【CEDEC 2015】『消滅都市』運営を4つの側面から振り返りつつのサプライズ

2015-08-28 22:20 投稿

『消滅都市』の成功はチームの結束力にあり

2015年8月26日から8月28日までの3日間、パシフィコ横浜で開催されるコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。ファミ通Appではスマホ関連のセッションを中心にリポート!

“CEDEC 2015”では、初日の8月26日と27日の2日に渡り、『消滅都市』に関してふたつのセッションが行われた。どちらもゲーム運営を軸に語れたもので、ここではそのふたつのセッションの内容をまとめて紹介する。

初日に行われたのは“「消滅都市」運用の一年”と題された講演。ゲーム運営を行う上で必要な要素として、

・安定したプログラムコード
・お客様の声に耳を傾ける
・既存のお客様を驚かせるための新機能
・新しいお客様にリーチする

を挙げ、まずは前者ふたつがゲーム開発とカスタマーサポートのふたつの視点から語られた。登壇したのは、グリー Wright Flyer Studios部 リードエンジニア 渡部晋司氏と、グリー Customer Experience部 お客様サポートチーム マネージャー 田口和重氏のおふたり。

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▲リードエンジニア 渡部晋司氏(左)、お客様サポートチーム マネージャー 田口和重氏(右)

まず、「安定したプログラムコード」から。ゲーム開発から見て安定したプログラムコードが必要というのは当然の見解だ。だが、なぜそれを敢えてテーマに掲げたのか。それは『消滅都市』の成り立ちに由来する。

これは昨年のCEDEC2014の講演でも述べられたことだが、『消滅都市』は会社から開発開始から半年でローンチすることを必達目標に設定されて生まれたタイトル。初期開発メンバーも17人という小規模だったため、それらの条件の中でもできるモノを作ることに決め、平行作業に重点を置いた開発スタイルで作業が進めらていった。

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そのため、ローンチまでは運用に関して何も考えずに開発が進行。また、『消滅都市』はCocos2d-xというゲームエンジンで開発されているのだが、Cocos2d-xを使うのはグリー社内初のことで、ノウハウがなかったことも大きい。

そしてなんとか約7ヶ月でローンチまでこぎつけ、開発運用のワークフローが確立されたのは2014年夏ごろ。ただ、この頃になっても技術的な不安は払拭できていなかったようだ。運営する中で少しずつノウハウは溜まってはいたが、必要最低限の人数で運用していたために、問題が発生した場合、その場しのぎのパッチで乗り切るようなケースも発生し、コードがカオス化。コードが複雑化すればユーザーから不具合の問い合わせが来た際に原因特定に時間を要し対応が遅れる。それはユーザーの満足度低下に繋がり、ゲームからの離脱を起こす。また、これから控える大規模なアップデートなども考え、2014年秋に社内で『消滅都市2』と呼ばれるほどの大改修を行い、プログラムの安定化を図ったという。

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カスタマーサポートと開発の連携が重要

“お客様の声に耳を傾ける”はカスタマーサポート(CS)を担当する田口氏から挙がったもの。運営系のゲームでは、ユーザー対応の速度や細やかさが、そのままユーザー満足度に直結するため、その責任も大きい。主な役割はユーザーからのメール対応、チート、RMT(リアルマネートレード)対策。『消滅都市』では1日に数百件の問い合わせがあり、これはグリー社内でも最大規模だという。基本的に休日も含み当日対応を行っているが、案件によってはCSだけで完全に解決できないものある。

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そのために作られたのが『消滅都市』のほぼすべての情報を操作・閲覧できる管理ツール。管理ツールではユーザー状態の閲覧、データの書き換え、行動ログの検索、マスターデータの参照などが行える。この管理ツールによりCSだけで対応できる案件も増えたが、技術的なバグに関しては開発側の協力が不可欠。そこで『消滅都市』チームでは、開発の横にCSを配置して物理的距離を縮め、CSと開発のコミュニケーションを強化。突発的な障害が発生した場合に、開発側の優先案件として対応することが可能になったという。

ただし、これで問題が完全に解決したわけでない。ユーザー数の増加に伴い、問い合わせの案件にも優先度が付き、極端に発生事例が少ないもの、開発側で再現性がないものは、対応が先送りになってしまっているものもあったという。

その対応策として実施されたのが、DOVERミーティング。DOVERミーティングにはCS、QA、企画、開発など、『消滅都市』に関わる部署が参加。繁盛期であっても、開発側に必ずDOVER担当を付け、開発に修正の確約を取り付けて障害事案を開発進捗ツールに乗せ、不具合の修正状況を毎週共有するようにしたことで、開発へのエスカレーション解決率が70%から99%まで上昇し、ユーザー満足度も大きく上昇したという。ユーザーのために何ができるのか、互いの責任範囲の垣根を越えたゲーム運営がヒットをもたらすのかもしれない。

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初公開となる巨大ボス戦のお披露目も

続いては、8月27日に行われたセッション“お客様に驚きを提供する運営 -消滅都市の事例から-”の模様をお届け。グリー 消滅都市チームのシニアアーティスト櫻井 慶子氏、同じく滅都市チームのリードゲームデザイナー下田 翔大氏が登壇した。

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▲リードゲームデザイナー下田 翔大氏(左)、シニアアーティスト櫻井 慶子(右)。

“新しいお客様にリーチする”。その事例のひとつとして挙げれたのがハローキティとのコラボレーション。もちろん、ただコラボしたのではなく、テレビCM、Twitterを連動させることで、大きくダウンロードを促進できたという。では、効果的に連動させるのはどうすればいいのか。それには各媒体の特性を知る必要がある。

テレビCM
マスに情報を届けるのに有効だが、尺が短く伝えられる情報/感情に限界がある

ゲームと物語
感情を揺さぶることはできるが、プレイしないと伝わらない。コトノハに乗りにくい

Twitter
コトノハに乗りやすいが単体ではマス化しにくく、感情を動かすのもむずかしい

各要素は一長一短だが、これら3つを掛け算していくことで、ユーザーの感情を動かし、ゲームのダウンロードへ繋ぐことができるという。ではハローキティの事例に乗せて見ていこう。

テレビCM
「キティのリボンが消えた」という事件性とエモーショナルな感情だけを伝える

ゲームと物語
誰もが共通して持っている体験を再現し感情を動かす

Twitter
事件の真相を解明するにはTwitterの暗号を解く必要がある。拡散されやすいようにTwitter上だけで解けるようにする。

この成功の前提として、ハローキティという誰も知っているキャラクターとコラボしたこと自の影響も大きいが、キティのリボンが消えるという事件性と、その謎をTwitter上で解かせることで、『消滅都市』を知らないユーザーの感情や好奇心を刺激し、効果を最大限に高めた。

そして実際にゲームをプレイすることで共感が生まれ、ストーリーに没入していく。これらの大掛かりな仕掛けを成功させるには、ゲーム内外の作品に対する深い理解が必要だと櫻井氏は語る。

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新規機能“巨大ボス戦”の開発でわかったこと

つぎに“既存のお客様を驚かせるための新機能”として用意されていたのが、本講演で初公開となった新規機能“巨大ボス戦”だ。

“巨大ボス戦”を紹介する前に、『消滅都市』のゲーム演出の基本的な考え方を確認してこう。『消滅都市』の演出は、本作のストーリーコンセプトである“信頼”と、通常、緊張、開放というユーザーのプレイの流れをベースにすべて制作されている。コンセプトからぶれないストーリー展開と、メリハリのあるアクションの流れが没入感を高めている大きな要因だろう。

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“巨大ボス戦”に登場するボスは通常のボスよりも格段に大きく、HPも多い強敵との一騎打ちバトルとなる。遠距離戦と近距離戦のふたつのフェーズで展開し、時間制限がある中で巨大ボスを撃破するというのが基本仕様。これらの要素に『消滅都市』が持つドラマ性を完全融合させた仕組みを目指して、現在鋭意開発中。

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ストーリー部分はまだ未定のようだが、“巨大ボス戦”では、攻撃頻度が低くゲームオーバーのリスクが少ない遠距離戦を“通常”、攻撃頻度が高くゲームオーバーのリスクも高いが、攻撃チャンスでもある近距離戦を“緊張”、“開放”に位置づけている。

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と、ここまでは実際の開発前に仕様をテキストに落とし込んだときの話。いざ開発と取り掛かってみると、遠距離戦と近距離戦のフェーズ切り替えをどうするのか、遠距離の中で遠いときと近いときの差をどうつけるのか、つねに平面的にオブジェクトが並んでいるという前提だったゲーム仕様のコア部分の変更で生じる膨大な修正など、課題は山積。テキストでの共有は容易だが、実際の各種演出の認識は感覚的になりがちで、共有することが非常に難しいと説明する。

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では、どう共通認識を持たせるのか。セッションではそのために必要な4つのポイントが挙げられた。

1.ブレない
-コンセプトを明確にしてゴールを設定する
-新規機能開発メンバー専用のチャットを設立する(チャットを利用している場合)
-モックはしっかりと作る

2.遠慮しない
-気になった部分はなるべく早い段階で声を上げて意見する

3.(無責任に)信頼しない
-レビューを定期的に行い、テストプレイを繰り返す
-それぞれが当事者意識を持ち行動する

4.リスペクト
-ポジティブ、ネガティブ含めて互いの意見を受け入れることが大切

つまるところ、よい演出というのは、コンセプトのもとに定めらたゴールへ向かい、チームが一丸となって進んで行くことで作られる。チーム内の迷いや違和感はそのままユーザーへと伝わってしまうため、それらの不安を払拭していけるチーム作りが重要なのだ。

“巨大ボス戦”の実装時期はまだ未定だが、近い将来、新しい驚きと感動をユーザーへ与えてくれることに期待したい。

 

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