『ケイオスリングスII』誕生秘話 安藤武博プロデューサー超ロングインタビュー

2012-03-17 02:30 投稿

●これぞ完全版インタビュー!

ついに2012年3月15日に配信された、スクウェア・エニックスのiPhone/iPod touch、iPad向け本格RPG『ケイオスリングスII』(以下、『II』)。本作は、きめ細かい美麗なグラフィックや戦略性の高いバトルシステムのほか、“命の重さ”を問う重厚なシナリオ、仲間の生贄を捧げる順番で分岐するストーリー、豪華声優陣によるキャラクターボイス、主題歌など、スマートフォン向けゲームとは思えない、RPGファン垂涎の要素が満載の作品だ。今回、本作の配信前(2012年3月2日)にプロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの安藤武博氏に、作品の魅力を中心に伺った。なお、本インタビュー記事は、見出しにもある通り、かなりのボリュームになっている。多くの質問にひとつひとつ丁寧に答えていただいた安藤氏の想いを、ぜひじっくりと読んでいただきたい。

 

●命に踏み込んだ『ケイオスリングスII』

――『ケイオスリングス』シリーズの3作目となる『II』ですが、配信を控えてのいまの心境はいかがですか?

安藤 1作目の『ケイオスリングス』のときから決めていたのが、とにかく“スマートフォン最強RPG”を作ろうということでした。『II』に関しても、現段階でそう言える作品になったなという感じですね。『ケイオスリングス』のときはオンリーワン状態でしたが、いまは競合タイトルもどんどん出てきています。独自性が薄まらないかなという心配はありましたが、結果スクウェア・エニックスとして恥ずかしくないきちんとした新作のRPGが出来上がりました。

――制作期間はどれくらいかかりましたか?

安藤 結構かかっていますね。前作の『ケイオスリングス オメガ』(以下、『オメガ』)と同時進行だったので2010年の8月ごろからで、1年半くらいですね。これは僕が携わってきたスマホのプロジェクトのなかでも最長です。RPGって基本的に要素を盛っていくものなので、ある程度覚悟はしていたんですけど、やっぱり時間はかかりました(笑)。

――携帯ゲーム機並みですね……。開発中のバージョンを遊ばせていただきましたが、序盤にいきなり仲間を斬るシーンがあって、そこで一気に心をつかまれました。

安藤 びっくりしたでしょ(笑)。『II』はひと言で言うと“パーティーを殺しながら世界を救っていくゲーム”なんですよ。たぶん、こういうコンセプトのゲームはほかにないんじゃないかな? 僕も何度もプレイしていますけど、毎回斬るのをためらわれる相手がいますよ。

――自分で選んで殺さなきゃいけないというのがまた……。

安藤 そうですね。執行していくみたいなイメージが強いですよね。そういう意味ではけっこうハードなファンタジーに仕上がりましたね。

――個人的にこのシリーズの魅力は、シリアスなストーリーと、丁寧に人間関係が描かれているところだと思います。『II』ではそのあたりはどうでしょうか? テーマがあれば教えてください。

安藤 先ほどの話と少しかぶりますけど、「愛する人や身近にいる人を殺すことで世界を救えるとしたらあなたはどうしますか?」というところですかね。ゲームの後半になるとそこが逆転してしまうんですが、ネタバレになるのでプレイして確かめてみてください(笑)。重要なのは、いままでは世界を救うという大義名分で振り上げていた剣を、その身近な人に振るわなければならなくなったときに、踏み込んでいけるかというところかな。最近は、ゲームでもライトノベルでも仲間の生死をはっきりと描く作品が意外と少ないですよね『II』は、命というものにすごく踏み込んでいます。残酷に見えるかもしれないですけど、“命って何だろう”ってことを改めて考えてみました。たとえば、戦争で、身近な命と、それを救うために命をかける他人の命を天秤にかけていいのかということ。

――重く、そして深いですね。

安藤 深いですね。もうちょっと浅いほうがいいですか?(笑)

――いやいや、十分興味深いテーマです。バトルシステムについてもお聞きしたいのですが、ベースはシリーズ作でおなじみのソロ、ペアでのバトルですよね。ただ、新要素がたくさん加えられていますが。

安藤 RPGである以上、バトルがすべてという気持ちではいます。だから、バトルの進化というのは至上命題と言ってもいい。これはもう、すべてのRPGが背負っている定めみたいなものですよね。ただ、『ケイオスリングス』は、新しさはありながらも手触りはしっかりと、わかりやすいものにしています。それは、この作品を遊ばれる人たちを“昔はゲームをやっていたけど、いまは少し離れている人”と想定しているからなんです。そういう人たちに対して最新のシステムを入れると、せっかく歩み寄れた距離がまた離れてしまうかもしれない。ただし、システム自体は進化させないといけない。そう考えたときに立ち返ったのは、“スマートフォンで初めて取り入れることは十分新しい”ということです。今回の新要素の、アウェイクという必殺技とアドベントという、いわゆる召喚獣のシステムは、『ファイナルファンタジー』シリーズはもちろん、家庭用のRPGであればふつうにあることです。これを『ケイオスリングス』に取り入れることで、スマートフォンのRPGでも派手な必殺技や召喚獣が使えることがスタンダードになっていく。たぶん、これくらいのスピード感がちょうどいいのかなと思っています。

――実際にかなり派手で驚きましたし、爽快感も抜群でした。

安藤 敵側の攻撃もそうとう凝った演出のものもありますので、しっかり見てほしいところではありますが、ただそれだけでなく、そういう演出をスキップすることもできます。これは逆に、最近のスマートフォンで遊ぶときの作法というか、テンポよく遊びたいという人にも対応するためですね。RPGとして考えたときの正常な進化をうまくできたなと実感しています。

――個人的に今回のバトルシステムでよかったのが、ターンブレイク(※)が1ターンで終わってしまうところですね。戦闘にメリハリが出たように思います。
※ターンブレイクは、戦闘中にブレイクゲージ(優勢値)が溜まったときに発動し、優勢陣営側の全員の能力がアップする。

安藤 ターンブレイクはこれまであえて“ふんわり”作っていました。『ケイオスリングス』はライト層向けにそういうふうに作っていたところはあったのですが、『オメガ』からは家庭用ゲーム機向けのタイトルと同じようなチューニングをしたんですよ。せめぎ合いとか戦略とか、我慢して溜めたものを一気に解放するカタルシスとか、RPGの戦闘で僕らが楽しいと思うものを家庭用基準で入れ込みました。そして、今回ターンブレイクが1ターンで終わるし、アウェイクやアドベントが入りました。これは、お客様からの声であった「もっときちんとRPGを遊びたい」というものに応えた形でもあります。

――今回グラフィックもかなり鮮明になって、本当に家庭用ゲーム機と遜色がない印象です。

安藤 専門的な話をすると今回はグラフィックエンジンをいちから作りなおしたんです。『ケイオスリングス』と『オメガ』は、エイチアイさんのマスコットカプセルという描画エンジンを使っていたんですが、今回は開発会社のメディア・ビジョンさんがそもそもプレイステーション3向けに作っていたエンジンをスマートフォン用に作り変えています。なぜそんなことをしたのかと言うと、これから『ケイオスリングス』を発展させていくときに、グラフィックエンジンがすごく大事になってくると思うからです。つまり、このシリーズを今後も継続していくよ、という気持ちの表れでもあるんですよ。『ケイオスリングス』を出したときもシリーズ化したいという気持ちはありましたけど、まだ現実的ではなかった。3作目まできて、このシリーズをブランドとして育てていきたい、行けるというところまで来ましたので、今回開発会社さんと徹底的にやりました。背景の描き込みもかなりすごいことになっているんですが、じつはバトルシーン以外は2Dで徹底的に描き込みを行って、写実的な表現を行っています。この技術は、フル3D全盛のいまではあまり見かけなくて、むしろプレイステーション時代に一般的だった技術なんですよ。あえてそれを取り入れたのは、iPhone自体の解像度の高さがあります。あの解像度で2Dを描き込むとと、当時のものとは全然レベルの違った、迫力ある映像が出来上がります。あとは、ゲームの設定の部分でもそういう表現が活きるようにしています。世界の時間が止まっているという設定なんですけど、たとえば滝が止まっていたりする絵であったりとか、桜吹雪がピタッと止まっていたりする絵とかですね。そういう風にしつつ、後半では逆に一気に動的になるので、そのコントラストもすごくワクワクできると思いますよ。

――前作と比較して見ると本当にグラフィックのきめ細かさがまったく違うので、感動さえ覚えました。シナリオのボリュームもすごいですよね。分岐があって、全部回収しようとするとかなり長く楽しめそうで。

安藤 そうですね。『ケイオスリングス』は4本のシナリオがあって、合計で20時間くらいでしたけど、『II』はふつうにクリアーしようとすると10時間以上、全部の分岐を追うと20時間、P.U.B.(※)をやり込むと30時間くらいにはなると思います。さらに現段階で大型のアップデートを2回用意しています。それも加えると今年の上半期は、この1本でかなり楽しめますよ。あ、今回はバッドエンドに分岐することもありますし、『ドラゴンクエスト』でりゅうおうがプレイヤーに「世界の半分をおまえにやろう」って言うような、大きな選択を迫られる場面もあります。ただ、そういうところでもすぐに結論は出なくて、選んだ選択肢が本当に正しかったのかと、ずっと考えながら進んでいけるくらいどちらも作りこんでいます。
※P.U.B.は、さまざま依頼が受けられるクエストのようなもの。ゲーム途中から発生。

――何度も楽しめるというのは、やり込み系の人にはうれしい限りですね。

安藤 楽しめますね。裏で何が起こっていたのかというイベントもけっこう作っているので、そのあたりはぜひ楽しんでもらいたいですね。もともと僕は『スターオーシャンセカンドストーリー』のアシスタントからゲーム作りに携わっていて、あのゲームのプライベートアクションがすごく好きだったんですね。なのでメディア・ビジョンさんがキャラを深く掘り下げて作品を作ってくださるのは、いちRPGファンとしても毎回楽しみですね。今回はプライベートアクションまで特化はしていないですけど、キャラクターの組み合わせでどんな物語があるのかというのは、かなりしっかり描いてもらっています

●『II』と『ケイオスリングス』シリーズの関連性

――『II』は物語的にはシリーズ作と切り離されていますが、シリーズでおなじみのピュッピュの存在や過去作のキャラクター名がこっそり登場したりしていますが……?

安藤 『ケイオスリングス』って遊んだ人はわかると思うんですが、じつはファンタジーと見せかけたスペースサイエンスフィクションなんですよ。簡単に言うと、交わることのなかった並行時空が交わった一瞬をチャンスにして、無限地獄を止めるという話。並行時空というだけあって、たくさん世界があるんです。それらが多少相関する中で、エッシャー(『ケイオスリングス』の登場キャラクター)がそこに入り込む余地があったんじゃないかとか、ピュッピュというのはもしかしたら時空の狭間から出てきたものじゃないか、とか。『ケイオスリングス』も『オメガ』もまったく違う世界ではなくて、並行した世界の中に『II』の世界があるというくらいに考えてもらえるといいんじゃないかと思います。

――なるほど。

安藤 その考え方は、いま『ヤングガンガン』で連載しているコミック版のほうでより強く出ていますね。そちらも読みながらシリーズをプレイするとより楽しめますよ。コミック版だとエッシャーとミューシャが出てくるところで、並行時空が狂ってしまって彼らがリングホルダーにならなかったという展開が描かれます。

●想像を超える声優陣の演技、そして主題歌の意味

――キャラクターは魅力的な人物ばかりですが、また声優陣が超豪華ですよね。今回、アップデート後ではなく最初からキャラクターボイスが入っているのはなぜですか?

安藤 それはもう単純に前作までに声を入れてよかったからです。キャスティングはうちのチームの岩野(※)が全部担当したのですが、彼のキャスティング能力の高さが光りましたね。あとから追加してあの違和感の無さというのは相当なものですし、それを受け止めた声優陣の実力が、やはり圧倒的でした。『II』のキャスティングも彼に一任しています。もちろん今回もキャラクターの魅力を見事にブーストしてくれたなと感謝しています。文字で読んだときにはそれほどでもなかったシーンも、役者さんの演技が入ることでグワッと迫ってくるようになったところがいくつもあります。
※スクウェア・エニックス モバイル事業部 岩野弘明氏

――叫ぶシーンは特に迫力がありましたね。

安藤 中村悠一さんのシャウトは心臓鷲づかみにされますね! 主役ふたりの感情の入った演技は、本当に人気も実力もピカイチだなと感じますし、脇を固めるのがどこでも主役をはれるような安元洋貴さんや朴ろ美(「ろ」は王へんに路)さん、沢城みゆきさんですからね。

――何か収録中におもしろいエピソードはありました?

安藤 おもしろいというのとは少し違いますが、ほとんどの役者さんがこちらの想像をはるかに超えてきたというのは印象的でした。ふつうにおもしろかった話をすると、朴さんの収録ですかね。収録中にすごい豪雨だったときがあったんですが、そうしたら朴さんが急に「雨が見たい!」と言って外に飛び出して、30分くらい戻ってこなかったことがありました(笑)。あと、ものすごくおしゃべりが好きな方で、収録の合間にはさむ休憩中もおもしろトークのオンステージでした。そんなにしゃべったら声枯れちゃうんじゃないか!?って心配だったんですけど、けっきょく休憩中も収録中も話し続けて、まったく声を枯らすこともなく、圧倒的な演技を5時間くらいやりきって帰られましたよ(笑)。あとは皆さんが役に入りきっていたのも印象的でした。安元さんはアラキという侍の役なんですけど、収録中は本当に侍っぽかったですよ。茅原実里さんは、演じられたレシカという役が感情の起伏の少ないキャラクターで難しかったと思うんですが、すごく集中されていました。皆さんへの演技指導は、ほとんど必要なかったですね。本当にすばらしい演技をしていただきました。

――茅原さんは主題歌も歌われていますよね。スマホのゲームだとかなり珍しいと思いますが、どうして入れられたのでしょうか?

安藤 個人的には音楽はゲームの中で最重要項目のひとつだと思っています。音楽がゲームに与える影響って、バカにできないんですよ。クオリティーやドラマ性を増すときに音楽は絶対に重要なんです。だから『ケイオスリングス』にとっては絶対に欠かせない要素として、上松範康さんの音楽があるんです。彼が曲を書かないと『ケイオスリングス』にはならないと思っていますから。上松さんは、つねにこちらのオーダー以上のことをやってくれていて、『ケイオスリングス』のときにも想定していなかった飛蘭(フェイラン)さんの歌を入れてくださったたりとか、こちらが歌なしで想定していた場面で、歌ありのBGMを作ってくださったりしていたんですよ。『ケイオスリングス オメガ』のサラ・オレインさんのときもそうでした。であれば、もう最初から歌ありでやればいいじゃないかと。僕の中でゲームの歌ありBGMで印象に残っているのが、『ファイナファンタジーVIII』のフェイ・ウォンさんの曲がかかるシーン。スマートフォンのゲームって、イヤホンやヘッドホンをつけてプレイするのがすごく自然なので、もう一度あれを再現したらもっとすごいものができるんじゃないかなと思ったんです。『II』と言えばあのシーンだよね、と言えるようなものを作ろうと上松さんと話して、最初から決めていました。

――なるほど。では主題歌のボーカルを茅原さんに決めたのはどうしてでしょうか?

安藤 これに関してはすごくおもしろくて、今回組むランティスさんと、上松さんと、こちら側の3者の考えていたアーティストがぴったり一致したのが彼女だったんです。僕が茅原さんを推したのは、彼女のライブを観てそう決めました。僕はバンドをやっていて、自分でも年間数10本ライブをやりますし、ほかの人のライブも50本くらいは観に行きます。その中でも、これほど音楽に真剣に向き合っている人がいるのかなっていうくらい衝撃を受けました。それくらい茅原さんのライブでは、演奏する側と観客の一体感がとにかくすごかった。僕はヘビーメタルが好きなんですけど、日本のヘビーメタルファンって楽曲に向き合う真剣な姿勢がすごいんですね。それをも凌駕する圧倒的なパワーを彼女のファンたちにも感じました。彼らっておそらくその曲単体でなく、もしそれが何かの主題歌であったりしたら、そのコンテンツに対しても絶対に真剣に向き合っている人たちなんだろうなってことも伝わってきました。だから、「俺、この人たちに向かってゲーム作りたい!」って思ったんですよ。いいものであれば必ず伝えてくれる人たちだと思うので。そこから生まれたのが“SiSiLaLa OVERDRIVE(シシララ オーバードライブ)”なんです。

●スクウェア・エニックスの新構想“シシララ オーバードライブ”とは?

――『ケイオスリングスII』や『拡散性ミリオンアーサー』の楽曲を提供するレーベルですね。もう少し詳しく教えてください。

安藤 はい、音楽も全開バリバリ。「携帯電話のゲームなめんなよ!」くらいの気持ちで作った音楽レーベルです。ランティスさんと僕たちでいわゆる“神曲”を送り出して行きたい。茅原実里さんのファンの方々のようなコンテンツを愛しているファンに届けやすい形って何かな? と考えて作った音楽レーベルですね。ランティスさんと僕らで楽曲を徹底的に追求して、しかも伝わりやすい作品を作る。だからアーティストの人たちにもしっかりとゲームの世界観を伝えたうえでやってもらうようにします。今回の茅原さんの『Celestial Diva』という曲も、『II』のことをちゃんとわかっていないと歌えないような曲ですし、歌詞になっています。茅原さんは、曲に応じて声を変えていける天才だと思っているんですが、今回の曲も完全にレシカとして歌っています。こういう高次元のタイアップが、僕らとランティスさんが目指し、ロゴにもあるように“共闘”していくポイントです。アニメソングの歴史っておもしろくて、昔の曲ってそれこそタイトルを連呼するようなシンプルなものが多かったんですけど、ものすごく作品愛を感じられたんですよ。それが少しずつ変わってきて、タイアップだったらなんでもいいみたいな風潮が出てきました。作品のファンからすると「なんで、この人がこの曲を歌っているの?」と感じるようなものもありました。でも、いままた昔みたいな愛のある曲が増えてきました。それって、ランティスさんが仕掛けているものがすごく多いんですよ。だからいっしょに商業的じゃない“コンテンツラブ”なものを生み出していきたいですね。

――ところで、このレーベル名にはどのような意味があるのでしょうか?

安藤 ネーミングはもともとこれではありませんでした。“レベリオン オーバードライブ”という名前で考えていたんですが、海外で商標が取れなかったんですよ。映画のタイトルにもあるし、響きはかっこいいですけど、少し一般的すぎたみたいで。海外と分けるという話もランティスさんには相談しましたが、「きっと世界中に伝播するようなものを作っていけるはずだから、世界に知らしめたいよね」と返ってきたんです。そのとき、確かにその通りだと思い、世界をあまり意識していなかったことに気付きました。それで、じゃあどうするかとなったわけですが、もともと構想の中に“シシララ”というキャラクターを旗頭にするというのがありました。この子が縦横無尽にいろんな作品を渡り歩くというイメージですね。この名前って、まあ要するに音階の“シ”と“ラ”なんです。でも、このドレミで音階を表現しているのは、世界共通じゃなくてイタリアとフランスと日本なんです。アメリカはCDEFG。だから、北米の人にこの響きを聞かせるとすごく新鮮なんじゃないかなと思っていました。それでレベリオンがうまくいかなかったときに、岩野から「じゃあ、“シシララ オーバードライブ”でどうですか?」と提案があって、そのとき僕は新幹線の中でそのメールを見たんですが、「あ、いいな」と(笑)

--ひと目ぼれに近いですね(笑)。今後どのような展開があるのか、まだ少しイメージしにくい部分もありますが、期待していいんですよね?

安藤 これからもいろんなことを模索しながら、でも確信犯的に何かをしかけていこうと思っています。なので、この“シシララ”のプロデュースもこれからは積極的にやっていきます。最初は「何だコレ!?」っていう反応がほしかったんですよ。エンターテインメントはびっくり、ワクワクしていただいてナンボですから。最近は僕自身、昔プロデュースした『鈴木爆発』や『疾走、ヤンキー魂。』や『ヘビーメタルサンダー』のときのように、そういう、ある種“とんがった”ことがやれていなかったので、いまのそのリアクションがうれしかったりします(笑)。「いま、これやる意味あるの!?」っていうところから入っても、最終的に「そういうことだったのか!」と理解してもらえればいいかなと。そうやってみんなに伝わっていくようなストーリー自体は、こちらでもう用意してあります。誤解を恐れずに言えば、“シシララ”プロジェクトに参画していただいている皆さんとは“共闘関係”というより、“共犯関係”くらいのイメージで、おもしろいことを、音楽中心の新しい試みとして仕掛けていきますのでご期待下さい。とにかく、いまはまだ謎のままでもいいんです(笑)。ただドキドキしてもらえれば、いまの時点ではオッケーです。

――そうですね。ワクワクした感じはすごく伝わってきます。たぶん本当にあとになって安藤さんにあっと言わされるんだろうなあと期待しています(笑)。

安藤 “シシララ”を立ち上げるメリットってほかにもあって、これまでスクウェア・エニックスって良質なゲームを出してきたっていう自信はあるんですけど、それぞれが単発的だったと思うところがあるんですね。オリジナル作品はとくにそう。それがこういうレーベルがあると連続的にコンテンツを出していくという期待感にも繋がると思うんですよ。点だったものが線になるというか。つぎのタイトルのアーティストは誰なんだろうって、期待してもらえるとか。それはタイトルももちろんそうで、このあとも続いていきます。ひいてはスクウェア・エニックスのスマートフォンアプリに対する姿勢も表現することができますよね。

●『ケイオスリングスII』の続編の構想はすでに?

――では話を『II』に戻しますが、『ケイオスリングス オメガ』にあったクリアー後のエクストラ編は今回もありますか?

安藤 コメディーの要素はやっぱり入れたいと思っていますね。これはでも、じつは開発側からの要望が強かったりします。本編がすごく深くて重たい作品なので、それを緩和するものがほしいんですよね。

――クリアー後にすぐ楽しめますか?

安藤 これに関してはアップデートで対応する予定ですが、できるだけ早いタイミングを予定しています。現状、発売から1ヵ月後に1回目。2ヵ月後に2回目の全2回を、前作の『オメガ』よりも、大きなボリュームでドンと追加します。内容に関してはメディア・ビジョンさんが僕らの予想を上回るパロディー感を出してくれていて、僕もいちファンとして楽しみにしています。企画書も見せてもらいましたけど、やっぱり相当ぶっ飛んでいましたよ(笑)

――『オメガ』のときに、アルトが戦闘中「明日は私の誕生日!」と言いながら攻撃するところは「何だコレ!?」って、すごい笑いましたよ。

安藤 そうなんです。あれはぜひみんなにやってもらいたいですね。あれを見たら間違いなくアルトとギャリック(※)に魅せられると思いますし、まさかフルボイスであれだけの追加イベントがあるとは、はじめは想像もつかないというのがよかった。本当にあんなおもしろい外伝ないですから、ぜひ未プレイの方はアップデート分までやりこんでいただければと思います。今回もあれくらい遊び応えのあるものがドンッ、ドンッとふたつ来るイメージです。それ以降は、お客さんの声を拾いながら考えていこうと思っています。
※アルトとギャリックは、『ケイオスリングス』に登場し、『オメガ』のエクストラ編にも登場したキャラクター

――『II』配信前で少し気の早い話かもしれませんが、続編の構想はありますか?

安藤 構想自体はもちろんありますそのためにエンジンも新しくしましたから。ただ、次回作に関しては少し変えようと思っていることがあります。『ケイオスリングス』は売り切りアプリのなかでも高めの値段設定にしていて、それはいいものを作るから値段も高めでいただき、さらにいいものを作ろうという目標があって、やっていたものです。その流れは、今回の『II』も含めてそうでした。ただ、つぎのものに関しては時代の流れに沿ったものということも考えています。いま人気作品の多くが無料、アプリ内課金の形になっているというのが現実です。おもしろさ自体は維持したまま、提供の仕方は変えていかないといけないかなと思っています。ですから『II』までを高品質な売り切りアプリを高額で、という流れのひとつの区切りとして、今後は新しい形を模索していきたいですね。

――期待しています! では最後に総括として『II』のここに注目してほしいというポイントを教えてください。

安藤 読者の方がふだん目にするような、家庭用のRPGと同じ感覚で触れてもらって、楽しめるようなものになっています。僕らはスマートフォンをプレイステーション Vitaやニンテンドー3DSと同じゲーム機として捉えてゲームを作っているので、スマホを手にする機会があったらぜひ手にとって遊んでもらいたいなと思っています。本当にふつうのRPGとして先入観なしに触れてほしいですね。『ケイオスリングス』シリーズを遊んでいた人は超発展型として楽しめますし、いわゆるゲームファンの人も必ず楽しめますから、ぜひプレイしてほしいと思います。

――まったく同意見です。プレイしないと損なタイトルだと思います。ありがとうございました。

 

【ケイオスリングスII】
メーカー:スクウェア・エニックス
配信日:配信中
価格:iPhone/iPod touch版 2000円[税込])、iPad版 2200円[税込]
対応機種:iPhone 3GS、iPhone 4、iPhone 4S、iPod touch(第3世代)、iPod touch(第4世代)、およびiPadに対応。iOS 4.0以降が必要
著作権:(C)2012 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. ILLUSTRATION: Yusuke Naora Developed by Media.Vision Inc.
※『ケイオスリングス』公式サイトはこちら

※iPhone/iPod touch版

※iPad版

 

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