薄利多売のスマホゲームで利益を得るには? 開発事例をもとに今後の開発手法が語られた【CEDEC 2011】
2011-09-09 20:24 投稿
●スマートフォンの出現により、開発はどう対応する?
2011年9月6日〜8日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・国際会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的としたCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス) 2011が開催された。
最終日となる3日目、“スマートフォン普及期を見据えた2010年代 最新コンソールゲーム開発手法”と題したセッションが行われた。コンシューマーゲーム機と性能的に差が無くなりつつあるスマートフォンの登場により、ゲーム開発者はどういった対応が求められているのか? 2010年10月に配信され、マルチハード展開、及びダウンロード専売タイトルとして、世界規模で商業的成功を収めた『ソニック・ザ・ヘッジホッグ4 エピソードI』の開発事例を通して、セガの長原俊之氏(第二CS研究開発部 企画セッション ゲームディレクター)が、コンパクトな商品開発手法を紹介した。まず、開発事例となる『ソニック・ザ・ヘッジホッグ4 エピソードI』が紹介され、同作は『ソニック』シリーズ初となるダウンロード販売であること、世界6ヶ国同時配信、最初からコンシューマー機と、スマートフォンのマルチハード展開を見据えた開発だったとを明かした。配信開始から数ヵ月経過した現在も売れ続けているとのことで、このタイトルをひとつの成功事例とし、本題に入った。
コンシューマー機の開発部署に身を置く長原氏は、「スマートフォン市場が優勢だと横目でみているなかで、(コンシューマー機と)致命的に何が違うのかと考えたときに、いままではユーザーが欲しいゲームを能動的に捜して購入する必要があったのに対し、スマートフォンやタブレット端末の登場によって、市場がごく自然な日常に存在するようなった」と語った。これは、コンシューマー機と性能差がないスマートフォンだからこそであり、さらに、ダウンロード販売の認知がユーザーに高まっていることから市場が拡大しつつある、とも言えるだろう。続けて長原氏は「この市場の拡大は、高性能なコンシューマーゲームを開発する担当者にとって好機であり、願ったり叶ったりなのではと思ったんですが、いろいろな問題点が出てきました」と長原氏。その問題点を4つにまとめてながら、対策を説明した。
●スマホアプリは単価が低い
まずひとつ目として、スマホアプリの単価が低いことを挙げた。「開発者事情になってしまうんですが、単価の低いアプリは、家庭用ゲームをパッケージソフトとして販売したときに比べて、どうしても売上高が低くなってしまうので、なかなかお金をかけてリッチなゲームを作りにくい状況にあると思います」と長原氏。
その対策として長原氏は、「とにかくいろいろなユーザーの目が届くように、いろいろな端末で配信し、結果的に配信本数を増やせば、単価が低くてもで売り上げが伸ばせるという発想にいたった」と説明した。●娯楽トレンドの変化
ふたつ目に、電子媒体の娯楽トレンドが、コンパクトで短く遊べて、難易度の易しいゲームというのが好まれている時代になっていることを説明し、「我々のようなコンシューマー機を作っている環境において、このトレンドに合わせた商品を作ることが難しかったりもする」と述べた。
こちらに関して長原氏は「アセットの物量で押しとおすのではなく、コンパクトで小さなゲームでも、ゲームデザインの部分をくり返し遊べるようにしたり、中毒性を出すような要素を盛り込むことでカバーできる方法があるのではないか」と自論を展開。●開発費高騰にともなう利益率の低下
3つ目は、以前から開発の問題点とされている開発費高騰を挙げた。膨大な投資による宣伝などをしないとペイしにくいことを語った長原氏は、「この問題に関しては、アプリの単価が低いことと関係してきますが、複数機種で配信すること、しかも、安く移植することによって、相対的なコストを下げられる」と述べた。
●娯楽の多様化による国内市場の縮小
4つ目はとして、昨今ゲーム以外にも娯楽が多様化していることにより、ゲームの国内市場が縮小していることを挙げた。対策として長原氏は「乱暴な言いかたにはなりますが、単純に海外で売れればいいじゃないかというのがひとつ。幸い弊社には『ソニック』という国外でも強力なフランチャイズが成立しており、このブランドを積極的に使っていくことなった」と事例を語った。
この4つの問題点と対策から出た結論が“スマホを含めたマルチハード開発”、“全世界同時展開”、“ダウンロード専売”になり、『ソニック』プロジェクトとして開発がスタートしたとのこと。●困難なミッションを実現するためのアプローチは?
プロジェクトは立ち上がったものの、非常に困難だったという。では長原氏は実際に開発を行うにあたり、どういった開発環境を構成していったのか。下の4つのポイントで紹介しよう。
1.モバイル開発の考えかたを取り入れた手法
長原氏の個人的主観として、品質重視の傾向にあるコンソール開発者と、コストと納期重視のモバイル開発者の考えかたの違いを挙げた。「今回のプロジェクトには、開発対象ハードにスマートフォンが含まれていることと、もっとも売り上げ本数を期待されているのはiPhone版であったことを踏まえて出した考えた開発手法は、納期を最優先にしたもので、その範疇で周囲に嫌われてでも、ギリギリまで品質にこだわった」という。
結果、速度優先のためにゲームボリュームを大きく抑えることになったが、そのぶん要素ひとつひとつの品質を上げることでフォロー。開発コストも、通常のスマートフォンタイトルよりもはるかに高額になったが、マルチハード開発、低予算移植でトータル本数を増やすことでカバーしたとのこと。長原氏は、極限までに品質を向上させることをくり返したことにより、「関係各所から「きりがない」と嫌がられたが、結果的にはやったことは正しかったと思っている」と語った。2.効率的な開発環境を採用し、品質とスピードに対応
PC版を開発してから、各機種に置き換えていくフレームワークを採用。長原氏は「まずは高画質でプレイステーション3版と、Xbox 360版に開発を移行し、さらにテクスチャーを抑えたものをWii版に開発を移行させる流れなので、PC版をひとつ作ってしまえば、3機種をほぼフォローしたことになり、本来の移植にかかるコストを抑えることができた。ただし、iOS版はこの流れに組み込めないため、3機種の制作とは別にスマホ版を作るという開発構成になった」と語った。
3.スピードを重要視したコンパクトな開発体制
小さな組織の実現を目指したという長原氏。プロデューサー、ディレクター、テクニカルディレクター、アートディレクター各ひとりずつといった4人の状態で、最小単位の運用チームに集約させ、判断と決定とを最速で行うようにする。これにより、全実装要素の詳細な把握ができ、フィードバックや舵取りも情報のロスがなく、スピードに対応できたと説明し、「短い期間で品質を高めるには、この方法がうまくいったという事例になる」と述べた。ローカライズ、QAについても基本的にはいっしょで、コンパクトなチームを作り、プロデューサーとディレクターがすべての情報を集約することにより、スピードに対応させたと説明した。
4.売れるためのゲームデザイン、アプローチ
長原氏は、『ソニック』シリーズをスマートフォンで販売するうえで、スマートフォン独自の挙動である“傾斜操作(チルトコントロール)”を積極的に導入したことを説明した。タッチ操作を意識したインターフェース設計の説明に続く。「スマホで遊んだときの気持ちよさを追及。たとえば、タッチの判定を意図的に大きくしたり、アイコンのサイズは大きめに、ボタンの入力位置などを手元を見ないでも操作ができるように配置したり、ゲーム描画は30fpsで作られているが、タッチの操作受付は60fpsに対応させるなど、タッチされたときの動作を妥協せずに導入した」と説明した。セッションのまとめに入った長原氏は、これらの開発によって得られたフィードバックとして、コンシューマー機とスマートフォンでは客層が大きく異なり、求められているものが違っていたという。「ネットで書き込みする人と、実際の購入層とのあいだでは評価が大きな隔たりがあり、開発者は大きな声だけに耳を傾けずに、声なき声の要望を嗅ぎ取る臭覚も重要だ」と述べた。
今後の展望として、本格的なジェンダー表現と、さらなるマルチハード展開挑戦していくこと、そして、スマートフォンによるダウンロード販売などは、サービス販売に近いことを挙げ、顧客の誘導方法の研究に注力していきたいと語った。
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