ソーシャルゲーム開発は、いま沖縄がアツい
2013-03-11 10:00 投稿
●アプリカ 森尾紀明氏の基調講演「時代の0.5歩先を目指す」
地方都市がIT企業の支援に積極的に取り組んでいるのはよく聞く話。かくいう沖縄県もそのうちのひとつで、“沖縄文化等コンテンツ産業創出支援事業”として、沖縄にオフィスを構える企業を積極的にサポートしている。2013年3月8日に沖縄産業支援センターで行われた“ソーシャルゲームセミナー”は、そんな支援事業の一環として、ソーシャルゲームのさらなる振興などを目的として開催されたもの。ソーシャルゲームの開発に携わる関係者を招いてのセミナーやパネルディスカッションなどが行われた。
まず行われたのが、アプリカ 代表取締役社長 森尾紀明氏による基調講演“今のアプリカの事業がどのように成立しているか”。2010年6月に設立されて以降、『バイオハザード アウトブレイクサバイヴ』や『秘録 妖怪大戦争』の開発などを手掛けてきた同社では、2012年3月には沖縄の地にアプリカラボを設立している。森尾氏の基調講演は、東京と沖縄を拠点にソーシャルゲーム作りに取り組む、アプリカの戦略を紹介したものだ。
▲アプリカ 代表取締役社長 森尾紀明氏。ちなみに、“アプリカ”という社名の由来は、アプリを作る会社だからとのこと。 |
最近では、『ポーカー&ダンジョンズ』(配信元はサイバード)などが好調な同社だが、2010年6月に設立されて以降、外してきたアプリも多かったとのこと。「目新しいタイトルを……」と思うあまり、ときに出すタイミングが早すぎたというのだ。そこで得た気づきは「0.5歩先を行く」というもの。1歩先ではなくて、“0.5歩先”のほうが、ユーザーに受け入れられやすいとの判断からだ。そのうえで方針としたのが、大手との協業モデル。『ポーカー&ダンジョンズ』にしても、サイバードとの協業という形をとっているが、受託(いわゆる下請け)にしてしまうと、開発陣のモチベーションが上がらなくなってしまうのだという。やはりアプリ開発により主体的に関われてこそ、作り手も腕の振るい甲斐があるというものなのだろう。アプリカの目標は「世界一のアプリを作る」というものであるが、大手と組んだほうが、世界一を目指しやすいとの判断もあった。そのうえで、「いずれは自社ものもやりたい」と森尾氏は意欲を見せる。
「ソーシャルゲームはレッドオーシャン化(競争の激しい既存市場)している」という森尾氏。アプリカにとっての今後の目標は、新しい市場(ブルーオーシャン)ということになるが、いまやヒットするアプリを作るには、“企画”、“技術”、“マーケティング”、“資金”のすべてが問われる“複合的な総合芸術”になっているという。「企業の総合力が問われる時代になる」(森尾氏)というのだ。とはいえ、「やるべきことをやれば、勝てないマーケットではない」と森尾氏は断言する。
▲基調講演の後半では、アプリの制作方法などを明らかに。 |
さて、さきほども述べたように、アプリカは、2012年10月に沖縄にアプリカラボを設立した。「なぜ沖縄なのか?」という疑問に対しては、「たまたまです」と森尾氏。とはいえ、沖縄にスタジオを構えているからといって、安直にアプリに首里城を出すことで、“沖縄で作っている”ということをアピールしたくはないという。アプリカには、「世界一のアプリを作る」という明確な目標があるが、世界の人が必ずしも首里城を知っているわけではない。そこに向けて“沖縄”というメッセージを出さないで、「沖縄で作ったタイトルが世界に届くということにこそロマンがある」(森尾氏)というのだ。東京で働いても沖縄で働いても同じ仕事であり、場所にこだわっているわけではないと森尾氏。ただし、「沖縄だからこそ、設立を即決したのかも」と森尾氏は続ける。沖縄県は、「働きたい県ランキング」で東京都についで2位に入っており、沖縄だからこその魅力はあったのかもしれない。
▲沖縄にスタジオを構えて、世界一のアプリを目指すアプリカ。 |
●パネルディスカッションで語られる「なぜ沖縄なのか?」
おつぎのパネルディスカッション“沖縄から世界に向けてゲームを作っていくには”では、シーク シニアマネージャーの卜部俊一郎氏と森尾氏が“沖縄”をテーマに語り合った。シークは、インターネット広告代理事業やソーシャルゲームの開発、スマートフォンアプリの開発を行なっている企業で、沖縄に営業所を構えている。なお、司会はエンターブレインのファミ通ソーシャル編集部 編集長 笠井正彦が務めた。
▲沖縄をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。 |
パネルディスカッションのテーマは、まずは“人材”。卜部氏によると、東京の人に比べると、沖縄の人は自発性がないとのこと。ただし、「教えると伸びるのは早い」(卜部氏)ようで、「一長一短はあるが、マネジメントに付く人次第ではないか」とのことだ。一方森尾氏は、「トップの層は、東京でも沖縄でもあまり変わらないが、“これはちょっと……”という人材の含有率は沖縄のほうが少し高いかも」と率直にコメント。さらに、意外と男女差があって、「女性のほうが働く気があるような気がする」と続けた。これに対しては、沖縄は家父長制の意識がいまだに根強く、「長男は働かなくてもいい」という意識があるのでは……と森尾氏は分析する。
続けて卜部氏は、沖縄での人材交流の場が少ないことを指摘する。たとえば、東京だとスマートフォンの勉強会で苦労することはなかったが、沖縄だとほとんどない。しかも、たまにあっても定員割れを起こすことも多々あるというのだ。「情報の共有が未熟なのかと思うこともある」と卜部氏。それに対しては森尾氏が、「目線の高さの違い」だと指摘する。たとえば、東京では、自分のまわりにいるのがトップクラスのアプリをリリースしている人たちだと思うと、「俺も行ける!」という思いが湧き上がるという。沖縄ではなかなかそういう人材交流が果たされず、「目線の高さが重要」というのだ。
そしてパネルディスカッションの話題は勢い、今後の業界の趨勢に。「今後SNS疲れが起こるから、そのときのコミュニケーションの形がどうなるか」と森尾氏が語れば、卜部氏はプラットフォームに魅力を感じているとコメント。「ユーザーにプラットフォームと気付かせないプラットフォーム」に今後の可能性を感じているようだった。
そして、現在カードゲームが主流のソーシャルゲームの「今後に来るものは何か?」という質問に関しては、森尾氏は「予測するのは難しいですね」とひと言。そのうえで、いまはリアルタイム性に移行しつつあると前置きしつつも、「どの要素をいじると、ソーシャルゲームとして進化していくのか?というのはある」とコメント。そんな森尾氏の話を聞くと、開発はいま模索段階にあるようだ。一方、卜部氏は、今後ユーザーのあいだにソーシャルゲーム疲れが出てくるので、「二極化するのでは?」と見る。ソーシャルゲームを変わらず遊ぶ人と、ソーシャルゲームがダメになる人とに分かれ、「ソーシャルゲームをダメになった人をどう救うかが大事」(卜部氏)を今後の命題として見ているようだ。
最後の質疑応答で興味深かったのは、人材育成について。森尾氏によると、人材育成は奥が深く、「育つ派」、「育たない派」などいろいろな意見があるそうだが、森尾氏自身の立ち位置は、「若干の育ちと環境によって伸びる可能性がある」というもの。ただし、やはり人柄が大きいそうで、たとえば、それまでの人生で積極的にリーダーシップを取ってきた人はその環境で鍛えられるというのだ。一方の卜部氏は、半分は経験で半分はセンス」だと見ているという。「ダメな人はどんなに経験をしてもダメというのはありますね。どうしても最初にセンスを見てしまいます」(卜部氏)とのことだ。
▲パネルディスカッションに参加した森尾氏(左)と卜部氏(右)。 |
●ハイレベルな争い“イラストコンテスト”
おつぎは“イラストコンテスト結果発表”。沖縄ゲーム産業振興ネットワーク(GION)主催によるこちらのイベントは、沖縄県の人材発掘のために行われたもので、当日のモデレーターは、審査員のひとりでもあるゴンゾ 代表取締役副社長の石川真一郎氏が務めた。カードゲームのイラストをテーマに募集された今回のイラストコンテスト。応募総数は293作品で、石川氏の総評によると「皆さんとてもハイレベルで平均点が高い」とのこと。ただし、「アニメ会社のトップから見ると、何10枚のカードゲームのうちのいくつかの仕事をお願いされるとしたら合格点をもらえたかもしれないが、アニメのつぎの作品のキャラクターデザインをお願いしたくなるような人はいなかった」と、あえて辛口のコメント。「これからはつぎのステップとして、さらに技術を磨くことはもちろん、自分が持っている内面を絵にだして、ベストではなくて、オンリーワン、自分にしか作れないものを目指してほしい」とエールを送った。今回のイラストコンテストでは、残念ながら最優秀賞はなく、優秀賞2作、佳作2作となった。受賞作は以下のとおり。
[優秀賞]
新垣咲さん テーマ:戦国武将
新垣さんコメント「とくにこだわったのは、顔をかっこよく描くこと。いろいろなカードゲームのイラストを研究したところ、いちばんは顔だと思ったので、顔をとくかくかっこよく描きました。カードイラストの切りかたとして、上半身をアップにしているものが多かったので、上半身を華やかにしたほうがいいのかなと、いろいろと試行錯誤して、制作しました」
石川氏評 「質感や素材感に相当こだわっていて、引き出しもあるなと思いました。あと色彩感覚もすぐれています。ただ、顔の部分に関しては、没個性で、今後は“この顔を見たら二度と忘れられない顔”、“新垣さんじゃないと描けない顔”というのを目指してほしいです」
▲優秀賞の新垣咲さんの作品。 |
[優秀賞]
仲門由布子さん テーマ:戦う少女
仲門さんコメント「キャラクターを考えるときに、背景設定も考えようと思いました。そのキャラの生い立ちなどを考えたうえで、服装やシチュエーションを考えています。試行錯誤して描きました」
石川氏評「ポーズを含めた構成力に対する評価が高かったです。絵を一瞬見たときにインパクトがあった。止め絵なのにいまにも動き出しそうな絵を描いているところが魅力的です。アニメーターになったら、いいアニメーターになるのではないかと。ただ、仲門さんは、自分自身で持っているものはわかっているけど、それに自信がないとの印象があります。それで、どこかで見たようなうまい絵にとどまっている。話しかたはシャイでも構わないので、絵を描いているときは自分の思っていることを、そのままぶつけてみてほしいです」
▲同じく優秀賞の仲門由布子さんの作品。 |
[佳作]
キラナさん テーマ:戦う少女
キラナさんコメント「戦う少女ということで肌の質感にこだわりました。肌の色が綺麗に見えるように塗ってみました。見習い剣士という設定なので、いまから技をくり出すみたいなポーズで描いてみました。あと少しエレガントさが入れたくて、イバラをイメージした線をバックにバラの花びらを入れてみました」
石川氏評「個人的には、キラナさんの絵がいちばん光る可能性があると思いました。ポーズもよく描けています。ただ、デザインはキラナさんの味が出ているのですが、キャラクターで見た場合は、どこかで見たようなものになっている。キャラの賞ではなくて、デザイナーの賞だったら、もう少し高い評価になったかもしれません」
▲佳作のキラナさんの作品。 |
[佳作]
琉季アズサさん テーマ:戦う少女
琉季さんコメント「ジャンヌ・ダルクをイメージして描きました。ポイントは服装。全身鎧だと固くなり過ぎてしまうので、レースなどをあしらった服に鎧などを足してみました」
石川氏評「色彩感覚、細部の描き込みがいいですね。圧倒的に琉季さんがすばらしいのは色ですね。ふつうの人がこれだけの色遣いをしたら気持ち悪くなるか、疲れてしまう。ふつうの常識とはちょっと違う組み合わせも含めて、色を一生懸命考えて入れていくのは、独特のセンスを持っている。そこを磨いてほしいです」
▲同じく佳作の琉季アズサさんの作品( ※モニターの“優秀賞”は“佳作”の誤りです)。 |
優秀賞、佳作を受賞した4名のイラストのクオリティーは相当なもので、沖縄のアマチュアイラストレーターたちのレベルの高さを実感させられる。“イラストコンテスト”は今後も継続する方向性のようで、さらなる人材の発掘に期待したい。
▲上左から、アプリカの森尾氏、新垣咲さん、キラナさん、ゴンゾの石川氏。下左から、仲門由布子さん、コンテストの事務局を務めたアプリカラボの担当北里美耶子さん、琉季アズサさん。 |
●スマートフォンのトレンドをレクチャー
最後に行われたふたつのセッションでは、それぞれの立場のスペシャリストがアプリ市場の現状を分析した。まずは、アドウェイズ 取締役 西岡明彦氏が“スマホアプリでのマネタイズの方法~広告収益の実例から~”とのタイトルで、アプリのマネタイズの一手段である広告収益の現状を紹介。広告の基本は“バナー型”だが、最近は“アイコン型”のほかに、“全画面型”も登場しているとのことだ。アドウェイズのサービス“ShotApp”では、全画面型の“インターステイシャル”を搭載しているが、収益が120%アップしたとのこと。さらに、同じく“ShotApp”には、“クロスウォール”というシステムが搭載されており、こちらは、ほかのアプリとの“クロスプラットフォーム枠”を設けたサービスを展開している。この”クロスウォールで”収益アップ率は105%を果たしている。西岡氏の講演を聞くと、アドサービスも進化しているのだということをうかがわせる。
▲全画面型の広告なども最近は増えたようだ。 |
最後に登壇したのは、AppBroadCast 代表取締役 小原聖誉氏。小原氏は“スマートフォン向けアプリ市場のトレンドとチャンス”にて、スマートフォンアプリの現状を分析。3月3日版のGoogle Playランキングのゲーム売り上げTOP50はすべてフリー・トゥー・プレイのゲームが占めたことに触れ、スマートフォンアプリのトレンドはソーシャルゲーム一択であり、ダウンロード時有料課金型アプリにはきびしい市場であるとコメント。さらに、現時点で40%の普及率であるスマートフォンは4年後も70%という調査結果を引用し、「スマホはあと5年は伸びる」と予測。スマートフォンのアプリを作るとしたら、「いつやるの? いまでしょ!」と講演を締めくくった。
▲小原氏によると、いまがスマホアプリを作る絶好の機会であるようだ。 |
というわけで、盛りだくさんの講演が聴けたセミナーはこれにて終了。こうした着実な取り組みが沖縄のさらなるソーシャルゲームの振興につながっていくのではないか……と思わせるセミナーだった。
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