キヲクの概要

生者と幽霊が送る情熱的な夏の夜

死んでしまった女性が夏の夜に再び姿を現す。

どんなに美しい相手でも正直いってそれは怖いし、いますぐお祓いにでも行くべき事案だが、ヨシエとヒデキ、ふたりにとっては少々事情が違うようだ。

本記事で紹介する『キヲク』とは、生前ヒデキに付きまとっていたヨシエが死してなお猛アピール。こちらにその意志がないことを態度で伝え、結ばれないよう恋の呪いを振り切っていく、ホラーテイスト満載だがまったく怖くない恋愛シミュレーションゲームだ。

愛おしくさえ感じてしまう女幽霊の魅力

生前、自分に付きまとっていた女性が死去。幽霊になって現れたらもはや逃げ場なしの緊急事態だ。

死んでも離れたくないとか、そんな一方的な想いで迫られても何もうれしくない。

我が身に起こったらと想像するだけで身の毛がよだつ事案だが、本作の主人公ヒデキはそれを甘んじて受け入れてしまう。

ヒデキとヨシエの距離感は驚くほど近く、ゲーム序盤から彼女が幽霊であり付きまとわれているという恐怖心は薄い。

乱れた長い髪と汚れた白いワンピース、幽霊を連想させる記号は揃っているのだが、どうにもこうにもふたりの会話はもはや恋人同然。ストアのジャンル表記に“幽霊の女の子と恋愛”と書かれているのも納得してしまう。

怖いと感じるのは雰囲気だけで、生き生きとした（死んでますが）ヨシエの表情やしぐさは恋する乙女。

遊具で遊んでみたり隠れんぼをしてみたりと、中高生時代のちょっと不器用で1歩踏み出す勇気のないほろ苦い恋愛を見せつけられているような気分なのだ。

怖さがなくなっていくと同時に沸き起こるモデルさんへの興味。キレイでもあり可愛らしくもあるヨシエを演じるこの方、クレジットから緋真煉（ひさなねる）さんといい、Twitterのプロフによれば絵描きでモデル、古武術剣士にして平成の毒女らしい。

っと話題が逸れましたが、胸のドキドキが恐怖からではなく恋の始まりなのかも？　とすら思えてくるこの強烈な変化球の効いた恋愛シミュレーション。

ぜひ、純粋な気持ちでまっすぐ受け止め、ふたりの結末を見届けてほしい!!

結ばれないエンディングが示す恋愛の闇

本作はショートステージを選択肢を通じて進めていく簡単なもの。その結果に応じて変化する好感度はエンディングに影響を与える。

一見すると簡単なルールなのだがヨシエは何をやっても前向きに捉えてしまう驚きのポジティブ思考。プレイヤーの意思そっちのけでガンガン恋が発展してしまうのだ。

ヒデキの広すぎるやさしい心が彼女に誤解を与えている。

そんな気分になってくるのだが先述の通り、ふたりの関係をどこかで応援したくなってくるため、気に入られてホッとしてしまう自分もいる。

結ばれるエンディングを回避するという恋愛シミュレーションとしてはめずらしいアプローチ。

全力で迫る恋の呪いを振り切ったそのとき、手もとに残される彼女の手紙に何が書かれているのか。

ふたつの意味に読み取れるその内容は必見だぞ!!

P.N.深津庵
※深津庵のTwitterはこちら

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