グーグルのDaydreamチームが語るソーシャルVR開発におけるポイントとは?【GDC 2017】
2017-03-02 11:29 投稿
ソーシャルVRの未来が垣間見えたデモの数々
2017年2月27日〜3月3日(現地時間)の期間、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて開催中のゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション”GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2017″。
“ソーシャルVR”をテーマに据えたセッション“Experiments in Social VR”では、グーグルのVRプラットフォーム“Daydream”の開発チームのメンバーが、ソーシャルVRでの没入感を高めるポイント・意識すべきポイントを、過去に開発したプロトタイプデモとともに紹介した。
ソーシャルVRとは?
本題に入る前に、“ソーシャルVR”について軽く説明をしておこう。
ソーシャルVRとは、インターネット上でのユーザー間コミュニケーションを可能にした“ソーシャルネットワークサービス(SNS)”をVR空間上で実現するプロダクトのこと。
体験者がバーチャル空間に身を置き、一人称視点で、声やジェスチャーを用いて他者との対話が楽しめる。そのため、よりリアルのコミュニケーションに近い体験を再現できるのが特徴だ。あくまでバーチャル空間でのコミュニケーションなので、遠方の人間とも自由にコミュニケーションが取れる点もポイントである。
ソーシャルVRのポイントは”Avatars”、”Co-Presence”、”Mixed Media”
今回登壇したStefan氏とLuca氏は、グーグル社内で挙がったVRの新しいアイデアを実際に機能するかどうか検証し、社内や外部パートナー、VRコミュニティに共有していくことを仕事としている。
Stefan氏は、「これまでに制作したプロトタイプの数は110を超える」とコメント。制作頻度についても「ソフトウェアエンジニアとユーザーエクスペリエンスデザイナーのコンビで1週間に1個くらいの速度で作り続けてきている」と、制作工数がかかるVRコンテンツとしては異例とも取れるハイペースな制作状況を明かした。
セッション終了後のQ&Aでは、より具体的なスケジュール感についても語られており、「ネットワークが絡むときは時間がかかりますが、シングルプレイヤーのものなら、初日に動くものを作り、2、3日目で要素を全部入れる。4日目はさらにいいアイデアが浮かんでいたらそれを入れ、5日目にドキュメンテーションを書きます」(Stefan氏)というから驚きだ。
このセッションでは、両氏がとくに注目を寄せている“ソーシャルVR”のポイントを紹介。すでに20個以上ものソーシャルVRコンテンツのプロトタイプデモを制作しており、そこで得られた知見が披露された。
以下の3項、“Avatars:アバター”、“Co-Presence:コ・プレゼンス(隣に人がいる感覚)”、“Mixed Media:ミクスドメディア(VRとその他のメディアのミックス)”に分けて話が展開された。
“Avatars:アバター”
リアルに近いコミュニケーションができるからこそ、体験者の没入感の高さは極めて重要なファクター。そこに大きく寄与してくるのが、プレイヤーの分身である“アバター”の存在である。
Stefan氏とLuca氏は、VR空間におけるアバターの実在感を高める要素として“目”、“手”、“足”の3つをピックアップした。
■目
まばたきをしたり、視線が動いたりしているだけで、アバターの“生きている”感覚は大きく変化してくるもの。
しかしながら、FOVEのようなアイトラッキング対応のVR HMDならともかく、現存するVR HMDの多くがアイトラッキンに対応していない。
そこでStefan氏とLuca氏は、アニメーション業界の知見を使った実験に着手。“Google Cardboardの向きに合わせて目が動いているアニメーション”を作成し、急に頭の向きを変えたときにまばたきをする、光に合わせて瞳孔が閉じたり開いたりする、といったモーションの付与を行った。これによってアバターの人間らしさが激変。
アイトラッキング技術に対応していないデバイスでも、キャラクター単体を見ずに周囲の環境に合わせて目の表示を変えるだけで、目のモーションを操れることを発見した。
■手
続いて触れたのが“手”の表現について。ハンドコントローラーが付属されたVRデバイスが多いことから、手の表現以上に“どのように使いかたを学ばせるか”という点に注目した両氏。
自然と手で物を掴むシチュエーションを用意することで、つぎの行動を体験者自身に予測させて取らせるような仕組みを生成した。こうした機能学習でユーザーが操作方法を学び、わざわざ操作方法を教える必要がなくなるのだという。
また現在はコントローラーの角度に応じてアクションを変える、といった仕組みの研究にも着手しているとのこと。
■足
最後に紹介したのが“足”について。まだ足のトラッキングデバイスが一般化されていないだけに、「VR空間における足の扱いは難しいです。手と違って入力がないわけですから」とStefan氏。
「体の中心から予測して足を動かすことはできるものの、自分の動きと同期しなくてVRの魔法が解けてしまう」のだという。
そのため、「足をトラッキングできる仕組みがない場合は、VR空間内に足を配置することは避けるべきでしょう」と勧めていた。
“Co-Presence:コプレゼンス(隣に人がいる感覚)”
アバター表現のリアルさは、体験者ひとりだけの状況以上に、他者と空間を共有しているときにこそ真価が発揮される。
セッションでは、“Co-Presence:コプレゼンス(隣に人がいる感覚)”の重要性を示すために、複数のプロトタイプデモの映像が披露された。
■Physics Lesson
ふたりで協力して物理パズルを解くデモ。
ひとりはボーリングを投げ、もうひとりはスライダーの数値を設定。ピンを倒すまで何度もトライして、都度スライダーの数値をどのくらいにすべきか話し合っていく。
シンプルなコミュニケーションが必要になるため、ソーシャルVR体験の基盤となる発見ができたようだ。
■Dance Party
VR空間上でダンスを踊れるデモ。Stefan氏は「このプロトタイプを通じて、VRに入ると人は周りが無人になるような感覚が得られることがわかった」とコメント。セッション中には、ルームスケールのトラッキングエリア内で楽しげにダンスを踊る体験者の映像が披露された。
またStefan氏は、このプロトタイプを通じてVRにおけるパーソナルスペースの重要性に気づいたのだという。
氏曰く、「VRを通じて離れた場所にいる人たちが同じ場所に来た場合、接触したり、足の間をくぐるなどの行為でパーソナルスペースを侵されたりすると非常に心が乱れる。日常生活と同じように、一定以上の距離に近づかれると嫌悪感が働く」とのこと。
■Puzzle
ジグソーパズルをふたりで組み立てるデモ。初期段階では、ふたりの体験者を目的なくVR空間で共存させていたが、その後ジグソーパズルを与えた途端、ふたりは楽しく遊び始めたという。
このデモではパズルがそのきっかけとなっているが、ソーシャルな感覚が生じることでVR空間における“アイスブレイカー(場の緊張を解きほぐすきっかけ)”になりうることがわかったようだ。
■Music Jam
複数の人間が共通のVR空間内で楽器を演奏できるデモ。楽器のように触れて反応があるオブジェクトがあると、プレイヤーが自然と行動を取るようになるのだという。
ただ両氏の話によると、昨今の技術ではプレイヤーのPOVが狭いため、一度ほかの人が視界から外れるとその人を見失いやすいようだ。そこでこのデモでは、同じ方向を向いて共同作業するようなデザインが採用されている。
またこのデモを通じて、音の遅延についても気づきを得られたという。たとえばドラムの音と体の動きのずれだ。その結果、リズムがうまく掴めないため、せっかくのマルチプレイでもほかの人の演奏に合わせることが難しくなる。
これの解決策として、共通のベースリズムを刻む、音楽を流すなどして、全員が同じタイミングを取れるようにする工夫が施されている。
■Shopping Together
ふたりがお互いにショッピングをしていて、相手に帽子やメガネをかけられるデモ。これはオンラインショッピング用のテストではなく、ユーザーの安全性の実験として作られたのだという。
それはつまり、ジェスチャーやパーソナルスペースの侵害といった嫌がらせをどうやって防ぐか、という問題である。その問題の解決を行うために行われた実験のようだ。
このデモ上では、帽子がずれているとつばで視界が覆われて何も見えなくなり、HMDを外さざるを得なくなる。Stefan氏は「こうした嫌がらせをされた嫌悪感は当事者にしかわからず、嫌がらせをしているほうには想像ができないもの。類似コンテンツを制作するときは注意が必要」と、注意を促した。
■Poker
最後に披露されたのが、ふたりのプレイヤーが互いに椅子に座ってポーカーをするデモ。
“パーソナルバブル”という設定が行われており、所定エリアから外に出ようとすると画面がグレーアウトする仕掛けが施されている。これによって、相対する他者に近づくことができないため、嫌がらせや相手のカードを覗くといったズルを防げる。
また嫌がらせ的行動への対処として、ハイタッチをするときにキラキラしたエフェクトが出るようにしたり、相手を殴ろうとしたら手が消えたりといった試みも行ったようだ。
“Mixed Media:ミクスドメディア(VRとその他のメディアのミックス)”
3つめのお題として上がったのが、“Mixed Media:ミクスドメディア(VRとその他のメディアのミックス)”について。
VRのムーブメントこそ着実に広まりつつあるが、ハイエンドVRデバイスの普及に関してはまだそこそこといったところ。そこでポイントになってくるのが、VRデバイスとタブレットやスマートフォンといった他デバイスを融合して楽しめるサービスを生み出すことであるという。
以下で紹介されたのは、そうしたミックスドメディアのデモである。
Google Expeditions
教育向けのVRアプリケーション『Google Expeditions』の活用事例。
教師がタブレットを操作して、子どもたちが簡易ヘッドセット見られる映像を制御する。
Home Designer
ひとり(不動産業者など)がタブレット端末などで家のレイアウトを作り、もうひとりがVR空間上で部屋のレイアウトをリアルに体験できるというもの。
タブレットを操作する側が操作を理解していれば、VR HMDを装着する側は何も操作しなくて済むのもポイントだ。
[番外編]Mixed Reality Headset Removal
最後に語られたのは、VRコンテンツの販促目的でよく使われるMR映像に関する内容。このMR映像とは、実際の人物とVRを合成したものである。これはVRを体験したことない人に、 VRでどのような体験ができるのかを示すうえで、非常に効果的な方法である。
両氏の話によると、Daydream Labではこれをよりよいものにするために、ヘッドセットが透けて奥にある顔が見えるようにする仕組みを作ろうと試みているのだという。映像作成時の方法は至ってシンプルで、先んじて体験者の顔を3Dスキャンしておき、VR HMDの目元に合成するだけ。またトラッキング情報に応じて顔の状態をシミュレーションすることもできるのだという。
Stefan氏はこの取り組みに関して「これは多くの人にVRがどういうものかを正しく理解してもらうための施策のひとつと考えている」とコメントを残している。
Q&Aでの印象深い質問をピックアップ
本稿の最後では、セッション終了後に行われたQ&Aでとくに印象深かったものを紹介しておこう。
Q ポジショントラッキングなしというのはソーシャルVRでどれだけの足かせになるでしょうか?
A 場合によると思います。たとえばポジショントラッキングがなくても、普通のスマホよりははるかに強烈な体験になりますよね。もちろんポジショントラッキングがあったほうがより深い体験は得られるでしょうが、センサーが増えることでそれがそのまま体験の向上につながるわけではないと思います。
Q 自分もソーシャルVRコンテンツを作っていますが、最初は反応がいいのに作っていくうちに反響が悪くなります。何が悪いのでしょう?
A 途中で反応がダメになるのはありますよね。最初は箱みたいなグラフィックにもかかわらず評判がいいのに、途中の、少しだけクオリティが上がった状態だといろいろとあらが気になる、といった状況のように。その場合は最終的に完成クオリティまで持っていけばみんな文句言わなくなると思います。最終状態を見越した評価がとても難しいんですよね。
まだ“ひとりで体験する”ものの域を超え切れていないVR。しかしながら、昨年のOculus ConnectでFacebook CEOのマーク・ザッカーバーグが示したソーシャルVRの未来は、すぐそこまで迫っている。
今回グーグルが取り組んでいるソーシャルVRにおける研究結果がより広まり、快適なソーシャルVR体験ができる日がくることを願う。
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