものをたくさん仕込めるような会社にしていきたいのです。ですので、今後は開発ラインの厚みは重視していく予定です。

──開発メインのチームが増えるということですね。まさに、将来を見据えての投資、施策という印象を受けます。

松田 いまのゲーム業界を取り巻く環境は、半年先ですらもどうなっているかわからない部分もありますので、リードタイム(開発に着手してから発売するまでの所要期間)が出てしまう以上、開発中のタイトルが世に出るころには、どう受け入れられるのか読めないところが難しいのですが。ただ、5年ほど前は、開発に2〜3年掛かっても環境が劇的に変わることはなかったですが、いまはそうではありません。リードタイムはなるべく短くし、想定している市場に意図したコンテンツを投入することを目標にやっていこうと考えています。

──最後に、スクウェア・エニックスに期待しているファンにメッセージをお願いします。

松田 今後も弊社らしいゲームにこだわって開発していき、皆様にお届けしていきます。スクウェア・エニックスらしいゲームというのは“記憶に残るゲーム”だと思っています。そういったゲームを提供し続けたいと思っています。

──まさに御社は、これまでもそういった、何年経っても語り継がれるゲームをたくさん出されてきました。

松田 そうした“記憶に残るゲーム”を開発するのが、スクウェア・エニックスであると思います。スクウェア・エニックスは、『DQ』や『FF』でRPGのスタイルを築きました。グループ会社のタイトーが開発した『スペースインベーダー』はアーケードゲームの元祖です。これもグループ会社の旧アイドスは、初期の『TOMB RAIDER』ではアクションアドベンチャーの、『Deus Ex(デウスエクス)』ではFPSとRPGを融合させた新しいスタイルの先駆けとなりました。来年発売予定の『Thief(シーフ)』の初期作品も、ステルスアクションの秀作でした。このように、どんなデバイス・プラットフォームかに関わらず、その時代ごとのゲームのスタイルを築いてきたのがスクウェア・エニックス・グループだと思います。『DQ』や『FF』の登場以降、たくさんのRPGが出てきたように、フォロワーが出てくるようなゲームを、これからも作っていきたいですね。

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