【CEDEC 2015】ゲームの面白さと売上を結びつける新たな指標とは?

2015-08-27 17:47 投稿

新たな分析手法

2015年8月26日から8月28日までの3日間、パシフィコ横浜で開催されるコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。

こちらでは、ディー・エヌ・エーの野中 翔氏が行った講演“「ゲームの面白さ」に対するチームの気持ちの揃え方 ~チーム戦やデッキ構築を評価するKPIが生み出されるまで~”の内容をお届けする。

野中氏は「“数字では表せない感覚”がゲーム作りの現場では重要な一方で、大量のユーザーを抱えるモバイルゲームにおいて実際にユーザーに起こっていることを、作り手の感覚だけで把握することは非常に困難。データからユーザーに起こっていることを数値化するには複雑な統計手法が必要である場合もあるが、ゲームを通してユーザーに提供したい“楽しさ”についてしっかり考えれば、簡単な数字の組み合わせから現状を把握し、運用に必要な意思決定を行うことが可能になる」として、野中氏が生み出した新しい指標とそのデータを用いた分析方法に関しての発表が行われた。

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▲ディー・エヌ・エー マーケティング本部 分析部 アナリティクスデベロップメントグループでアナリストを務める野中 翔氏。

ゲームの面白さと売り上げは密接に関係していると思われるが……

「ゲームの面白さと売り上げは、本当に連動しているのだろうか?」これは、ゲーム作りに携わる多くの人が抱えている疑問だと、野中氏は語る。というのも、面白いゲームでも売り上げが伸びないことがあったり、楽しさと売り上げの関係が定量的に示せないことが原因だそうだ。

そこで野中氏は、この疑問を解決するために、ゲームの楽しさと売上をロジカルに結びつける理論を生み出したという。

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▲実際には、さまざまな要素が作用しあって売り上げにつながっている。

野中氏が生み出した新たな指標は、複雑で高度な分析をしなくても用いることが可能なもの。ゲームを運営していく中で得られるデータをもとに、少ない労力で導き出せるものとなっていた。では、その指標の詳細をお伝えしていこう。なお、今回紹介されたものは、GvG(ギルド・バーサス・ギルド)のシステムを組み込んだゲームに適用される指標となる。

言語化できる指標と新たな切り口で分析を

野中氏は、「GvGは、ユーザーのアクティビティを高くしやすく、その楽しさを直接的にユーザーが感じられ、売り上げにも直接的に影響する要素だ」としつつも、「GvGを楽しくするには、同程度の強さを持ち、同程度のアクティブ率を持ったユーザーたちがチームを組み、同程度の強さのチームと当たるようなシステムを組まなくてはならないので、運営が非常に難しい」とも述べている。

また、昨今急な成長を見せているモバイルゲームでのGvGは、ユーザーごとのピークタイムが異なるため、運営はさらに難しくなるという。

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▲感情を大きく動かすGvGは、運営にも細心のバランス感覚が求められる。

この難しい問題の解決を応援するために、野中氏はGvGをユーザーが楽しめているかどうかを判断する指標を設計。

その指標のひとつめとなるのは“接戦度”と呼ばれる数値。これは、敗北チームの獲得ポイントを勝利チームの獲得ポイントで割ることで求められる数値。敗北チームと勝利チームの獲得ポイントが競っているっほど高い数値となり、バトルがどれだけ白熱したかがわかるという。もちろん、ギルドバトルは白熱するほど面白い。大差をつけて勝ってしまっても、大敗を喫してもゲームのモチベーションは下がってしまう。

ふたつめの指標となる数値は、チーム内格差。これは、チーム内の特定メンバー(上位1名~若干名)が獲得したポイントを、チーム全体で獲得したポイントで割ることで算出。チーム全体で頑張って戦っていれば高い数値となり、特定のメンバーだけが高くなって負担が増している状態だと低くなるというもの。チームの一部にだけ負担がかかってしまうと、そのひとりの離脱率が高くなってしまうので、その可能性を見て取れる数値になっているそうだ。

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▲各指数の求めかた。シンプルだが、説得力のある数値がたたき出せる。

このふたつの指標は、それぞれでも機能をするが、組み合わせて切り口を変えることでさらなるデータを示してくれるという。

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▲これだけでも十分に役立つが、このデータが真価を発揮するのは、組み合わせて切り口を変えてから。

例えば、横軸を接戦度、縦軸をチーム内格差にしてGvGの状況分布を作るとしよう。すると“接戦度が高く、チーム内格差が低い”グループ(A)、“接戦度は高いが、チーム内格差が高い”グループ(B)、“接戦度は低いが、チーム内格差が低い”グループ(C)、“接戦度が低く、チーム内格差も高い”グループ(D)という、4つの集合が生まれてくる。この4つのグループのうち、どこにもっとも分布しているかを見ることにより、現在そのゲームが抱えている問題や満足度を知ることが可能だという。

たとえば、グループ(A)に分布が集中していた場合、ユーザーは白熱したバトルをチーム全体で楽しめており、離脱率が低くなると予想される。

グループ(B)に分布が集中していた場合。これは一部のプレイヤーだけが盛り上がっていることを示す。そのため、新規プレイヤーが参入しにくい、もしくは参入しても楽しめない状態になっており、将来性に問題があるとわかる。

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▲ふたつの指標をうまく使うことで、ゲームの状況、ユーザーの感情がはっきりと視覚化されるように。

このように、言語化できる複数の指標を作り、それを複数組み合わせて切り口を変えて見ることにより、野中氏はゲームの面白さと売上の関係性を数値として見やすく整理。完全に定量的なものとすることはできないが、ゲーム作り・運営に取り入れやすく説得力のある数値を生み出すことに成功したとのこと。

このほかにも、ユーザーの成長を表す指標として、構成しているデッキ内のレアリティ、ステータスの分布と、ユーザーのアクティブ率を合わせて見てみることで、継続ユーザーと離脱ユーザーの差はどこでついたのかを確認できたりもするという。

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▲指標をうまく作れば、ユーザーのモチベーションを評価する材料にもなる。

最後に野中氏は「ゲームの面白さを定量的に表すことができれば、よりよいゲーム作りの意志決定がしやすくなる。そして、楽しさを定量化するには、ユーザーの感情とゲーム状況の環形を知ることが重要だ。しっかり理論構造を作っておけば、ユーザーの感情の変化とユーザー数の変化の関係性を見ることができる。複雑な分析や指標を使うことだけが分析ではない。分析としてもっとも価値のある仕事は、データの活用を通して、面白いゲーム作りに関与できるようになることだ」と講演を締めくくった。

新しいロジカルな切り口で可視化できないものを可視化する。その試みは非常にユニークだ。今後モバゲーがリリースする作品には、こういった分析結果が反映されていくことだろう。今後の展開に期待したい。

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