AppLovin社が考える広告プラットフォームとハイパーカジュアルゲームの未来
2019-05-04 10:00 投稿
広告の枠を超えた開発者をサポートする新たな試み
ハイパーカジュアルアプリをはじめとする無料アプリをプレイするうえで、広告バナーや広告動画は切っても切り離せない身近な存在だ。
これはゲームを開発するデベロッパーが収益を得るための重要なものであり、このおかげで本来購入すべきゲームを無料で楽しむことができているとも言える。
今回注目するAppLovin株式会社とは、米国で成長を続けるアプリ向け広告プラットフォーム。その日本法人として2016年4月に設立したAppLovin株式会社の代表取締役である林宣多(はやしのりかず)氏に、同社がサポートするハイパーカジュアルゲームの現状と、クリエイターが収益を生み出すための秘訣をライターの深津庵が伺ってきた。
広告で収益を確実に上げる手法を開発者に提供
AppLovinとはいわゆる我々が日々目にしているインターネット広告に関するシステムひとつ“アドテクノロジー”を扱う企業。広告主にスマホアプリ向けのマーケティングプラットフォームを提供し、広告配信を支援する一方で、ハイパーカジュアルアプリ開発者にはSDK(ソフトウェア開発に必要なツールセット“Software Development Kit”の略称)を提供して広告収益をサポートしている。
――カジュアルゲームを手掛けるにことになった理由とは?
林宣多氏(以下、林) 盛り上がってきたのが2.3年で、その中でもいちばん大きな転換期となったのはビデオ広告の登場だったと感じています。これはGoogleやFacebookも同様で、世界中に対して広告配信ができるようになったことでマネタイズ、収益力が上がりました。
――言語を必要としないカジュアルアプリはまさに最適だったわけですね。
林 その通りですね。日本でも10年くらい前からカジュアルゲームというのはある。しかし、どんなにクリエイティブなものを作り広告費をかけても収益が上がらないこともある運任せの時代でした。そこに我々のニーズがあると考え、いいゲームを作ってるがプロモーション方法がわからない開発者を対象にプロモーション費用を提供。ゲーム制作に専念していただき、リリース後の広告費で収益を回収してくことになったのです。
――サポートするには収益の見込みがある程度ないとできないと思います。その判断はどのように行っているのでしょうか。
林 我々が事前にプレイしてその手応えを確認しています。ヒットするかどうかは突き詰めていけばすべて数字で表すこともできる。培ったそうしたノウハウをベースにテストを行った上でキャンペーン配信を実施。実際にユーザーの反応を見て算出される数字で判断しています。これはワンデーリテンションといいまして、少なくとも50%ないと難しい。従来あるコンソール系のゲームとはまったく異なるゲーム作りで、収益が出ないと数字が示したらつぎのアプリを開発。改善すべき点があればそれを推し進めていく。数値化できることは我々がサポートし、クリエイターにはクリエイティブな部分に注力してもらうことが大切なのです。
ハイパーカジュアルゲームの開発はスピードが大切
――スマホアプリの広告収入でとくに効果的なのは何でしょうか。
林 何回か失敗すると出る動画広告と、再生することでヒントが得られるスタイルですね。
――視聴するとどれだけの収益が見込めるのでしょうか。
林 1ユーザーあたり20円~200円ほどで、基本的には最後まで視聴しないと発生しません。
――ゲームを立ち上げるとタイトル画面の直後に広告動画なんて場合も多い。それだけでプレイするのが面倒になることもあります。
林 まず、国によって広告への概念が異なっていますし、それを気にしないユーザーもいます。良し悪しの判断はとても難しいですが、海外のユーザーは広告になれているのに対して日本のユーザーには嫌われる傾向にある。結果的にデベロッパーの収益を最大化できるのであればそれがベスト。とはいえ出しすぎても嫌われてしまうのは事実なので、そこは気をつけていますね。
――広告をきっかけに大きな反響を得られたアプリはありますか。
林 直近でいうとLion Studiosの『Happy Glass』ですかね。世界向けに作ったものだったのですが、日本のYouTuberにもたくさん取り上げていただき、予想以上の成果を得ることができました。
――ハイパーカジュアルを足掛かりにゲーム産業に進出しようと考える若いクリエイターが増加。その一方で継続していくだけの収益を得るのは難しく挫折する姿を多く見てきました。
林 そうした意欲ある若いクリエイターのために私たちAppLovinがいるのです。我々はマネタイズやマーケティングのコンサルもしますが、ヒットにつながる改善などゲーム開発のプロセスもサポートもしています。同じゲームでもデザインを変更しただけで爆発的にヒットすることもある。その可能性をいっしょに考えていくことが大切なんです。
――ハイパーカジュアルものは開発のスピードが大切だとよく聞きます。実際どのくらいのペースで開発しているものなのでしょうか。
林 2週間くらいでプロトタイプを制作。実際にプレイした人たちの反応から見込みがなければ捨てるという考え方が重要です。とにかく新しいコンセプトをいっぱい作って試していく。その手応えを数値化して問題点を改善するいったサイクルで動いています。
開発者の育成を視野に入れた新たな試み
――広告プラットフォームとしてAppLovinは急成長を遂げていますよね。
林 Google、Facebookに続いて弊社は3番目に位置しており、マーケットの拡大が今後重要になっていくと考えています。それには、関わるデベロッパーがクオリティの高いコンテンツを作り、それを我々がサポートできる環境を整えること。それらのノウハウをさらに培っていくことが大切なんです。
――制作からマネタイズまでデベロッパーをサポートする。どこかUUUM(日本を代表する数多くのYouTuberが所属)に近い存在なのかなと感じました。
林 たしかにそうかも知れませんね。クリエイターが好きなものを作れる環境を与え、必要に応じてサポートしていく。若い世代がゲームコンテンツを生み出し、それで収益を上げられる世界を作れたら、いま以上にこのアプリ業界は発展していくでしょうね。
――特化したスキルを持つクリエイターを引き合わせ、チームとして開発に挑む環境作りもあったらいいですね。
林 じつは個人でやっている人たちでチームを組ませれば成功率が上がってくるんじゃないかと考えているところなんです。その可能性を確かめるため、来月にはシンガポールの専門学校といっしょに新たなチャレンジを始める予定なので、ぜひご期待ください。
――これからアプリ開発を目指す若いクリエイターに、「AppLovinだったら何かしてくれるぞ」と声を大にして伝えてもいいのでしょうか?
林 大丈夫です! なんでもかんでも成功させられるわけではありませんが、開発への意欲がある方はぜひ、弊社に問い合わせてみてください。数年前の話になりますが、カジュアルゲームに夢を抱きチャレンジするも大きな成果を得られない時代があったのは事実です。その当時の悪いイメージが定着している人は、いまマーケットが変わったということを理解していない。ひとつのタイトルにこだわらず、ダメだったらつぎを目指す。ハイパーカジュアルアプリにはその柔軟性が大切で、我々はそれをサポートするツールの提供も予定しているんです。
――そのツールは?
林 個々のデベロッパーがアプリの動きを数字で可視化できるツールです。ダメな要素をリアルタイムに判断できるようにし、みんながそれを打開して収益を得られるチャンスを公平に与える。日本に限らず、世界を見てもこれほどハイパーカジュアルにフォーカスしている会社は弊社だけです。
――身近なところですと日本と韓国ではハイパーカジュアルへの認知度がかなり違います。そうした点への不安はないのでしょうか。
林 日本と中国はいわゆるソシャゲが儲かりすぎたせいでハイパーカジュアルに興味を持たれないようになってしまった。一方、グローバルを目指す韓国やヨーロッパでは、すごくハイパーカジュアルへの認知度も高く、開発に取り組むデベロッパーも多い。弊社としてはもっと参入があってもいいチャンスを秘めた市場だと考えています。
――ハイパーカジュアルと呼ばれるアプリには類似品が多く、どれも似たり寄ったりで個性がない。広告で収益を得られればパクリでもいいと考える開発者もいる。そうした現状をとう考えていますか?
林 たしかに類似するアプリは多いですね。しかし、我々はデベロッパーから出されたものを実際にプレイして収益につながるよう数々のアドバイスをしています。たとえば、『Stickman Hook』を開発したMADBOXはクリエイティブに力を入れて成功したいい事例ですよね。
――本当におもしろいものでなければ収益に繋がらないと。
林 そういうことです。
――世の中には「コンソール機は終わった」とか「ゲームはスマホで十分」といった声も多くなっています。私自身はまったくの別物。個々に魅力があり、比べるものでも潰しあう存在でもないと考えているのですが、ハイパーカジュアルを手掛ける林さんご自身はどう考えていますか。
林 そこにはふたつの可能性があると思います。ひとつはスマホのCPU性能が向上したことによって、『フォートナイト』のような凝ったものがプレイできるようなってきたこと。そしてもうひとつは、ハイパーカジュアルは暇つぶしのツールであるということです。コンソール機に負けないゲームも増えていますが、突き詰めていけば操作性やクオリティは劣っている。また、ハイパーカジュアルと競合しているのは、NetflixやFacebookなどわずかな時間でも楽しめるコンテンツにあると思うのです。誰でも簡単にプレイできるハイパーカジュアルがきっかけでゲームを好きになり、本格的なゲームが楽しめるコンソール機に興味が湧いていく。私の子どももハイパーカジュアルゲームをプレイしますが、Nintendo Switchのゲームも大好きです。まったく異なる特性を持ったものであり、ゲームというジャンル全体のパイが広がってくことが最善だと私は考えています。
今回取材したAppLovin株式会社は先日、ヒットアプリを開発する世界のデベロッパーを招き、パネルディスカッション形式のトークイベント“Amplify Series Tokyo 2019”を開催するなど、個人開発者を支援するさまざまな場を提供している。
興味のあるクリエイターはぜひ、AppLovinの動きを今後もチェックしてもらいたい!!
P.N.深津庵
※深津庵のTwitterはこちら
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