機兵とドラゴン

機兵とドラゴンの攻略記事

『機兵とドラゴン』開発現場のリアル おもしろくなるまで本当に出さないクリエイター魂がここに【独自インタビュー】

2024-04-01 13:44 更新

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機兵とドラゴン

スマホでのゲーム開発はこれが最後になると思う…

2024年3月某日、ファミ通App編集部はスマホゲーム『機兵とドラゴン』を開発するDONUTSの開発現場に潜入。

『機兵とドラゴン』の総指揮とゲームデザインを務める森山尋氏、プロデューサー安藤武博氏に、完成秘話をインタビュー、オリジナルゲーム開発現場にしかないリアルとその想いを伺うインタビューを実施した。

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▲『機兵とドラゴン』のプロデューサーを務める安藤武博氏(左)と、総指揮とゲームデザインを務める森山尋氏(右)。ゲームざんまいの開発もひと段落して上機嫌で出迎えてくれました。

いざ、開発始動!!

――さっそくですが本プロジェクトの開発は何からはじまったんですか?

森山 ゲーム開発は始まってしまうと地獄なので、一にも二にも“人”が重要。人材の確保からでした。

まずは安藤さんに「体力に自信のある方で」と言うオーダーをして、チームのスタッフィングをお願いしました。

安藤 森山さんの作り方は、仕様書を切らずに3歩進んで2歩下がるみたいなことを繰り返す独特の開発スタイルなんです。このタイプの作り方は、肉体的にも精神的にも相当タフじゃないとやりきれないので、かなり悩みました。

森山 しばらくして、安藤さんから「ぜひ会わせたい男がいる」と言われ、指定されたコメダ珈琲店に行くと…デカい体で、シロノワールを旨そうに食べている男が座っていたんです。ビビビっときましたね(笑)

――ちなみにどなたですか?

ふたり こいつです。

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▲仕事中に唐突に捕まる『機兵とドラゴン』運営ディレクター美濃口浩太朗氏。

森山 それで、隣に居た安藤さんがコメダ珈琲店のマメ(豆)を食いながら、彼を『機兵とドラゴン』の運営ディレクターに推奨しますと言うんです。

安藤 美濃口は、三舩(※)という『バーチャストライカー』とかを作った人間と『艦つく』という戦艦を作るゲームを作っていたんですよ。なので、もちろんゲーム作りへの熱量も高く、血圧も高い、肝も据わっているし、なんと言ってもマメな男なんです。森山さんにはピッタリだと思ったんですよね。

※三舩 敏氏:『バーチャストライカー』などをてがけたゲームクリエイター。

森山 話を聞くと、彼は雀荘にフリーで通うほどの“麻雀好き”で、かなりの腕前だと言う。ちょうど『機兵とドラゴン』では、麻雀に近いおもしろさやエッセンスを組み込もうと考えていたので、この人選はかなりおもしろいな、と!

僕のゲーム開発は、まず運営のディレクターを決めるところから始まります。

若手のディレクターやプランナーと二人三脚で、時には4〜5時間に及ぶミーティングで永遠と問答を繰り返しながら「あーでもない、こーでもない」って中身を練り上げていく。長時間一緒にいることになるので、僕が興味を持てないとまず続かない……。

そういう意味で、安藤さんの狙い通り、美濃口くんは僕にピッタリだった!

僕と同じ無類の甘党だってことも、ポイント高かったですね(笑)。

――そこから開発チームが動き出していくと?

森山 そうなんですけど、「我々はどこを目指すのか?」などの、ビジョンの共有みたいなことがチーム全体に行き届いていなくて、最初はチームがバラバラでしたね。

「売れればなんでもいいじゃん」ではなくて、僕が目指すのは、みんなの大事な時間を使って“おもしろいゲームを作る”ということなんです。世の中に“おもしろい”という衝撃を与えると言うことなんですよね。

みんながシンプルにまずそこを目指すことが、実はとても重要だと考えているんです。

そう言うこともあって、スタッフも出たり入ったりと序盤からいろいろな苦悩の展開。チームの地盤がなかなか固まらず、事あるごとに美濃口くんをコメダ珈琲店に呼び出して、解決策や対応策を話し込みました。そういう紆余曲折を経て母体となるチームが少しずつできあがっていった感じです。

美濃口 本当に何回も行きましたねコメダ珈琲店(笑)。

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森山 問題が起きる度に、美濃口くんも逃げずにギアを入れ直してくる。

森山尋のゲームを是が非でも絶対に作りきるんだ、という意気込みを常に感じさせてくれました。

安藤 最初に美濃口と「何があっても森山さんに食らいついていけ」って約束したんですよ。

何なら吸収できるところは全部吸収してほしいと。仕事しながら勉強というのはどうかと思うけど、将来的にいいゲームを自分で企画することを考えれば、これ以上の先生はいない、何がなんでも食らいつけと!

森山 本当にゲーム開発って大変なんですよね。とくに現場の運営ディレクターは1番大変。病んじゃう人も多いし、途中で連絡が取れなくなるとか、いなくなっちゃうとかもよくあるんです。

“経営者”、“開発スタッフ”、“総指揮”それぞれから出る要求を、うまく調整できないと、各方面からのプレッシャーで、思考が停止しちゃう。鋼のメンタルがないと成り立たないんですよ。

――開発中は色々あったと思うんですけど、印象深い出来事などはありますか?

森山、開発辞めるってよ

森山 いやーもういっぱいあるよね。

美濃口 そうですね。いちばんよく覚えているのは、キャラデザロールバック事件ですね。

森山 なんかスイーツっぽい名称だね! 甘くはなかったけどね(笑)

美濃口 あの時はさすがに“きたか”って思いました。

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――ぜひ詳細を聞きたいです。

森山 いろいろな行き違いがあって起こってしまった事件なんですけど……。

『機兵とドラゴン』のプロトタイプができたくらいの時期に、継続する開発予算を社内で通す必要があったので、DONUTSさんの上層部の方々に『機ドラ』の開発進捗を説明しに伺ったんですよ。

その時は「こういうキャラクターがいるゲームですよ」というイメージをご覧頂いた上で、開発の続行を承認いただくような場だったんです。

この時点のキャラクターというのは、そこそこ見栄えは良いものの、独自性に欠けるキャラクターだったんです。なので“今後の方向性”だけをイメージさせて説明する“仮”のキャラクターだと思っていたんですよね。今後、徐々に『機ドラ』のオリジナルキャラクターを、本腰を入れて作り上げていくものだと思っていたんです……。

――そうでは、なかったと?

森山 はい。コロナ禍の影響もありました。現場とのコミュニケーション量も十分でなかったこともあり、気づいた時にはキャラデザの制作はほとんど進んでいました。

この(僕が自信を持てない)キャラデザで進行しようと現場が動いてしまっており…ヤバイなと(苦笑)。

僕の場合、不器用なので自信のないキャラデザで、ゲームデザインすることが非常に難しい。もし、この感じで本当に進行するのであれば、僕が総指揮する意味があまりないのかもと感じちゃったんですよね。

捨てたくない現場。捨てたい僕。話し合いも平行線でなかなか進まなかった。そんなこんなで「じゃあ辞めますわ」みたいなところまで、一回行きつきましたね(笑)。

――総指揮、ゲームデザインの森山さん抜けるとなったら一大事ですね(笑)。

森山 勢いでそういう流れになっちゃったので、一目散に美濃口くんが飛んできて、「森山さん!冗談ですよ冗談!もう一回作り直しましょう」と。

安藤さんも、すぐに駆けつけ社内外の力のあるイラストレーターをすぐにかき集めてくれました。まず『機兵とドラゴン』の象徴たるキャラクターを1体作ろうという話になったんです。それが村山竜大さんにお願いしたリニア(メインキャラクター)なんですよね。

まあ結果、それまでに多くの時間とコストをかけて作った全キャラクターをゼロから作り直すことになりました。

美濃口 気持ちいいくらいに全て、作り直しましたね(笑)。

――全部作り直し……。現場はいったいどんな雰囲気だったんですか?

美濃口 あまりに突然な出来事で、びっくりしている人と、悲しんでいる人が入り混じる“お通夜”みたいな雰囲気がありましたね。

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素うどん事件 ~開発は血まみれ、森山はゲロ吐きそう~

美濃口 あとは、素うどん事件もありますね。

――素うどん事件?

森山 これは本当に開発の終盤で起こった事件ですね。去年のちょうど夏の終わりくらい。

安藤 対談とかでも度々森山さんとはお話させていただいてますし、森山さんの制作スタイルがクラッシュ&ビルドであることは知っていたので、ひたすら作って壊しまくる人なんだとは分かっていたんです。

そのクラッシュ&ビルドにどれだけ期間とお金、人を用意できるかというのが、僕のプロデューサーとしての腕の見せどころだと思って覚悟はしていたんですよ。

そしていっしょに『機兵とドラゴン』を作り始めて、どんな感じで壊すのかなと思っていたんですけど、実際は壊す感じではないんです。

――クラッシュ&ビルドだけど壊さない??

安藤 ここで、素うどんの話になるんですけど、うどんを作るならまず、美味しい出汁、のど越しのいい麺を作る。そこに天ぷらやら、肉やらのトッピングを全部乗せてみたら、まぁ美味しいわけですよね。

でもトッピングが多すぎると、どこから食べたらいいか分からないし、1回で満足しちゃうんですよ。ゲームでいえば、次の日プレイしたくなくなるような感覚。

――1回である程度満足してしまって、次の日はもういいやと。

安藤 そう。そのいっぱい盛ってる全部のせ状態から、“森山さんがもう一回素うどんに戻す”というのが、クラッシュ&ビルドの“クラッシュの部分”なんです。どちらかといえば、再構築に近いイメージですかね。

――ゼロまで壊すというのではなくて?

安藤 では、ないんです! 一回トッピングを全て外そうというイメージです。でも外すってけっこう大変なことなんです。ゲームって…うどんと違うから(笑)。

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――ですよね(笑)。

森山 せっかくみんなで時間をかけて「これが必要だよね」と検討、納得して、長い時間をかけて作ってくるとゲームの開発者というのは、作ったものを捨てられなくなってくるんですよ。

それは当たりまえで、現場も手間ひまかけて、心を込めて描いたもの、組んだものだっていう思いがあるわけですから。

安藤 じゃあ『機兵とドラゴン』になるにはどうすればいいか?というと、一回素うどんにするしかないと言うわけです。そうじゃないと『機兵とドラゴン』というものが分からなくなってしまうと。

森山 いろんな、上に乗っているトッピングで美味しくなっているだけで、お客さんも1回目は美味いって言うかもしれない。だけど、うどん自体がそこまで美味しくないことに気づいたら2回目は来てくれない。

本当のうどんは、うどんだけで「うまッ!」ってならないとダメじゃないですか。

安藤 ただやっぱり、天ぷら担当とか、温玉担当は、「えー……」って。

森山 それはそうですよね(笑)。

安藤 毎回現場と真剣に勝負してるんですよ。この決断と勝負する内容がとにかくエグいんです。

もちろん外すという話をすれば、現場から不平不満は出るんですけど、いざやってみるとちゃんと美味しくなるということを何回も何回もくりかえし見せつけることで、現場をまとめ上げてましたね。

美濃口 めちゃくちゃくり返してましたわ(苦笑)。ただ、これがどんどんおもしろくなっていくんです。

森山 僕は、引き算大作戦みたいに言っていたんですけど、引きながら構築していくので、引き算しているのに足し算もしている感覚になっていくんです。引き算することで、蛇足を確認できるし、ゲームとしてのコアな部分が、わかりやすくもなりますからね。

でも僕としては、毎回ゲロを吐きそうなプレッシャーを感じているんです。長い時間、精魂こめて、みんなが作ってくれたものをわざわざ外すっていう決断は辛すぎるんです。

だけど…やるしかないんですよ僕が。

美濃口 森山さんはゲロを吐きそうになっている。一方で、現場では血が流れているわけです(笑)

僕は各方面で現場の“火消し”と“止血”を繰り返しながら、暴徒の鎮圧もしていました。

森山 そうだよね。現場には血が流れたと思う。もちろん僕も現場の人たちの気持ちはすごい大事にするし、面倒も見るほうだけど、1番大事なのはゲームを、プレイするユーザーが「おもしろい」と言ってくれるかどうかですからね。

「みんなで協力してゲームを完成まで持ってきたね。もう満足満足!」で、いざゲームを配信してみたら、1,2回で飽きられちゃうようじゃ意味がないわけですよ。長く遊んでもらえるようなゲームを作るには、この引き算の工程は絶対必要なんですよ。

ただ、その引き算をやる時には、自分ひとりで責任を負うし、誰のアイデアも借りることはできないので、僕は僕で命を削るくらいのつもりでやりました。

安藤 すでにできているものを「切る」というのは、本当に大変なんですよね。

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クリエイターの神髄とは?

――お話を聞いていると森山さんの中で“『機兵とドラゴン』像”のようなものがあるのかなと感じているのですが、それはテーマなどから形作られるのでしょうか。

森山 開発が軌道に乗ればテーマというものは自然に固まってくるので、あまりそこには固執しないタイプです。だけど、ゲーム作りに関してはよくいう話があるんです。

――どんなお話でしょうか。

森山 以前リリースしたタイトルでの話なんですけど、清水三男さん(※)という氷彫刻家の方に、新作で登場するメインキャラの「氷像」を作ってもらうというプロモーションイベントをやったんですね

※清水三男氏:有限会社清水氷彫美術代表取締役を務める氷彫刻家。日本氷彫刻界の全国展などで何度もグランプリを受賞している。

森山 その清水さんは中国とかに行くと国賓的な扱いをされるぐらいの、本当にすごい方なんです。そんな清水さんとイベント前に、お打ち合わせをさせて頂いた時に「氷はどうやって彫るものなのですか?」とお聞きしたら、「彫っているんじゃないです」って言うんですよ。

――ほう。

森山 「取り出してやるんだ」と言うんです。

掘るべき像は、もう氷中に存在していて、それをただ取り出すというイメージなんだとおっしゃったんですね。

僕は、これがクリエイターの神髄というか、とにかくその言葉が胸に刺さり今でも忘れない。

今回でいえば、自分たちが『機兵とドラゴン』を作っているというよりは、『機兵とドラゴン』というものはすでにあり、それを見つけ出す作業っていう感覚でもありました。

『機兵とドラゴン』がタイトルなので、どうやったら『機兵とドラゴン』になるんだろうというのを、考えて考えて模索していくイメージです。

――森山さんの中にすでに『機兵とドラゴン』があるんですね。

森山 そうです。最後の素うどん作戦も“引き算”がしたかったのではなく、『機兵とドラゴン』になるにはコレが必要だったというだけでした。

森山氏 VS DONUTSの開発チーム

――『機兵とドラゴン』では、森山さんはゲームデザインと総指揮を担っているということで、いつものゲーム開発とは環境が違うと思いますが、そこはどうでしたか?

森山 今回は自分の(本来の)現場というのではなく、“DONUTSさんの開発陣とのコラボ”というイメージですよね。だから、僕はゲームデザインとして『機兵とドラゴン』という形を取り出して、それをどう伝えて、DONUTSの開発陣にどう作ってもらうかっていうところに注力していました。本当にいいコラボ作品になったなと思いますね。

――美濃口さんは、ディレクターの立場ということで、どのようなことを考えていましたか?

美濃口 そうですね。森山さんとは意見をぶつけ合いながら納得した上で進めていきました。まず僕が納得しないと現場のスタッフに説明できない。納得した上で、デザイナーやエンジニアに理由を噛み砕いて説明し、承諾してもらう、動いてもらうという流れです。

作ってきたものを壊す、外すということに対してのストレスは、開発陣一同やっぱりあるんですよね。

ただ、そこを前向きに捉えられたからこそ、『機ドラ』が完成したと思っています。

森山 今回は僕の会社(PICTOY)の開発陣ではないから、スタッフとの関係値も薄い。

それゆえ僕が言ったことに対しての疑問、不満など異見が当然多く出てきてしまう。

それを一個一個丁寧に言語化して説明しているうちに、だんだんと腹が立ってくるんですよね(笑)。

「なんでこんなにも説明しないといけないんだよ!」みたいな気持ちになってくる。

スタッフとは、阿吽の呼吸でテンポ良くゲームを作るタイプだし、“理屈”でゲームを作ることはまずしない。というかできないんですよね。

――言語化できない“おもしろさ”……難しいですね。

森山 でも美濃口くんは、他のスタッフを説得するために“僕の言葉”が欲しくて、僕に食らいついて説明を求めてくるわけですよ。それはすごくありがたいことなのだけど、長い時間をかけて説明していると、美濃口くんにも自分にも、腹が立ってくるんですよ。

たまには僕も、カッとなって美濃口くんに怒りをぶつけたりするんですけど、すぐさま「まぁまぁ、森山さん、落ち着いてくださいよ、どうしたんですか〜?」と諭されるんですね。

俺は、短気でガンコなおじいちゃんかよって(笑)。

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――その構図ちょっとおもしろいですね。

森山 僕も確信があった上で「これだ!」って言っている、自分の会社では、そう言う共通感覚を分かってくれるメンバー達と作っているもんだから、“感覚”を言語化することを要求されると、すごく陳腐化してくるような気がしてしまうんです。

芸人の漫才やコントを見た後に、“おもしろかった理由を解説する”みたいな感じに近いんですよ。

安藤 野暮というかね。

森山 当然、感覚でしか言えない部分ではあるんですけど、それでもなるべくは言語化して伝えるようにしていました。

そこから、DONUTSさんの現場でまた頭を使って考えて作るという工程が入るので、今までのゲームの作りかたとはちょっと違って、そういう意味ではおもしろいコラボ作品ができたかなと思います。イライラする部分も多かったですけど(笑)。

美濃口 言語化してもらわないと、僕が現場に説明できないのでとても苦しい立場でした。

森山 だから僕も頑張って、なるべく説明をするようにしたり、話し合ったり、コミュニケーションを多く取るようにしてきたました。共通感覚や共通言語を増やす努力はしましたね。

――そんな森山さんからの指示(むちゃぶり?)を美濃口さんが現場に伝えるわけですけど、現場はどういう反応なんですか?

美濃口 開発初期の方は、ゲーム開発だしまぁそういうこともあるよね!という感じでした。スケジュール的にも余裕があると、無茶振りにも言われた通りやるしかないよね!って

森山 心が広いからね、スケジュールに余裕があると(笑)。

美濃口 でも、だんだん期限が迫ってくると…「マジっすか?」「いま壊して何とかなりますか?」「いつまで続くんですか?」とか不満が噴出してきます。

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▲開発現場にはリリースまでの期間やマスター審査会までの日数などが張り出されていた。

―(笑)。とはいえ、森山さんはとにかくゲームをおもしろくするために言うことは言うと。

森山 そうですね。締め切りを理由に妥協するとかは、ないですね。空気を読めないっていうのは、僕のスキルですから(笑)。納得いくまで作る。それが僕のできるユーザーへの最大の敬意だと思う。

美濃口 会社的な事情で言うと当初はもちろん配信期限はあったんですけどね。

途中からプロデューサーの安藤が「もうおもしろくなるまでやるしかないよ」って…言ってました。

安藤 俺の目は笑ってなかったと思うけど、確かに言ったねそれボソッと。森山さんは本当に出さない。体を張って出さない。一緒にタッグを組んでみてよ〜くわかりました(笑)。

森山 DONUTSさんには本当、頭が上がらないです。

森山 いまどきスマホでこんなに真剣にオリジナルゲームを作っている会社なんか、ひとつもないんですよ。DONUTSの西村さん(代表)はこのチャレンジに果敢に協力してくれた。プロダクトファーストを掲げるDONUTSさんらしい挑戦になったと思っています。

――確かに最近のスマホゲーム業界は、IPものや中国のゲームが多くなっていますよね。

森山 無課金でいいから3回だけ遊んでほしいってXでも言っているんです。これを遊ばないのはとにかくもったいないと。

スマホゲームの開発費用は、アンダーラインで3億とか5億くらいになっていて、プロモーションコストも含めると10億以上みたいな世界になっていますよね。

こういう巨額なプロジェクトを完全に任せられるディレクターも業界には多くはいないだろうし。そうなると、ゲーム作りのプロではなく“決裁権を持った偉い人”が開発現場に出てきてしまう。

その方の意見をゲームに反映しなきゃいけなくなるわけで…それはもう大体が不幸の始まりなんですよ(笑)。

――国産のオリジナルスマホゲームは本当に少なくなりましたね。

森山 ここ10年盛り上がったスマホゲームの時代があったけど、こんなにエネルギーのこもったオリジナリティのあるゲームはもうコレが最後だと思います。『機兵とドラゴン』以降はもうないと思うから。プレイしないのはもったいないです。

スマホゲーム時代の最後を飾るオリジナルゲームがどんなものか確かめる意味でも触ってほしいです。

360度タワーディフェンス×麻雀がゲームの源泉?

――僕も実際に『機兵とドラゴン』をプレイさせていただきましたけど、バトロワというジャンルでありながらオート移動というのがとにかく新鮮でした。

森山 そこ分かっていただけるのは本当にうれしいですね。

美濃口 いちばん最初ありましたもんね、バーチャルパッド。

――そうなんですね。

森山 開発当初は、浮島艦を全員で引っ張り合いながら移動させるのも、アイデアとしておもしろいと思って組み込んでいました。

ただ、バーチャルパッドで遊ぶゲームって疲れるんですよ。時間があるときに遊ぶゲームならいいけど、毎日スマホで遊ぶようなゲームとは合わないんです。

最終的に出た結論が、移動は自動で、緊急投票という機能を使えば、攻撃したい相手を選んだり、逃げたりはできるというものでした。

これが結果的にうまくいって、制限時間が5分でありながら、5分に感じないようなおもしろいゲームになりました。

――最初の1、2分は接敵せずに自分の浮島艦の強化に集中できるからか、体感で5分には感じなかったですね。

森山 実際やってみると、そんなに疲れなかったりするんですよね。ただ、プレイしている間にユーザーは色々考えたりしますし、判断のタイミングも緊張感がありますし、ほどよく緩急があるゲーム性が実現できました。

とにかく毎日遊んでもらうスマホのゲームは、疲れるものではダメなんですよ、おもしろかったとしても。

美濃口 そこがけっこう難しいところですよね。

森山 その部分が最終的に実現できたのは本当に良かった。

新しいゲームだから一定の“とっつきにくさ”はあるかもしれないですけど、遊ぶことに疲れないし、後味は「楽しかった」と感じてもらえるはずです。それを実現しないと絶対に勝てないなと思っていたので、ここは本当に時間かけたところだよね。

美濃口 ここに関しては僕も考えを聞いて「なるほどな!」と思いました。1回のプレイだけ見ると、自分で動かしたほうが快適だし、自由に準備できていいじゃんと思うんですけど。

森山 その時代もあったからね。

美濃口 あれはあれでおもしろいんですけどね。

森山 でもこれじゃあスマートフォンゲームとしては絶対に売れないと思ったね。

――移動が自動だとある意味で不自由ですけど、“運がなかった”みたいに言い訳できる余地が残るので、プレイヤー目線だともう1回やろうとなりやすいポイントかもしれませんね?

森山 じつは、勝手にうごくのは美濃口くんが好きな麻雀のエッセンスを取り入れているんですよ。

麻雀ってツモ牌を自分でコントロールすることはできないけど、手牌をどうするかは自分で決められる。そして自分の手が進むと、みんなの状況もどんどん変わってきて、後半にかけてだんだん緊迫してきますよね。

――『機兵とドラゴン』では序盤はランダムな艦パーツで艦強化、中盤から後半にかけてのお互いに強化した艦で接敵と考えると同じような時間の流れですね。

森山 そして最終的にはこの機兵をこのタイミング使おうみたいなね。麻雀の1半荘をやっているようなイメージの5分なんです。

 

▲『機兵とドラゴン』の終盤戦のイメージ。敵艦を撃破すれば1位が近づくが、撃破されてしまうと最下位確定。麻雀で言えば、リーチ後の他家にどう対応するかという場面だろうか。

森山 だから、サクッと遊んでみて今回こういう結果だったな、でも次はこういう風にやってみようかな、と思ってやってみるんです。すぐうまくはいかないんだけど、毎回同じことが起きるわけじゃないから、運よく勝てるときもあるわけです。麻雀のおもしろさはそこじゃないですか。

麻雀も運ゲーとか言われることがありますけど、『機兵とドラゴン』も別にそれでいいと思っているんです。おもしろい運ゲーならいいわけですよ。

――すごく腑に落ちますね。このお話を聞いてから『機兵とドラゴン』のプレイを思い浮かべると。

森山 今回は360度タワーディフェンスを作りたいという思いがあって、それと麻雀の掛け合わせなんですよ。

360度タワーディフェンスと麻雀を組み合わせたら、それが『機兵とドラゴン』で、その完成形を探していたみたいなことです。これを言葉では、なかなか伝えられないんですよね。

僕も分からないんです。分からないけど、形になりそうなイメージはしっかりあるからゲームを作ってる。なので、色々尋ねられても「俺もわかんないんだよ!」としか言えない。

――(笑)。

森山 「むしろお前もいっしょに探せよ」みたいなことですよ。最後はみんなそういう気分になって、一緒に『機兵とドラゴン』を探し求めてくれましたけどね。

『機兵とドラゴン』完成の瞬間とは??

――最終的に、「これが『機兵とドラゴン』だ」となる瞬間が、森山さんのなかであったのでしょうか。

森山 ありましたね。本当にそれは。

安藤 めっちゃあったんですよ。

――めっちゃあるとは(笑)。

森山 週に1回12人集めて毎週『機兵とドラゴン』テストプレイ会っていうのをやるんですけど、開発終盤のプレイ会のときに、スタッフのW氏(バランス調整担当)が、テストプレイ後にボソッと「完成した!」って言ったんですよ。急に誰に言うでもなく

――実際に、言葉として言ったんですか?

森山 言った。

安藤 「完成した!」って大滝秀治みたいに口からボソッと(笑)

森山 僕もその場で遊びながら、心の中で「これはキタな」という感覚はあったんですけど、彼はとくにそれを感じたんでしょうね。「完成した!」って。でもあの時みんな同じくらい思っていたよな?

美濃口 思ってましたね!

森山 みんなそう思っていたところに、彼が「完成した!」と急に声に出して言ったもんだから、それがすごい印象深かったというか。

安藤 クリエイターって基本的に口下手ですからね。

じつはその日って、僕が何度目かの配信延期の話を告げた気まずい日だったんですよ。2023年の年末に配信する予定だったのですけど、その日の午前に「配信日の越年決定」を全スタッフに告げたんです。

もう何回も延期しすぎてスタッフは満身創痍…せっかくのテストプレイの前に「本当にこれが最後の延期なの?」みたいなどよ〜んとした空気になってしまって…

その直後のテストプレイ会で「完成した。できた!」というセリフが出てきたからこそ、またみんなで一丸となって、明るい気持ちで年を越せたんですよ。

それがなかったら、「このプロジェクトいつまでやんねん!」みたいな雰囲気のまま紅白歌合戦を観ていたかもしれない(笑)。

――まさにチームも“運命共同体”となって完成した『機兵とドラゴン』。配信を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします。

安藤 かねがね思っているんですけど、暇なお客様ってもうひとりもいないんですよね。

わざわざそこに行かないと体験できないものにしか、時間、ましてやお金なんか使ってくださらないと思っているんです。

それが分かっているから、どこにもない体験を作ろうと始めたプロジェクトなんですけど、完全にどこにもない体験が『機兵とドラゴン』にはあるといえる出来になりました。

どこに新しい体験があるのかなと探しているゲームファンの人、ここにあります。

もはや、ここにしかないとも言えるかもしれません。プレイして後悔はさせないので、ぜひ遊んでほしいなと。ただそれだけですね。

――ありがとうございます。森山さんお願いします。

森山 ここ10年で遊び尽くして、スマホゲームから離れたという人もいると思うんですけど、『機兵とドラゴン』だけは遊んでおいたほうがいいよ!とその人たちに向けて言いたいです。

もちろんカジュアルゲーマーの人でも遊べるんですけど、ゲーマーの人にもう一回スマートフォンに戻っておいでと。「ここにちゃんとゲームがあるよ」という感じですね。ゲームを好きな人たちには特に遊んでもらいたいですね。

――ありがとうございます。最後に美濃口さんお願いします。

美濃口 プレイステーション全盛期、各社が多種多様なゲームを作っていた時代。あの時代の魂を受け継いだかのように独創的なゲームに仕上がった『機兵とドラゴン』。

最近では、なかなかないゲームに仕上がったと思っています。制作した我々の魂と想いがこもっているので、ぜひプレイして感じて楽しんでほしいです。

機兵とドラゴン

対応機種iOS/Android
価格無料(アプリ内課金あり)
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ジャンルリアルタイムストラテジー
メーカーDonuts
公式サイトhttps://www.kidora.jp/
公式Twitterhttps://twitter.com/kidora_pr
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