アニメをスマホゲーム化するために大事なこととは――“IP ゲームをヒットへ導く10の法則”リポート【アニメゲームカンファレンス2022】

2022-12-13 11:37 投稿

中長期的の運営に必要なこととは

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2022年12月9日、data.aiが開催する“アニメゲームカンファレンス2022”が開催された。本カンファレンスは、日本のアニメ・ゲーム市場を牽引する企業からの登壇者が、成功秘話やヒット作を生み出す秘訣などを公開するもの。本稿では、そのカンファレンス“IP (アニメ) ゲームをヒットへ導く10の法則”の内容を紹介する。

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【登壇者(企業)】
中倉岳大(スクウェア・エニックス)
大谷恭仁(enish)
森下明(ブシロード)
佐藤允紀(f4samurai)
モデレーター:澁澤匡哉(東宝)
※継承略

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カンファレンスのテーマは大別して3つ。おおまかに計10個の副題が設けられ、登壇者それぞれが意見を述べ合った。

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なお本カンファレンス名は“IP (アニメ) ゲームをヒットへ導く10の法則”であり、お題としては10個あったものの、明確に“ヒットへの法則”が提示されないことはカンファレンス冒頭で触れられ、視聴者の判断に委ねられた。

これに関しては筆者自身が、登壇者の発言から“ヒットへ導く10の法則”と感じられたものを、本記事末尾に記載する。

作品を企画からお客さまへ届けるまで

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まずは大谷氏が発言。IPを取り扱うにあたり、とくに資本が潤沢ではない場合、まずはマーケティングにかける適正なコストを見定める必要があるとのこと。タイトル選定の際には、集客可能なパワーを把握することが重要で、TwitterなどSNSでの意見もひとつの判断基準になってくる。

それにあたり、ユーザーそれぞれの単純なフォロワー数の大小ではなく、発信やリツイートなどひとりあたりの熱量がどれだけ高いか、そうしたユーザーがどのようなアカウントをフォローしているか、ゲームをプレイするユーザー層かどうかなど、複合的に判断。そのうえで売り込みかたの指針を作っていくという。

また該当タイトルが「何を楽しむIPなのか」といった視点も提示。キャラクター単体を重視したものか、キャラクターグループを楽しむ、いわゆる“箱推し”なのかも加味したうえで、「IPをファンの人たちにいかに届けるか」と述べた。

佐藤氏は、IPを取り扱う際「タイトルの原作者、関係者、ユーザーそれぞれの想いが本質」とコメント。スマホゲームならではの見せかたをするにあたり、とくに原作者サイドとは密に意見交換もし、できるだけ同じ方向性を目指していくという。

中倉氏も、「軸となる人の作家性」をとくに大事にしていると続ける。もともとある他のゲームと同じエンジンにIPを乗せただけでは、必ずしも好調にはいかないという。そのため、ゲームクリエイターをはじめ、明確な軸がある要員の方向性をできるだけズラさず、整合性を取ることが必要と語った。

森下氏はこれらを踏まえたうえで、「タイトルを中長期化させるにあたり、クローズも逆算したうえで、プロモーションも含め経営支援をどれだけできるかが重要」とコメント。「本質的にユーザーを大切にするならば、 逆説的ながら“終わりへの意識”も必要なのでは」と持論を展開した。

ヒットの要素と成功の友

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ソーシャルゲームではユーザー目線からすると、課金要素をできるだけ排除したキャンペーンはうれしく映るが、「タイトル寿命からすると得策ではない」と、まずは中倉氏が失敗談を披露。

あるタイトルでユーザーに対し「お得すぎる」キャンペーンを打ったものの、以降の施策に響く結果に。「売上に結びつかない=継続性に関わる」図式となるため、ユーザーの中からも不安があって離れてしまうケースも。そういったこともあり、現在はバランスに配慮していると続けられた。外注の人件費も高騰しているため、タイトルを黒字化するハードルも上がっているようだ。

また実装するキャラクター選別にしても、広く人気のあるものだけを取り上げるわけではなく、「キャラ愛は多様」という観点から、必ずしも利益に直結することだけを考えてはいないとのこと。

大谷氏は、「タイトル独自の強みを見せていくこと」が大事とし、自社が手掛ける『ゆるキャン△ つなげるみんなのオールインワン!!』(2023年春リリース予定)の事前施策を紹介。

本作は「ずっと見ていられるゲーム」をコンセプトとして決めていたが、それは『ゆるキャン△』という作品自体が、「その世界を見る、言わば箱推しのコンテンツ」ゆえ。

PVとして同作品の志摩リンが「焚き火をしている」だけの動画を公開したが、これがユーザーからは好評。初動の事前登録者はコストに反して非常によく、ヒットへの手応えを感じているという。

失敗例としては他社タイトルの衰勢も調査したうえで、「想定外の集客から初日でサーバーが落ちてしまった」、「(お得すぎる点で)課金設計をミスしていた」といった事例に言及。「とくにリリース初期のお客様を大切にすること」が大切と語った。

中倉氏はこれまでの流れとは異なり、要員の割り当てについて言及。適した人材をアサインできない場合、そのプロジェクト自体を諦めるほどだという。逆にビジネスパートナーが信頼できる場合、それから取り扱うIPを探すこともあるようだ。続けて森下氏も、「パートナーシップのコスト・リスクが低いことは大きなメリット」と同意。

森下氏からは「リリース初動がすべてという論調にはなっているが、適切なバックアップ体勢があれば挽回は可能」との意見が。大切なことは「先人の失敗を精査し、それをくり返さないこと」と付け加えた。ここから派生し、「ユーザーの流入度がわからないうちに、プロモーションを大々的に打つのは、逆に客離れを招く可能性があり悪手」といった意見も寄せられた。

ほか成功事例としては「敢えてヒットを狙わないことも重要」、失敗例としては「不安要素を解消せず、中途半端に開発を進めていくことはNG」、「開発陣はリリースをゴールと思わないほうがいい」といった大局的なものから、「わずか4行のコードミスを発見することに多大な時間を割かれた」といった現場単位のものも紹介された。

メディアミックスの先にあるもの

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中倉氏は、数字面(7)においてLTV(顧客生涯価値)、DAU(デイリー・アクティブ・ユーザー)を重視しているとコメント。DAUでは30日中でどれだけユーザーがログインしているか、新イベント開始時やコラボ時などはとくに注意を払っていると語った。

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ゲーム or アニメ(8)については、大谷氏が開発中の『ゆるキャン△ つなげるみんなのオールインワン!!』を例に出し、「作品の既存ユーザー向けに開発しているが、プレイしていただいた後に、もう一度原作にふれたくなるゲームにしていきたい」とコメントした。

2020年代のメディアミックス(9)では、森下氏が「昨今のアニメ制作は非常にリッチになっており、とくにクオリティが求められている」ことに言及。視聴者の目が成熟し多様なコンテンツが飽和するに従い、クオリティを重視することはもちろん、安定供給できることが重要と付け加えた。

続けて澁澤氏が、「ソーシャルゲームでも映像面の進化が目覚ましく、半年に1回はクオリティが上がるレベル」と言及。例として『原神』『鋼の錬金術師 MOBILE』といった作品名が挙げられた。

最後のお題、海外展開(10)では、森下氏が知見を紹介。同氏によれば、海外展開では性的・宗教的な点からIPのローカライズ難度が高いという。たとえば“百合”という概念はグローバルに見ると正確な言語変換がない。また昨今のLGBTQについても、現地の価値観に沿ったうえで海外展開をしないことには、炎上の危険性もあるのでは語った。

成功・失敗事例から学ぶゲーム開発

本カンファレンスの大まかな内容は以上。業界に精通した登壇者たちによるさまざまな意見が交わされた。

タイトルの“ヒットへ導く10の法則”と筆者が感じられたものは以下。IPタイトルのトレンドの一例として参考にしていただきたい。

(1)IPタイトルの選定にはSNSの事前リサーチが有効
(2)該当IPにどのような需要があるのかを把握する
(3)原作者サイドとは密にすり合わせを
(4)タイトル独自の強みを活かせるゲーム作り
(5)開発者の作家性に合う方向性を提示
(6)リリース時の初動はとくに重要
(7)リリース前にはクローズドも意識
(8)過去の失敗事例を精査し避ける
(9)ユーザーメリットが大きすぎる施策は、中長期的に見て運営不利に
(10)海外展開時には現地文化の理解が不可欠

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