DeNAのキーパーソン小林賢治氏が学生に語る、ソーシャルゲームが支持される秘密とは?

2012-05-14 12:00 投稿

●ソーシャルゲームの本質に迫る

2012年5月11日、立命館大学にて、ディー・エヌ・エー(DeNA)の取締役 ソーシャルゲーム事業本部 事業本部長・小林賢治氏による特別講演が行われた。

立命館大学では、中村彰憲教授のもと、映像学科の学生に向けて“クリエイティブリーダーシップセミナー”を開設し、2週間に1度の割合で各業界のトップクリエイターを招いてセミナーを開いている。この講演はその一環として行われたもので、テーマはずばり「ソーシャルゲームとは?」。「定義されているようで、じつはあまりしっかりと定義されていない」(小林氏)というソーシャルゲームの本質に、小林氏が斬りこむという講演になっている。ときに学生に質問を投げかけながらソーシャルゲームに迫っていくという内容は、極めて刺激的で、まさに知的な冒険を出かけたかのよう。ソーシャルゲームに関わるようになっていまだ日の浅い記者にとっても、「おお、そうなのか!」と目を瞠らせられることの多いものだった。ここでは、そんな講演の模様をお届けしよう。

一般的に、ソーシャルゲームというと、どう定義されるだろうか? 小林氏は、“ほかのユーザーと協力したり競争したりすることを楽しむゲーム”や“SNS上で配信される、コミュニケーションを楽しむライトなゲーム”といった世間で一般的に広がっている定義を列記した上で、これらは「いずれも、様態を叙述したもので、付加価値を定義したものではありません」と疑問を投げかける。

そこで小林氏が持ちだしたのが、ソーシャルゲームの因数分解。つまり、ソーシャルゲームを“ソーシャル”と“ゲーム”に分解して、それぞれを定義するという試みだ。まずは、“ソーシャル”。取り掛かりとして小林氏は、FacebookやTwitter、2ちゃんねる、ネット掲示板、MMORPGといった、ユーザーに親しまれているソーシャル性の高いサービスを列記し、FacebookやTwitterくらいまでがソーシャルサービスと定義されることが多いのは、両者がコミュニケーションよりもよりライトなものだからではないか?説明した。「たとえば、Facebookでは、何とも思っていなくても、“いいね!”を押しますよね(笑)」と小林氏は会場を笑わせる。

引き続き小林氏は、“モノの価値”という側面からソーシャルを切り取ってみせる。ときに人は、品質的にほとんど差がないのにも関わらず、あえて圧倒的に値段が高い商品を買うことがある。たとえばクルマ。移動するという目的を考えると、コスト面でも性能の面から見ても、日本車のほうがいいに決まっているのに、倍以上の価格で外車を買う人も多い。なぜ人は、もっと安くても済ませられるものがあるのに、お金を払っているのか? その理由は、「社会的関係性の中で価値を生み出す“場”」であると小林氏は言う。さきに例を挙げた外車で言えば、持っていることが社会的なステータスになる。“社会性”という文脈があればこそ、人はあえて高いものにお金を払うというのだ。

因数分解のおつぎは“ゲーム”。「ゲームとは?」と小林氏はストレートに問いかけ、それは「人間にとって根源的に気持ちがよいものを根幹としています」と続ける。

・アゴン(競争)他人と競い合う楽しさ
・アレア(偶然)偶然起こることを期待してしまう楽しさ
・ミミクリ(模倣)他人の真似をする楽しさ
・イリンクス(幻惑)非日常の楽しさ

以上は、フランスの社会学者、ロジェ・カイヨワによる、有名な遊びの4つの種類。この4つを組み合わせることで、ゲームの気持ちよさは作り上げられているのだと、小林氏は言う。さらに、小林氏は、わかりやすい例で、今風に“気持ちのよいもの”の一例を挙げてみせる。

・“俺結構やるな”感の刺激
・“自身がこだわるもの”に向けて着実にステップを踏んでいる(ことがわかる)
・何となく他人とつながっている
・ふつうの人が持っていないものを所有する(これは流通量が少ない、ということがわかっている)

それらを踏まえた上で、小林氏は自身のゲーム観を2点に要約する。

「自身が介入することが可能なエンターテインメントである」
「自身の介入に対する高度なフィードバックがある」

つまりソーシャルゲームというのは、「社会的関係性の中で価値を生み出す“場”において、自身が介入することが可能なエンターテインメント」だということだ。


●ソーシャルゲームは7分×5回のマジック

休憩時間を10分挟んで、“ソーシャルゲーム”を巡る考察はさらに続く。まず小林氏は「ソーシャルゲームは急に現れたものなのか?」と問いかける。ここ数年とんでもない勢いで市場を伸ばしているソーシャルゲームは、端から見れば急に出現した産業のように見えるかもしれないが、「それは違います」と小林氏。“見知らぬ人との対戦(競争)”という要素が一気に一般的になった『ストリートファイターII』や、“収集、育成、対戦、交換”という4つの要素を軸としたユーザーどうしの交流が普及した『ポケットモンスター』といったゲームの歴史を辿りつつ、小林氏は「ソーシャルゲーム市場が立ち上がり始めるよりもずっと前から、ゲームはソーシャルでした」と語る。

では、何が違ったのか? そこで小林氏がモニターに表示させたのは、9時~10時、12時~13時、そして18時~24時が色分けられた1日の時間表。言うまでもなく、それは多くの人にとって、仕事以外で自由にできる時間帯。9時~10時(通勤時間)、12時~13時(昼食時間)、そして18時~24時(帰宅後)だ。「人間が仕事以外で消費活動を行う場面は非常に限られています。それは、24時間のうちの限定的な部分のみでしかないのです」と小林氏。この“消費のゴールデンタイム”を巡る時間の取り合いはし烈だ。ある者にとって、それはテレビだろうし、ある者にとっては映画かもしれない。また、ある者にとって、それはゲームだったりもするだろう。限られた時間の中で、何かをやろうと思ったら、ほかの何かを犠牲にするしかないのだ。いずれにせよ、最低30分は連続で費やさないといけないことのほうが世の中には多い。

7×5≠35。これは、小林氏が学生たちに投げかけた謎掛け。結論から先に言うと、これは7分×5回のこと。7分はソーシャルゲーム1回の平均的なプレイ時間で、Mobageで高い収益を上げているタイトルは、1日につき1回7分のプレイで5回入るのだという。つまり35分。“消費のゴールデンタイム”において、35分連続となるとなかなか時間が取れないが、隙間隙間なら時間はあるのだという。ソーシャルゲームは、時間をちょいちょい活用することで、“消費のゴールデンタイム”を取り合いにしなかったというのだ。

「よく、ソーシャルゲームは進化なのか?という議論があるが、それはそもそもの命題からして違う」と小林氏。そもそもゲーム性のいい悪いではなくて、人のライフスタイルへの入り込みかたが違うというのだ。「そういう意味では、“連続してやってくれ”は成り立たない時間になっています」と小林氏は語る。いま隆盛を誇っているソーシャルサービスも、“ちょいちょい”の時間で活用できるからだ。

だが、多くのソーシャルサービスは、人の多さの割には高い収益を挙げられていないと、小林氏は指摘する。人を集めただけではビジネスにはならなくて、収益を挙げるためのビジネスプランを考える必要がある。ヒントになるのは“社会性”だ。一例を挙げると、人は、アルコールを摂取するという理由だけでは飲み会に行かない。そこにコミュニケーションがあるからこそ、人はある程度のお金を払ってでも飲み会に行く。いわばコミュニケーションへの投資だ。「社会性を考慮したからこその消費というのは相当あって、むしろ、純粋な衣食住目的のみというほうが、じつは限定的とすら言えるのではないでしょうか」と小林氏。

やはり、100円で済むのを300円払ってくれるのはものすごいパワー。小林氏は、「どう納得していただくか?大事になる」と言う。実際のところ、国産車の10倍の値段で販売されている外車に、「それだけの価値はあるのか?」と問うのは野暮な話。社会性を付与することによる価値の創出をデジタルで行うというのが、小林氏に目指すところであるようだ。そして究極的には、「消費することがエンターテインメント要素になっているものを生み出してみたいですね」と小林氏は語る。

質疑応答では、「今後ゲームを遊ばない人たちが増えていくのでは?」や「ブームを作る方法は?」といった学生からの率直な質問が飛び出した。それに対する小林氏の、豊富な知識を駆使してのお返事はとても楽しいものだったが、ことさら興味深かったのが、フィーチャーフォンとスマートフォンとの関係について聞かれたとき。ご存じの通り、いまスマートフォンがものすごい勢いでシェアを伸ばしており、この夏にも普及台数が全体の5割を超えるのではないかと目されている。昨年までは、そんなスマートフォンに対してどう展開をすべきか、DeNAでも葛藤があったのだという。「フィーチャーフォンと同じくらいの収益を挙げられるのか?」、「高性能のスマートフォンに合わせて、よりハイクオリティーのゲームを提供すべきではないか?」といった点などにおいてだ。そこで、モノは試しに……とばかりにフィーチャーフォンと同じものをスマートフォンでリリースしたところ、多いに受け、心配は杞憂に終わったのだという。いまではMobageの売上の4割をスマートフォンが占めているのだという。

この、“出してみたら受けた”という図式は海外展開にも当てはまるようだ。日本人はよくグローバル展開をするにあたって、海外市場に受け入れられるためのローカライズに苦慮することが多いが、じつはあまり悩む必要はないのかも……と小林氏は見る。Mobageのグローバルプラットフォームで、タイトルを日本流でそのまま出したところ、アメリカの主要ゲームの10倍くらいの結果を出したというのだ。「いま日本が勝ちそうなタイミングなんです」と小林氏は笑顔で語る。スマートフォンについても、グローバル展開についても、ソーシャルゲームには追い風が吹いているのだ。

さて、10分の休憩を挟んでの3時間強にもおよぶ講演は、ときに論理的に、ときにユーモラスに展開され聞くものをまったく飽きさせない。学生たちが“ソーシャルゲームとは何か?”というのを理解するうえで、絶好の機会だったのではないか。

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