コンシューマーメーカーがスマホゲームで成功するために必要な10のこと【GDC 2012】

2012-03-12 14:22 投稿

●アプリで成功するための近道とは?

洋の東西を問わず、飛躍的に成長を続けるスマホゲーム分野。コンシューマーメーカーにとっても見逃せない市場だけれども、参入にはためらいが……というのはよく聞くこと。という、昨今の時流を反映して、携帯電話向けゲーム開発のための心得を説いたのが、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス) 2012最終日の2012年3月9日に行われた“Stranger in a Strange Land 10 Things Console Developers Need to Know About Going Mobie“だ。ベクターユニットのマット・スモール氏によるこの講義は、携帯電話向けゲームの市場を“ストレンジャーランド”になぞらえて、コンシューマーメーカーに必要な10のポイントを指南するというもの。

ベクターユニット自体は、2010年に配信されたXbox LIVE アーケード用タイトル『ハイドロサンダー』でデビュー。その後、NVIDIAのモバイル用プロセッサーであるTegra3用にジェットスキーをモチーフにした『リップタイド』を制作、その後、iPhone、Android向け『シャインランナー』をリリースしている。「当初はモバイルデベロッパーになろうと思ったわけではなかったが、もうコンシューマーには戻らないと思う」とスモール氏。その決断の根拠となっているのは収益の高さ。プロジェクトの規模自体はモバイル向けのほうが小さかったが、収益はXbox LIVE アーケードよりも高かったというのだ。とはいえ、モバイル向けゲームの開発にバラ色の未来が待っているというわけでもない。スモール氏が10のポイントの最初にあげたのが、“残酷な事実を見据えること”。「簡単にお金を稼げると思っているかもしれませんが、きびしい現実を見据えるべきです」として、スモール氏はオーウェン・ガース氏が独立系デベロッパーに行なったiPhone向けアプリを対象にしたアンケートの結果を披露。全体の収益の4分の1近くが1%のデベロッパーで占められているという「しんどいがあたりまえの結果」(スモール)を明らかにした。

とはいえ、クオリティーの高いゲームを開発できたら、明るい見通しもある。スモール氏がそのポイントとしてあげたのが、“役割の再検討”。モバイルチームは規模が小さくないといけないので、専門性にこだわらず、いろいろなことができる人材を探す必要があるというのだ。「たとえば、会計ができるプログラマーや、ゴミを捨てられるアーティスト(笑)など」(スモール)。そして、社内でできないことは外部に委託するのは当然だ。いちばん予算をかけるべきはコンテンツなので、“効率的に構築する”のも大切な要素。とりあえず作り上げては何度も改良をくり返すべきだという。

“対象ユーザーは誰かを考える”のも大切になる。いまやたくさんの人がゲームを遊んでいるので、「あなたの作りたいゲームにもプレイヤーはいる」(スモール)とのこと。ゲームがハードコア向けかカジュアル向けかを見極めて、ターゲットに見合ったゲームを開発するのは必須となる。そして、ゲームでは“本当に大切な要素に限定すること”。クリエイターたるもの、いろいろな要素を入れたくなってしまうものだが、そこはきびしく本当に大切な機能にフォーカスすることが大事だというのだ。おつぎは“しっかりとしたオーガナイズ(組織)”。チームが小さいがゆえにスケジュール管理は必須。ベクターユニットではGoogle Docs上で作業工程を管理し、問題点などが生じればひとめでわかるようにしたという。

  

“Don’t Be Precious(大事にし過ぎるな)”はどういうことかというと、コンシューマー系のプロジェクトでは自社の開発タイトルをギリギリまで秘密にしていることが多い。モバイル系はそれとは真逆で、早い段階からたくさんの人に見せることが重要だという。「小さいチームは内容的になりがちなので、いろいろな人にプレイしてもらい意見をフィードバックする」(スモール)ためた。そのため、『リップライド』の開発にあたっては、パーティーを開いて親戚や友だちにプレイしてもらったのだという。その際は「口コミ効果で広がる」(スモール)可能性があるという効果も見逃せない。

“ベータ版を配信する必要があるか?”という項目では、「もちろん効果もあるがソフトの品質がよくないと意味がない」とスモール氏。ユーザーの評価で星ひとつが並ぶとそのゲームにとって致命的になるからだ。

トップセールスを記録しているアプリには共通点があって、それは“操作性、印象的なアートスタイル、UI”とのこと。「UIはプレイヤーがいちばん最初に見るので、楽しく新鮮に見えるようにしたほうがいい。初めてプレイする人も直感的にわかる『Fruit NINJA』はその適例」とスモール氏。そして、最後が“クロスプラットフォームに取り組むべし”。モバイルだとiPhoneがよくてAndroidはお金にならないと言われているが、スモール氏によるとそれは違うとのこと。予算と収益のバランスを取らないといけなくて、iPhoneで配信すると開発費を回収しておつりが少し来る程度だが、さらにAndroidでも展開すると長く売れるので、最終的に収益はiOSを超えるという。また、端末メーカーとプリインストールの交渉もできるし、アプリを買える場所もいろいろあるのもいいとのこと。「初めてモバイルを開発するのならば、Unityなどのマルチプラットフォーム用のツールをオススメする」とスモール氏。さらに、AndroidとiOSを比較すると、ゲーム開発者によってばらつきがあって、コアゲーマー向けにはAndroidのほうがいいかも、とスモール氏は感触を語る。

最後にまとめとして、スモール氏は「据え置き機での経験はモバイルでの開発に大いに役立ちました。モバイル市場はものすごいスピードで進化していて、6ヵ月前では不可能だったことがすぐに可能になったりします。新しい技術にも慣れている据え置き機での経験は有効です」と、モバイル市場への参入を薦めて講義の幕は閉じた。実際の体験に即してのわかりやすい講義は、聴講した開発者にも大いに得るものがあったようだ。

 ▲ベクターユニットのマット・スモール氏。

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