【TGS2012】酒井智史×山本大介×飯田和敏によるゲームビジネスセッションが開催

2012-09-22 11:45 投稿

●新しいゲームのカタチを探るセッション

2012年9月20日より幕張メッセで開催されている東京ゲームショウ2012。ビジネスデイ2日目の9月21日に行われたTGSフォーラム2012では、“新しいゲームのカタチとは? ネットワーク時代のゲームビジネス新事情”と題し、オンライン・ネットワークゲームのクリエイターとして名高い3名によるリレートーク&パネルディスカッションが開催された。

パネラーとして参加したのは、セガの酒井智史氏(第三CS研究開発部 プロデュースセクション プロデューサー)、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの山本大介氏(執行役員 第1企画開発本部 パズドラスタジオ プロデューサー)、グラスホッパー・マニファクチュアの飯田和敏氏(ディレクター)。それぞれが手がけるゲームタイトルの現状や運営方針などを紹介し、思い描く今後のゲームの姿を語り合った。

本イベントのモデレーターを務めたのは日経BP社の瀬川明秀氏。まず瀬川氏は来場者に向かって、どの業界に属しているのかを質問。結果はゲーム業界が大多数を占め、メディアが少数、金融がほんのわずかという内訳だった。ソーシャルゲームが全盛だった昨年のセッションでは、ゲーム業界の参加者は少なかったとのこと。あれから1年が過ぎ、ゲームのカタチは予想以上に早いサイクルで変容している。それにともない、ゲームのことを真剣に考える人がより増えたということだろう。

  

リレートークのトップバッターは、PC版では現在サービス中で今後プレイステーション VitaやAndroid、iOS向けスマートフォン端末での発売を予定している『ファンタシースターオンライン2』(以下、『PSO2』)のプロデューサーを務めるセがの酒井氏。『PSO』シリーズの歴史を簡単におさらいし、データの保存形式、課金形態、コンテンツ利用料などを比較。それぞれの時代に合わせて変化していることが一目瞭然だった。酒井氏は『PSO2』を作るまえの段階で、それまでのゲームの作りかたは「限界が見えてきていた」と明言。大きな問題として国内市場の縮小を挙げ、ハードの性能が向上して人件費が2~3倍になっているにも関わらず、ユーザーが要求するクオリティーが上がっていることを付け加えた。また、現状で課金コンテンツはひとつの楽しみかただと認識されつつはあるものの、「これまでのパッケージユーザーには心理的な障壁が大きい」と酒井氏は言う。また、国内のオンラインゲームの大多数は韓国産や中国産のものをローカライズした、基本無料のゲームであるとを指摘。そんな中で『PSO2』を出すにあたっては、『ファンタシースターユニバース』の成功点と反省点を踏まえながら、課金のポリシーを早々に決定したという。

『PSO』シリーズのおもしろさの本質はエネミーと戦いアイテムを集めるハック&スラッシュと認識し、そのためのクエストや特殊なエネミーといったものには一切課金しないことを決定。逆にキャラクターの見た目や武器の強化、倉庫やマイルームといったより深く楽しむ要素はスクラッチ(ガチャ)として取り入れ、課金ユーザーと無課金ユーザーがいっしょに遊べる環境の構築を目指したという。開発サイドでは無課金ユーザーは課金ユーザーの予備軍であることに加えて、無料ユーザーが多いほどゲーム全体のユーザ滞留時間が増え、課金ユーザーの満足感につながると捉えている。課金アイテムは売れ線のみの個別販売も検討したが、そうすると利益が出るものしか作らなくなり、コストの上昇や品揃えが歪みになることを懸念。「セーラー服とかスクール水着しか作れない(笑)」と酒井氏は言う。加えて、無課金で手に入れる方法も残しておかないと、大多数のユーザーにとってはうれしくないという。長年『PSO』で課金形態を模索してきただけに、酒井氏の言葉には重みと説得力がある。その解決策がスクラッチなのだが、『PSO2』では“ハズレ感を極力減らす”ことに注力。お目当て以外のアイテムにも相応の価値を持たせ、メセタ(ゲーム内通貨)で取引させて経済を生み出すことを副次的な目的にしている。高額のスクラッチやリサイクルショップも用意されており、工夫と模索のあとがうかがえる。そのかいあってか、酒井氏は「登録人数は想定以上(に多い)。95万IDを超えています。毎日数千の登録がある」としながらも、プレミアムセット(※さまざまな拡張機能を期間限定で使えるサービス)の購入率を高める課題もあるという。

最後に「いまはユーザーも固定化していて、新しいものをなかなか受け入れない土壌がある」と酒井氏。そこは逆転の発想で「いままソーシャルしかやったことないユーザーにも広めて裾野を広げたい」と締めた。

  

続いて、大人気スマートフォンゲーム『パズル&ドラゴンズ』の生みの親である、ガンホーの山本氏にバトンタッチ。“北風と太陽-ポカポカ運営-”と題して、『パズル&ドラゴンズ』で心がけた運営方針を紹介。旅人のマントを脱がせるために、北風と太陽が競争する童話になぞらえ、北風のように無理やり課金させるのではなく、太陽のように自分から課金させる“ポカポカ運営”を提案した。山本氏の考えるポカポカ運営は、大きく6つの項目からなるとのことで、以下にポイントを説明する。

■無課金でもずっと楽しめるようにゲームデザインと運営をする
ゲームプレイそのものに課金すると離脱ポイントになる。ゲームは延々と無料で遊び続けられて、課金も無課金もいっしょに遊べるのが最高のバランス。長く遊んでもらえれば課金してもらえる。よく初日と翌日が勝負だといわれるが、それは望ましくないと考えている。

■アイテムで釣るインバイト(招待)や、Twitterなどでの定型文つぶやきもNG
インバイト機能や定型文のつぶやきで報酬がもらえる仕組みは、個人的にはあまりよく思わない。その人自身の言葉で誘われたときがいちばんうれしい。アイテムほしさに友だちを誘うというのは、友だちをアイテムとして見ているということで、離脱率が非常に高くなる。だから、それらの機能はつけずにトレンドになるのが望ましい。

■ユーザーとの間に身近な存在を作り、正直に最新情報を伝える
運営とユーザーの中間的な、クッションみたいな役割を持つTwitterアカウントをやっているが、大好評で45000人ほどフォロワーがいる。定型文をつぶやくよりも効果が高く、楽しそうに見える。ユーザーがみずからつぶやきやすい環境を整えることが大切。運営に来るユーザーの声は6~7割がクレームだが、そのうちの9割は要望や、継続開発に役立つ意見で、大きな力になっている。

■攻略記事等へのリンクをアプリ内に張り、アプリと情報媒体をつなぐ
アプリから情報媒体に直接導線を引く。攻略法をそのままゲームに置くわけにはいかないが、ゲーム内から外にリンクを張ることで、コミュニティが外に向かって活性化する。そのため、あえてゲーム内ではコミュニケーションを取りにくくしている。そこが一般的なSNS配信ゲームとのいちばんの違いで、あえて囲い込みをしないオープンソーシャルでコミュニケーションを取らせる。

■運営は24時間ライブで、サーバの状態はアナタの喉と考える
運営は24時間ライブのようなもので、お客さんに楽しんでもらうためには1秒も落とせない。サーバーの状態を自分の喉と考える。喉の調子が悪いとアーティストは謝らないといけない。正直にお詫びするのが大切。『パズル&ドラゴンズ』では障害があるたびに魔法石を配っていたら、クレームがワクワクに変ってきた感がある。

■KPI(重要業績評価指標)はARPPU(ユーザーひとりあたりの売上高)を抑えるための指針にする
公式サポート宛の要望やクレームやTwitterアカウントに来る意見を参考にしている。『パズル&ドラゴンズ』の場合は1ヵ月さきまでの運営方針を立てていない。ARPPUがパッケージソフトの額を超えないようにすることを指針にしている。

  

最後に、NHN Japanと提携し、スマートフォン向けゲーム『イージーダイバー』を鋭意開発中のグラスホッパー・マニファクチュアの飯田氏が登場。“22世紀のための準備運動”と題して、コンピューターゲームの向かう先について論じた。飯田氏は1968年生まれ。少年時代に目の当たりにした『スペースインベーダー』、『スターウォーズ』、セックス・ピストルズなどは未来を予感させる新しさがあり、「そのときに考えていた21世紀はキラキラ輝いていた」と切り出す。その感覚を自分の息子や孫の代にも残したいという思いが、ゲームを作る根源的な原動力になっているようだ。

そんな飯田氏が現在取り組んでいるのは、LINEで繋がっている友だちと共同で楽しむことができるゲームプラットフォーム“LINE Game”の『イージーダイバー』。マネタイズがこれまでと大きく変わっているので不安はあるものの、あっという間に登録ユーザー数が6000万人を突破したLINEには大きな魅力と可能性を感じているとのこと。『イージーダイバー』は、飯田氏のプレイステーションデビュー作『アクアノートの休日』をモチーフにした作品。『アクアノートの休日』は、明確な目的やルールのない散歩ゲーム。飯田氏は「オープンワールドの先駆けだった自負はあるが、ロックスターの人に言ったら知らないと言われた(笑)」と冗談混じりに軽妙な語り口で話す。PCで開発していた当時、スマートフォンの伸び率が尋常ではなく、スマートフォンに特化した作品にシフト。しかし、LINE Gameにひかれ、いったんはほぼ完成したものを白紙に戻したという。

「ゲームに限らず、我々は多くの変化を実感している」、飯田氏はレコードを例に出し、多くのメディアがカタチを変えながら現在に至っていることを示唆。そこから突っ込んだ形で、ゲームに関してプレイヤー視点とクリエイター視点から、かわるものとかわらないものを考察。たとえば、プレイヤー視点では消費スタイルが大きく変わったが、“最先端の技術で遊びたいという欲求”は飯田氏が10歳のころからまったく変わっていない。クリエイター視点では制作スタイルが変わったが、“新しいガジェットでゲームを作りたいという欲求”は変わらない。これらを総合すると、プレイヤーとクリエイターが近い距離でつながり、垣根がなくなっていくのが成功につながると解説。それがマネタイズの成功であり、プロジェクトの成功というわけである。ただし、プレイヤーと盛り上がって言うことをなんでも聞くだけではダメで、しっかり牽引して責任を取ることも必要だと強調した。

続けて、“いまはあまり役に立たないことをすべき”だという持論を展開。役に立たなければ立たないほど、未来において役立つ可能性がある。人間はソーシャル性がもともと強く、多くの人と仲よくなりたいという本能的な欲求を持つ。見知らぬ他者を拡張した先に、22世紀で生きる子孫もいる。そう考えると「がぜんやる気が出てきます」と飯田氏。そうなれば、「ゲーム脳とかネット依存症とか言われても関係ない。正々堂々と役立たず宣言をしたい。今役に立たないもののほうが、未来に役立つ可能性がある」と結んだ。

●来年はおもしろいゲームが残る

リレートークが終わったあとは、瀬川氏が気になったテーマを掲げて、ゲストがそれに回答するパネルディスカッションが開かれた。最初のテーマは“投入資金を回収するためのスパン”について。先陣を切ったのは酒井氏で、「オンラインゲームにもいろいろあって、うちみたいに豪華に作り込むと1年後や2年後で考えないとダメですね。一方で短いスパンのものも合わせてやっていきたい」と述べた。

山本氏は『パズル&ドラゴンズ』を例に、「ボリュームではなくてサイクルとして」1~2年は遊べるものを目指し、ネイティブアプリだがサーバーにほぼデータを持たせて柔軟に対応していると説いた。「最初の設計でいかに汎用的に作っておくかが大切」とのことだ。しかし、結局は“運”だという意外な言葉も。ただし、運を上げるためには、嫁や彼女、兄弟など、ふだんはゲームをあまりしない身近なカジュアルユーザーの意見を聞くことが大事だという。同僚や上司には言いにくいことも、気兼ねなく言えるために有益な意見が出ることが多いようだ。

飯田氏は、現在も「1000年まえの壁画が修復されながら鑑賞されている」ことを例に出し、スマートフォンやLINEの爆発的な普及速度について言及。まだまだ「ゲームをしてない人のほうが多いんですよね。そこにリーチするにはどうすればいいかを考えるのがまっとうなことだろう」と結んだ。

その後も、パネラー3人が注目していることや、ゲームの設計にまつわる話など、興味深いテーマに関して議論がくり広げられ、あっという間に2時間が経過。最後のテーマとして挙げられた来年のゲーム業界の展望については、3人の話に共通していた部分とし、「けっきょくおもしろいゲームが残るのでは?」と酒井氏。マネタイズだけを考えているゲームよりは、ユーザーが遊んでいておもしろいゲームが残る。楽しかったという気持ちがつぎにつながるなど、3人とも同様な思いを抱いていた。ぜひ、彼らが話す“おもしろいゲーム”が多数生まれることを、ゲーム業界の発展のため、そしていちユーザーとして期待したい。

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