【CEDEC 2015】AppBank代表宮下氏が語る“ゲーム実況の今後”

2015-08-27 17:49 投稿

ゲーム実況動画が生まれるまで

2015年8月26日から8月28日までの3日間、パシフィコ横浜で開催されるコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。ここでは、AppBank株式会社代表取締役社長 宮下泰明氏による講演“ゲーム実況の今後に関して”をリポートしていく。ニコニコ生放送やYoutubeチャンネルを早くから利用してきたAppBank。本講演では、その歴史を振り返りながら、今後のゲーム実況動画の可能性について語った。

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▲AppBank株式会社代表取締役社長、宮下泰明氏。

はじめに、宮下氏はゲーム動画というジャンルがどのように発展してきたのかを解説。ゲーム動画は実況という今の形に行き着くまでに、FLASH動画時代、スーパープレイ動画が流行った時代、Youtubeの登場によりファンがゲームをテーマとしたファンメイドのクリエイティブな動画を投稿していた時代といった様々な流れを経てきているという。その後、動画にコメントを残せるニコニコ動画が登場。ゲーム実況というジャンルがユーザーや配信者の間でも定着し始めたのは2007年ごろであったと振り返っている。

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宮下氏は、ニコニコ動画の流行からゲーム実況というジャンルが定着した流れについて、「動画にコメントを残せることにより、視聴者がリアルタイムに共感を得やすくなり、これがゲームやアニメといったジャンルと親和性が高かった。Youtubeに投稿していた人もいたが、ニコニコ動画のほうが配信者と視聴者との関係性が濃密になっていたため、まずニコニコ動画で定着したのだろう」と分析している。

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しかし、ニコニコ動画はゲーム実況というジャンルを定着させたいっぽうで、動画の視聴や投稿のスタイルが変わってきている点についても触れた。

話によると、昔のニコニコ動画は「面白い動画をみんなで見て、それをコメントによりみんなで面白いものにしていこう」といった形になっていたが、「人気の動画(または人気の動画配信者の動画)を見る」といった形に収まりつつあるとのこと。また、併せて「一部配信者の動画のクオリティ・レベルが上がったことにより、視聴者が配信者すべてにそのクオリティを求めるようになってしまった。そのため、素人が気軽に動画をアップして楽しむといった動きがしにくくなってしまっている。それを打破するために、過激なことをして人目を引こうとする人も増えてきている」と宮下氏は指摘する。

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メーカーが公式に実況を認めるのは難しい

つづいてはメーカー目線で見るゲーム実況の話が展開。

現状、メーカー側がゲーム実況に公式として参加するには難点が多いという。その原因として挙げられるのは、やはり著作権管理をはじめとするコンプライアンスに関するもの。宮下氏は「それらの問題を解決したうえで、どのようなスタンスを示せば会社の利益となるのか、それを模索していくのが課題だ」と問題を提起。コンプライアンス問題は、予期せぬ別方向からもツッコミが入るものなので、この答えを出すのはなかなか難しいだろうとも述べている。

また、PlayStation 4に実装されている動画配信機能についても言及。PlayStation 4の動画配信機能は、配信許可をソフトウェア側で管理可能になったが、配信できるからといってそれがそのままユーザーの視聴に繋がるわけではないとし、メーカー側がこの機能をどう扱うべきかいまだ答えを出せずにいる状況にあるとまとめている。

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話はその後、ゲーム実況動画からゲームを流行らせることは可能かどうかという話にも展開。結論として宮下氏は「ゲーム実況の視聴をしているメイン層は、小中高生の男子。彼らは、友達の家でいっしょにゲームを遊ぶのと同じような感覚で実況動画を視聴している。なので、今やれることは、彼らの目線に立って彼らの心をつかむこと。大人が感じる“これは面白い”は通用しにくい。そのため、ちゃんとニコニコ生放送を通じてコミュニティを育て、Youtubeで攻略をサポートしていくといった形がいいかもしれない。また、有名実況者を起用したり、実況者を育てたりといったことも効果的だ。とにかく、小中高生男子の心に届く言葉を発するのがいちばん大事だ」としている。

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『パズドラ』がゲーム実況に与えた影響

話はスマートフォン時代へとシフトし、いよいよ話は要点へと迫る。

AppBankは早くから『パズル&ドラゴンズ(以下、パズドラ)』の実況を開始している。宮下氏は『パズドラ』はゲーム業界全体に与えた影響も大きいが、動画コンテンツに与えた影響も大きいと説明。AppBankが『パズドラ』の実況プレイを始めた当初は「『パズドラ』が楽しいのは、モンスターを育て上げることで得られる充実感のほかに、パズルの腕が上がっていっているのが実感できる充足感も影響している。しかし、だからといってパズルがうまくなった人たちに向けた遊びだけを提供し続け、うまい人たちだけが遊び続けるようなことになってしまうと、ゲームの寿命が短くなってしまう。だから、AppBankはそうではない、俗に初心者~中堅と呼ばれる人に向けた動画を配信していこう」として動画配信を始めたという。

ご存知の通り、これが成功。それにより、これまでスマホゲームを扱ってこなかったニコニコ生放送でも番組がスタートすることになったという。現在では多くのスマホゲームメーカーがニコニコ生放送で情報発表などを行っているが、その背景にもやはり『パズドラ』の存在があるようだ。

また、『パズドラ』がネットに与えた影響のひとつに、ネット動画利用者のユーザー層拡大もあるという。これまで、ネット動画を視聴していたのは、PCなどに明るい人たちのみであった。しかし、『パズドラ』を起点にスマホゲームを動画で扱う人が増えたことで、これまでネット動画を視聴してこなかった人たちも、ネット動画を視聴するようになったという。

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『モンスト』から感じるゲームと動画の新たな関係性

最後に、話は『モンスターストライク(以下、モンスト)』が10月からYoutubeで配信を始めるオリジナルアニメとその可能性についてへとシフト。

これまで、ゲームとアニメの関係性というのは1方向の不可逆なものであったが、『モンスト』のアニメの登場により、これまでの関係性が崩れる可能性があるという。その根拠として宮下氏は「スマートフォンゲームは、柔軟にアップデートができる仕様。そのため、アニメの内容に合わせて、ゲームのほうを修正していくというのが可能。たとえば、アニメ内の展開でゲーム内ではまだ神化していないモンスターが神化を遂げた場合、アニメに合わせてゲームをアップデートするという形がとれるようになる。これは今までにない、画期的な動きなのだ」と語る。たしかに、この形ではゲームがアニメを支え、アニメがゲームを支えるという理想的な形になっているように感じられる。まだ『モンスト』のアニメは公開されていないので、可能性を述べるまでとなってしまうが、これには期待をせざるを得ない。

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約1時間の講演となったが、最後に宮下氏はこう述べている。「今のゲームコンテンツの形をどう生かして、どう育て、どう新規を巻き込んでいくか? いま一番正しいと思える答えは、先に述べた『モンスト』アニメの形だと思う。僕は、過去にテレビ東京で放送されていた番組『スーパーマリオクラブ』を越える実況動画はないと思っている。あの番組に主人公はいなかったが、誰しもが参加したいと思わせる企画を続々と打ち出していた。これに倣って、誰もが出たいと思わせるものを作っていくことが重要なのかもしれない」

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