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『ポケモンGO』の原点『Field Trip』開発の経緯と終了を決めた理由をNianticアジア統括本部長に訊く

2019-08-06 14:10 投稿

すべての原点であり世界をつなげる第1歩

累計10億ダウンロードを突破した『ポケモンGO』と、その基盤となっている『Ingress』。それらを手掛けるNianticが現地時間7月12日、2012年9月にリリースした『Field Trip』のサポートを年内で終了すると発表した。

同社は、世界中のプレイヤーによりよいAR体験の提供に集中するためには優先順位をつける必要があること。この決断に後ろ髪を引かれる想いであることを明かしている。

『ハリー・ポッター:魔法同盟』に至る3タイトルの原点である『Field Trip』とはどんなアプリだったのか。

サービス終了を告知した当時、気になるメッセージを残したアジア統括本部長である川島優志氏に開発の経緯と今後の展開をライターの深津庵が聞いてきたぞ。

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電話越しに流れる音楽から広がった世界

『ポケモンGO』をリリースすると同時にその名を世界的に広めたNianticだが、その原点は2011年、米Google内スタートアップから始まっている。

また、NianticのCEOであるジョン・ハンケ氏といえば、Google EarthやGoogleマップ、ストリートビューなど含むGoogle Geoチームを統括する副社長を歴任したことでも知られる人物だ。

そんなジョン氏率いる初期メンバーが、どんな想いで『Field Trip』を世に送り出したのかを聞いていく。

――『Field Trip』を開発したNiantic Labsだった当時のチーム体制や規模は?

川島優志氏(以下、川島)プロダクトマネージャーは当初、CEOのジョン・ハンケが自ら務め、非常に小規模なチームからスタートしました。また、その当時メインのクライアントエンジニアはLeif Wildenが1人で手掛け、デザイナーやサーバーエンジニアなども含めて10人弱のチームでしたね。

――『Ingress』も10人弱で?

川島 そうですね、『Ingress』とのかけもちも合わせて10人弱のチームから始まっています。

――『Field Trip』は『Ingress』より数ヵ月はやいリリースでしたが、開発は同時進行だったのでしょうか?

川島 専任もいましたがジョンも含め一部メンバーに関しては両方のプロジェクトに関わっていました。

――『Ingress』は何人体制で開発を、またリリースされたのでしょうか?

川島 『Ingress』は“Battle for SF”という地図の上にピンと糸を張るような試作を経て始まっています。最初の簡単なプロトタイプはジョンが自分でコーディングして作成。その後、少しずつメンバーを増やし、『Ingress』のベータ版がローンチされたときは、クライアントとサーバーを合わせて20人弱のエンジニアが手掛けていました。そこに、マーケティングやデザイナーなども含めると30人ほどだったかと思います。

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▲地図上にピンと糸を張るような試作は『Ingress』のいわゆる“陣取り”をイメージさせるものだろう。そのデザインはリブートした『Ingress Prime』に継承され、現在もユーザーの声をもとによりよい改善が進められている。

――当時公開されたプロモーション動画がとても印象的でした。仕事に追われる男性が双眼鏡を持った少年に連れられ、いろいろな場所を探検していく。あれはどなたのアイディアだったのでしょうか?

川島 あれはマーケティングチームによるものです。手掛けたのは昨年発売された書籍『NEVER LOST AGAIN グーグルマップ誕生 (世界を変えた地図』の著者であり、現在副社長を務めているBill Kilday。そして、『ハリー・ポッター:魔法同盟』のグローバル・マーケティングリードを務めるArchit Bhargabaが担当しました。あのPVを制作したGlass & Markerのディレクターがミーティングの最中、電話越しあの音楽をかけたことがきっかけでストーリーが広がっていったんです。

――外に出てみようとゆっくり背中を押してくれるやさしく音楽ですよね。

川島 音楽はジョン・ハンケもこだわりを見せる部分で、PVに採用されたものはお気に入りのひとつです。ちなみに、撮影はサンフランシスコのGoogleオフィス近辺で行われたんですよ。

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▲筆者は長年“Field Trip Day”というPVでバイオリンを演奏している男性がジョン氏ではないかと思っていた。その真相を聞いたところ出演はしていないことが判明。そのワンシーンがこれなのだが、なるほどやっと答えが出ました。

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▲仕事詰めの日々に苦しむ男性のもとに現れる少年。さまざまなスポットをめぐり、身近に広がる貴重な歴史に触れ合っていく。この体験が『Ingress』のポータルに、そしてその後の2タイトルに受け継がれているのだ。

■Go on a Field Trip today!

継承される想いとデバイスの課題

――スポットを申請登録する“カード”について。日本国内ではどのくらいあったのでしょうか?

川島 当時、325以上のコンテンツパートナーから質の高い情報が提供され、グローバルで100万以上のカードが誕生しました。日本国内でも、基本的には英語で日本の名所や歴史、高く評価されているレストランなどの“カード”が表示されていましたが、日本独自いえば“東京カレンダー”など複数のコンテンツパートナーの情報が『Field Trip』に反映されてました。

――『Field Trip』の技術、データはいまある『Ingress』や『ポケモンGO』、そして『魔法同盟』にどう活かされているのでしょうか?

川島 『Field Trip』には、Nianticのコアである“探索と発見”、そしてARがすでにあり、その後の作品に受け継がれています。芸術作品や歴史、個性的なお店など、地域の中で見過ごされている素晴らしいものたち。“探索”、歩くことで出会う方法を模索した『FieldTrip』の目指したものに、ゲーム性と物語の力を注ぎ拡張したのが『Ingress』というわけですね。そして、それはポケモンの力によって世界中で社会現象と呼ばれるほど爆発的ヒットを記録した『ポケモンGO』誕生へ。さらに、その2タイトルで培った基盤と経験を活かして『ハリー・ポッター:魔法同盟』がリリースされたというわけです。

――当時を振り返っても『Field Trip』はかなり画期的なアプリだったと記憶しています。それでも残念ながら大きな話題にはならなかった。その大きな要因は何だったと振り返りますか?

川島 『Field Trip』は“Google Glass”向けにも開発するなど、AR的なアプローチで世界や歴史を発見し、地域の素晴らしさとの出会いを促すことを目指しました。実際、ふさわしいシチュエーションで適切なカードが“なめらか(Frictionless)”に現れたときは、魔法のような体験となりました。しかしその一方で、いつユーザーに話しかければよいのか。適切なコンテンツはなにかといった課題があるわけです。

――ユーザー個々に求めるものが違う、と。

川島 ユーザーの置かれた状況に対する“繊細な理解”が必要になります。また、当時のモバイルOSの通知フレームワークは、ユーザーの邪魔をせずに情報を届けるようにはデザインされていませんでした。つねに“オン”になっている(ポケットから取り出さずにコントロールできる)ようなUIが必要なんですよね。

――それを実現するひとつの可能性がグーグルグラスなどのウェアラブル端末の存在であり、『ポケモンGO』のGOプラスはとてもそれに近い体験だと感じます。これは当時の経験も活かされての発案だったのでしょうか?

川島 そうですね。“顔を上げて街を歩いてほしい”という思いを実現する方法として、手の中に収まって操作できるデバイスの構想はあり、『Ingress』でも、“Android Wear”などのスマートウォッチへの対応も進めました。『ポケモンGOプラス』は、株式会社ポケモンの石原社長や任天堂さんのアイディアが込められたことで大成功をしました。そうした“ヘッズアップ”の体験と安全を提供するよい事例にできたのではないかと思います。

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▲そこに何があり、どんな意味を持っているのか。ユーザーが興味を持ち調べるという大前提が必要になる。例えば、『Ingress』のゲーム内機能にあるミッションを音声ガイド付きで探索できたら、さらにその土地への理解が深まるだろう。

■Field Trip on Glass

“いったんの終わり”その真相

――『Field Trip』は2015年中期あたりからアップデートが停止したと記憶しています。これは『Ingress』に重点を置くべきと考えたからなのでしょうか?

川島 Googleからスピンアウトをしたとき、エンジニアの大半がGoogleに残ったんです。そこで私たちは、限られたリソースを『ポケモンGO』の開発と『Ingress』の運用に割り当て、その結果アップデートを止めることにつながってしまいました。

――サポート終了を決断した理由と、そこに至るまでにどんな話し合いが行われたのか教えてください。

川島 サービス継続のために技術的なアップデートが必要になる一方でリソースが限られるという現実がある。そこで、とても難しい決断でしたがいったん“Sunset”させることを決めました。

――サポート終了のアナウンスがあった直後、川島さんはTwitterで“いったんの終わりを迎える”とコメントしています。これは、いずれ何らかのカタチで再開するということなのでしょうか?

川島 それはまだ言えません。

――NianticはARや位置情報などを活用したプラットフォームを作り、その技術を開発者に提供していく企業です。そうした理念を一般向けにもっとも体現していたのが『Field Trip』だと感じていました。今後、Nianticはどんな未来を歩んでいくのか、ユーザーはどんな体験ができるのか目標を最後にお聞かせください。

川島 『Field Trip』は、Nianticの原点というだけでなく、ゲーム以外のアプリという意味でも意義のあるものでした。そこから生まれた『Ingress』、『ポケモンGO』、『ハリー・ポッター:魔法同盟』で培った技術やノウハウを発展させること。我々が掲げる“Niantic Real World プラットフォーム”は、何億人もの人々が身近な世界ともう1度つながる体験を提案。さらに、それを誰もが作り出すさまざまなアプリに活用してもらいたいと考えています。

――ゲームだけでなく、より身近なツールとしての発展ですね。

川島 そうですね、『Field Trip』もその流れの中で、また新しい姿で生まれ変わる日が来たら嬉しいですね!!

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▲『Field Trip』に関連するPVはどれも“夢のような体験”であり、当時は現実味がなかった。しかし、いまではその多くが実現。同社の手掛けるアプリを通じて多くのユーザーが身近なスポットで新たな発見を経験しているだろう。

■Field Trip on Glass

すでにApp StoreおよびGoogle Play Storeからは姿を消してしまった『Field Trip』だが、川島氏のコメントに“サービス継続のために技術的なアップデートが必要”とあった通り、完全なる幕引きというよりは、よりよい環境を再構築するために一度フラットにしたかったのだと感じられる。

『Ingress』エージェント、『ポケモンGO』トレーナー、『魔法同盟』の魔法使い。筆者にはそのすべての基盤が『Field Trip』であり、このタイトルこそがNianticを象徴する重要なビジョンを示していたと考えている。

技術提供を進めるNianticが今後、どういったサービスを手掛けるのか注目していきたい。

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P.N.深津庵
※深津庵のTwitterはこちら

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