【TGS2013】ガンホー森下氏が基調講演で語る、『パズドラ』の成功の秘訣とゲーム業界への熱い思い
2013-09-19 15:57 投稿
大ヒットの旗手、森下一喜氏
東京ゲームショウのオープニングを飾る、TGSフォーラム2013基調講演。ソニー・コンピュータエンタテインメントのアンドリュー・ハウス氏らにより行われた第1部の講演に引き続き、第2部ではガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役CEOの森下一喜氏が“ガンホー・オンライン・エンターテイメントが目指す、ゲーム像とは”というテーマで登壇した。そして、『日経エンタテインメント』編集長などを務め、エンターテイメント業界で幅広く活躍する品田英雄氏が「業界の人々が聞きたがっていることを集めた」質問をぶつけていく対談形式で、講演は行われた。
『パズドラ』を早く壊したい
『パズル&ドラゴンズ(以下、『パズドラ』)』の空前の大ヒットを受け、多数の聴衆が詰め掛けたステージに現れた森下氏。「正直申しまして、講演自体が苦手でして……。3回ほどお断りしたのですが、どうしてもというので仕方なく(笑)」と、いきなり正直すぎる告白から講演はスタートした。途中、森下氏みずからがカメラを回した映像も流しつつ、講演は和やかな雰囲気のまま進んでいった。
最初のテーマは、『パズドラ』について。2013年9月現在で1900万ダウンロードを突破したという、大ヒットの理由について聞かれた森下氏は、「どうして成功したかの分析はしていませんし、これからもするつもりはありません」と発言。ヒットする要因は時代によって変化していくもので、近年は変化のスピードもどんどん速くなっている。むしろ、『パズドラ』のヒットに縛られていては次の成功は望めなくなってしまうので、逆にマイナスになってしまう恐れさえある。だからこそ、「よく使っている言葉なのですが、“タイミング”と“運”がよかったのだと思っています」と森下氏は語る。いい作品を作るために努力するという、当たり前のことを当たり前にやってきた。その結果、タイミングと運が重なり合って『パズドラ』の大ヒットにつながったのだ。むしろ大事なことは、そうやって驕ることなく革新的な挑戦を続けられるかどうかなのだという。熱く語る森下氏からは、強い覚悟が伺えた。
技術的な面で注力したことについて問われた森下氏は、画面構成を縦長にしたことが、ターニングポイントとなったと語る。もともと、家庭用ゲームのように横長になるように作っていたが、縦長にすることで、ドロップを操作するパズルの部分と、ダンジョンの部分を同時に表示することができるようになり、ユーザーインターフェースが大幅に向上。さらに、プロデューサーの山本大介氏と膝を突き合わせながら、「触感や音など、気持ちよくプレイできるようにしたい」「電車でつり革を掴みながら、片手でも遊べるようにしたい」「女性が恥ずかしがらずに遊べるように、手軽な操作にしたい」と、つぎつぎと要望、アイデアを盛り込んでいった結果、現在の形ができ上がっていったのだ。
さらに、ニンテンドー3DSでの発売についての質問には、「2011年9月くらいの企画の段階で、3DSで発売することは決めていました。よほど売れなかったらやめよう、とは思っていましたが、幸いにもそうはならなかったので(笑)」と笑顔で答えていた。ただ、今後について聞かれると「『パズドラ』というフォーマットは、早く壊したいですね。でないと、新しいものは作ることができないと思います」という驚きの発言が飛び出していた。
社長ともタメ口! 一体感溢れる社内
続いて、“ガンホーってどんな会社?”を説明するため、スクリーンに森下氏みずからが突撃取材(!?)した社内の様子が映し出された。驚いたのは、あまりにもアットホームな雰囲気が社内に満ちていたこと。カメラを回す会社のトップ・森下氏と会話するスタッフは、なんと“タメ口”。そのことだけでも距離の近さがうかがえるが、ほかにも会社を挙げて浅草のサンバカーニバルに参加するなど、社内の一体感を生み出すさまざまな施策が行われている。また、あるゲームの開発中に大量のバグが発生したとき、ほかの開発ラインを止めて社内総出でデバッグ作業を行ったというエピソードも披露された。森下氏によると、この一体感こそがガンホー躍進の原動力だということだ。もっとも、距離の近さには「メールが苦手で、重要な連絡は直接呼び出して伝えるんですよ」という森下氏のキャラクターも、大いに関係しているかもしれないが。
また、社内で事業計画を作るときも、予算などは書かせないという。「いくらかかるかは、経験則でだいたい頭に入っているので」という森下氏は、それよりもゲームがおもしろくなるかどうかを見る。それらを総合的に判断し、企画を通すかどうか「独断と偏見で」決めるのだそうだ。といっても、予算が捻出できなければゲームは作れない。「CFOには、開発以外のことはすべて絞れ、と言ってあります。僕自身ワガママにゲームを作りたいので(笑)」(森下氏)
おもしろいゲームを作る、作るための体制を整える。あらゆる犠牲を払いつつ、そのためだけに全力を尽くしているガンホーから、『ラグナロクオンライン』や『パズドラ』のような大ヒット作品が生まれたのはある意味必然なのかもしれない。
ゲーム業界の将来に恩返しをしたい
もともと、家庭用ゲームの受託開発からスタートしたというガンホー。その中で培った、大手メーカーからガンホーと同じような境遇の開発会社までの、さまざまな人とのつながりが森下氏のかけがえのない財産になっているのだそうだ。だからこそ、ゲーム業界の将来について問われ、「家庭用ゲーム機という市場は、個人的にはもっと発展してもらいたいと願っています」と森下氏は語る。この発言だけではなく、随所で家庭用ゲームへの愛を語ってきた森下氏ではあるが、ゲーム作りに関しては「家庭用もスマホも、同じくらいの魂を込めて作っていきたい」と宣言し、ファンを安心させていた。
また、グローバル化が進む現況について「世界に出るチャンスは会社の大小に関わらず必ずある」と明言。ガンホーではPC向けのオンラインゲームで世界60ヵ国に配信しているが、それぞれの文化や特色といったものに配慮しつつも、「根本的に大切な部分はどの国でも同じなので、媚びずにいいものを作れば評価されるはず」と語る。それよりも大切なのは、開発者ひとりひとりが“意識”をつねに高く持つことなのだそうだ。意識を高く保っていればどんな年齢でも成長でき、どんな危機にも対応できる。「僕が社長である理由は、僕がいちばん意識が高いからなんです」(森下氏)。
そして最後にゲーム業界に向けたメッセージを求められ、「僕は本当にゲーム業界のみなさんに支えてもらって、いろんなことを教えてもらいました。いまガンホーがあるのは、そのおかげだと思っています。だから、僕たちもガンホーが10年前に創業したように、新しい会社が誕生できるように寄与していきたいと思っています」と語った森下氏。『パズドラ』の大ヒットでさらに注目が集まる今後については、「たくさんのメーカーさんともコラボレーションさせていただいていますし、これからも協業させてもらえれば」と言うにとどまったが、貪欲にチャレンジを続ける同社だけに、また新たな意欲作を生み出してくれるだろう。そんな未来像さえうかがえる基調講演だった。
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