GREE Platform 開発陣が語るスマートフォンアプリにかける想い!(第2回)

2012-03-23 12:06 投稿

●第2回: スマホ界の風雲児“安藤武博”という生きかた

急速に普及台数を伸ばしているスマートフォンは、ゲームにとってもっとも熱い市場だ。いま、グリーもスマートフォンアプリに注力し、期待作を続々と生みだしている。開発陣のスマートフォンアプリにかける熱い想いを、月イチ連載でお届けする。(全4回)

今回は、『ケイオスリングス』や『ナイツオブクリスタル』 など、数々のスマートフォンゲームを世に送り続ける“スマホ界の風雲児”こと、スクウェア・エニックスの安藤武博氏が登場。じつは飲み友だちでもあるとい う、グリーでパートナーをサポートする屋島新平氏との対談の模様をお届けする。ファミ通Appにて好評連載中の“スマゲ★革命”(⇒こちら)でもおなじみの安藤氏が語るスマートフォンゲームへの想いとは?

foto/01.JPGスクウェア・エニックス
プロデューサー
安藤武博氏(左)

グリー
マーケティング事業本部
ジャパンディベロッパーリレーションズ3グループ
グループリーダー/コンテンツディレクター
屋島新平氏(右)

 

■『ヘビーメタルサンダー』の“痛恨の一撃”で得たもの

▲スクウェア・エニックス、安藤氏。

屋島 スマートフォンアプリにかける開発者の想いをうかがうということで、前回はシェードの横田さんにご登場いただいたわけですが(⇒記事はこちら)、 今回は“スマートフォン業界の革命児”ということで安藤さんにお話をうかがうことにしました。安藤さんはスクウェア・エニックスでコンシューマー向けの開 発を担当されて、その後フィーチャーフォン、スマートフォン向けアプリと歩んで来られたわけですが、いまスマートフォンアプリの開発を考えている開発者の 皆さんにとって、参考になるのではないかと思いまして。今日は、“クリエイター安藤さん”を掘り下げたいと思っています。

安藤 あんまり掘り下げ甲斐はないですよ(笑)。何からお話ししましょうかね。僕自身の開発歴ですが、スクウェア・エニックスに入って、まずは初代プレイステーションで『鈴木爆発』(2000年)を作ったんですよ。そのあとに、なぜか早くもPCのMMOオンラインゲームで『疾走、ヤンキー魂。』(2003年)をやって、こっそりとブラウザゲームの『自動車王』という、自動車工場を舞台にしたシミュレーションゲームも作っていました。

屋島 『ヤン魂』なつかしいですね!

安藤 当時のオンラインゲームは月額課金モデルが全盛だったのですが、『ヤン魂』はゲームポットさんと組んで、いまでいうところの“フリー・トゥー・プレイ”の走りのようなことをやりましたね。『ヤン魂』が、ぼくに“フリー・トゥー・プレイ”への抵抗感をなくしてくれたところはあるなあ。で、つぎがプレイステーション2用ソフトの『ヘビーメタルサンダー』(2005年)。また、これが売れなくて!

屋島 (笑)。

安藤 もうびっくりするくらい売れなくてね。いまだに大好きな作品ではあるんですけど、いま考えれば「それはそうだろう」ってくらい私の仕掛けかたが問題だったんですけど(笑)。

屋島 あのゲームを作らせてくれたスクウェア・エニックスさんはすごいですよね。

安藤 懐の深さがありますよね。これは以前ファミ通さんのアンケートで答えたことがあるのですが、「スクウェア・エニックスさんのよいところは?」と聞かれたので、「『ヘビーメタルサンダー』を作らせてくれたところ」、「スクウェア・エニックスさんの悪いところは?」に対しても「『ヘビーメタルサンダー』を作らせてくれたところ」と書かせていただきました(笑)。

一同爆笑。

安藤 何か、それくらいオリジナルタイトルへのチャレンジに対しては寛容なところがあって……。当時はプロモーションの一環として、『ヘビメタさん』というテレビ番組も作ったんですよね。『タモリ倶楽部』のスタッフといっしょに。放送は深夜の2時くらいだったのですが、それがものすごい高視聴率で、視聴率が平均1.3%からいいときは3%近くあった。ただ、それがもうまったくゲームのマーケティングにはつながらなくて(笑)。

屋島 あはは(笑)。

安藤 その番組に出た人たちにはすごくハッピーなことがあったりしたんですけどね。マーティ・フリードマンというギタリストが、日本のバラ エティー番組で活躍するきっかけになったりもしました。僕はヘビーメタルがものすごく好きだったのですが、そういう意味では「ヘビーメタルに少しは恩返し ができたかな?」というところがあった。ま、会社にはぜんぜん恩返しができなかったんですけどね(笑)。4年間かけて作ったのですが、2~30000本く らいしか売れなくて。幸いにもほかのプロジェクトで完済できましたけど、ウチでいうと中規模のRPG創れるくらいの赤字が出たんですよ。

屋島 それはすごい赤字だ……。

安藤 なおかつこれは裏話的になってしまうのですが、『ヘビーメタルサンダー』 を開発していたときは、ちょうどスクウェアとエニックスが合併したころで、開発タイトルを精査していた時期でもあった。僕としては、「これは何としてでも 出さないといかん!」みたいな思いがあって、プロジェクトを潰されないためにいろいろと仕込んだんですね。そういう意味では「売ってやろう!」というより は、「出してやる!」という感じで、まあ端的に言うと、エゴイスティック丸出しで作った作品だった。そのへんの責任も痛く感じましてね。『ヘビーメタルサンダー』が終わったときに、「これはもう、引き時かな……」と思ったんです。それで、スクウェア・エニックスを辞めようと決意しまして。

屋島 あら、スクウェア・エニックスさんをですか?

安藤 はい。会社に迷惑をかけてしまったので、「これは、もうないなー」と思いまして。かねがねから考えていた、スペインに移住してたこ焼き屋でもやろうかなと思ったんです。

屋島 まあ、それも安藤さんに合っているとは思いますけどね(笑)。

安藤 そうしたら、当時スクウェア・エニックスに所属していたとあるプロデューサーから、「安藤さん、辞めようと思っているでしょう? 辞 めたらダメだ」と慰留されたんです。で、そのときに「安藤さんの作品はおもしろいけど、俺は安藤さんの作品は7000円では買いたくない」って言われたん です。「だったら、いくら?」って聞いたら、「せいぜい500円くらいかな」って(笑)。褒められているのか、けなされているのかよくわからなかったので すが、たしかにそのとおりだなあと。そのときに、“ソフトの値段”というものに対して、早い段階から考える機会があったんです。8800円とか5800円 とか、みんなパッケージソフトの価格に守られているけど、それを無自覚に受け入れるのは間違っているかもしれない……と。

屋島 なるほど。そこで気づきがあったんですね。

安藤 で、そのころにちょうどiPodを購入しまして。

屋島 ああ!

安藤 iPodは、シングル曲を150円とか200円で売っていた。当時はゲームを配信する計画はなかったのですが、すでに30GBの大容量のストレージも あったので、「これはもうミニコンピューターだな」って思ったんです。だったら、ゲームも動かせるだろうと。で、アップルの本社に行ったんです。

屋島 ええ! すごい!!

安藤 で、App Storeの原型みたいなものを提案しに行ったのですが、ちょうどアップルでもクリックホイール付きiPod向けのゲーム配信を考えていたようで、「ゲームの企画を持ってきてくれないか?」 ということになったんですね。それで慌てて帰国をして、40個くらい考えたんです。レースゲームからゴルフゲームまでいろいろと考えて、先方さんの時間もないし、たくさん創りたいから……ということで、パネルにしてキャリーケースに詰め込んでいきました。で、目に止まったのが、『ソングサマナー』の原型となる企画だったんです。

屋島 なるほどー。

安藤 『ソングサマナー』は自分のiPodライブラリに入っている音楽から戦士を生み出すシミュレーションRPGなのですが、iPodじゃないと遊べないというところが気に入ってくれたみたいです。そこで開発がスタートしました。で、『ソングサマナー』 はミュージックプレーヤーの残りのスペックを使ってゲームを作らないといけなかったんです。セーブ領域が100キロバイトしか割けないなどの問題が続出しました。感覚的にはファミ コンやスーパーファミコンの時代といっしょですよね。そのときは、ゲームの“イロハ”をプロデューサーとしてもディレクターとしても知りたかったし、このときのRPGなのに、すべてを少人数で把握できる開発環境がかえって新鮮でした。ですので、僕 の開発歴のなかで『ソングサマナー』だけ、世界設定とかシナリオも自分で書いているんです。自分で手を出し始めると、そればっかりになりますので、おそらくもう2度とやらないですけれども(笑)。

屋島 時代的にはちょうどiモード全盛のころですよね。よくiPadに目を付けられましたね。

安藤 なんというか、世界初というのが好きなんです(笑)。これは僕が売れなくて落ち込んでいたときに、尊敬する、とあるゲーム会社の社長さんから 聞いた“3つのヒットの法則”に影響を受けたところもあるかもしれません。その3つというのは、“ファースト”と“オンリーワン”と“モスト”です。つま り、「誰よりも早くやる」か、「誰もが考えてないようなオリジナリティーの高いものをやる」か、「誰よりもたくさん作るか」という。そのどれかひとつが 入っていないと、そのコンテンツはヒットしないというんです。それがふたつあればなおいいし、3つあれば完璧。そういう意味でいうと、“ファースト”と “オンリーワン”はいけると思ったんですよ。いまさらiモードでやっても“ファースト”は無理だし、“オンリーワン”もきびしいかもしれない。でも、ゲー ムのないiPodだったら“ファースト”と“オンリーワン”はいける、と。

屋島 なるほど。そういうところは安藤さんらしさを感じますね。

安藤 すべてが『ヘビーメタルサンダー』 の“痛恨の一撃”から始まっていますね。「ピンチはチャンス」と言いますが、スマートフォン業界の人も、崖っぷちから大逆転する人ってけっこう多いじゃな いですか。崖っぷちの人って失敗を恐れずにフルスイングするから、強いですよね。逆に、過去の成功体験から脱皮するのってけっこうたいへんですからね。当たり前の話かもしれませんが、大きな成功を収めてきた、と くにコンシューマー系の人はそうかもしれない。ここ数年フィーチャーフォンで売り上げていた人も、もしかしたらそういう領域に入っているのかもしれないで すけど。

屋島 ああ、そうかもしれないですね。

安藤 成功体験に囚われているかもしれない中で、「いままで成功してきたあなたたちも、もともとは失敗を恐れずにやってきたんじゃないですか?」ということは問いた いです。そもそも時代の要請に応じて自在に脱皮して成功があったわけなので、「変わり続けることを恐れたらアカン!」というのはありますね。屋島さんも「自分で成 功したと思ったらいけないから、とにかく成功を疑え」って以前言われていましたけど、そこはもう僕らもいっしょです。もう確固たる成功なんて基本的にはな いから、ひたすらフルスイングできる環境に自分を追い込んでいく、というのはけっこう大事なことだとは思っているんですけどね。僕にとっては、『ヘビーメタルサンダー』で失敗したことで、自然とそういう環境に身を置けたというところが大きかったです。
■『クリスタル・ディフェンダーズ』から『ケイオスリングス』へ

▲グリー、屋島氏。

安藤 で、そんなこんなでiPhoneが発売されたんですよね。その前に発売されたiPod Touchで何か時代が変わ ろうとしているなと思った矢先に、通話機能がついたiPhoneになった瞬間、さらに時代が1個変わってしまった。僕は、たまたまクリックホイール付きiPodでずっとゲームを開発していたので、iPhoneに乗り移れるのが早かったんですよね。要するにプレイステーション2からプレイステーション3に進化するよ うに、クリックホイールがiPod touchになってiPhoneに変わっていくっていうのは自然の流れだったので、そういう意味では結果的にスマートフォンのロンチに早いタイミングで乗 ることができたのはけっこう大きかったかもしれないです。iPhone3Gが発売された2008年の年末には『クリスタル・ディフェンダーズ』のiPhone版も出せましたし。ただし、『クリスタル・ディフェンダーズ』に関してはひと波乱ありまして。

屋島 あら!

安藤 iPhone最初の年末商戦に間に合わせようと思ってリリースした『クリスタル・ディフェンダーズ』 だったんですけど、間に合わせようと思ったがゆえに、スマートフォンのインターフェースに完全には適合しない、縦画面の下にバーチャルパッドがつい ているバージョンでリリースしてしまったんですよ。それでも丁寧に作ったつもりだったんですけど、App Storeのレビューで言うと、星5点満点中、星1.5くらいの評価になってしまった。売り上げ的にはよかったんですけど、そのときに初めてレビューの洗礼を受けました ね。

屋島 それは(笑)。

安藤 『ソングサマナー』自体は、最初からよくできていたので、星4.5くらいはあったのですが、星1.5の洗礼を受けたときはショックでしたね。まあ、これが後々の『ケイオスリングス』に活きてくることになって、「インターフェースに関しては、スマートフォンに適応させないと絶対に喜んでもらえない」というスマホの鉄則みたいなものを、誰よりも早く知ることができたのは、結果としてラッキーでした。

屋島 それは大きかったですね。

安藤 失敗がチャンスに転じた感じですね。『クリスタル・ディフェンダーズ』に関しては、『ファイナルファンタジー』 の名前を語っているのに、星1.5は「まずかろう」ということで、オリジナル版を作ったクリエイターの岡田卓哉に「絶対に星4.5にします!」って謝りに 行って、そこからすぐにアップデートに関する企画会議がスタートしました。「絶対に3ヵ月以内にアップデートをする」というルールだけは決めて、どこにボタンがあると気持ちよく遊べ るか……から、ひとつずつ検証していったんです。タッチの気持ちよさに関しては、iPhone本体の操作感覚って絶妙によいじゃないですか。それでアップルに「この、気持よいプログラムのソースをくださ い!」ってお願いしてみたんですよ。そしたらさすがに断られて(笑)、自分たちで“目コピー”をしながら試行錯誤していきましたね。ちょうど、エレクトロニッ ク・アーツの人が「iPhoneのインターフェースはセクシーでないといけない」みたいな話をされていたので、「このタッチの動きはエロいかな?エロくないかな?」みたい な話をスタッフとしながら取り組んでいましたね。

屋島 (笑)。

安藤 で、だいぶエロい感じになってきて、3ヵ月後に本当にアップデートできたんです。それでバージョン2.0になって売上のペースも上がりまして、いまやレビューも星4.5になりました。

屋島 おお! 公約どおりですね。

安藤 レビューの声って絶対で、それに応えるとよくなっていくという部分はありますね。要するに、いまのソーシャルゲームの運営で基本となっている、「サービスは手間をかければかけるほどよい」というところがわかったのもすごくラッキーで、そこで満を持して作ったのが、『ケイオスリングス』でした。中身とインターフェイスを含めて、『ケイオスリングス』が最初から圧倒的な完成度を誇っていたことは、そういう失敗とピンチの歴史があったからこそですね。もちろん、開発会社であるメディア・ビジョンさんのクリエイターが優秀であったというのも大きいです。ですが、これもなかったら、『ケイオスリングス』の操作系統というのは、あんなふうにはなっていなかったかもしれないです。

屋島 あれは新しかったですよね。

安藤 ちなみに、『ケイオスリングス』の開発を担当したのは前述の通り、メディア・ビジョンさんなんですが、メディア・ビジョンさんとの巡りあわせもおもしろくて……。

屋島 あら、それはなんです?

安藤 『ケイオスリングス』とスタッフは違いますが、『ヘビーメタルサンダー』 を創ったのが、メディア・ビジョンさんだったんですよ。実際のところ、あまりよい結果を残せなかったチームの解散って気まずいんですよ。いまとなっては笑い話ですが、本当のウラ話をすると、「安藤さんのこと殺そうと思っていました」とか言われたりもしましたし(笑)。ゲームが売れないと、そんな修羅場になるんです。けっきょく僕のプロ デュースがまずいことは間違いなかったので、なんとかメディア・ビジョンさんとリベンジしたいなって、ずっと思っていたんです。それで『ケイオスリングス』のコンセプトを思いついたときに、「RPGと言えばメディア・ビジョンさんだろう」ということで話をしに行きました。「『ヘビーメタルサンダー』の安藤が何をバカなことを言いに来たんだ?」という感じだったと思うのですが(笑)、そこで「iPhoneでRPGをやりたいので、『ワイルドアームズ』を創っていた主力のメンバーを用意してください!」ってお願いしたところ、スタッフを用意してくださったんです。

屋島 へえー!

安藤 それはラッキーでしたね。やっぱりメディア・ビジョンさんのすごいところは、「スマホのモノづくりはモノづくりでおもしろい」という 柔軟性があったところです。1を言えば10をしてくれるようなスタッフが揃っていたので、さっき言った“操作感のセクシーさ”みたいな話をすると、僕らの 失敗体験を乗り越えた状態でできあがってくる。そこはまじまじとゲームクリエイターのすごさを見ましたね。ちゃんとRPGを作ったことがあるから、ゲーム 制作の作法を熟知しているわけです。

屋島 底力があるということですね。

安藤 そもそも『ケイオスリングス』の企画がスタートするときに、僕はiPhoneで『ファイナルファンタジーVIII』か『IX』、 できれば『X』みたいなことをやりたいと思っていました。ハードのクオリティー的にもPSPにも近いことはできるだろうと。それで、iPhoneのタイト ルとしては膨大な予算を確保したのですが、それでもPSPのプロジェクトほどの規模は見込めなかったので、“舞台を閉鎖空間にしてほしい”というのと“登 場人物を少なくしてほしい”という要望をメディア・ビジョンさんのスタッフに出したんですよ。

屋島 なるほど。

安藤 そうしたら、一発目のカウンターで“アルカ・アレーナ”という閉鎖空間で、4組のペアが殺し合いをするというアイデアがでてきたので、こ れは「コンシューマーのクリエイターは、条件さえ与えるとすごいのを返してくるなあ。なかなか新進のゲーム会社にはできないことだ」と思いましたね。なお かつ、想定されるクオリティーを考えると、マックスで6体のキャラクターくらいしか出せないという話になったんですね。その6体がどうやったらすごく豪華 に見えるのかというのを考えたら、味方を4人にするよりも、敵を4人にしたほうが絶対にいいというんです。すごい敵が出てきたときにコントラストが出てく るから敵を4人にして、その代わり味方パーティーはふたりだけになるけど、男女のペアにして、そのドラマをすごく深く描こうと。それにより、パーティーの数は いまのコンシューマーより少なくても、おもしろく描けるという提案がきたんです。その提案を聞いたときに、「おお、これは勝てる!」と思いました。『ケイオスリングス』はオリジナルのRPGなのですが、1年かからずに作っているんですね。当初8ヵ月で想定して、けっきょく最後にもう少しがんばろうということで1ヵ月半伸ばして、都合9ヵ月半で作ったんです。

屋島 それは、相当短いですね。

安藤 ちょうどこちらから出した条件と、向こうから返ってきたカウンターが美しかったので、『ケイオスリングス』は、メディア・ビジョンのコンシューマーのノウハウがなかったら、できなかったタイトルだと思いますね。

屋島 それは運命ですね。

安藤 運命ですよ。僕も、RPGを8ヵ月で作るというのは、内心「無理かも……」って思いながら提案していましたからね。


■人とつながることの楽しさが『ナイツオブクリスタル』へとつながる

foto/04.jpg

屋島 安藤さんって一方で、『疾走、ヤンキー魂。』をやられていて、オンライン側からソーシャルゲームに入って来られた流れってあるじゃないですか。それが『ナイツオブクリスタル』につながるという。その流れは並行しているのですか?

安藤 並行していますね。『疾走、ヤンキー魂。』が僕にとって忘れられないタイトルになっている理由というのは、遊んでいるプレイヤーとの対話が印象的だったからです。いまのソーシャルゲームにつながる流れではありますが。『疾走、ヤンキー魂。』を立ち上げたのは2001年ですから、もう11年も前なんですよ。11年も前と言えば、『ラグナロクオンライン』も始まっていなくて、『エバークエスト』や『ディアブロ』の時代だった。そんな時代に「日本人もMMOを作らないといけない」というときに、僕も若かったからでしょうね、人と同じことをやっていても仕方ないから、「ここは、剣と魔法じゃないな」って思ったんです。

屋島 あはは。そうなりますか(笑)。

安藤 人とつながる遊びは、剣と魔法以外にも何かあるだろう……ということで、「みんなで暴走族になってつるんで走るとおもしろいんじゃないか?」という話で企画会議が盛り上がったんです。アバターでリーゼントとか特攻服に刺繍も入れて……とか(笑)。で、『疾走、ヤンキー魂。』が配信されたわけですが、“人と接する”ことをベースにしたゲームシステムだったり運営の楽しさだったりを知ったのはすごく大きくて、パッケージのクローズドな制作環境とはまた違った楽しさがある。1回つながって遊ぶと病みつきになりますね。

屋島 それはよくわかります。

安藤 『疾走、ヤンキー魂。』 では、僕の自己顕示欲が強いあまりに、運営代表者として“安藤”というクリエイターを全面に打ち出していったんですね。それは当時僕が若かったから、とい う部分もあるのですが、やっぱり人とつながって運営していくタイトルだから、誰が作っているかはっきりしたほうが、要望や意見を言いやすいかなという理由 もありました。それでヤンキーの格好をして兄貴的な立ち位置にしたら、みんなに「安藤氏ね」って言われて(笑)。

屋島 そ、それは(笑)。

安藤 もう10万回くらい言われましたね。さすがにへこたれたのですが。運営を重ねていくなかで、“好きの反対は無関心”ということに気づいたんです。つまり“氏ね”という悪口の根底にあるのは、じつは「好きだ」、「興味がある」ということなんですよ。

屋島 んー。まあ、そうですね。

安藤 それがわかった瞬間に、「おまえらー!(はあと)」って思ってしまったんです(笑)。

屋島 あはは(笑)。

安藤 1回実名でやり取りをしてしまうと、そのダイナミズムってそれ以外では経験できないし、そういうことは形を変えてもやっていきたいなとは思っていたんですよ。『疾走、ヤンキー魂。』 自体は、2010年にサービスを終えてしまったのですが、そのときにいずれブラウザゲームはやりたいなと思っているなかで、Zyngaさんが Facebookでアプリを発表したりして、わりとユルくつながる遊ぶがけっこういけるんだな……とは思っていたんです。MMOをやっていると、その拘束時間が、場合によってはどれだけキツイかというのが、よくわかりますし。運営側もある意味“廃人”にならないと付きあえないですからね。僕も『疾走、ヤンキー魂。』をやっているときは、40日くらい家に帰れないときとかもありました。

屋島 まじですか!?

安藤 ネトゲ黎明期は、運営体制とかもしっかりしていませんでしたからね。「全部ひとりでやりますから」って感じになったときに、「あれ、 24時間運営ということは、これは俺の代わりに誰かがいるわけでもないから、夜はどうしたらいいのだろう?」って、ずっと残っていないといけないことに なって。そしたら昼も夜も俺だな……みたいな。これは書籍化できると思うのですが、当時の運営日誌みたいなものが残っているんですよ。読み返すと、いかに よくサーバーが落ちているかがわかる(笑)。ありがたいことに、そういうところも含めて『ヤン魂。』プレイヤーの方はポジティブに楽しんでくれていたわけですが、そういうのを見ると、楽し いなあというのがありますね。

屋島 なるほど。そのへんの体験が『ナイツオブクリスタル』につながるわけですね?

安藤 そうです。Facebookの流れがあって、『疾走、ヤンキー魂。』はあったけれど、ファンタジーで1回やっておいたほうがいいなっていう文法は、『ソングサマナー』と『ケイオスリングス』で積み上げてきたので、「そちらのほうがやっぱりお客様が望んでいるものだろうし、うちが得意に展開できるものだ」というのはわかっていたんです。それで、Zyngaさんの『マフィアウォーズ』みたいなものをベースにしたファンタジーを作りたいなと思って、いろいろとあたったところ、ヴァンガードさんという会社と組んで立ち上げることになったのが、『ナイツオブクリスタル』ですね。

屋島 なるほど。

安藤 そのころちょうど、iPhone版の『マフィアウォーズ』が人気を集めていたんです。きっとこの手のゲームってPCのブラウザゲームだけじゃなくて、携帯電話で展開しても相性がいいんだろうなということがわかっていました。で、そのころちょうど、グリーさんがオープンプラットフォーム化されるというときで、『ナイツオブクリスタル』 もそれに乗っかってみようかなという形でFacebbook版の企画書をグリーさん向けにアレンジして提出したところ、なんと審査を通していただけたんで す。そんなわけで、「これはがんばらないといけないな」という雰囲気になったのですが、グリーさんのオープンプラットフォーム化からさほど遅れないタイミ ングで、グリー版『ナイツオブクリスタル』を配信できました。さっきの“ファースト”の話ではないのですが、初めて何かをやっているといいことってあるんですよね。あとは運任せで(笑)。

屋島 あはは(笑)。

安藤 『ナイツオブクリスタル』では最終的に失敗した試作もいっぱいあったんですけど、その中で“アリーナ”の仕様を発明できたのは大きかったですね。

屋島 ああ、“アリーナ”は大きかったですね。

安藤 “アリーナ”自体は、ほかのタイトルにもインスパイアを与えるような仕組みとして作れたので、そういうことができたのがゲームクリエ イターとしてのプレゼンスかなとは思います。逆に、ゲームクリエイターだからこそ、そういうのがしやすい面もあると思います。「どうしたらみんながびっく りして楽しんでくれるだろう?」ということを考えるのは、やっぱりコンシューマーのクリエイターは得意だったりするので。一方で、ログを追ってデータから 紐解いて成果を出すという、いわゆるKPI(key performance indicator・重要業績評価指数)みたいなものに関しても、しっかりと理論武装しないといけない時代になっている。それは、僕のコンシューマーのモ ノづくりの立場から見てもおもしろいことだったので、「これは怖がっている場合じゃないぞ」と思いました。相互的ないまの話からすると、コンシューマーの ゲームクリエイターのほうが、ソーシャルでもおもしろいゲームを作れるんじゃないかという仮定を立てるに至ったんですよ。

屋島 なるほど。

安藤 『ナイツオブクリスタル』でコンシューマーと、新しい方法論のよさを合体させたものが出せたように思うのですが、今後もこの方向性を推し進めたいと思っています。この5月に配信予定の『ギャラクシーダンジョン(仮題)』は、“コンシューマーの経験豊富なクリエイターがソーシャルゲームを作る”という方法論をさらに推し進めたものなので、ぜひとも注目していただきたいです。

 

■失敗を恐れずにフルスイングすべし!

屋島 ところで、いま安藤さんのほうでは、何本くらいプロジェクトが進んでいるのですか?

安藤 とにかくたくさんゲームを出そうとは思っていて、小さいものも合わせると20本くらいですね。

屋島 え!?  20本も?

安藤 “モスト”の感覚で言うと、まだまだ足りないですけどね。それくらいやって、ようやく世の中をビビらせられるような“会心の一撃”が出るか出ないかじゃないですか。僕らもたかだか40年くらいしかソフトを作れないわけですし、のんびりとはしていられないです。

屋島 『ケイオスリング』は“会心の一撃”だと思いますけれど。

安藤 毎回「これがそれかな?」と思って作ってはいるんですよ。『ヘビーメタルサンダー』のときもそのつもりでしたし(笑)。たしかに『ケイオスリングス』に関しては、いままででいちばん精度の高いところまで育てていけているので、僕にとっては大事にしていきたいブランドです。僕は、『ファイナルファンタジー』シリーズや『ドラゴンクエスト』シリーズが25年で展開してきたことを5年でやりたいと思っているんです。

屋島 おお! いわゆるドッグイヤーというやつですね? 技術革新の変化は激しいという。

安藤 そうです。ブランドを作って、5年に凝縮してちょうどいまの時代のスピード感なのかなと思っています。僕らはいちばんの攻め手にいる ので、大胆にできることは何の悔いもなくやりたい。そんなときに頼みにしているのがグリーさんの力です。この時代に出てきた新しいプラットフォーマーとし て、いまの時代にフィットした方法論をお持ちですから。

屋島 ありがとうございます! それでは、これからスマートフォンアプリを作ってみようと思っているクリエイターさんにアドバイスなどありましたらお願いします。

安藤 失敗を恐れないというのは大事かもしれないですね。たぶん、みんな根源的には失敗を恐れているんですよ。「家庭用ゲームからスマート フォンにはいけないのではないか?」という。失敗を恐れたらものすごく中途半端なことになってしまう。あきらめずにフルスイングしてみてください!
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『ギャラクシーダンジョン(仮題)』

foto/06.jpg スクウェア・エニックス×グリー共同製作による超期待作! 『ギャラクシーダンジョン(仮題)』はダンジョンとなる惑星を探索するカードバトルRPG。プレイヤーは異型生物との戦いを通して拠点である宇宙船を発展させていくことになる。本作には魅力的な美女が登場。自分だけのメカ美少女部隊を率いて戦うことになる。

対応端末:iPhone/Andoroid
※ネイティブアプリのみでWebブラウザ版はなし
デベロッパー:スクウェア・エニックス
ジャンル:カードバトルRPG
リリース予定日:2012年5月
価格:基本無料(アイテム課金)

 

 

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[お問い合わせ先]
本件に関するお問い合わせは”GREEセミナー事務局”
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※メーカーの依頼により一部表現内容を修正させていただきました(2012年3月28日)。

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※画像は開発中のものになります

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