レビュー
投稿日2020.11.15
病み堕ちる心を解くための道しるべ
眼前に広がる草木や人工的な建造物、変化していくすべてのものがペンで描かれたモノクロの世界。
そこに舞い降りた1つの心臓は鼓動を止めることなくその地に留まっていた。
本記事で紹介する『The Collage Atlas』は、幻想的な手描きの世界に散りばめられた仕掛けを紐解き、己に問いかける言葉と向き合い、希望を見いだしていくAppleArcadeのアドベンチャーゲームだ。
ゲームの見どころ
●緻密だが彩りのない空間と希望を示す輝き
●人知れずもがき苦しむ“いま”を解くカギ
緻密だが彩りのない空間と希望を示す輝き
真っ白な空間に広がっているのは、黒のペンとインクで描かれた数々の草木や建造物。
細部にまでこだわり描き込まれたオブジェクトはすべて手描きのイラスト。その世界を探索できるというのだから、それだけで探究心が強烈に湧いてくる。
近づくことで芽吹く植物や風車などの細かな挙動。存在感抜群の建造物など、周囲を見渡し歩いてみると一瞬でこの世界の奥深さに気づかされる。
わずかな変化を探して行ったり来たり、けっして広くはない世界が何倍にも大きく感じられるのだ。
地図やコンパスといったものはいっさいないが、向かうべき場所には光りの柱が立っている。
さらに、バラバラになった文字が浮遊する方角も道しるべの1つ。
近づくことで完成するメッセージの先を進んで行けば“やるべきこと”が待っているので迷うこともないだろう。
触れると飛んでいく瓶を追いかけたり、法則性のあるルートからそれずに飛行するなど、謎解き要素にあたる部分はどれもアクション性の高いミニゲームといった印象が強い。
目に映る光景と手に伝わる振動、心地いい音楽の変化を頼りにモノクロの世界を旅していこう。
人知れずもがき苦しむ“いま”を解くカギ
この世界は何なのか、探究心を刺激する本作。
期待を膨らませていくこちらの想いとは対照的に本作の主人公、公式によるところの“心臓”はとても慎重だ。
問いただすようなメッセージで溢れた世界。
“己と向き合い肯定する”
そのチャンスを与えてくれていること、1度は否定してしまった生き方を見つめ直す場所なのかもしれないと感じられたとき、その後の展開と変化していくすべてのものが希望に満ちあふれていることに気づかされる。
本作を4年半の歳月を費やし完成させた開発者のジョン・ウィリアム・イヴリン氏はエンドロールで1つのメッセージを残している。
どういった想いで本作を開発してきたのか、何を伝えたかったのかはそこに凝縮されているようにも感じた。
1人で悩み出口のない闇に心が支配されてしまうことも多い現代。本作を通じて何かしらの光り、希望に気づくことができるかもしれない。
そう感じられる作品だった。
P.N.深津庵
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